74 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?
4
しおりを挟む
「あ、あの、チェルノ、さん……?」
恐る恐る声を掛けるが全く反応はなく、虚空を見詰めたままブツブツと物騒な言葉を呟き続けていた。
よく見るとチェルノの周りには魔法陣が描かれていて、警告ランプのように仰々しく光っていた。
「ははは、ごめんね。僕がさっき隙を突いて頬にキスをしたらあの状態になっちゃった」
ペロ、と舌先を出して茶目っ気満載でジェラルドが軽い調子で謝る。
謝罪の軽さと被害者の怒りが全然釣り合ってないんですけど……。
本当にこの二人は過去に何があったのだろうか。
毎回こういうことがある度、気にはなっているが、もちろん恐ろしくて訊けない。
知ってしまったが最後、チェルノに口封じとして闇に葬られてしまいそうな気がする……。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
「ふふふ、チェルノの久しぶりのほっぺた柔らかかったなぁ」
魔法陣の外にしゃがんでチェルノを見詰めながら陶然とジェラルドが微笑む。
頼みの綱のチェルノはあの状態だし、ジェラルドはチェルノの傍を離れるはずがないことは目に見えている。
俺はハァ、と溜め息を吐いた。
「仕方ない、俺ひとりで行ってくるよ」
「……じゃあ俺もついて行く」
「いや、安静にしてろって」
「……でもソウシに何かあったら……」
「大丈夫だって、何かあったらこれ鳴らすし」
そう言って、首からぶら下げた小振りの笛を持って見せた。
数日前に寄った街でドゥーガルドが買ってくれたものだ。
モンスターの骨で作られたもので、一見ただの笛にしか見えないが、内側に仕込まれている魔法陣が吹き込まれた息に反応して、モンスターの嫌がる高い音を四方に響かせるのだ。
しかもこの笛は対になっていて、一つの笛がどこかで鳴らされると、もう一つの笛と光で繋がる。そのため遭難した時などにも使える便利な代物だ。
これを俺の首に掛ける時「……まるで婚約指輪のようだな」とうっとりと微笑んだドゥーガルドには少し鳥肌が立ったが、戦闘能力が皆無の俺には有り難い代物なので「あはは、はは、は……」と曖昧に笑って受け取った。
「……それでもやっぱり心配だ」
「あのなぁ」
心配性が過ぎるドゥーガルドに俺は肩で息を吐いた。
「大丈夫だって。俺も子どもじゃないんだから。それにもしモンスターが現れた時、俺ひとりだったら走って逃げられるけど、今のドゥーガルドは走れないだろ?」
そう言うと、ドゥーガルドは言葉を詰まらせた。
足のケガは深くなく歩く程度は問題ないが、走るとなると少し無理があるようだ。
「大丈夫だって、何かあったらドゥーガルドがくれたこれを鳴らすからさ」
「……ソウシ」
笛を顔の横まで持ち上げてニッと笑うと、ドゥーガルドの心配そうな表情が和らぎ、嬉しそうに頬を緩ませた。
「……分かった。じゃあここで待ってる。でも帰りが遅かったら迎えに行くからな」
「うん、その時はよろしく」
ポンポン、と肩を叩きながら、ようやく納得してくれたドゥーガルドに心の中でほっと安堵の息を漏らした。
もちろんケガの心配もあるが、ドゥーガルドについてきて欲しくない一番の理由は、二人きりになるとドゥーガルドが甘い空気を醸し出すからだ。
普段もべたべたと俺にくっついてくるが、これが二人きりになると距離を詰め、隙あらば押し倒して事に及ぼうとするから全く油断ならない。
ひとりで心細くはあるが、すぐ近くに川があったし、何かあったらこの笛で応援を呼べばどうにかなるだろう。
「よし、それじゃあ俺もいいものを貸してやる」
アーロンは荷物をゴソゴソと探って、ポプリのような小袋を取り出した。そしてそれに紐をつけると俺の首にかけた。
ふわり、と微かに甘い香りが鼻先をかすめた。
「なんだこれ?」
アーロンが人に善意で物を人にあげるとは考えにくい。俺は顔を顰めてそれをつまみ上げた。
「魔除けみたいなもんだ。持っていて損はないと思うぜ。特別にタダで貸してやるよ」
「いや、水を汲みに行ってやるんだから当然だろ……」
アーロンがが行かないから行ってやるというのに、なぜこいつはこうも偉そうで恩着せがましいのだろうか。
俺は溜め息を吐きつつ、水袋を持って川の方へ向かった。
心細さはあったが、仲良く並ぶ首からぶら下がった笛と小袋に、まぁ大丈夫だろうと少しだけ心強くなった。
だが、全然大丈夫じゃなかった。
恐る恐る声を掛けるが全く反応はなく、虚空を見詰めたままブツブツと物騒な言葉を呟き続けていた。
よく見るとチェルノの周りには魔法陣が描かれていて、警告ランプのように仰々しく光っていた。
「ははは、ごめんね。僕がさっき隙を突いて頬にキスをしたらあの状態になっちゃった」
