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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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明らかに男たちは少年の仲間。
つまり三対一。相手の方が有利な状況なのは明白だ。
もし、ここが階段でなければ俺は踵を返して逃げ出していた。
お金は大事だが、自分の体はもっと大事だからだ。
しかしこの不利な状況に気づいたのは、階段を勇みよく飛び降りた瞬間だ。
宙に浮いた体はどうしたって戻せない。そして宙に投げ出されたものが低い方へと落下するのは当然のことで――。
「わぁぁぁ!」
情けない叫び声を上げながら、俺は男たちのところに飛び込んでしまった。
しかも男たちを下敷きにして……。
「っ、いててて……っ、あ!」
ダイブした拍子に少年の手から離れて石畳の上に横たわる小袋を見つけ、俺はとっさに手を伸ばした。
しかし小袋を掴むより先に、無骨ないかにも荒くれ者といった手が俺の手首を掴んだ。
ひぇ……!
声が出ないほど怯えて固まる俺を、大柄の男が手首を掴んだまま無理矢理立ち上がらせ、壁にドン! と押しつけた。
ときめきどころか恐怖一色の壁ドンだ。
「テメェ……」
「ひ……っ!」
ギロリと真正面から睨まれ小さく悲鳴を上げる。
「俺たちの金に手を出すとはいい度胸じゃねぇか」
「え?」
凄みをきかせた声で寄越された言葉に俺は目を丸くした。
「え、えっと、いや、これ、俺の金なんですけど……」
「はぁ? 何言ってんだ。これは俺たちの弟の金だ」
そう言って男は膝のほこりを手ではたきながら立ち上がる背後の少年を顎で指した。
少年は俺と目が合うとにやりと笑って頷いた。
「そうだよ、これはオレの金だ」
「はぁ!? ふざけんな! それはさっき俺から盗んだもんだろ!」
少年の態度に俺はカッとなって吠えたが、少年も男たちもにやにやと腹立たしい笑いを浮かべるばかりだ。
「言いがかりはよしてくれよ。これはオレのもんだ。ねぇ、兄貴?」
「そうだ、これはこいつのもんだ。昨日の夜もこの小袋から酒代を出してくれたんだ。俺たちが証言する」
傍らに立つ三白眼の男がにやつきながら少年の言葉に頷くが、もちろん信用できるわけがない。
「ふ、ふざけるな……っ! あれは俺の――」
「証拠は?」
「え?」
遮るようにして言い被せた大柄の男の言葉に俺は唖然とした。
そんな俺に男はククク、と喉を鳴らして笑った。
「だから証拠はあんのかってきいてんだよ。こっちにはあれが弟の弟だっていう証人が二人もいる。だが、お前はどうだ? 俺の金だと厚かましく喚いているだけ。そんなので、はいそうですかって渡すわけがないだろ」
「いや、でも、それは俺の……」
「だーかーらー、証拠を見せろって言ってんだよ。ったく、何回言えば分かるんだよ」
大げさに溜め息を吐く目の前の男に、俺は怒りで目が熱くなった。
ふ、ふざけんな……! あれは俺の金だ! 変な言いがかりをつけてんのはそっちだろ!
