上 下
142 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?

72

しおりを挟む
 ――百年前から私たち人狼は絶滅の危機に瀕していた。理由は単純だ。人間たちによる人狼の乱獲だ。
 人狼はその毛皮と青の瞳が高く売れた。さらに心臓には強い魔力があると信じられ魔法や呪いの儀式に使われた。
 私の群れも例外ではなく多くの盗賊団に襲われた。その度に私たちは抗い逃げたが、繰り返される襲撃に仲間はどんどん減っていった。
 何度繰り返されても、仲間が目の前で無残に殺される姿も、彼らを助けることができなかった悔恨の痛みも慣れることはなかった。

「もう我慢ならねぇ! 俺達の方から人間を殺しましょう!」

 盗賊団から何とか逃げ延び、洞窟で焚き火を囲んでいる時のことだった。
 仲間の内でも特に血気盛んなクラトスが自分の膝を拳で殴って言った。その拳は怒りで震えていた。
 無理もない。彼の妻は数日前、盗賊団に殺されたのだ。身籠もった子どもと一緒に……。
 
「そ、そんな……、こわいよ……」

 群れの中でも一番体の小さい少年のノエが、びくびくと怯えながらクラトスの物騒な提案に異を唱えた。
 クラトスがギロリとノエを睨んだ。

「あぁ!? お前、自分の仲間を殺されてそんな腑抜けたこと言うのか!」
「ひ……っ!」

 クラトスに凄まれたノエは小さな悲鳴を上げて私の背中に隠れた。
 私はノエの頭をぽんぽんと撫で、クラトスに向き直った。

「クラトス、お前の気持ちはよく分かる。しかし人狼である私たちから人間を襲えば、人狼は確実に討伐対象となる。国から討伐の命が下れば私たちの命を狙う者がさらに増えることになるぞ」
「ッ、でも……」

 私の言葉にクラトスは唇を噛んで黙り込んだ。
 彼も自分の案が一族を破滅にもたらす危険性があることをよく分かっているのだろう。
 それでもおさまらない人間に対する怒りが、物騒な提案を口にさせたのだ。
 その気持ちは、群れの長である私にも痛いほど分かった。

「……では、人狼とばれないようにすればよいのでは?」

 しばらくの沈黙の後、いつも無口なユニスが口を開いた。彼女がこういった場で自分の意見を口にするのは珍しいことだった。

「どういう意味だ?」
「言葉の通りです。私たちが人狼だとばれないようにすればいいのです。たとえば、魔獣を引き連れた黒の魔法使いの盗賊団、などという分かりやすく派手で、すぐには人狼と結びつかぬ設定を演じるのです」

 淡々と話す彼女の説明に、仲間はみな興味深そうに聞き入った。

「長の魔力ならば、短時間であれば私たちの瞳の色を変えることもできるでしょう」

 彼女は人狼の特徴の一つである青い瞳を指差した。
 確かに長である私は他の者より魔力が強い。短時間――盗賊団に扮して村や町を襲う間くらいであれば、仲間の瞳の色を変えることはできるだろう。

「奇遇にもこの地の昔話には、黒の魔法使いと十二の狼というものがあります。まるで私たちのために作られたもののようではありませんか。これを利用しない手はないと思いますが」

 ユニスが十一人の仲間と私をじっと見回した。
 するとパチパチと無骨な拍手がひとつ響いた。

「ユニス、よく言った! その意見に俺は賛成だ」

 興奮した様子で拍手をするクラトスに、やがて他の仲間達も賛同し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】ラスボスの使い魔に転生したので世界を守るため全力でペットセラピーしてみたら……【溺愛こじらせドS攻め】

綺沙きさき(きさきさき)
BL
【溺愛ヤンデレ魔術師】×【黒猫使い魔】のドS・執着・溺愛をこじらせた攻めの話 <あらすじ> 魔術師ギディオンの使い魔であるシリルは、知っている。 この世界が前世でプレイしたゲーム『グランド・マギ』であること、そしてギディオンが世界滅亡を望む最凶のラスボスで、その先にはバッドエンドしか待っていないことも……。 そんな未来を回避すべく、シリルはギディオンの心の闇を癒やすため、猫の姿を最大限に活用してペットセラピーを行う。 その甲斐あって、ギディオンの心の闇は癒やされ、バッドエンドは回避できたと思われたが、ある日、目を覚ますと人間の姿になっていて――!? ======================== *表紙イラスト…はやし燈様(@umknb7) *表紙デザイン…睦月様(https://mutsuki-design.tumblr.com/) *9月23日(月)J.GARDEN56にて頒布予定の『異世界転生×執着攻め小説集』に収録している作品です。

35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』 35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。 慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。 ・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35) ・のんびり平凡総受け ・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など ※本編では性描写はありません。 (総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...