247 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
72
しおりを挟む
「……もしかしてあなたの主というのは、名前の頭文字がDで始まる人ですか……?」
俺の質問に彼女はくすりと笑った。
「名前を伏せて確認しなくとも、ソウシ様が頭の中で思い浮かべている方で間違いありませんよ」
……どうやら俺の予想は的中したようだ。
俺はガクリとうなだれた。
だが、微笑ましそうな表情を見せる彼女に断言したい。
俺が頭に思い浮かべたのは、愛しい婚約者としての奴ではなく、病的な妄想をこじらせた偏執的ストーカーとしての奴だ……。
「ふふ、さすがは我が主の婚約者であらせられる。万が一、私が不審者であった場合を考えて名前を伏せて確認されるとは、……我が主への深い愛を感じます」
「そんなんじゃないから!」
ただただ嫌な予感を曖昧なままにしておきたかっただけ! それだけだから!
だが、俺がどれだけ強く否定しても彼女はその微笑ましそうな表情を崩さなかった。
「主の言う通り、ソウシ様はやはり照れ屋ですね」
「だから違うって言うのに……」
この話の通じなさ、そして俺の言動を自分の都合のいいように解釈する思い込みの強さ……、彼女の主と通じるものがある。
とりあえず婚約者について否定するの難しそうなので、何か理由をつけて王都に戻ってもらおうと考えていると、
「そういえばまだ自己紹介もしていなかったですね」
そう言って、彼女は居住まいを正した。
「申し遅れました。私はベレスフォード家の執事エリン・レヴィンズと申します。我が主、ドゥーガルド様よりソウシ様の身の回りのお世話、護衛などを仰せつかっております。ですので何なりとお申し付けください」
いかにも頼もしい感じの凜とした笑みを浮かべるエリンさん。
なんで女なのに執事……? とも思ったがそんなことより俺にはすべきことがあった。
「……えっと、じゃあとりあえず王都に戻って欲しいんですけど」
お言葉に甘えて何なりと申しつけてみたが、エリンさんは首を横に振った。
「申し訳ございません。それはできません」
「なんで!?」
今、何なりとお申し付けくださいって言ったじゃん!
「今夜、親族内で婚約者であるソウシ様のお披露目と親交を深めるための晩餐会が開かれます。今から王都に戻っては晩餐会に間に合いません」
「婚約者披露とか晩餐会とか初めて聞いたけど!?」
なにその俺の意志をガン無視した狂気のスケジュール!?
「聞いていない……? ハ……ッ! もしかしてドゥーガルド様はサプライズにするつもりで……! ……ッ、私は、取り返しのつかないことをしてしまった……ッ!」
顔を真っ青にしてエリンさんが頭を抱える。
もし彼女が武士だったらこの場で切腹でもしかねないほど思い詰めた表情をしていた。
そんなエリンさんがかわいそうになって思わずフォローする。
「いや、絶対に違うから! 大丈夫!」
ある意味驚いたが断じてこれはサプライズなどではない。
奴の中で勝手に確定していてそれ故に俺に言っていなかっただけ、きっとただそれだけだ。
だからエリンさんが気に病むことなどひとつもないのに、彼女は目を潤ませて俺を見つめた。
「ソウシ様はお優しい……。しかしこれでは私の気が収まりません。やはり私をこの剣の柄で殴ってく――」
「だから殴らないってば!」
剣を再び差し出してきたエリンさんに、俺は叫びながら断固拒否した。
殴って、殴らないのとち狂った押し問答をしているうちに、気づけば馬車は広い敷地を有する豪邸の前――ドゥーガルドの家まで来ていた。
俺の質問に彼女はくすりと笑った。
「名前を伏せて確認しなくとも、ソウシ様が頭の中で思い浮かべている方で間違いありませんよ」
……どうやら俺の予想は的中したようだ。
俺はガクリとうなだれた。
だが、微笑ましそうな表情を見せる彼女に断言したい。
俺が頭に思い浮かべたのは、愛しい婚約者としての奴ではなく、病的な妄想をこじらせた偏執的ストーカーとしての奴だ……。
「ふふ、さすがは我が主の婚約者であらせられる。万が一、私が不審者であった場合を考えて名前を伏せて確認されるとは、……我が主への深い愛を感じます」
「そんなんじゃないから!」
ただただ嫌な予感を曖昧なままにしておきたかっただけ! それだけだから!
だが、俺がどれだけ強く否定しても彼女はその微笑ましそうな表情を崩さなかった。
「主の言う通り、ソウシ様はやはり照れ屋ですね」
「だから違うって言うのに……」
この話の通じなさ、そして俺の言動を自分の都合のいいように解釈する思い込みの強さ……、彼女の主と通じるものがある。
とりあえず婚約者について否定するの難しそうなので、何か理由をつけて王都に戻ってもらおうと考えていると、
「そういえばまだ自己紹介もしていなかったですね」
そう言って、彼女は居住まいを正した。
「申し遅れました。私はベレスフォード家の執事エリン・レヴィンズと申します。我が主、ドゥーガルド様よりソウシ様の身の回りのお世話、護衛などを仰せつかっております。ですので何なりとお申し付けください」
いかにも頼もしい感じの凜とした笑みを浮かべるエリンさん。
なんで女なのに執事……? とも思ったがそんなことより俺にはすべきことがあった。
「……えっと、じゃあとりあえず王都に戻って欲しいんですけど」
お言葉に甘えて何なりと申しつけてみたが、エリンさんは首を横に振った。
「申し訳ございません。それはできません」
「なんで!?」
今、何なりとお申し付けくださいって言ったじゃん!
「今夜、親族内で婚約者であるソウシ様のお披露目と親交を深めるための晩餐会が開かれます。今から王都に戻っては晩餐会に間に合いません」
「婚約者披露とか晩餐会とか初めて聞いたけど!?」
なにその俺の意志をガン無視した狂気のスケジュール!?
「聞いていない……? ハ……ッ! もしかしてドゥーガルド様はサプライズにするつもりで……! ……ッ、私は、取り返しのつかないことをしてしまった……ッ!」
顔を真っ青にしてエリンさんが頭を抱える。
もし彼女が武士だったらこの場で切腹でもしかねないほど思い詰めた表情をしていた。
そんなエリンさんがかわいそうになって思わずフォローする。
「いや、絶対に違うから! 大丈夫!」
ある意味驚いたが断じてこれはサプライズなどではない。
奴の中で勝手に確定していてそれ故に俺に言っていなかっただけ、きっとただそれだけだ。
だからエリンさんが気に病むことなどひとつもないのに、彼女は目を潤ませて俺を見つめた。
「ソウシ様はお優しい……。しかしこれでは私の気が収まりません。やはり私をこの剣の柄で殴ってく――」
「だから殴らないってば!」
剣を再び差し出してきたエリンさんに、俺は叫びながら断固拒否した。
殴って、殴らないのとち狂った押し問答をしているうちに、気づけば馬車は広い敷地を有する豪邸の前――ドゥーガルドの家まで来ていた。
41
お気に入りに追加
2,821
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる