勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
170 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?

100

しおりを挟む
「……妬んでなどいない。むしろ哀れんでいすらいる。その姿ではこうやってソウシを抱き締めることもできないのだからな」

 勝ち誇ったように言うと、見せつけるようにさらにぎゅっと強く抱き締め、すりすりと頬ずりまでしてきた。

「ちょ、やめろ! 気持ち悪いっ」

 上半身をひねってドゥーガルドの体を押して離れようとするが腰をがっちりホールドされているためなかなか望む距離がとれない。

「フッ、随分と一方的な抱擁だな。ちなみに私は昨晩ソウシの方から抱き付いてもらった。もちろん人の姿の時だ」
「……っ!」

 得意げに言ってフンと鼻を鳴らすクロの言葉に、ドゥーガルドが頭から背筋にかけて雷のような衝撃を受けたのがビリビリと背中に伝わってきた。

「……ッ、ソウシ! どういうことだっ。俺には恥ずかしがってそんなことしてくれないのに……」

 まるで浮気を責めるような勢いで詰め寄るドゥーガルドに、面倒くささがいよいよ最高潮となる。

 うわー、めんどくせぇ……! というかなんで付き合ってもないのにこんな責められないといけないんだよ!

 クロの言葉は誤解を招く言葉だが、ドゥーガルドと付き合っているわけでもないので別に弁解の必要はない。
 しかしこのままだとさらに拗れて手が付けられないほどの面倒くさい展開になることは目に見えているので、とりあえず弁解することにした。

「だ、抱き付いたっていっても、あれだからな! 別にいやらしい意味じゃなくて、親愛的な意味の軽いやつ」

 俺から抱き付いたのは、ひどい目に遭う前、ちょうどあの悲しい過去を聞いた直後のことだ。
 そこにドゥーガルドたちが誤解しているような意味は微塵もなかった。

「あと、お前に抱き付かないのは恥ずかしいからじゃなくて単純に嫌だからだ」

 ついでにドゥーガルドの妄想的な誤解も解く言葉も付け足したが、たぶん本人に届いてはいないだろう。
 俺はくるりとクロの方へ向き直った。

「クロもドゥーガルドを煽るな。面倒くさいことになるから。で、話は戻るけどその姿でも普通に会話できるんだな」
「ああ、そうだ」

 クロはさらりと肯定した。

「いやっ、それなら早く話せよ! なんか騙された気持ちになるじゃん!」

 あの可愛い「わふっ」は何だったんだ!

 なんかあれだ、大好きなキャラクターの着ぐるみからおっさんが出て来たような悲しい裏切りを受けた感じになる。
 詐欺被害者のように憤然とツッコむ俺に、クロがスッと視線を地面に落とした。

「……すまない、騙すような形になって。だが人語を話す獣など気味が悪いだろう。一度そのせいで殺されかけたこともあったしな」

 ぽつりと悲しげに零した言葉に、思わず胸が苦しくなった。
 そういえば初めて会った時、クロは俺を助けてはくれたが警戒心をみなぎらせていた。きっと俺と会うまでの長い年月、人間に何度もひどい仕打ちを受けたのだろう。
 そう思うと自分の言葉がひどく自意識過剰で脳天気なものに感じて恥ずかしくなった。
 なんだか申し訳なくなり謝ろうと口を開きかけた時、

 ――ダンッ!

 クロの姿を遮るように剣が視界をまっすぐに貫いた。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...