勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

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第1章 異世界でも俺はこき使われる

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「あー……、まぁ守ってくれるのは有り難いっちゃあ有り難いんだけど、距離近くね? こんなに密着する必要ある?」
「……またアーロンが背中に飛びかかってくるかもしれない」
「その時は剣で振り払ってくれればよくね? とにかく一旦離れよう? な? な?」
「……離れたくない」

俺を抱き寄せる手にぎゅっと力が入る。

わがままか!

まるで母親離れできない子供のようだ。
何を言っても無駄な気がして、俺はため息をついてドゥーガルドの手をそのまま放置することにした。

「あー! クソッ! 女を抱きてぇ! もう女型のモンスターでも突っ込めればなんでもいい!」

うわ……、最低だなこいつ……。

地面に座り込んだまま勇者らしからぬ最低なことを叫ぶアーロンに軽蔑の眼差しを向ける。

「……最低だな」
「最低だね」
「あははは~、最低だね~」

仲間の気持ちがこんなに一致したのは初めてのことだった。

「うるせぇ! さっさとお前らどんなんでもいいから女を探してこい! お前は南! ドゥーガルドは北! チェルノは東! ジェラルドは西だ! 行ってこい!」
「あははは~、バカは置いて先を急ごう~!」
「あ、おい、こら、置いていくな! クソ! あー! 誰か俺を娼館まで緊急搬送しろぉぉぉ!」

アーロンの最低な絶叫に、木にとまっていた鳥たちが驚いたのか、もしくは鬱陶しいと思ったのかバサバサと飛び立っていった。

****

結局、アーロンがぎゃあぎゃあとうるさい上に、すぐに座り込むものだから、今日はあまり先に進めなかった。

暗くなったので、各自テントをはることにした。
ドゥーガルドに「……俺のテントで寝ないか?」と優しさとも下心ともつかない誘いを受けたが、丁重に断った。

軽い夕食を終えると、みんなそれぞれ自分のテントに戻って行った。
残った俺はマントに身をくるんでそのまま横になった。
今日は荷物持ちをしないですんだおかげで、いつもと疲れが全然違う。
久しぶりに、沼に沈んでいくような暗い眠りとは違う爽やかな眠りにつくことができた。



夜中、尿意で目が覚めた。
自分の尿意とはいえ、ぐっすり眠っていたのに起こされるのはやっぱり気持ちのいいものじゃない。
俺は心の中で舌打ちしながらランプに火をつけ、用を足しに木々の茂みに入っていった。
寝ているとは言え、やっぱり人がいる近くでするのは恥ずかしい。
何かあっても走って戻ってこれるくらいに茂みの奥へ進んでいく。

――ガサ

闇の中に茂みが揺れる音が響いた。
心臓が跳ね上がる。
俺は恐る恐るランプを持ち上げて辺りを見回した。
すると茂みの中から小さな野ウサギがぴょん、と飛び出てきた。
可愛らしい物音の正体に、ほっと胸を撫で下ろす。
異世界に来てからモンスターばかりの印象が強いが、考えてみれば普通に動物もいるのだ。
自分の臆病な早とちりに苦笑しながら用をたす。

――ガサ

また物音がした。
けれどさっきの今なので警戒心も薄れていて、音の方を振り返るよりもズボンのチャックを閉めることを優先させてしまった。
それがいけなかった。
突然、後ろから腕が伸びてきて体の自由を奪われた。

「……っ!」
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