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第1章 異世界でも俺はこき使われる

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俺はクズ野郎の腕を掴んで叫んだ。
みんなまさか俺がここまで食い下がってくるとは思っていなかったのだろう、目を見開いた。
奴も目を丸くしていたが、すぐに不愉快そうに顔を顰めた。

「なんだよ、しつけぇな。まだ見苦しい懇願を続ける気か?」

うんざりしたように奴が言う。

「……見つけたんだ」
「ハァ?」
「アンタたちが俺を連れて旅をするメリット」

怪訝そうに眉間の皺を深める奴に、俺はニヤリと笑って言った。

「アンタたちの嫌がってる荷物持ち、俺がしてやるよ」

俺の言葉に奴だけでなく、チェルノたちも目を見張った。
後ろの方で獣とも鳥ともつかない奇妙な鳴き声が響いた。
俺は口元に浮かべた不敵な笑みの影で、唾を飲み込んだ。

頼む……! 頷いてくれ……!

祈るような気持ちで奴の返事を待った。
奴は冷たい目で値踏みするように俺の頭から爪先までじっくりと見た。

「……お前、そんな貧相な体で荷物とか持てんの?」

疑わしげな視線を向けられたが、即答で断らないあたりまだ好感触だ。

「持てる! 自慢じゃないが、俺はこの十年ずっとほぼ毎日荷物持ちをさせられてたんだ!」

俺は胸を張った。
本当に自慢じゃない。
悪魔のような幼なじみにこき使われていただけだが、まさかそのことに感謝する日が来るとは思いもしなかった。

「へぇ~、すごいね~、荷物持ちのプロじゃない~!」

チェルノが助け船を出すように嬉々とした声で俺たちの間に入った。

「ボクは賛成~! 荷物持つの正直きついし、こうやってアーロンが自分の荷物持ちの番になった時に駄々こねるの面倒だし~」
「うるせぇ! 駄々なんてこねてねぇ! 俺は正論を言ってるんだ!」
「ドゥーガルドは?」

チェルノはクズ野郎を無視して黒髪の男に言葉を向けた。
ドゥーガルドと呼ばれた男は、俺の方をちらりと見てから「……ああ、いいと思う」と答えた。

「僕もチェルノの意見に賛成だよ!」
「お前の意見なんか聞いてねぇ黙ってろクソ野郎が」

弓使いの男の言葉はチェルノに辛辣に一蹴されたけれど、これでほぼ全員、俺の荷物持ちについては賛成だ。

あと残るは……。

ちらりとクズ野郎の方をうかがい見る。
奴は俺と目が合うと舌打ちをした。

「……分かった。荷物持ちさせてやるよ! ただし、まだ仮だからな! もし使えねぇと判断したらすぐ置いていく」
「あ、ありがとうございますっ!」

よ、よかった……っ!

何とか元の世界帰還への足がかりを得ることが出来たことに体中から力が抜けそうなほど安心した。

「じゃあさっそくだけど、荷物持ちお願いするね~」
「お任せを!」

俺は上機嫌で敬礼ポーズまでしてみせた。



茂みに隠れていた荷物を見た瞬間、俺は自分の安易な提案に後悔することとなった……。
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