しかし今の俺には、男の厚かましい暴論を論破する言葉も、打破する力もない。
怒りと悔しさでギリッと奥歯を噛みしめる。
俺は無力だ。
だが、だからといってこんなふざけた奴らにこのまま俺のお金をやるなんて絶対に嫌だ。
どうにかこの局面を打開できないかと、怒りと悔しさで沸騰する頭で考えていると、
「――証人はここにいる」
凜とした声が唐突に降ってきた。
薄暗い路地裏には似合わないどこか気高い雰囲気をまとったそれは、もちろん男たちのものでないことは明らかだ。
男たちも驚いて一斉に声の方を振り仰いだ。
混乱と驚愕の混ざった俺たちの視線の先、俺が今さっき飛び降りた階段の上に、声の主と一目で分かる凜々しい顔立ちの美女が立っていた。
つまり三対一。相手の方が有利な状況なのは明白だ。
もし、ここが階段でなければ俺は踵を返して逃げ出していた。
お金は大事だが、自分の体はもっと大事だからだ。
しかしこの不利な状況に気づいたのは、階段を勇みよく飛び降りた瞬間だ。
宙に浮いた体はどうしたって戻せない。そして宙に投げ出されたものが低い方へと落下するのは当然のことで――。
「わぁぁぁ!」
情けない叫び声を上げながら、俺は男たちのところに飛び込んでしまった。
しかも男たちを下敷きにして……。
「っ、いててて……っ、あ!」
ダイブした拍子に少年の手から離れて石畳の上に横たわる小袋を見つけ、俺はとっさに手を伸ばした。
しかし小袋を掴むより先に、無骨ないかにも荒くれ者といった手が俺の手首を掴んだ。
ひぇ……!
声が出ないほど怯えて固まる俺を、大柄の男が手首を掴んだまま無理矢理立ち上がらせ、壁にドン! と押しつけた。
ときめきどころか恐怖一色の壁ドンだ。
「テメェ……」
「ひ……っ!」
ギロリと真正面から睨まれ小さく悲鳴を上げる。
「俺たちの金に手を出すとはいい度胸じゃねぇか」
「え?」
凄みをきかせた声で寄越された言葉に俺は目を丸くした。
「え、えっと、いや、これ、俺の金なんですけど……」
「はぁ? 何言ってんだ。これは俺たちの弟の金だ」
そう言って男は膝のほこりを手ではたきながら立ち上がる背後の少年を顎で指した。
少年は俺と目が合うとにやりと笑って頷いた。
「そうだよ、これはオレの金だ」
「はぁ!? ふざけんな! それはさっき俺から盗んだもんだろ!」
少年の態度に俺はカッとなって吠えたが、少年も男たちもにやにやと腹立たしい笑いを浮かべるばかりだ。
「言いがかりはよしてくれよ。これはオレのもんだ。ねぇ、兄貴?」
「そうだ、これはこいつのもんだ。昨日の夜もこの小袋から酒代を出してくれたんだ。俺たちが証言する」
傍らに立つ三白眼の男がにやつきながら少年の言葉に頷くが、もちろん信用できるわけがない。
「ふ、ふざけるな……っ! あれは俺の――」
「証拠は?」
「え?」
遮るようにして言い被せた大柄の男の言葉に俺は唖然とした。
そんな俺に男はククク、と喉を鳴らして笑った。
「だから証拠はあんのかってきいてんだよ。こっちにはあれが弟の弟だっていう証人が二人もいる。だが、お前はどうだ? 俺の金だと厚かましく喚いているだけ。そんなので、はいそうですかって渡すわけがないだろ」
「いや、でも、それは俺の……」
「だーかーらー、証拠を見せろって言ってんだよ。ったく、何回言えば分かるんだよ」
大げさに溜め息を吐く目の前の男に、俺は怒りで目が熱くなった。
ふ、ふざけんな……! あれは俺の金だ! 変な言いがかりをつけてんのはそっちだろ!
しかし今の俺には、男の厚かましい暴論を論破する言葉も、打破する力もない。
怒りと悔しさでギリッと奥歯を噛みしめる。
俺は無力だ。
だが、だからといってこんなふざけた奴らにこのまま俺のお金をやるなんて絶対に嫌だ。
どうにかこの局面を打開できないかと、怒りと悔しさで沸騰する頭で考えていると、
「――証人はここにいる」
凜とした声が唐突に降ってきた。
薄暗い路地裏には似合わないどこか気高い雰囲気をまとったそれは、もちろん男たちのものでないことは明らかだ。
男たちも驚いて一斉に声の方を振り仰いだ。
混乱と驚愕の混ざった俺たちの視線の先、俺が今さっき飛び降りた階段の上に、声の主と一目で分かる凜々しい顔立ちの美女が立っていた。
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