255 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
80
しおりを挟む
頭の中で今まで積み上がっていた自己暗示の好きが、熱いキスにとろとろに溶けて脳内に染みこんでいった。
甘さを増すキスに、頭がくらくらしてくる。
そのせいで溶けて染みこんできた偽物の好きがまるで本物のように思えてきてしまう。
食らいついてくる舌にその身を差し出すように自らも舌を絡ませる。
激しい抱擁のようなキスをしばらくすると、ドゥーガルドが不意に唇を離した。
何かが欠けるような寂しさが口の中に残って、胸に切なさに似た感情が微かに湧いた。
「はっ、ぁ、すき……」
頭の中でずっと繰り返していた言葉がぽろりと唇からこぼれ落ちた。
濡れた吐息に紛れるほど小さな声だ。しかしドゥーガルドがそれを聞き逃すはずがなかった。
目を見開いて一瞬固まったドゥーガルドだったが、すぐに俺を横抱きで抱え上げた。
「うわっ」
突然のことに驚きの声を上げる俺など気にも留めず、リリアたちに背を向けるとそのままズンズンと歩き出した。
「ドゥーガルド様、どちらへ? 旦那様たちがいらっしゃるお部屋は反対方向ですが」
あまりにも唐突で意図が全く掴めないドゥーガルドの行動に、さすがのエリンさんも呼び止めた。
するとドゥーガルドは足を止めて振り返った。
「……父さんと母さんには挨拶は後にする。俺たちは今から寝室に行く」
「え!? ちょ、ちょっと待て!」
あまりの急展開に俺は目を剥いた。
「俺、死ぬか生きるの瀬戸際なんですけど!? よくそんな奴を寝室に連れ込もうとできるな!?」
無神経にもほどがある! とドゥーガルドの腕の中でキレ散らかしていると、
「その件についてはご安心ください」
そう言ってエリンさんが懐中時計をこちらへ差し向けた。
「先ほど十分が経過しました」
「え?」
俺は目を丸くした。
十分が経った。でも俺の体には何の異変もない。ということは……。
バッと勢いよくリリアの方を振り向くと、彼女は口をへの字にして、露骨に面白くなさそうな顔をしていた。
しかし俺と目が合うと、フッ……と唇を歪ませて笑った。
「ふふふ……、命拾いしたようですわね……。ですが私はあなたを認めたわけではありませんからね……。このくらいの呪い、対抗魔術を心得ていればどうにでもなります……。――次は必ず化けの皮を剥いでやりますわ……」
不敵に不気味な微笑みを残して、リリアは踵を返しその場から立ち去った。
リリアの背中が見えなくなったところで、俺は全身で大きな溜め息を吐いた。
「よ、よかった……! 生きてる……ッ!」
九死に一生を得たとはまさにこのことだ。
生きていることにこれほどまで感謝したことなどなかった。
生の実感を感慨深い気持ちで噛みしめていると、
「……ふふ、これで証明されたな」
「え?」
柔らかな笑いが頭上から吹きかかり、俺は顔を上げた。
「しょ、証明ってなにが……?」
うっとりとこちらを見つめるドゥーガルドの瞳に、嫌な予感しかしないが一応聞き返した。
俺の問いにドゥーガルドは目をさらに細めた。
「……決まっているだろう。ソウシのこれまでの言動すべてが照れ隠しだと言うことがだ」
そう言って、愛おしそうに俺の頭上に軽くキスをした。
声とキスからあふれ出る甘さに、俺はこめかみにたらりと冷や汗を流した。
甘さを増すキスに、頭がくらくらしてくる。
そのせいで溶けて染みこんできた偽物の好きがまるで本物のように思えてきてしまう。
食らいついてくる舌にその身を差し出すように自らも舌を絡ませる。
激しい抱擁のようなキスをしばらくすると、ドゥーガルドが不意に唇を離した。
何かが欠けるような寂しさが口の中に残って、胸に切なさに似た感情が微かに湧いた。
「はっ、ぁ、すき……」
頭の中でずっと繰り返していた言葉がぽろりと唇からこぼれ落ちた。
濡れた吐息に紛れるほど小さな声だ。しかしドゥーガルドがそれを聞き逃すはずがなかった。
目を見開いて一瞬固まったドゥーガルドだったが、すぐに俺を横抱きで抱え上げた。
「うわっ」
突然のことに驚きの声を上げる俺など気にも留めず、リリアたちに背を向けるとそのままズンズンと歩き出した。
「ドゥーガルド様、どちらへ? 旦那様たちがいらっしゃるお部屋は反対方向ですが」
あまりにも唐突で意図が全く掴めないドゥーガルドの行動に、さすがのエリンさんも呼び止めた。
するとドゥーガルドは足を止めて振り返った。
「……父さんと母さんには挨拶は後にする。俺たちは今から寝室に行く」
「え!? ちょ、ちょっと待て!」
あまりの急展開に俺は目を剥いた。
「俺、死ぬか生きるの瀬戸際なんですけど!? よくそんな奴を寝室に連れ込もうとできるな!?」
無神経にもほどがある! とドゥーガルドの腕の中でキレ散らかしていると、
「その件についてはご安心ください」
そう言ってエリンさんが懐中時計をこちらへ差し向けた。
「先ほど十分が経過しました」
「え?」
俺は目を丸くした。
十分が経った。でも俺の体には何の異変もない。ということは……。
バッと勢いよくリリアの方を振り向くと、彼女は口をへの字にして、露骨に面白くなさそうな顔をしていた。
しかし俺と目が合うと、フッ……と唇を歪ませて笑った。
「ふふふ……、命拾いしたようですわね……。ですが私はあなたを認めたわけではありませんからね……。このくらいの呪い、対抗魔術を心得ていればどうにでもなります……。――次は必ず化けの皮を剥いでやりますわ……」
不敵に不気味な微笑みを残して、リリアは踵を返しその場から立ち去った。
リリアの背中が見えなくなったところで、俺は全身で大きな溜め息を吐いた。
「よ、よかった……! 生きてる……ッ!」
九死に一生を得たとはまさにこのことだ。
生きていることにこれほどまで感謝したことなどなかった。
生の実感を感慨深い気持ちで噛みしめていると、
「……ふふ、これで証明されたな」
「え?」
柔らかな笑いが頭上から吹きかかり、俺は顔を上げた。
「しょ、証明ってなにが……?」
うっとりとこちらを見つめるドゥーガルドの瞳に、嫌な予感しかしないが一応聞き返した。
俺の問いにドゥーガルドは目をさらに細めた。
「……決まっているだろう。ソウシのこれまでの言動すべてが照れ隠しだと言うことがだ」
そう言って、愛おしそうに俺の頭上に軽くキスをした。
声とキスからあふれ出る甘さに、俺はこめかみにたらりと冷や汗を流した。
51
お気に入りに追加
2,817
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる