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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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もし彼女が顔を赤らめながら恥ずかしそうにこのことを打ち明けていたら俺も男だ、ストーカーといえど美女ならばやぶさかではない、いやむしろ半ば歓喜していたかもしれない。
だが、彼女からはストーカー行為に至るほどの熱烈な感情を微塵も感じなかった。
好意からくる尾行ではないとなると、ますます目の前の美女が何を考えているか分からなくなった。
「な、なんで、俺の後を……?」
「我が主から命を受けたからです。ですから私をできた人だなんて思わないでください。過大評価です。現にあの少年が貴方のお金を盗むところも見ていましたが、何もしませんでした」
淡々と言って彼女は俺の手にある小袋に視線をやった。
「その気になればあの少年に追いついて奪い返すことなど容易いことでした。なのにそれをしなかった。……なぜだと思います?」
「い、いや、それは、分からないです……」
唐突に質問を振られて俺は戸惑いながら、正直に答えた。
彼女は俺の返答に満足も落胆も見せずに続けた。
「その方が都合が良かったからです。こうして路地に入ってもらった方が私にとって好都合だったのです。……こういう人の目がない場所でないと私の任務は遂行できませんから」
言い終わるか終わらないかのところで、彼女の手がスッと動いた。
さっき大柄の男に剣を向けた時の隙のない動きを思い出して、全身から血の気が引いた。
人目のない場所、任務、遂行……、これはどう考えても俺を殺るつもりでいるのだ。
「……っ!」
とっさに俺は彼女に背を向けて逃げ出そうとした。
だが、それより早く彼女が俺の腕を掴んだ。そして振り返る間も与えず、俺の口元に布を押し当てた。
「ん……ッ!」
布からは湿った甘い香りがした。その毒々しいまでに甘い香りは鼻の奥から頭へと瞬時に広がり、気づけば強烈な眠気が俺を襲った。
足から力が抜けてへたり込みそうになる俺を、美女が優しく後ろから抱き留める。
「……ご安心ください、悪い薬ではありません。少し眠るだけです。目覚めるまでの間、どうぞその身を私にお任せください、ソウシ様」
な、なんで俺の名前を……?
しかしその問いを口にする前に、俺は意識を手放した。
後頭部に巨乳の柔らかさを感じながら……。
****
ガタガタガタ……。
まだ瞼が重く視界は真っ暗だったが、少しずつ感覚を取り戻してきた体の端々に規則的な揺れを感じる。
それは二度寝を許さないほどに意識を揺り動かして、ぼんやりとではあるが俺を眠りから目覚めさせた。
のったりと瞼を開けて辺りを見回す。だが、そこは見知らぬ馬車の中で、窓の景色は絶えず後ろへと流れていた。
「――お目覚めのようですね、ソウシ様」
聞き覚えのある声に、一気に意識が覚醒する。
ガバッと起き上がると、俺の正面にはさっき路地で俺を眠らせた燕尾服の美女が座っていた。
俺は慌てて自分の体を見たが、縄で縛られたり、傷を負ったりということはなかった。
そのことにとりあえずホッとする。
「ご安心ください。確かに私は自分の任務遂行のために少々手荒な行動に出ましたが、貴方に危害を加えるつもりは一切ありません」
真っ直ぐ背筋を伸ばして無表情のまま彼女は淡々と言った。
その様子からは確かに、彼女自身の意志で俺にどうこうしようという害意は感じられなかった。
だが、それで安心できるほど俺もバカじゃない。
「安心してくださいって言われても全然安心できないんですけど……。というか、さっきから任務任務って何ですか」
俺は眉根を寄せながらおずおずと訊いた。
任務という堅苦しくどこか不穏な言葉を連呼されれば誰だって警戒する。
俺の質問に彼女はじっと俺を見た後に、ひとつ息を吐いて口を開いた。
「不審に思われても仕方がありませんね。申し訳ございません。私の任務――それはソウシ様を我が主の元へ安全にお連れすることです」
「え?」
我が主の元へ安全にお連れする……?
