勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

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 どうして俺がこんなにも怒っているのか心底分からず戸惑うドゥーガルドのふざけた顔に拳を打ち込もうとしたが、エリンさんに寸前で止められた。
 
「ソウシ様、落ち着いてください!」
「落ち着いてられるかぁぁぁ! こちとら中出し大好きとか言いふらされてんだぞ! 一発殴らせろぉぉぉ!」
「……ソウシ、そんなに顔を赤くして……。大丈夫だ、何ら恥じることはない。むしろ情事のあの可愛さは誇るべきだ」
「なにキリッとした顔で見当違いなこと言ってんだぁぁぁ! というかこの顔の赤さは羞恥じゃなくて、紛うことなき怒りだから!」
「……ふふふ、怒った顔も可愛いな」
「ふざけてんのか、この野郎ぉぉぉぉ!!」
「ソウシ様! お気をたしかにっ」

 その後もしばらく、俺の怒りの咆哮は止むことはなかった……――。

 ****

 俺がぶち切れた騒動から十分後、俺たちはドゥーガルドのご両親が待つという部屋へ向かっていた。
 
「……ソウシ、まだ怒っているのか?」
 
 顔をのぞき込んで聞いてくるドゥーガルドを、俺はギロリと睨み付けた。
 
「あんな不名誉な噂を流されてそう簡単に怒りが収まるわけがねぇだろっ」

 むしろ隣を歩いていることが奇跡だと思って欲しいくらいだ。
 俺の睨みにドゥーガルドは飼い主に散々叱られた犬のようにしょんぼりとした顔をしてうつむいた。
 
「……すまない、ソウシという可愛い恋人ができたことが嬉しくてつい舞い上がっていた。――そうだな、ベッドでのことは二人だけの秘密にしておくべきだった」
「反省点はそこじゃねぇ!」

 こめかみがピキピキと引き攣る。
 ズレた反省に再び怒りのスイッチが入りそうになったが、俺は何とか自分を抑えた。
 
 だめだ、せっかくここまで我慢したんだ。ここで怒ったらさっきの交渉がパァになる……!
 
 自分にそう言い聞かせ口の先まで出掛かった言葉をグッと飲み込む。
『さっきの交渉』というのは、あまりにも不名誉極まりないデマに怒り狂っていた俺をなだめるドゥーガルドと取り交わした約束のことだ。
 
「到着致しました」
 
 先を進むエリンさんがひときわ大きな扉の前で足を止めて振り返った。
 
「こちらでドゥーガルド様の父君と母君がお待ちです」

 この部屋にドゥーガルドのお父さんとお母さんがいるのか……。
 
 部屋の中にいる人物がいかに高貴な人間であるかを示すような、重厚な雰囲気が漂う扉に、少し緊張する。
 するとその緊張を察したように、ドゥーガルドが俺の肩に優しく手を置いてにこりと微笑みかけた。

「……大丈夫だ。父さんも母さんも婚約について大賛成で、ソウシが来るのをすごく楽しみにしている」
「お前、もしかしてわざとなのか? さっきから見当違いな大丈夫を連発してるのはわざとなのか?」

 わざとでないとしたら、相手の気持ちを察する能力が恐ろしいくらい欠如している。
 自他共に認めるコミュ障の俺が恐れるくらいだ。

「というか、さっきの約束、忘れてないだろうな?」

 俺は肩に置かれたドゥーガルドの手を払いのけて、じろりと睨み付けた。
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