勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
191 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

16

しおりを挟む
「やだっ、ごめんなさい。私ったら勘違いしちゃってた」

 胸ぐらからパッと手を離すと、その手をすぐさま自分の胸の前で合わせて頭を下げてきた。

「ごめんね、ソウちゃん。私ちぇるるんのことになると我を忘れちゃうところがあって……、許してくれる?」

 眉をハの字にして、首をこてんと横に倒しこちらの反応を伺うアーシャ。

 う……っ、可愛い……!

 こんな可憐な美少女に、上目遣いでうるうるとした瞳を向けて謝られて、許さないと言える男などこの世にいないだろう。女子慣れしていない童貞ならばなおさらだ。

「い、いいよいいよ! 誤解も解けたみたいでよかった。うん、よかった」

 俺とクロが番であるという誤解については解けていないままだが、またドゥーガルドの時みたいに豹変しかねない。
 しばらくは、少なくとも俺の身の安全が保障されるまでは誤解してもらっていた方がよさそうだ。

「ほんと? よかったぁ。ソウちゃんとは仲良しでいたかったから、アーシャ嬉しい!」

 ぎゅっと右手を華奢な手で包まれて、反射的に疚しく鼓動が跳ね上がる。
 仲良しというほんわか癒しワードと、さっきの胸ぐらを掴んで締め上げるというやくざまがいの行為が全くもって結びつかず、その凄まじい矛盾に警鐘が鳴り響かないわけではないが、キラキラ美少女スマイルにときめく胸の鼓動に呆気なく打ち消されてしまう。

「それじゃあ城内を案内するね!」

 俺の手を引いて城の中へとアーシャが促す。
 悲しいことに女の子と手を繋いで歩くなんて小学校の遠足以来だ。胸が高鳴らないはずがない。
 にやけを抑えられずにいると、不意に胸元をカリカリと引っ掻かれた。もちろんアーシャにではない。
 胸元を見下ろせば、腕に抱いたクロがキラキラと目を輝かせていこちらを見上げていた。
 これが純粋無垢な動物であればその愛らしさに心を和ませ頭を撫でるところだが、相手はいくら小型化して可愛いの権化ともいえる姿になっていても、あのクロなのだ。
 背中に嫌な予感という名の悪寒が反射的にぞわぞわと走る。

「ソウシ……っ、ついに私と番という事実を否定しなくなったな……! 私は嬉しいぞ」

 感極まった様子で言ってクロが俺の胸に顔をすりつける。
 アーシャの暴走を防ぐために話を合わせているとは微塵も思っていないようだ。驚異的、そして狂気的ポジティブシンキングである。
 もはや習慣となっている妄言に対する訂正をすぐさま入れてやりたいところだが、すぐ傍にはアーシャがいる。恐怖且つ厄介なふりだしに戻るのはごめんだ。
 俺は何とか言葉を飲み込んだ。それに気を良くしたクロは上機嫌で婚姻の儀や子供の数、さらには老後についてまで語り出す始末で全く手に負えない。
 語っている間ずっと、ぱたぱたと横に揺れる尻尾が俺の腕を何度も撫でた。
 普段なら突っ込みの嵐となっているところだが、もちろん我慢だ。口の先まで出かかっているそれらの言葉を堰き止めているせいで、俺は窒息寸前だった。
 おかげで、ルンルンとご機嫌な様子で城内を案内してくれるアーシャの言葉はまるで脳まで届かず、耳に入ったそばから反対の耳から流れ出てしまう。

「……アーシャ」
「ん? どうしたの?」

 振り返って笑んだまま、こてん、と首を傾げる。その美少女的仕草にときめく余裕がないほど俺は疲れ切っていた。もちろん百パーセント精神的なものだ。

「疲れたから、ちょっと一休みしたいんだけど……」

 城の中に入って十分も経たずして、俺は休憩を求めた。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...