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第1章 異世界でも俺はこき使われる

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俺とドゥーガルドに緊張が走る。
ドゥーガルドはとても戦える状態じゃない。
走るのも難しいかもしれない。
ドゥーガルドを抱えて俺が走れればいいけど……。
どう考えても無理がある。
絶望的な気持ちで、唾を飲み込んでいると、

「……っ、ふざけんな! なんてことしてくれんだ! まだこいつの媚薬とってねぇよ!」

モンスターの体の下からアーロンが現れた。

……ああ、そういえばこいつもいたんだったな。

クズの安否など全く気にもとめていなかったので、奴の登場に驚くより気が抜けた。

「……ふざけてんのはどっちだよ。こっちは大変だったんだぞ」
「俺だって大変だったんだ! なかなか雌しべの媚薬が見つからないし、蔦は襲ってくるし!」
「自業自得だろ。それより、アーロンもなんか顔赤くないか?」

アーロンもドゥーガルドのように少し熱っぽい目をして、全身モンスターの液体で濡れている。

「毒かもしれないから俺に近づくなよ」

そう言ってアーロンと距離をとる。

「誰が近づくか! つーか、これは毒じゃねぇ! 媚薬だ!」
「え?」

俺は、ドゥーガルドの背中をさすった時についた手のひらの液体を見た。
媚薬というものを見たことがないからわからないが、確かにこの妙に甘い匂いといい、ドゥーガルドたちの熱っぽい目といい、毒よりも媚薬の方が納得がいく。

「クソ! もったいない! おい、荷物持ち! 鞄から空の瓶を持ってこい! 俺たちの体や服についてる媚薬しぼり集めるぞ!」

そう言って、体を濡らす媚薬をどうにかかき集めようとするアーロンに俺はもはや呆れを通り越して感心すらしていた。

****

その後、どうにか媚薬をしぼり集めたアーロンは糸が切れたようにそのまま倒れてしまい、俺たちはやむなくそこにテントを貼って一晩過ごすことにした。
テントは小さなもので、それぞれ一人ずつ自分用のものがある。
もちろん俺の分はない。
クズは当然一歩たりともテントに入れさせようとしないし、チェルノと寝るのはジェラルドの目が怖いし、頼みのドゥーガルドはなぜか頑なにテントに人を入れることを拒む。
そんなわけで、凍えるほど寒くもないので俺はいつも布にくるまって外に寝ている。

その晩は静かだった。
アーロンもドゥーガルドも戦いの疲れのせいか、もしくは媚薬のせいかテントの中で寝ていたし、チェルノは依然として繭の中から出てこなかった。
ジェラルドはその隣で不気味なくらい恍惚とした笑みを湛えて横になっていてとてもじゃないが会話をしたいとは思えない。

俺はとりあえず適当に鞄から食料をとって食べ、ごろりと横になった。
星が瞬く夜空を見上げながら、俺は大きく息をついた。

今日はいろいろとあったなぁ……。
ドゥーガルドとはあまり話したことがなかったけど、今日の一件で少し打ち解けられた気がする。
子豚扱いは心外だけど……。

ガサ……――

突然、ドゥーガルドのテントの方から音がして、俺は体を起こした。
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