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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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げ……! もしかして、触れちゃいけない話題だったか!?
思いも寄らない反応に慌てた俺だったが、すぐにエグバードの表情がパァと輝いた。
「おお! あれが私の絵だと気付いたか!」
身を乗りださん勢いで嬉々と訊かれて、俺は少したじろぎつつコクコクと頷いた。
するとエグバードはさらに嬉しそうに目を輝かせ、ぎゅっと俺の手を両手で包み込んだ。
「やっと気付いてもらえた!」
「え?」
訳が分からず目を丸くする。
「気付いてもらえたって、どういう意味ですか?」
「言葉のままだ。私は絵を描くのが趣味なのだが、誰に見せても似たり寄ったりの称賛しかしないのだ」
「は、はぁ……」
まぁ、相手が子ども、しかも王子となれば誰も褒める以外の選択肢はないだろう。
しかしエグバードは唇を尖らせ不服そうだった。
「あれではお世辞が本音か分からん。そこでこっそり自分の絵を城内に飾ったのだ。本当に私の絵が上手ければすぐに話題になるはずだと思ってな」
「な、なるほど……」
よっぽど自分の絵に自信があるようだ。
あの絵でこの自信……。
まぁ、次期国王になる人物だ。恐らく周りから否定的なことなど言われたことがないのだろう。羨ましい限りだ。
しかし「やっと気付いてもらえた!」と喜んでいるあたり、何となく話の展開は見えてきた。
「……だが、いくら待っても全くあの絵が話題になることはなかった」
しょんぼりと肩を落とすエグバード。
今まで気品ある佇まいを崩さなかったエグバードが、初めて見せた年相応の表情だった。
あらためて、目の前にいる自分より背の高い──だがなぜか座高は少ししか変わらず俺から理不尽なひがみを買っているこの男が、まだ十二歳の子どもだったことを思い出した。 何か慰めの言葉を掛けるべきかと思いあぐねていると、エグバードは俯いていた顔を上げてこっちを向き、にこりと笑った。
「でも、今日ソウシが気付いてくれた。それが私は嬉しいのだ」
にこにこと嬉しそうに笑う無邪気さに、良心がグサグサと突き刺される。
まさか、単に応接間に戻るための目印でたまたま見掛けただけだとはとても言えない……。
ええい! お世辞だって強く思って言えば本当の言葉だ!
「いやぁ、とても目を惹く独特な絵だったので、はは、ははは……っ」
片頬に笑みをかろうじて引っ掛けてゴマをする俺に、エグバードは満足そうに頷いた。
「ふふふ、そうかそうか! ソウシもそう思うか。お前なかなか見る目があるな」
「はは、よく言われます~……」
「よし、今度私のアトリエに招待してやろう」
「え!?」
まさかのアトリエご招待に思わず動揺する。
付き人のお迎えまでの付き合いだと自分に言い聞かせて猫探しに付き合っていたので、そのお誘いは俺にとって厄介なものしかなかった。
「ん? どうした? 私のアトリエに来るのはいやか?」
エグバードの眉間に薄く皺が寄ったので、俺は慌てて手をブンブンと激しく横に振った。
「い、いえいえっ、とんでもございません! た、ただ、私のような下賤な人間がエグバード様のアトリエにおじゃまするなんておこがましいかなと思いまして……ッ」
「ふふ、何を言っておる。この私が招待しているのだ。そんなわけないだろう。それに私からの誘いを断る方が無礼だぞ」
「は、はい、そうですよね……、はは、ははは……」
誰か、教えてくれ……。この状況で次期国王直々のお誘いを波風を立てず丁重にお断りする方法を……。求む、ベストアンサー……!