ペロ、と舌先を出して茶目っ気満載でジェラルドが軽い調子で謝る。
謝罪の軽さと被害者の怒りが全然釣り合ってないんですけど……。
本当にこの二人は過去に何があったのだろうか。
毎回こういうことがある度、気にはなっているが、もちろん恐ろしくて訊けない。
知ってしまったが最後、チェルノに口封じとして闇に葬られてしまいそうな気がする……。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
「ふふふ、チェルノの久しぶりのほっぺた柔らかかったなぁ」
魔法陣の外にしゃがんでチェルノを見詰めながら陶然とジェラルドが微笑む。
頼みの綱のチェルノはあの状態だし、ジェラルドはチェルノの傍を離れるはずがないことは目に見えている。
俺はハァ、と溜め息を吐いた。
「仕方ない、俺ひとりで行ってくるよ」
「……じゃあ俺もついて行く」
「いや、安静にしてろって」
「……でもソウシに何かあったら……」
「大丈夫だって、何かあったらこれ鳴らすし」
そう言って、首からぶら下げた小振りの笛を持って見せた。
数日前に寄った街でドゥーガルドが買ってくれたものだ。
モンスターの骨で作られたもので、一見ただの笛にしか見えないが、内側に仕込まれている魔法陣が吹き込まれた息に反応して、モンスターの嫌がる高い音を四方に響かせるのだ。
しかもこの笛は対になっていて、一つの笛がどこかで鳴らされると、もう一つの笛と光で繋がる。そのため遭難した時などにも使える便利な代物だ。
これを俺の首に掛ける時「……まるで婚約指輪のようだな」とうっとりと微笑んだドゥーガルドには少し鳥肌が立ったが、戦闘能力が皆無の俺には有り難い代物なので「あはは、はは、は……」と曖昧に笑って受け取った。
「……それでもやっぱり心配だ」
「あのなぁ」
心配性が過ぎるドゥーガルドに俺は肩で息を吐いた。
「大丈夫だって。俺も子どもじゃないんだから。それにもしモンスターが現れた時、俺ひとりだったら走って逃げられるけど、今のドゥーガルドは走れないだろ?」
そう言うと、ドゥーガルドは言葉を詰まらせた。
足のケガは深くなく歩く程度は問題ないが、走るとなると少し無理があるようだ。
「大丈夫だって、何かあったらドゥーガルドがくれたこれを鳴らすからさ」
「……ソウシ」
笛を顔の横まで持ち上げてニッと笑うと、ドゥーガルドの心配そうな表情が和らぎ、嬉しそうに頬を緩ませた。
「……分かった。じゃあここで待ってる。でも帰りが遅かったら迎えに行くからな」
「うん、その時はよろしく」
ポンポン、と肩を叩きながら、ようやく納得してくれたドゥーガルドに心の中でほっと安堵の息を漏らした。
もちろんケガの心配もあるが、ドゥーガルドについてきて欲しくない一番の理由は、二人きりになるとドゥーガルドが甘い空気を醸し出すからだ。
普段もべたべたと俺にくっついてくるが、これが二人きりになると距離を詰め、隙あらば押し倒して事に及ぼうとするから全く油断ならない。
ひとりで心細くはあるが、すぐ近くに川があったし、何かあったらこの笛で応援を呼べばどうにかなるだろう。
「よし、それじゃあ俺もいいものを貸してやる」
アーロンは荷物をゴソゴソと探って、ポプリのような小袋を取り出した。そしてそれに紐をつけると俺の首にかけた。
ふわり、と微かに甘い香りが鼻先をかすめた。
「なんだこれ?」
アーロンが人に善意で物を人にあげるとは考えにくい。俺は顔を顰めてそれをつまみ上げた。
「魔除けみたいなもんだ。持っていて損はないと思うぜ。特別にタダで貸してやるよ」
「いや、水を汲みに行ってやるんだから当然だろ……」
アーロンがが行かないから行ってやるというのに、なぜこいつはこうも偉そうで恩着せがましいのだろうか。
俺は溜め息を吐きつつ、水袋を持って川の方へ向かった。
心細さはあったが、仲良く並ぶ首からぶら下がった笛と小袋に、まぁ大丈夫だろうと少しだけ心強くなった。
だが、全然大丈夫じゃなかった。
51
お気に入りに追加
2,796
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
【R18】元騎士団長(32)、弟子として育てていた第三王子(20)をヤンデレにしてしまう
夏琳トウ(明石唯加)
BL
かつて第三王子ヴィクトールの剣術の師をしていたラードルフはヴィクトールの20歳を祝うパーティーに招待された。
訳あって王都から足を遠ざけていたラードルフは知らない。
この日がヴィクトールの花嫁を選ぶ日であるということを。ヴィクトールが自身に重すぎる恋慕を向けているということを――。
ヤンデレ王子(20)×訳あり元騎士団長(32)の歪んだ師弟ラブ。
■掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる