勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
254 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

79

しおりを挟む
 振り返った先では、ドゥーガルドが憎らしいほど余裕に満ちた笑みを浮かべていた。
 俺の怒りのメーターをぶち切らせるには十分だった。
 
「何が大丈夫なんだよっ!」
「……だって呪いを解く方法は愛する者とのキスだろう? それなら何の問題もない」
「アホか! 問題しかねぇんだよ!」
 
 俺の命がかかっているというのにまだこいつは自分の妄想を信じ切っているのか! 
 
 怒りを通り越して呆れる……、いや、さらなる怒りにステップアップした。
 
「とにかくお前の妹だろ! ちゃんと説得――」
「……仕方ない論より証拠だな」

 俺の言葉を遮るようにして言うと、ドゥーガルドは俺の腰に手を回してぎゅっと抱き寄せた。
 そして、
 
「……リリアに俺たちの愛を証明しよう」

 そう言うと、恍惚混じりの微笑を浮かべた唇で俺の口を塞いだ。
 
「…………ッ!」

 普段なら、ふざけんな! と鉄拳をお見舞いするところだが、今は状況が状況だ。
 溺れる者は藁にも縋る。
 
 もしかすると、一瞬だけでも本当に好きと思えば呪いが解けるかも……!
 
 可能性と呼ぶのも憚られるほどの馬鹿げた考えだが、この理不尽な呪いを解いてくれる愛する者がこの場に、いや、この世にすらいないのだ。いないなら作るしかない。
 案外、吊り橋効果で好きになれるかもしれない。
 俺はぎゅっとドゥーガルドの背中に手を回した。
 一瞬、ほんの一瞬でいい。呪いの目を誤魔化す愛を一瞬だけ生み出そう。
 めちゃくちゃな考えなのは承知だが、もうこれしか方法は思いつかない。
 
 好き好き好き好き……。俺はドゥーガルドが大好き、愛してる……!
 
 苦い薬を無理矢理飲み込むような気持ちで自分に強く何度も言い聞かせた。
 
 好き好き好き好き好き好き好き好き……!
 
 好きがゲシュタルト崩壊しそうなくらい頭の中に溢れるが、まだ何も体に変化はない。
 
 好き! 本当に好きだって! 愛してる! ドゥーガルドが世界で一番好き!

 神様にでも宣言するように、心の中で愛を叫ぶ。もう半分自棄だ。
 とにかく必死だった。
 
 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……!
 
 自分に暗示を掛けるように、いやもはや洗脳するかのように何度も胸の内で繰り返す。
 だが、ここまでしてもまだ体に変化はない。
 言葉だけじゃ足りないのかもしれない。
 そう思った俺は、自分から舌をドゥーガルドの口の中におずおずと入れた。
 普段なら金を積まれても絶対にしないが、今はどんな手を使ってでも愛を示さなければならないのだ。手段は選んでいられない。
 舌を伸ばしてドゥーガルドのものに必死に絡みつこうとがんばっていたのだが、
 
 ……ガッ!
 
 何を思ったのか、ドゥーガルドが後頭部を片手で力強く押さえ込んできた。
 そして食らいつくかのような勢いで、俺の舌に絡みついてきた。
 
「っふ、ぁ、ン……っ」

 激しく舌を動かすせいで、唇の周りが唾液で濡れるがそんなのお構いなしに、キスはどんどん濃密なものになっていく。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

処理中です...