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『ひねくれ人気ミステリ作家×苦労性家政夫シリーズ』
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妙に意味深に寄越された言葉を思い返しながら、エプロンの裾を持ち上げじっと見つめる。
特段変な箇所はない。静謐な雰囲気が漂う深みのある紺地に、象形文字のような細かな模様が深紅の糸で縫われているそれは、素人目で見ても洒落ていることがよく分かる。
自分のあげたものを着ないで他の人から貰ったものを着ているのが単に気にくわないだけなのかもしれない。あの人はそういう子どもっぽいところがある。もちろん可愛らしい子どもではなく、妙に頭がいい生意気な子どもだ。
布地から視線を上げもう一度鏡に映る自分を見る。やっぱり特段変な所は……――。
「……ッ、ぁ、あ、ぅああああああっ!」
〝それ〟が意味を持って俺の目に映り込んだ途端、思わず叫んでしまった。
まるで枯れ葉に擬態した虫が姿を現し、にやりと不気味な笑みを向けるようなおぞましさが戦慄と共に体を駆け巡る。
今まで模様としか認識していなかった深紅の糸で描かれた〝それ〟は、鏡を通してみると、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死……とおびただしい〝死〟の文字が羅列されていた。
妙な癖のあるハネ具合がまるで踊り狂うかのような躍動感を醸し出しているのがまた胸の悪さを煽った。
「ははは、やっと気付いたかい」
腰を抜かして鏡と対面している俺の後ろに、気付けば穂積さんが立っていた。
「ほ、穂積さん……、こ、これって……」
ガタガタと体を震わせながら、鏡に映る不気味な文字を指差す。
「見ての通り『死』だな。ああ、君には難しい漢字だったかな?」
「わ、分かりますよ、そのくらい! そうじゃなくてなんでこんな……今まで全然気付かなかった……」
「当たり前だろ。これを作った人間は気付かれないようわざわざ鏡文字で縫っている。ご丁寧なことだ」
俺の横にしゃがむと、穂積さんはエプロンの裾を持ち上げて呆れたようにもしくは感心したように笑った。
特段変な箇所はない。静謐な雰囲気が漂う深みのある紺地に、象形文字のような細かな模様が深紅の糸で縫われているそれは、素人目で見ても洒落ていることがよく分かる。
自分のあげたものを着ないで他の人から貰ったものを着ているのが単に気にくわないだけなのかもしれない。あの人はそういう子どもっぽいところがある。もちろん可愛らしい子どもではなく、妙に頭がいい生意気な子どもだ。
布地から視線を上げもう一度鏡に映る自分を見る。やっぱり特段変な所は……――。
「……ッ、ぁ、あ、ぅああああああっ!」
〝それ〟が意味を持って俺の目に映り込んだ途端、思わず叫んでしまった。
まるで枯れ葉に擬態した虫が姿を現し、にやりと不気味な笑みを向けるようなおぞましさが戦慄と共に体を駆け巡る。
今まで模様としか認識していなかった深紅の糸で描かれた〝それ〟は、鏡を通してみると、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死……とおびただしい〝死〟の文字が羅列されていた。
妙な癖のあるハネ具合がまるで踊り狂うかのような躍動感を醸し出しているのがまた胸の悪さを煽った。
「ははは、やっと気付いたかい」
腰を抜かして鏡と対面している俺の後ろに、気付けば穂積さんが立っていた。
「ほ、穂積さん……、こ、これって……」
ガタガタと体を震わせながら、鏡に映る不気味な文字を指差す。
「見ての通り『死』だな。ああ、君には難しい漢字だったかな?」
「わ、分かりますよ、そのくらい! そうじゃなくてなんでこんな……今まで全然気付かなかった……」
「当たり前だろ。これを作った人間は気付かれないようわざわざ鏡文字で縫っている。ご丁寧なことだ」
俺の横にしゃがむと、穂積さんはエプロンの裾を持ち上げて呆れたようにもしくは感心したように笑った。
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