だが、彼女からはストーカー行為に至るほどの熱烈な感情を微塵も感じなかった。
好意からくる尾行ではないとなると、ますます目の前の美女が何を考えているか分からなくなった。
「な、なんで、俺の後を……?」
「我が主から命を受けたからです。ですから私をできた人だなんて思わないでください。過大評価です。現にあの少年が貴方のお金を盗むところも見ていましたが、何もしませんでした」
淡々と言って彼女は俺の手にある小袋に視線をやった。
「その気になればあの少年に追いついて奪い返すことなど容易いことでした。なのにそれをしなかった。……なぜだと思います?」
「い、いや、それは、分からないです……」
唐突に質問を振られて俺は戸惑いながら、正直に答えた。
彼女は俺の返答に満足も落胆も見せずに続けた。
「その方が都合が良かったからです。こうして路地に入ってもらった方が私にとって好都合だったのです。……こういう人の目がない場所でないと私の任務は遂行できませんから」
言い終わるか終わらないかのところで、彼女の手がスッと動いた。
さっき大柄の男に剣を向けた時の隙のない動きを思い出して、全身から血の気が引いた。
人目のない場所、任務、遂行……、これはどう考えても俺を殺るつもりでいるのだ。
「……っ!」
とっさに俺は彼女に背を向けて逃げ出そうとした。
だが、それより早く彼女が俺の腕を掴んだ。そして振り返る間も与えず、俺の口元に布を押し当てた。
「ん……ッ!」
布からは湿った甘い香りがした。その毒々しいまでに甘い香りは鼻の奥から頭へと瞬時に広がり、気づけば強烈な眠気が俺を襲った。
足から力が抜けてへたり込みそうになる俺を、美女が優しく後ろから抱き留める。
「……ご安心ください、悪い薬ではありません。少し眠るだけです。目覚めるまでの間、どうぞその身を私にお任せください、ソウシ様」
な、なんで俺の名前を……?
しかしその問いを口にする前に、俺は意識を手放した。
後頭部に巨乳の柔らかさを感じながら……。
****
ガタガタガタ……。
まだ瞼が重く視界は真っ暗だったが、少しずつ感覚を取り戻してきた体の端々に規則的な揺れを感じる。
それは二度寝を許さないほどに意識を揺り動かして、ぼんやりとではあるが俺を眠りから目覚めさせた。
のったりと瞼を開けて辺りを見回す。だが、そこは見知らぬ馬車の中で、窓の景色は絶えず後ろへと流れていた。
「――お目覚めのようですね、ソウシ様」
聞き覚えのある声に、一気に意識が覚醒する。
ガバッと起き上がると、俺の正面にはさっき路地で俺を眠らせた燕尾服の美女が座っていた。
俺は慌てて自分の体を見たが、縄で縛られたり、傷を負ったりということはなかった。
そのことにとりあえずホッとする。
「ご安心ください。確かに私は自分の任務遂行のために少々手荒な行動に出ましたが、貴方に危害を加えるつもりは一切ありません」
真っ直ぐ背筋を伸ばして無表情のまま彼女は淡々と言った。
その様子からは確かに、彼女自身の意志で俺にどうこうしようという害意は感じられなかった。
だが、それで安心できるほど俺もバカじゃない。
「安心してくださいって言われても全然安心できないんですけど……。というか、さっきから任務任務って何ですか」
俺は眉根を寄せながらおずおずと訊いた。
任務という堅苦しくどこか不穏な言葉を連呼されれば誰だって警戒する。
俺の質問に彼女はじっと俺を見た後に、ひとつ息を吐いて口を開いた。
「不審に思われても仕方がありませんね。申し訳ございません。私の任務――それはソウシ様を我が主の元へ安全にお連れすることです」
「え?」
我が主の元へ安全にお連れする……?
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