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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

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「それではこちらでしばらくお待ちくださ……!」

 部屋に入ってきた城の使用人と、客人と思われる男が、俺たちの姿を見て固まった。
 恥部を剥き出の女装男とそれに跨がる男。その組み合わせを、よもや城で目撃することになるとは夢にも思っていなかったのだろう。
 二人は硬直したまま動かない。
 そんな二人の反応に、今まで流されに流されていた俺だったが、さすがに我に返った。
 今頃になって羞恥心が戻ってきて、顔どころか全身から火が噴きそうになった。
 
「……う、わぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 あまりの恥ずかしさに大声で叫んで、混乱のあまり目の前のアーロンに目掛けて拳を繰り出してしまった。
 いつもなら絶対に当たることはないが、奴も油断しきっていたのだろう、俺の渾身の拳は見事頬にクリーンヒットした。

「ぐは……ッ!」

 呻いて少しよろめくアーロンをさらに両手で突き飛ばして俺はソファから立ち上がった。
 そしてめくり上がったスカートの裾をすぐさま直し「すっ、すみませんでしたぁぁぁッ!」と謝りながら部屋を後にした。
 後ろからアーロンの怒鳴り声が聞こえたが、もちろん無視して全力疾走だ。




 走る。走る。走る。
 絵画の飾られた廊下を、足を踏むたびにミシミシと鳴る階段を、中庭の見える回廊を、ただひたすらに走った。

「……はっ、はぁ、はぁ……ッ」

 後ろから追ってくる気配を完全に感じなくなりホッとした瞬間、体の限界がきて徐々に速度を落として足を止めた。
 回廊の柱に腕をついて荒い呼吸を整えていると、涼やかな水の音に気づいて顔を上げた。
 見ると中庭の中心に噴水が据えられていた。走り回って喉が渇いていた俺は吸い寄せられるように噴水に近づいた。
 そして両手でその水をすくって口に何度も運んだ。
 
「ッ、はぁぁぁ……っ、水うまっ」

 生き返るとはまさにこのことだ。
 喉も潤い、呼吸も落ち着いたところで冷静になった俺は、新たなる問題に直面した。
 
「……ここ、どこだ?」

 辺りを見回すが全くもって見覚えのない場所だ。
 初めてこの城に来たのだから当然といえば当然なのだが……。
 
「あーっ、くそっ、俺のばか!」

 自分のあまりの馬鹿さに、ぐしゃぐしゃと髪を乱暴に掻き回した。
 あの時、クロが待っている応接間に逃げ込まなかったのかと悔やんでも悔やみきれない。
 だがあんな恥ずかしい場面を人に見られてパニック状態になっていたあの時の俺に、そんな冷静な判断ができるはずがなかった。
 さらに、アーロンをまこうと考えなしにがむしゃらに走り回ったせいで元来た道を戻るのも難しい。
 しかも周囲には人っ子一人いない状況で、助けを求めることもできない。
 
 いや、もし周りに人がいたとしてもこの格好で声かける勇気はないな……。
 
 自分の腰から下のひどいさまを見下ろしながら大きく溜め息を吐く。
 あの部屋でタイツと下着を脱がされたせいで、貧相な脚は丸出しだし、その上ノーパンだ。
 しかも股から漏れたアーロンの精液が、太ももの内側から足先にかけて細く白い道を作っている。
 恐らく走っている最中には、白い水滴がぽたぽたと落ちて城の廊下を汚したに違いない。
 女装姿で場内を走り回ってしかも卑猥なものをまき散らしたことがばれたらただでは済まないだろう。
 考えただけでゾッとする。
 
 い、いやいや! でも俺はアーロンに襲われたわけだし! 俺は純然たる被害者だし!
 
 悪い予感を打ち払うように慌てて自分自身に弁解するが、どうあがいても女装していた事実は変わらない。
 
 ……とりあえず、汚れたところ洗っとこう。
 
 もし人に会った時に少しでも印象をマシにするため、俺は深い溜め息を吐きながらスカートや脚などに水をかけて嫌な残滓を洗い流した。
 
 あー……、情けねぇ……。
 というか、俺、どんどん流されやすくなってないか!?
 
 アーロンに襲われたさっきの出来事を思い出して愕然とした。
 認めたくない事実だが、明らかに快楽に対する耐性がどんどん落ちている。
 
 やばい……、やばいぞ、俺!
 
 このままでは本当にメス落ちさせられてしまうと、心臓が凍てつくような危機感を覚えた。
 
 と、とりあえず、筋トレでもして男性ホルモンを増やしたりとかした方がいいのか……?
 
 そんな風に快楽耐性強化の方法を考えていると、
 
「おい、そこのお前」

 背後から高圧的な声を掛けられビクッと肩が跳ね上がった。
 不本意とはいえノーパンに女装という変態の極みともいえる格好をしているため、本当は走って逃げ去りたかったが、逃げればさらに怪しいことこの上ない。
 仕方なく、恐る恐る振り返った。
 すると、そこには二十歳前後の異様に顔の整った青年が無表情で立っていた。
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