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第1章 異世界でも俺はこき使われる
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「ドゥーガルド!?」
「……邪神、よく聞け。お前がソウシと過ごした時間がどれだけ長かろうと、ソウシの恋人は俺だ!」
「初耳だけど!?」
いつのまに俺はお前の恋人になったんだ!?
ドゥーガルドはアーロンと違って無自覚で俺の意志なんて無視するからたちが悪い。
「……だってあの日、お前はあんなに俺を求めてくれた」
「だぁぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁ! 頼むから言葉を慎んでくれぇぇぇ!」
やばい! こんなことが奴に知られたら、元の世界に戻ってから「あいつはホモ野郎だ」だとか言って吹聴するに決まっている。
さぞ面白いネタを見つけたと嗜虐的な笑みを浮かべているに違いない。
――バキッ!
突然、冷たく固い音が、広間に響いた。
音の方を見ると、慶介が座る豪奢な椅子の肘掛けが割れていた。
手から血を流す慶介は笑っておらず、冷たい目で俺を見下ろしていた。
それは元の世界でも見たことのないほど恐ろしい目だった。
「……おい、草司」
「は、ははははいっ!」
名前を呼ばれただけなのに、体がありえないほど震えた。
「そいつの言ったことは本当か?」
黙秘権など与えない威圧的な声で問われ、俺はたじろいだ。
するとドゥーガルドが得意げに「……ああ、本当だ」と答えた。
「ちょ、ちょっとドゥーガルド!? 空気読め! よく分からんがなんかその答えはやばい気がする!」
本能がガンガンに警鐘を鳴らしている気がしてならない。
「……本当のことだ。奴にも教えてやった方がいいだろう。俺たちの間には誰も入り込む余地はないと」
言い終えるが早いか否かのタイミングで、椅子の大きな破片がドゥーガルドめがけて飛んできた。
難なくドゥーガルドは避けたが、床に突き刺さった破片を見て俺は鳥肌が立った。
もし避けていなかったら、ドゥーガルドは死んでいたに違いない。
サッと血の気が引いた。
「……おい、そこのお前。人のものに無断で触れておいてただでおくと思うなよ」
静かな口調だったが、そこに煮えたぎる怒りが滲んでいるのは明らかだった。
慶介が怒りの感情を見せるのは初めてのことで、俺は驚いた。
奴は性格は極悪だが、怒っているところは見たことがない。
人の怒りをにやにやと煽るタイプの人間だ。
「ははっ! もしかして邪神様はそいつにご執心なのかよ」
緊張が張りつめるこの場にふさわしくない軽薄な笑いが響いた。
もちろんこんな怖いものなしの馬鹿なことをするのは一人しかいない。
ここにも人の怒りを煽って楽しむタイプの人間がいたことをすっかり忘れていた。
「ア、アーロン! 頼む! 黙っていてくれ! とりあえずお前は黙っておこう!」
火に油を注ぐどころか、火にダイナマイトを放り投げかねない奴だ。
俺は泣きそうになりながらアーロンを制した。
だが、アーロンが俺の言うことなどきくはずもなかった。
「……邪神、よく聞け。お前がソウシと過ごした時間がどれだけ長かろうと、ソウシの恋人は俺だ!」
「初耳だけど!?」
いつのまに俺はお前の恋人になったんだ!?
ドゥーガルドはアーロンと違って無自覚で俺の意志なんて無視するからたちが悪い。
「……だってあの日、お前はあんなに俺を求めてくれた」
「だぁぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁ! 頼むから言葉を慎んでくれぇぇぇ!」
やばい! こんなことが奴に知られたら、元の世界に戻ってから「あいつはホモ野郎だ」だとか言って吹聴するに決まっている。
さぞ面白いネタを見つけたと嗜虐的な笑みを浮かべているに違いない。
――バキッ!
突然、冷たく固い音が、広間に響いた。
音の方を見ると、慶介が座る豪奢な椅子の肘掛けが割れていた。
手から血を流す慶介は笑っておらず、冷たい目で俺を見下ろしていた。
それは元の世界でも見たことのないほど恐ろしい目だった。
「……おい、草司」
「は、ははははいっ!」
名前を呼ばれただけなのに、体がありえないほど震えた。
「そいつの言ったことは本当か?」
黙秘権など与えない威圧的な声で問われ、俺はたじろいだ。
するとドゥーガルドが得意げに「……ああ、本当だ」と答えた。
「ちょ、ちょっとドゥーガルド!? 空気読め! よく分からんがなんかその答えはやばい気がする!」
本能がガンガンに警鐘を鳴らしている気がしてならない。
「……本当のことだ。奴にも教えてやった方がいいだろう。俺たちの間には誰も入り込む余地はないと」
言い終えるが早いか否かのタイミングで、椅子の大きな破片がドゥーガルドめがけて飛んできた。
難なくドゥーガルドは避けたが、床に突き刺さった破片を見て俺は鳥肌が立った。
もし避けていなかったら、ドゥーガルドは死んでいたに違いない。
サッと血の気が引いた。
「……おい、そこのお前。人のものに無断で触れておいてただでおくと思うなよ」
静かな口調だったが、そこに煮えたぎる怒りが滲んでいるのは明らかだった。
慶介が怒りの感情を見せるのは初めてのことで、俺は驚いた。
奴は性格は極悪だが、怒っているところは見たことがない。
人の怒りをにやにやと煽るタイプの人間だ。
「ははっ! もしかして邪神様はそいつにご執心なのかよ」
緊張が張りつめるこの場にふさわしくない軽薄な笑いが響いた。
もちろんこんな怖いものなしの馬鹿なことをするのは一人しかいない。
ここにも人の怒りを煽って楽しむタイプの人間がいたことをすっかり忘れていた。
「ア、アーロン! 頼む! 黙っていてくれ! とりあえずお前は黙っておこう!」
火に油を注ぐどころか、火にダイナマイトを放り投げかねない奴だ。
俺は泣きそうになりながらアーロンを制した。
だが、アーロンが俺の言うことなどきくはずもなかった。
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