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第2章 異世界でももふもふは正義!?
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いつもより豪華な夕食をお腹いっぱい食べて満足した俺達は、雑談もそこそこに横になった。
これまで俺だけ個人用のテントがなかったが、ようやく今回大きな街で買うことができ、クロと一緒に中に入って寝た。
テントに守られその上クロのもふもふに包まれて眠るなんて、これ以上に最高な睡眠環境はない。
そんな最高な環境でぐっすり眠っていたのだが、真夜中に突然クロが俺の顔をぺろぺろと舐めてきたので目が覚めた。
「ん……、どうした、クロ?」
目を擦りながらクロに訊ねる。普段なら絶対に無意味に俺を起こしたりはしない。モンスターでも近付いているのかと思ったが、それならもっと大きな声で吠えるはずだ。
「わふっ」
何かを訴えるように吠えると、クロはスッと立ち上がりテントの外に出た。
夜の静寂に鎖の高い音がジャラジャラと響く。――ジェラルドから借りた首輪と鎖は、借りたチェルノが恐くてまだ返せずにいる。
クロがおもむろに伏せをするように体を低くした。この姿勢をする時は背中に乗れということだ。
こんな真夜中にどうしたのだろうと首を傾げつつも、訊いても言葉で返って来るわけがないのだから、とりあえず新しく買ってもらった笛を持って、クロの背中に乗った。
俺がちゃんと乗ったのを振り返って確認すると、タッ、と軽やかに走り始めた。
月にかかっている雲が薄く視界に困らないくらいには月明かりが道を照らしているおかげだろうか。その走りに迷いはなく、振り落とされるような乱暴な速度ではないが、いつもより若干速いように感じた。
急いでいるというよりも、目的の場所に辿り着くのが待ちきれないというような、なんだかご機嫌にも思える足取りだった。
「クロ、どこに行くんだ?」
「わふっ」
行けば分かる、とでも言うように上機嫌な声でクロが答えた。クロが嬉しそうなので俺まで楽しくなってきた。
「もしかしてサプライズ? すげぇ楽しみ!」
「わふっ」
一体この先に何があるんだろう、と辿り着く先を心待ちにしながら俺はぎゅっとクロの体をしっかり掴み直した。
しばらく夜の森を駆け抜けると、森が開け草原が姿を現した。しかしただの草原ではなかった。
「す、すげぇ……!」
思わずそう声を漏らしてしまうほど、目の前の景色は美しかった。
草原には見たことのない水色の花が一面に咲き広がっていて、月明かりを帯びた花びらが風に揺れるたびに花畑は違う表情を見せた。まさに、花でできた湖、というような幻想的な光景だった。
その圧倒的に美しい景色に、普段は花より団子の俺ですら感動した。
「うわぁ、こんなきれいな景色はじめて見た!」
興奮気味に言ってクロから降りる。そして花の近くにしゃがみその花をじっと見詰めた。
花の形はコスモスのように細長い花びらが幾重にも重なっていてそれ一本だけ見てもきれいだった。
持って帰りたい気持ちにも駆られたが、そのきれいな花を折るのは躊躇われた。それほどにきれいな花だった。
惚れ惚れと花を眺めていると、突然、強い風が背後から野原を駆け抜けた。その風の勢いに、月の輪郭をぼやかしていた雲が流れていった。
完全な満月が夜空に姿を現した途端、その月明かりを含んで花びらが発光し始めた。水色の淡い輝きがいたるところで瞬く。その光景に俺は圧倒された。
「す、すごいっ! 花が光ってる! わぁ、本当にすごい……!」
あまりの美しさに語彙力を失いただただすごいという言葉を繰り返すばかりだった。
「こんなすごい景色、本当にはじめてだ! クロ、ありが――」
こんな素敵な場所に連れてきてくれたクロにお礼を言いながら振り返りかけた時、後ろから何者かに抱き締められた。
これまで俺だけ個人用のテントがなかったが、ようやく今回大きな街で買うことができ、クロと一緒に中に入って寝た。
テントに守られその上クロのもふもふに包まれて眠るなんて、これ以上に最高な睡眠環境はない。
そんな最高な環境でぐっすり眠っていたのだが、真夜中に突然クロが俺の顔をぺろぺろと舐めてきたので目が覚めた。
「ん……、どうした、クロ?」
目を擦りながらクロに訊ねる。普段なら絶対に無意味に俺を起こしたりはしない。モンスターでも近付いているのかと思ったが、それならもっと大きな声で吠えるはずだ。
「わふっ」
何かを訴えるように吠えると、クロはスッと立ち上がりテントの外に出た。
夜の静寂に鎖の高い音がジャラジャラと響く。――ジェラルドから借りた首輪と鎖は、借りたチェルノが恐くてまだ返せずにいる。
クロがおもむろに伏せをするように体を低くした。この姿勢をする時は背中に乗れということだ。
こんな真夜中にどうしたのだろうと首を傾げつつも、訊いても言葉で返って来るわけがないのだから、とりあえず新しく買ってもらった笛を持って、クロの背中に乗った。
俺がちゃんと乗ったのを振り返って確認すると、タッ、と軽やかに走り始めた。
月にかかっている雲が薄く視界に困らないくらいには月明かりが道を照らしているおかげだろうか。その走りに迷いはなく、振り落とされるような乱暴な速度ではないが、いつもより若干速いように感じた。
急いでいるというよりも、目的の場所に辿り着くのが待ちきれないというような、なんだかご機嫌にも思える足取りだった。
「クロ、どこに行くんだ?」
「わふっ」
行けば分かる、とでも言うように上機嫌な声でクロが答えた。クロが嬉しそうなので俺まで楽しくなってきた。
「もしかしてサプライズ? すげぇ楽しみ!」
「わふっ」
一体この先に何があるんだろう、と辿り着く先を心待ちにしながら俺はぎゅっとクロの体をしっかり掴み直した。
しばらく夜の森を駆け抜けると、森が開け草原が姿を現した。しかしただの草原ではなかった。
「す、すげぇ……!」
思わずそう声を漏らしてしまうほど、目の前の景色は美しかった。
草原には見たことのない水色の花が一面に咲き広がっていて、月明かりを帯びた花びらが風に揺れるたびに花畑は違う表情を見せた。まさに、花でできた湖、というような幻想的な光景だった。
その圧倒的に美しい景色に、普段は花より団子の俺ですら感動した。
「うわぁ、こんなきれいな景色はじめて見た!」
興奮気味に言ってクロから降りる。そして花の近くにしゃがみその花をじっと見詰めた。
花の形はコスモスのように細長い花びらが幾重にも重なっていてそれ一本だけ見てもきれいだった。
持って帰りたい気持ちにも駆られたが、そのきれいな花を折るのは躊躇われた。それほどにきれいな花だった。
惚れ惚れと花を眺めていると、突然、強い風が背後から野原を駆け抜けた。その風の勢いに、月の輪郭をぼやかしていた雲が流れていった。
完全な満月が夜空に姿を現した途端、その月明かりを含んで花びらが発光し始めた。水色の淡い輝きがいたるところで瞬く。その光景に俺は圧倒された。
「す、すごいっ! 花が光ってる! わぁ、本当にすごい……!」
あまりの美しさに語彙力を失いただただすごいという言葉を繰り返すばかりだった。
「こんなすごい景色、本当にはじめてだ! クロ、ありが――」
こんな素敵な場所に連れてきてくれたクロにお礼を言いながら振り返りかけた時、後ろから何者かに抱き締められた。
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