勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
258 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

83

しおりを挟む
「エリンさん……!」

 俺は再びエリンさんに期待の眼差しを向けた。
 彼女がドゥーガルド側の人間だと分かっていても、その冷静な態度やきっぱりとした物言いに期待せざるを得ない。
 ドゥーガルドはエリンさんの言葉に、眉根を不満そうに寄せた。
 
「……どうしてだ?」
「言うまでもありません」

 主に威圧的な視線を向けられても少しも怯むことなく落ち着き払って答えるエリンさんに、俺は心の中でスタンディングオーベーションした。
 
 これぞ従者の鑑……!
 
 ここにきてようやく常識人に巡り会えたと感動すら覚える。
 
「ドゥーガルド様、よくお考えください。今夜は婚約者であるソウシ様をお披露目する晩餐会があるのですよ? なのに今から抱いては足腰が立たず主役であるソウシ様が欠席という事態になりかねません」
「そっちの心配!?」

 というか、足腰が立たなくなるって、どんだけ激しく抱かれることを想定してんだ!?
 
「……大丈夫だ、もし足腰が立たない状態になっても俺が膝の上に抱いておけばいいことだ」
「なにひとつとして大丈夫じゃねぇぇぇ!」

 なんだよ! その得意げな顔は!
 何が悲しくて男に抱かれた上に、その男の膝の上に抱かれながらお披露目されなくちゃなんねぇんだよ! 余計に出たくねぇよ!
 
「……ソウシ、心配しなくてもいい。俺の膝はソウシが乗ったくらいでは何ともない」
「お前の膝の心配なんか微塵もしてねぇ!」

 むしろ膝がぶっ壊れることを祈るくらいだ。

「俺が心配しているのは自分のケツ! ケツオンリーだから!」
「その点はご安心ください。よい挿入剤をちゃんと準備しております。香りも数種類取りそろえておりますのでお好きなものをお選びください」
「エリンさん、真顔で何言ってんですか!? そういう見当違いな配慮はいらないですから!」

 俺が強く言うと、エリンさんはハッとした表情をして頭を深々と下げた。
 
「申し訳ございません……ッ! 確かに見当違いな配慮でした。二人の甘い営み、ドゥーガルド様の匂いを存分に感じたいでしょうに、私は何てことを……! あまりにも無配慮……! どうか、この剣で殴りつけてください」
「殴りませんよっ」
 
 エリンさんが自分の剣を差し出してきたので慌てて押し返す。
 
 というか、見当違いってそこのことじゃない!
 
 なんで分かってくれないのか……とボケ飽和状態、深刻なツッコミ不足の状況に泣きたくなる。

「……ソウシ、どうか許してやってくれ。エリンも悪気があってのことじゃない。ソウシの尻のことを気遣ってのことだ」
「そのケツをガンガンに掘る奴がなに言ってんだ!」

 俺のケツからすれば完全なる加害者のお前がなぜ仲裁役面してその台詞が言える!?
 
「ドゥーガルド様、ご慈悲をありがとうございます……っ。挿入剤については、私が責任を持って無臭のものを手配します。ですので今しばらくお待ちください」

 エリンさんが表情を引き締めてドゥーガルドの前に跪く。

 お……!
 
 思いも寄らず、寝室直行が免れる展開になってきて俺は静かに心の中でガッツポーズをした。
 
 よっしゃ……! これでとりあえずは難を逃れることができたぞ!
 
 エリンさんにすごい嫌な誤解をされているが、寝室直行を避けられるなら些細なことだ。
 あとはどうこの家から逃げ出して王都まで戻るかだ……などと先の心配をしていると、ドゥーガルドがぎゅっと強く俺を抱き直した。
 そして、
 
「……嫌だ。待てない」
「駄々っ子か! お前は!」

 今、いい感じに話が収まっていただろ! 空気読め!
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...