230 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
55
しおりを挟む
「ダイナ!」
「やっぱり!」
ダイナの姿を見て安心したのか目尻にじわりと涙をにじませて、勢いよくエグバードが立ち上がった。
しかしその瞬間、なんとダイナはこちらに背を向けて、また走り出したのだ。
「ダ、ダイナ、なぜ……!」
あからさまにショックを受けた顔でエグバードがその場に立ち尽くす。
「とりあえず追いましょう! あのスピードならきっと追いつきます」
逃げはしたものの、必死さを感じないかろやかな足取りは、まるでこちらを試しているようだ。
「そ、そうだな、追って話を聞かねば」
そう言うとエグバードはごく自然な流れで俺を抱き上げ走り出した。
「えぇっ!? いや、降ろしていいですよ! そうじゃないと追いつけるものも追いつけなくなりますよ!」
「はははっ、ソウシくらいの重さならなんてことはない」
「そ、そんなに軽くないですっ」
やめて……! 子どもになんともないと軽々と抱かれるの、すげぇ屈辱だから……!
しかし俺のプライドを砕き割っている自覚のないエグバードは俺の言葉を笑い飛ばす。
「はははっ、軽い軽い。だから気にするな。それよりも口は閉じておけ。舌を噛むぞ」
そう優しく言うと、エグバードは走るスピードを上げた。
確かにこのまま抗議をしていたら舌を噛みそうだ。
それに何を言っても無駄なことはこの短い間で嫌と言うほどよく分かった。
きっと軽く感じるのはエグバードがデカいからで俺は標準体型、標準体型……と自分を心の中で慰めながら、きゅっと唇を閉じた。
しばらくダイナの後を追いかけたが、これがなかなか捕まらない。
「ダイナ、待ってくれ! どうして逃げるんだ!」
エグバードが呼びかけてもダイナは振り向きもしなかった。
しかし見失わない程度の距離を保ったまま、俺たちの追いかけっこは続いた。
そして庭園を出たところで、すぐ傍に立っている木にダイナが素早く登った。
「にゃあ」
余裕綽々といった感じで俺たちを見下ろしながらダイナが鳴く。
「く……っ、この高さでは登れんな」
「そうですね……」
エグバードの腕から降りて木の下から上を仰ぎ見る。
枝の上にゆったりと座るダイナがいる場所は、猫には簡単に登れても、俺たち人間には難しい高さだった。
「ダイナー! 降りてこい! おいしいものを準備してやるぞ」
ダイナを受け止めようと両手を広げながら、優しい声でエグバードが呼びかけるが、ダイナはつーんとあさっての方向を向いてしまった。
「うっ……、ダイナ、どうして……っ」
まるで愛娘に反抗期が訪れた父親のような表情を見せるエグバードの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
さすがにかわいそうになりさっきの延長で頭を撫でてやる。
少し背伸びをしないといけないのが悲しいが……。
「だ、大丈夫ですよ、何とかなりますって」
「だが、向こうから降りてくる気配はないぞ。どうすればいい……?」
すん、と小さく鼻をすするエグバードの言葉に、俺は腕を組んで唸った。
「うーん、とりあえず木を軽く蹴ってみましょうか」
「待て待て待て!」
足を軽く振り上げて木を蹴ろうとする俺を、エグバードが後ろから羽交い締めにして慌てて止める。
「ダイナが落ちてケガでもしたらどうする!」
「いや、猫は身軽ですし、上手く着地できますよ」
もちろん木を揺らして落とすという乱暴な手段ではなく、蹴った振動に驚いて向こうから飛び降りてこないかというのが狙いだったのだが、エグバードはとんでもないと言わんばかりにブンブンと首を横に振った。
「やっぱり!」
ダイナの姿を見て安心したのか目尻にじわりと涙をにじませて、勢いよくエグバードが立ち上がった。
しかしその瞬間、なんとダイナはこちらに背を向けて、また走り出したのだ。
「ダ、ダイナ、なぜ……!」
あからさまにショックを受けた顔でエグバードがその場に立ち尽くす。
「とりあえず追いましょう! あのスピードならきっと追いつきます」
逃げはしたものの、必死さを感じないかろやかな足取りは、まるでこちらを試しているようだ。
「そ、そうだな、追って話を聞かねば」
そう言うとエグバードはごく自然な流れで俺を抱き上げ走り出した。
「えぇっ!? いや、降ろしていいですよ! そうじゃないと追いつけるものも追いつけなくなりますよ!」
「はははっ、ソウシくらいの重さならなんてことはない」
「そ、そんなに軽くないですっ」
やめて……! 子どもになんともないと軽々と抱かれるの、すげぇ屈辱だから……!
しかし俺のプライドを砕き割っている自覚のないエグバードは俺の言葉を笑い飛ばす。
「はははっ、軽い軽い。だから気にするな。それよりも口は閉じておけ。舌を噛むぞ」
そう優しく言うと、エグバードは走るスピードを上げた。
確かにこのまま抗議をしていたら舌を噛みそうだ。
それに何を言っても無駄なことはこの短い間で嫌と言うほどよく分かった。
きっと軽く感じるのはエグバードがデカいからで俺は標準体型、標準体型……と自分を心の中で慰めながら、きゅっと唇を閉じた。
しばらくダイナの後を追いかけたが、これがなかなか捕まらない。
「ダイナ、待ってくれ! どうして逃げるんだ!」
エグバードが呼びかけてもダイナは振り向きもしなかった。
しかし見失わない程度の距離を保ったまま、俺たちの追いかけっこは続いた。
そして庭園を出たところで、すぐ傍に立っている木にダイナが素早く登った。
「にゃあ」
余裕綽々といった感じで俺たちを見下ろしながらダイナが鳴く。
「く……っ、この高さでは登れんな」
「そうですね……」
エグバードの腕から降りて木の下から上を仰ぎ見る。
枝の上にゆったりと座るダイナがいる場所は、猫には簡単に登れても、俺たち人間には難しい高さだった。
「ダイナー! 降りてこい! おいしいものを準備してやるぞ」
ダイナを受け止めようと両手を広げながら、優しい声でエグバードが呼びかけるが、ダイナはつーんとあさっての方向を向いてしまった。
「うっ……、ダイナ、どうして……っ」
まるで愛娘に反抗期が訪れた父親のような表情を見せるエグバードの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
さすがにかわいそうになりさっきの延長で頭を撫でてやる。
少し背伸びをしないといけないのが悲しいが……。
「だ、大丈夫ですよ、何とかなりますって」
「だが、向こうから降りてくる気配はないぞ。どうすればいい……?」
すん、と小さく鼻をすするエグバードの言葉に、俺は腕を組んで唸った。
「うーん、とりあえず木を軽く蹴ってみましょうか」
「待て待て待て!」
足を軽く振り上げて木を蹴ろうとする俺を、エグバードが後ろから羽交い締めにして慌てて止める。
「ダイナが落ちてケガでもしたらどうする!」
「いや、猫は身軽ですし、上手く着地できますよ」
もちろん木を揺らして落とすという乱暴な手段ではなく、蹴った振動に驚いて向こうから飛び降りてこないかというのが狙いだったのだが、エグバードはとんでもないと言わんばかりにブンブンと首を横に振った。
41
お気に入りに追加
2,818
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる