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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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「ほら、猫は涙の匂いに敏感っていうじゃないですか。私の国では猫を探す時は飼い主の涙を皿に入れて家の前に置いとくんです」
もちろん俺の作り話だ。
だが、今は嘘か本当かは問題じゃない。プライドの高いエグバードが安心して泣ける理由になれるならそれでいい。
「だからエグバード様はあえて涙を流してるんですよね?」
俺の言葉にしばらく目を瞠っていたエグバードだが、しばらくすると鼻をすすってフンと胸を張った。
「そ、その通りだ。よくその知識を知っていたな。さすがは王に選ばれし白銀の翼だ」
「ははは~……、お褒めにあずかり光栄です~……」
「だが、女の前で泣くなんて紳士失格だ」
「あ、じゃあ、しばらくの間、ここから離れて庭園の中を探してきま――」
この緊張状態から少しの時間でも抜け出すチャンスだと立ち上がろうとした俺の腕を、エグバードがガシッと掴んだ。
「え、えっと、エグバード様?」
意図が分からず、中腰のまま掴まれた腕とエグバードの顔を交互に見る。
エグバードは俺の目をじっと見つめた。
「……だめだ。行くな」
「え?」
「だから、行くなと言っておる。ソウシは今、私の護衛だろう。だから離れてはだめだ」
「そ、そうは言われましても……」
断固とした声と表情で引き留められ、俺は戸惑った。
正直なところ、俺に護衛能力はゼロなので近くにいてもたいして役に立たないと思うのだが……。
というか、泣き顔を見られたくないって言ったのはお前の方だろ……!
全くもって身勝手な言い分だが、でも同じ男として女の前で泣き顔をさらしたくないという気持ちはよく分かる。
仕方ねぇな……。
俺は小さく溜め息を吐いた。
「分かりました。では目をつむっておきますね」
「いや、その必要はない。こうすればよい」
そう言うと、掴んだ俺の腕をそのまま自分の方にグイッと引き寄せた。
「うわっ!」
急に腕を引かれたせいでバランスを崩し胸に倒れ込んできた俺を、エグバードはぎゅっと抱き留めた。
「ちょ、な、なんのつもりですか!」
「目隠しだ。こうしていれば私の顔は見えないだろう」
「こんなことしなくても、目をつむりますけど……」
「それだと目を薄く開ける可能性があるだろう」
「いや、そんなことしませんよ……」
美少女ならいざ知らず、誰が好き好んで男の泣き顔なんてみるものか。
どうにかしてこの体勢から抜け出そうとするが、体格の差が物を言いビクともしない。
そんな俺にエグバードが溜め息を吐く。
「いいから、しばらくこうさせておけ。……たまには私だって甘えたいのだ。言わせるな」
少し拗ねたように言って、さらにぎゅっと腕に力を込められる。
……これはもう何を言っても無駄だな。
変に拒んで機嫌が悪くなっても面倒だ。
俺は腕の中で小さく溜め息を吐いて、仕方なくエグバードの抱き枕に甘んじた。
もちろん俺の作り話だ。
だが、今は嘘か本当かは問題じゃない。プライドの高いエグバードが安心して泣ける理由になれるならそれでいい。
「だからエグバード様はあえて涙を流してるんですよね?」
俺の言葉にしばらく目を瞠っていたエグバードだが、しばらくすると鼻をすすってフンと胸を張った。
「そ、その通りだ。よくその知識を知っていたな。さすがは王に選ばれし白銀の翼だ」
「ははは~……、お褒めにあずかり光栄です~……」
「だが、女の前で泣くなんて紳士失格だ」
「あ、じゃあ、しばらくの間、ここから離れて庭園の中を探してきま――」
この緊張状態から少しの時間でも抜け出すチャンスだと立ち上がろうとした俺の腕を、エグバードがガシッと掴んだ。
「え、えっと、エグバード様?」
意図が分からず、中腰のまま掴まれた腕とエグバードの顔を交互に見る。
エグバードは俺の目をじっと見つめた。
「……だめだ。行くな」
「え?」
「だから、行くなと言っておる。ソウシは今、私の護衛だろう。だから離れてはだめだ」
「そ、そうは言われましても……」
断固とした声と表情で引き留められ、俺は戸惑った。
正直なところ、俺に護衛能力はゼロなので近くにいてもたいして役に立たないと思うのだが……。
というか、泣き顔を見られたくないって言ったのはお前の方だろ……!
全くもって身勝手な言い分だが、でも同じ男として女の前で泣き顔をさらしたくないという気持ちはよく分かる。
仕方ねぇな……。
俺は小さく溜め息を吐いた。
「分かりました。では目をつむっておきますね」
「いや、その必要はない。こうすればよい」
そう言うと、掴んだ俺の腕をそのまま自分の方にグイッと引き寄せた。
「うわっ!」
急に腕を引かれたせいでバランスを崩し胸に倒れ込んできた俺を、エグバードはぎゅっと抱き留めた。
「ちょ、な、なんのつもりですか!」
「目隠しだ。こうしていれば私の顔は見えないだろう」
「こんなことしなくても、目をつむりますけど……」
「それだと目を薄く開ける可能性があるだろう」
「いや、そんなことしませんよ……」
美少女ならいざ知らず、誰が好き好んで男の泣き顔なんてみるものか。
どうにかしてこの体勢から抜け出そうとするが、体格の差が物を言いビクともしない。
そんな俺にエグバードが溜め息を吐く。
「いいから、しばらくこうさせておけ。……たまには私だって甘えたいのだ。言わせるな」
少し拗ねたように言って、さらにぎゅっと腕に力を込められる。
……これはもう何を言っても無駄だな。
変に拒んで機嫌が悪くなっても面倒だ。
俺は腕の中で小さく溜め息を吐いて、仕方なくエグバードの抱き枕に甘んじた。
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