だが心の中の声どころか普通の声さえ誰にも届かない孤立無援な迷子の状況で、もちろんベストアンサーなど返ってくるはずもなく、俺は王子の無邪気な威圧に流されるがまま愛想笑いを浮かべ続けた。
思いも寄らない反応に慌てた俺だったが、すぐにエグバードの表情がパァと輝いた。
「おお! あれが私の絵だと気付いたか!」
身を乗りださん勢いで嬉々と訊かれて、俺は少したじろぎつつコクコクと頷いた。
するとエグバードはさらに嬉しそうに目を輝かせ、ぎゅっと俺の手を両手で包み込んだ。
「やっと気付いてもらえた!」
「え?」
訳が分からず目を丸くする。
「気付いてもらえたって、どういう意味ですか?」
「言葉のままだ。私は絵を描くのが趣味なのだが、誰に見せても似たり寄ったりの称賛しかしないのだ」
「は、はぁ……」
まぁ、相手が子ども、しかも王子となれば誰も褒める以外の選択肢はないだろう。
しかしエグバードは唇を尖らせ不服そうだった。
「あれではお世辞が本音か分からん。そこでこっそり自分の絵を城内に飾ったのだ。本当に私の絵が上手ければすぐに話題になるはずだと思ってな」
「な、なるほど……」
よっぽど自分の絵に自信があるようだ。
あの絵でこの自信……。
まぁ、次期国王になる人物だ。恐らく周りから否定的なことなど言われたことがないのだろう。羨ましい限りだ。
しかし「やっと気付いてもらえた!」と喜んでいるあたり、何となく話の展開は見えてきた。
「……だが、いくら待っても全くあの絵が話題になることはなかった」
しょんぼりと肩を落とすエグバード。
今まで気品ある佇まいを崩さなかったエグバードが、初めて見せた年相応の表情だった。
あらためて、目の前にいる自分より背の高い──だがなぜか座高は少ししか変わらず俺から理不尽なひがみを買っているこの男が、まだ十二歳の子どもだったことを思い出した。 何か慰めの言葉を掛けるべきかと思いあぐねていると、エグバードは俯いていた顔を上げてこっちを向き、にこりと笑った。
「でも、今日ソウシが気付いてくれた。それが私は嬉しいのだ」
にこにこと嬉しそうに笑う無邪気さに、良心がグサグサと突き刺される。
まさか、単に応接間に戻るための目印でたまたま見掛けただけだとはとても言えない……。
ええい! お世辞だって強く思って言えば本当の言葉だ!
「いやぁ、とても目を惹く独特な絵だったので、はは、ははは……っ」
片頬に笑みをかろうじて引っ掛けてゴマをする俺に、エグバードは満足そうに頷いた。
「ふふふ、そうかそうか! ソウシもそう思うか。お前なかなか見る目があるな」
「はは、よく言われます~……」
「よし、今度私のアトリエに招待してやろう」
「え!?」
まさかのアトリエご招待に思わず動揺する。
付き人のお迎えまでの付き合いだと自分に言い聞かせて猫探しに付き合っていたので、そのお誘いは俺にとって厄介なものしかなかった。
「ん? どうした? 私のアトリエに来るのはいやか?」
エグバードの眉間に薄く皺が寄ったので、俺は慌てて手をブンブンと激しく横に振った。
「い、いえいえっ、とんでもございません! た、ただ、私のような下賤な人間がエグバード様のアトリエにおじゃまするなんておこがましいかなと思いまして……ッ」
「ふふ、何を言っておる。この私が招待しているのだ。そんなわけないだろう。それに私からの誘いを断る方が無礼だぞ」
「は、はい、そうですよね……、はは、ははは……」
誰か、教えてくれ……。この状況で次期国王直々のお誘いを波風を立てず丁重にお断りする方法を……。求む、ベストアンサー……!
だが心の中の声どころか普通の声さえ誰にも届かない孤立無援な迷子の状況で、もちろんベストアンサーなど返ってくるはずもなく、俺は王子の無邪気な威圧に流されるがまま愛想笑いを浮かべ続けた。
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