勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

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「……もしかしてあなたの主というのは、名前の頭文字がDで始まる人ですか……?」

 俺の質問に彼女はくすりと笑った。
 
「名前を伏せて確認しなくとも、ソウシ様が頭の中で思い浮かべている方で間違いありませんよ」

 ……どうやら俺の予想は的中したようだ。

 俺はガクリとうなだれた。
 だが、微笑ましそうな表情を見せる彼女に断言したい。
 俺が頭に思い浮かべたのは、愛しい婚約者としての奴ではなく、病的な妄想をこじらせた偏執的ストーカーとしての奴だ……。

「ふふ、さすがは我が主の婚約者であらせられる。万が一、私が不審者であった場合を考えて名前を伏せて確認されるとは、……我が主への深い愛を感じます」
「そんなんじゃないから!」

 ただただ嫌な予感を曖昧なままにしておきたかっただけ! それだけだから!

 だが、俺がどれだけ強く否定しても彼女はその微笑ましそうな表情を崩さなかった。
 
「主の言う通り、ソウシ様はやはり照れ屋ですね」
「だから違うって言うのに……」

 この話の通じなさ、そして俺の言動を自分の都合のいいように解釈する思い込みの強さ……、彼女の主と通じるものがある。
 とりあえず婚約者について否定するの難しそうなので、何か理由をつけて王都に戻ってもらおうと考えていると、
 
「そういえばまだ自己紹介もしていなかったですね」

 そう言って、彼女は居住まいを正した。

「申し遅れました。私はベレスフォード家の執事エリン・レヴィンズと申します。我が主、ドゥーガルド様よりソウシ様の身の回りのお世話、護衛などを仰せつかっております。ですので何なりとお申し付けください」

 いかにも頼もしい感じの凜とした笑みを浮かべるエリンさん。
 なんで女なのに執事……? とも思ったがそんなことより俺にはすべきことがあった。
 
「……えっと、じゃあとりあえず王都に戻って欲しいんですけど」

 お言葉に甘えて何なりと申しつけてみたが、エリンさんは首を横に振った。
 
「申し訳ございません。それはできません」
「なんで!?」

 今、何なりとお申し付けくださいって言ったじゃん!
 
「今夜、親族内で婚約者であるソウシ様のお披露目と親交を深めるための晩餐会が開かれます。今から王都に戻っては晩餐会に間に合いません」
「婚約者披露とか晩餐会とか初めて聞いたけど!?」

 なにその俺の意志をガン無視した狂気のスケジュール!?
 
「聞いていない……? ハ……ッ! もしかしてドゥーガルド様はサプライズにするつもりで……! ……ッ、私は、取り返しのつかないことをしてしまった……ッ!」

 顔を真っ青にしてエリンさんが頭を抱える。
 もし彼女が武士だったらこの場で切腹でもしかねないほど思い詰めた表情をしていた。
 そんなエリンさんがかわいそうになって思わずフォローする。
 
「いや、絶対に違うから! 大丈夫!」

 ある意味驚いたが断じてこれはサプライズなどではない。
 奴の中で勝手に確定していてそれ故に俺に言っていなかっただけ、きっとただそれだけだ。
 だからエリンさんが気に病むことなどひとつもないのに、彼女は目を潤ませて俺を見つめた。
 
「ソウシ様はお優しい……。しかしこれでは私の気が収まりません。やはり私をこの剣の柄で殴ってく――」
「だから殴らないってば!」

 剣を再び差し出してきたエリンさんに、俺は叫びながら断固拒否した。
 殴って、殴らないのとち狂った押し問答をしているうちに、気づけば馬車は広い敷地を有する豪邸の前――ドゥーガルドの家まで来ていた。
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