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「お願いだ。もし、僕の気持ちが受け入れられないなら、このまま強く突き放してくれ。……そうじゃないと、死ぬまで君への未練が断ち切れない」
震えを帯びた弱々しい声で言って、さらにイアンの手を自身の胸に押し付けた。
イアンはリチャードの言葉に目を見開いた。
自分の気持ちを受け入れてほしい、ではなく、突き放してほしいと言うのだ。驚くのも無理はない。
想いの成就などまるで期待していない、自傷的ですらある切実な懇願に胸が締め付けられる。
突き放してと言葉では言いながら、濡れた瞳は饒舌に自分の気持ちを受け入れてほしいと乞い願ってくるその矛盾が、いかに彼を苦しめているかは想像に難くない。
いっそ無理やり襲われでもしたなら強く拒めるのだが、ひどい怪我でも負っているかのように苦しげに歪んだ顔を前にして、そんな無慈悲なことはできなかった。
だからといって、異性愛者のイアンにリチャードの想いを受け止めるのは難しかった。
現に、寝ている間にキスをされたのかと思うと、自分では抑えられない本能的な拒否感が湧き上がって、肌を粟立たせるのだった。
一時の同情で気持ちを受け入れたところで、すぐに破綻するに違いない。
やはり断るべきだと答えを固めつつあったイアンだったが、とある不安が脳裏によぎった。
それは『もし、ここでリチャードの気持ちを拒んだとして、果たしてこれからも今まで通り自分を援助してくれるのか』というものだった。
(いやいや、リチャードに限って振られたから関係はここまでだなんてことはないはずだ……っ)
イアンはすぐさま、リチャードの真剣な告白に対してあまりに卑しいその不安を否定した。
しかし一度芽生えた不安は、不気味なまでの速さで肥大していく。
リチャードが自分にここまでよくしてくれるのは、二人が唯一無二の親友だからと思っていた。
しかし、これまでの言動が親愛からのものではなく、恋心からのものだとすると、話が変わってくる。
自分の想いが受け入れてもらえないと分かれば、気持ちは冷めていき、危険を冒してまでイアンの無実を晴らす必要はなくなるのではないか。はたまた、振られたことで愛が憎しみに変わり、親衛隊にイアンを売るのではないか……。
あり得るはずもない悪い想像が次から次へと湧き上がって、そのたびに打ち消すが、完全には消えないのが厄介だった。
リチャードがそんな非情で器の小さい人間ではないと分かっていても否定しきれないのは、つい今し方まで彼の気持ちに少しも気づかなかったからだ。
自分はリチャードという人間を分かりきっていたつもりだったが、思いがけず恋情を告げられ、その自信が揺らぐ。
(もし……、もし、リチャードの気持ちをここで拒んだら……)
少し前に味わった、死を予感させるほどの餓えと孤独が、嫌な想像をより生々しいものにして、我知らず体が震えた。
もう二度とあんな思いはしたくない、と心と体が叫びを上げる。
しかしだからといって、やはりリチャードの想いはどうしても受け入れられなかった。
どう考えても、自分はリチャードに恋愛感情を抱けない。そのことはきっと、そう遠くない未来に二人の関係を取り返しのつかないものにするだろう。
受け入れることも拒むこともできずにいると、リチャードはおもむろにイアンの手を離した。
「……すまない、急にこんなことを言って。こんなことを言っても君を困らせるだけだって分かりきったことなのに……。今日はもう帰る。夜風に当たって頭を冷やすよ」
震えを帯びた弱々しい声で言って、さらにイアンの手を自身の胸に押し付けた。
イアンはリチャードの言葉に目を見開いた。
自分の気持ちを受け入れてほしい、ではなく、突き放してほしいと言うのだ。驚くのも無理はない。
想いの成就などまるで期待していない、自傷的ですらある切実な懇願に胸が締め付けられる。
突き放してと言葉では言いながら、濡れた瞳は饒舌に自分の気持ちを受け入れてほしいと乞い願ってくるその矛盾が、いかに彼を苦しめているかは想像に難くない。
いっそ無理やり襲われでもしたなら強く拒めるのだが、ひどい怪我でも負っているかのように苦しげに歪んだ顔を前にして、そんな無慈悲なことはできなかった。
だからといって、異性愛者のイアンにリチャードの想いを受け止めるのは難しかった。
現に、寝ている間にキスをされたのかと思うと、自分では抑えられない本能的な拒否感が湧き上がって、肌を粟立たせるのだった。
一時の同情で気持ちを受け入れたところで、すぐに破綻するに違いない。
やはり断るべきだと答えを固めつつあったイアンだったが、とある不安が脳裏によぎった。
それは『もし、ここでリチャードの気持ちを拒んだとして、果たしてこれからも今まで通り自分を援助してくれるのか』というものだった。
(いやいや、リチャードに限って振られたから関係はここまでだなんてことはないはずだ……っ)
イアンはすぐさま、リチャードの真剣な告白に対してあまりに卑しいその不安を否定した。
しかし一度芽生えた不安は、不気味なまでの速さで肥大していく。
リチャードが自分にここまでよくしてくれるのは、二人が唯一無二の親友だからと思っていた。
しかし、これまでの言動が親愛からのものではなく、恋心からのものだとすると、話が変わってくる。
自分の想いが受け入れてもらえないと分かれば、気持ちは冷めていき、危険を冒してまでイアンの無実を晴らす必要はなくなるのではないか。はたまた、振られたことで愛が憎しみに変わり、親衛隊にイアンを売るのではないか……。
あり得るはずもない悪い想像が次から次へと湧き上がって、そのたびに打ち消すが、完全には消えないのが厄介だった。
リチャードがそんな非情で器の小さい人間ではないと分かっていても否定しきれないのは、つい今し方まで彼の気持ちに少しも気づかなかったからだ。
自分はリチャードという人間を分かりきっていたつもりだったが、思いがけず恋情を告げられ、その自信が揺らぐ。
(もし……、もし、リチャードの気持ちをここで拒んだら……)
少し前に味わった、死を予感させるほどの餓えと孤独が、嫌な想像をより生々しいものにして、我知らず体が震えた。
もう二度とあんな思いはしたくない、と心と体が叫びを上げる。
しかしだからといって、やはりリチャードの想いはどうしても受け入れられなかった。
どう考えても、自分はリチャードに恋愛感情を抱けない。そのことはきっと、そう遠くない未来に二人の関係を取り返しのつかないものにするだろう。
受け入れることも拒むこともできずにいると、リチャードはおもむろにイアンの手を離した。
「……すまない、急にこんなことを言って。こんなことを言っても君を困らせるだけだって分かりきったことなのに……。今日はもう帰る。夜風に当たって頭を冷やすよ」
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