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第1章 異世界でも俺はこき使われる

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邪神と崇められるだけあって魔法のようなものは使えるようだが、俺が元の世界に帰るためにその力を貸してくれるとは到底思えない。
それにさっき言った「伴侶」という言葉も気になる。
もしその言葉がそのままの意味だとしたら……。

いや、まさかありえるはずがない!

浮かび上がったある可能性を俺は頭を振って散らした。
しかし、今までの会話を考えるとどうしても筋が通ってしまうのだ。
俺は恐る恐る慶介に訊ねた。

「……さっき伴侶とか言ってたけど、それって下僕とか奴隷の言い換えだよな?」

頼む、どうかそうであってくれ。

慶介がこちらを目だけでちらりと見遣った。
だがすぐに戦う魔王達に視線を戻した。

「ああ、そうだな。そう言い換えても問題はない」

やった!
や、やっぱりそうだよな!

自分の頭によぎった自意識過剰で不吉な予感が否定され、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「呼び方は問題ない。お前を傍に置けるなら」
「え?」

続く奴の言葉に、撫で下ろした胸に嫌な胸騒ぎが広がった。

「え、え、えっと……慶介って俺のこと好きなの?」

動揺のあまり、ありえない質問をしてしまった。
でも、慶介の言葉はそう疑っても仕方がないものだった。
慶介がギロリと鋭い眼光を俺に向けた。

ひ、ひえぇ!

「馬鹿言うな。俺がお前なんか好きなわけがないだろう。むしろ嫌いだ」
「で、ですよねー! 失礼しましたー!」

確かにこれまでの慶介の俺への言動にとても愛があるとは思えない。
自分の恥ずかしい思い過ごしに頭を掻いていると、

「……昔からお前が大嫌いだった。俺の知らないところで他の奴と話したり笑ったりして気にくわなかった。いつもお前の言動にイライラさせられていた。俺は俺以外のものに心を支配されるのが一番嫌いなんだっ」

吐き捨てるようにして慶介が言った。

「……へ?」

俺は困惑した。
確かに慶介の声はいかにも憎々しいと言った声で、奴の言う通り俺のことが大嫌いだということがひしひしと伝わってきた。
だけど、言っている内容はまるでツンデレのやきもちテンプレ文のようだ。

「……今もそうだ。俺がいない間に黒髪の男や金髪の男と何かあったのかと思うと腸が煮えくりかえりそうだ」

手中の暗黒の玉が、禍々しさを孕んで膨張した。
背筋に変な汗が流れる。
慶介がゆっくりとこちらを振り向いた。

「だから、俺が征服した世界で、お前を完全支配する。そうすればもうお前なんかに支配されることはないからな」

口の端に歪な笑みを浮かべる慶介に、鳥肌が全身に立った。

やばい、やばいやばいやばい!
これやばいやつじゃん!

ヤキモチとかそんな可愛いものじゃなかった。
これはあらゆるものが歪み捻れた奴の心の闇だ。

……ここで慶介たちが勝てば、俺の未来に希望はない。

そう、思った。
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