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リチャードのものと比べて随分と小ぶりなそれは、びくんっと大きく震えて、精を吐き出した。しかし、それは白濁ではなく無色透明だった。
男らしからぬ蜜に塗れて、くたりと横たわるそれを、リチャードは慈しみと嗜虐の混ざった目で見つめる。
「もうすっかり精液が出なくなっちゃったね。とろとろの蜜を垂らして、可愛い」
くすりとあからさまな嘲笑を零すと、自身の欲望をずるりと引き抜いた。
「かわいそうに。もうこうなったら、ペニスじゃなくて女性器みたいなものだよ。これじゃあ女性を満足させることなんてできないね」
羞恥心を嬲るように言いながら、片手でイアンのそれを包みこんで、指先で先端をぐりぐりと撫で回した。
「ひぁ、っ、あ、あ……っ」
吐精した直後で敏感になっているそれを弄られ、途切れ途切れに喘いで震える。
しかし、男の肉欲に直結しているはずのそれをいくら愛撫されようと、深く激しい快感は得られず、じれったさに身悶えする。
代わりにリチャードの熱塊を失った秘部がじんじんと疼いて、物欲しげにひくついているのが自分でも分かって、ひどく惨めだった。
「ふふっ、イアンの無実を証明するには、今の姿を見せるのが一番手っ取り早いかもしれないね。これじゃあ聖女は襲えないってひと目で分かる。もちろん、そんなことは絶対にしないけど」
そう言うと、リチャードはようやくイアンのものを開放し、緩やかな所作で再び組み敷いた。
「淫らで可愛いイアンの姿は僕だけが知っていればいい。……誰にも教えるものか」
唇の端を持ち上げて、毒々しくも美しい花のような微笑みを浮かべる。
隠すことのない独占欲に、ふと、嫌な可能性が脳裏によぎった。
それは、リチャードに無実を晴らす気持ちはさらさらなく、このまま死ぬまでイアンを閉じ込めている気ではないか……、ということだった。
考えて、全身に戦慄が走った。
以前ならば、リチャードがそんなことをするはずがないと、一笑に付していただろうが、今は違う。
イアンの体に女の悦びを巧みに教え込んで、歪な独占欲を日々強めるリチャードならば、そういった考えに至ってもおかしくはない。
むしろ今のリチャードに、イアンの無実を証明することになんら得はない。
なぜなら、イアンをこの小屋に閉じ込めるのは、外部の人間の侵入を防ぐための頑丈な鍵付きの扉ではないからだ。
イアンを真に閉じ込めているのは、ここを出れば、イアンを血眼で探す親衛隊や役人たちに捕まれば、即刻処刑されてしまうという恐怖心だ。
きっと扉の鍵が開いていても、イアンは外に出ることはできないだろう。
いったいどこから間違ってしまったのだろうか。『もっと深いつながりが欲しい』と押し倒された時に強く拒めなかったあの日か。それとも、リチャードの秘めた執着に気づかず、彼の気持ちを浅はかな打算で受け入れてしまったあの日か。あるいはもっと前か……。
イアンは恐ろしくなって考えるのをやめた。
どうせ考えたところで真実はわからないし、リチャードに依存した逃亡生活だ、イアンがどうしたってこの状況を覆すことはできない。
「イアン……」
歪な恍惚の熱に蕩けた声で名前を呼んで、リチャードが唇を重ねる。
もちろん拒むことはできない。口の隙間から差し込まれた舌を、まだ羞恥を捨てきれない控えめさで迎え入れた。
たどたどしくも従順なイアンの舌に、愉悦の微笑を零すリチャード。それは、イアンの健気な舌使いを愛おしむ恋人のものか。それとも、抗うことをやめた蜘蛛の巣の獲物を見つめる捕食者のものか……。
そんな考えても仕方がない疑問は、絡み合う舌の熱に溶けて消えた。
―了―
男らしからぬ蜜に塗れて、くたりと横たわるそれを、リチャードは慈しみと嗜虐の混ざった目で見つめる。
「もうすっかり精液が出なくなっちゃったね。とろとろの蜜を垂らして、可愛い」
くすりとあからさまな嘲笑を零すと、自身の欲望をずるりと引き抜いた。
「かわいそうに。もうこうなったら、ペニスじゃなくて女性器みたいなものだよ。これじゃあ女性を満足させることなんてできないね」
羞恥心を嬲るように言いながら、片手でイアンのそれを包みこんで、指先で先端をぐりぐりと撫で回した。
「ひぁ、っ、あ、あ……っ」
吐精した直後で敏感になっているそれを弄られ、途切れ途切れに喘いで震える。
しかし、男の肉欲に直結しているはずのそれをいくら愛撫されようと、深く激しい快感は得られず、じれったさに身悶えする。
代わりにリチャードの熱塊を失った秘部がじんじんと疼いて、物欲しげにひくついているのが自分でも分かって、ひどく惨めだった。
「ふふっ、イアンの無実を証明するには、今の姿を見せるのが一番手っ取り早いかもしれないね。これじゃあ聖女は襲えないってひと目で分かる。もちろん、そんなことは絶対にしないけど」
そう言うと、リチャードはようやくイアンのものを開放し、緩やかな所作で再び組み敷いた。
「淫らで可愛いイアンの姿は僕だけが知っていればいい。……誰にも教えるものか」
唇の端を持ち上げて、毒々しくも美しい花のような微笑みを浮かべる。
隠すことのない独占欲に、ふと、嫌な可能性が脳裏によぎった。
それは、リチャードに無実を晴らす気持ちはさらさらなく、このまま死ぬまでイアンを閉じ込めている気ではないか……、ということだった。
考えて、全身に戦慄が走った。
以前ならば、リチャードがそんなことをするはずがないと、一笑に付していただろうが、今は違う。
イアンの体に女の悦びを巧みに教え込んで、歪な独占欲を日々強めるリチャードならば、そういった考えに至ってもおかしくはない。
むしろ今のリチャードに、イアンの無実を証明することになんら得はない。
なぜなら、イアンをこの小屋に閉じ込めるのは、外部の人間の侵入を防ぐための頑丈な鍵付きの扉ではないからだ。
イアンを真に閉じ込めているのは、ここを出れば、イアンを血眼で探す親衛隊や役人たちに捕まれば、即刻処刑されてしまうという恐怖心だ。
きっと扉の鍵が開いていても、イアンは外に出ることはできないだろう。
いったいどこから間違ってしまったのだろうか。『もっと深いつながりが欲しい』と押し倒された時に強く拒めなかったあの日か。それとも、リチャードの秘めた執着に気づかず、彼の気持ちを浅はかな打算で受け入れてしまったあの日か。あるいはもっと前か……。
イアンは恐ろしくなって考えるのをやめた。
どうせ考えたところで真実はわからないし、リチャードに依存した逃亡生活だ、イアンがどうしたってこの状況を覆すことはできない。
「イアン……」
歪な恍惚の熱に蕩けた声で名前を呼んで、リチャードが唇を重ねる。
もちろん拒むことはできない。口の隙間から差し込まれた舌を、まだ羞恥を捨てきれない控えめさで迎え入れた。
たどたどしくも従順なイアンの舌に、愉悦の微笑を零すリチャード。それは、イアンの健気な舌使いを愛おしむ恋人のものか。それとも、抗うことをやめた蜘蛛の巣の獲物を見つめる捕食者のものか……。
そんな考えても仕方がない疑問は、絡み合う舌の熱に溶けて消えた。
―了―
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