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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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まだこの様子をニヤニヤと笑いながら見守る悪意ある人々だったらすぐさま本当のことをぶちまけてこの場を立ち去るのだが、エリンさんたちは俺のこの拒絶を照れ隠しだと信じ切っているし、あろうことか俺たちの関係を祝福すらしている。
しかもそれが、主従関係による表面上のものでなく、心の底からの祝福なのだから余計に彼らの主であるドゥーガルドの妄想を否定しにくい。
俺は仕方なく、この場では大人しくすることにした。
「……父も母もソウシが来るのをとても楽しみにしている。紹介させてくれ」
肩を抱き寄せ屋敷の中へと入っていくドゥーガルドに、俺は溜め息にも似た乾いた笑いを漏らした。
「ははは……、よくご両親が反対しなかったな……」
息子が男の婚約者を連れてきてよく歓迎できるものだ。
すると、俺の言葉にドゥーガルドがわずかだが気まずげに目を伏せた。
「……父と母は俺たちのことについては大賛成だ。だが――」
珍しく言い淀むドゥーガルドに首を傾げていると、
「――肩に髪の毛がついていますわよ……」
暗く冷たい風が耳をかすめるような声がすぐ背後からして俺は「ひぇ……ッ!」と思わず飛び上がった。
振り返ると十歳くらいの黒髪の美少女が立っていた。
青白い肌に無表情、腕に抱いた顔のない人形、レースやフリルがふんだんにあしらわれた真っ黒なワンピースを身に纏った少女は、よく言えばミステリアス、悪く言えば不気味だった。
「……こら、後ろから急に声を掛けるな。ソウシがびっくりするだろう」
ドゥーガルドが俺を守るようにして肩を抱き寄せて、少女に注意する。
正直なところ、ホラーテイストの強い少女を前に少しびびっていたので、肩を抱かれて思わずホッとしてしまった。
「あら、ごめんなさい……。びっくりさせるつもりはなかったのだけれど……」
「……そう言いながら完全に気配を消していただろう、リリア」
ドゥーガルドの指摘に、リリアと呼ばれた少女はゆっくりと唇の端を上げた。
「ふふふ……、さすがはお兄様……、私のことをよく分かってらっしゃるわ……」
「お兄様!?」
リリアの言葉に俺は思わず目を剥いた。
そしてドゥーガルドとリリアの顔を交互に見る。
確かに怖いほど整った顔立ちや、陰鬱な雰囲気はそっくりだ。
「はじめまして……、兄からよく話は聞いております……、ソウシお義兄様……」
にこり……と微笑むリリア。
だが、その目は冷たく笑っていないのがよく分かった。
そこでようやくドゥーガルドがさっき言い淀んでいた理由が分かった。
つまり、両親は賛成しているが、妹は反対しているということだろう。
それは、歓迎一色の雰囲気に怯んでいた俺にとって朗報だった。
もしこの子が俺を嫌って猛反対してくれれば、今夜の婚約者お披露目を目的にした晩餐会は潰れるかもしれない。
この絶望的に不利な状況に希望の光が見えてきた。
よし……! ここでうまくこの子に嫌われよう!
しかもそれが、主従関係による表面上のものでなく、心の底からの祝福なのだから余計に彼らの主であるドゥーガルドの妄想を否定しにくい。
俺は仕方なく、この場では大人しくすることにした。
「……父も母もソウシが来るのをとても楽しみにしている。紹介させてくれ」
肩を抱き寄せ屋敷の中へと入っていくドゥーガルドに、俺は溜め息にも似た乾いた笑いを漏らした。
「ははは……、よくご両親が反対しなかったな……」
息子が男の婚約者を連れてきてよく歓迎できるものだ。
すると、俺の言葉にドゥーガルドがわずかだが気まずげに目を伏せた。
「……父と母は俺たちのことについては大賛成だ。だが――」
珍しく言い淀むドゥーガルドに首を傾げていると、
「――肩に髪の毛がついていますわよ……」
暗く冷たい風が耳をかすめるような声がすぐ背後からして俺は「ひぇ……ッ!」と思わず飛び上がった。
振り返ると十歳くらいの黒髪の美少女が立っていた。
青白い肌に無表情、腕に抱いた顔のない人形、レースやフリルがふんだんにあしらわれた真っ黒なワンピースを身に纏った少女は、よく言えばミステリアス、悪く言えば不気味だった。
「……こら、後ろから急に声を掛けるな。ソウシがびっくりするだろう」
ドゥーガルドが俺を守るようにして肩を抱き寄せて、少女に注意する。
正直なところ、ホラーテイストの強い少女を前に少しびびっていたので、肩を抱かれて思わずホッとしてしまった。
「あら、ごめんなさい……。びっくりさせるつもりはなかったのだけれど……」
「……そう言いながら完全に気配を消していただろう、リリア」
ドゥーガルドの指摘に、リリアと呼ばれた少女はゆっくりと唇の端を上げた。
「ふふふ……、さすがはお兄様……、私のことをよく分かってらっしゃるわ……」
「お兄様!?」
リリアの言葉に俺は思わず目を剥いた。
そしてドゥーガルドとリリアの顔を交互に見る。
確かに怖いほど整った顔立ちや、陰鬱な雰囲気はそっくりだ。
「はじめまして……、兄からよく話は聞いております……、ソウシお義兄様……」
にこり……と微笑むリリア。
だが、その目は冷たく笑っていないのがよく分かった。
そこでようやくドゥーガルドがさっき言い淀んでいた理由が分かった。
つまり、両親は賛成しているが、妹は反対しているということだろう。
それは、歓迎一色の雰囲気に怯んでいた俺にとって朗報だった。
もしこの子が俺を嫌って猛反対してくれれば、今夜の婚約者お披露目を目的にした晩餐会は潰れるかもしれない。
この絶望的に不利な状況に希望の光が見えてきた。
よし……! ここでうまくこの子に嫌われよう!
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