勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
192 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

17

しおりを挟む

 ****
 
 俺の不躾な要求に顔色ひとつ変えずに笑顔で「いいよ~、じゃあ応接間に案内するね」と言ってくれたアーシャは本当に内面も天使な美少女だ。
 これでチェルノの関連での暴走がなければ完璧だっただろうに……とひとりの男として非常に残念に思う。
 玉に瑕というよりむしろ玉に穴というくらい大きく、塞ぎようのない欠点だ。

「はい、よかったら紅茶どうぞ」

 俺を応接間に通してから一旦席を外したアーシャは、ティーセットを携えて戻ってきた。

「いい薬草を使ってるら疲れも和らぐと思うよ~」

 にこやかに言いながら俺の前に静かに紅茶を置くアーシャに玉に穴なんて思ってごめん……! と頭の中で土下座する一方、やっぱりチェルノ関連の暴走癖が悔やまれてならない。

「あ、ありがとうな、アーシャ」
「いえいえ~。クロろんには、はい、これ」

 そう言ってソファの足元にミルクが入った皿を置いた。俺の膝の上に座るクロは思わず顔を顰めた。

「おい、私をそこらの犬猫と一緒の扱いをするなっ」

 どうやらプライドを傷つけられたらしく、ぷんぷんと憤慨するクロ。

「えぇ~、でもカップじゃ飲みにくいでしょ?」
「……仕方ない。ミルクに罪はない。残してはこの乳の家畜が可愛そうだ。飲んでやろう」

 ずいぶんと尊大な言い訳を並べると、クロは俺の膝からぴょんと飛び降りてミルクをぺろぺろと舐め始めた。
 結構な勢いで舐めているところから、どうやら相当に喉が渇いていたようだ。
 こうして見ると本当に可愛いただの子犬なのになぁと無意識に手を伸ばしてその頭を撫でる。
 触られたのが嬉しかったのか目を細めて俺の掌に自分の頭をすりつけてくるのがまた可愛く、もうずっとこのまま子犬バージョンでいいんじゃね? と思ったほどだ。
 もちろん大型のモフモフも捨てがたいところではあるが、手は出さないと約束はしていても未だに番だ何だと言ってくるのだ、万が一の可能性を考えれば自分より小さい方がいいに決まっている。

「ふふふ、ほんと二人ってばラブラブだね~」

 向かいに座ったアーシャが膝に肘をついて微笑ましそうな視線を向けてくる。

「は、ははは……」

 こちらが誘導した誤解とはいえ、ラブラブなどという事実と大きく異なる言葉に頬が引きつる。
 一方のクロは上機嫌でふふん、と胸を張っている。
 現在進行形でクロの勘違いを取り返しのつかないところまで深めているような気がするが、というか確実にそうだろうが、アーシャの美少女スマイルが剥がれる方が恐ろしいので気づかないフリをする。

「そ、そういえばさ、さっきチェルノと同僚って言ってたけど何の同僚?」

 これ以上自分たちの話をされてしまってはクロの願望的妄想をさらに拗らせてしまうので話を逸らした。
 するとアーシャは少し目を丸くしたがすぐに「ああ、そういえばこの国に来て日が浅いって言ってたっけ」とチェルノの言葉を思い出したようで納得した。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

処理中です...