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量が多いので、ひとつずつ手に取り三つ葉のものは浴槽の縁に避けていった。
すると、
「――あっ! あった」
ついに四つ葉のクローバーを見つけ、思わず声が弾んだ。
子どものようにはしゃぐ声が出てしまい、イアンはハッとなって口元に手を当てた。
しかし、リチャードはからかうことなく、心底微笑ましげに目を細めるだけだった。
「すごい、本当にあったね」
そう言って、イアンが持つ四つ葉のクローバーに手を伸ばした。
「知ってる? 四つ葉のクローバーって、一万本に一本の確率らしいよ。たまたま行きがけに摘んできたクローバーの中にあるなんて、イアンは強運の持ち主なのかもね」
指先でくすぐるように葉っぱに触れながら、リチャードが言う。
最初から準備していた台詞のように淀みなく言うので、イアンはすぐに勘づいた。
きっとこの四つ葉はリチャードがあらかじめ見つけていたもので、摘んできた三つ葉の中に混ぜたのだろうということに。
リチャードは四つ葉に目を向けたまま言葉を続ける。
「いろいろと不安もあると思うけど、きっと大丈夫だよ。なんて言ったって、イアンは一万本の一本を見つけた強運の持ち主なんだから」
そう言って、四つ葉をイアンの手からすっと抜くと、リチャードはそのまま濡れた髪と一緒に耳へかけた。
耳の縁をなぞる指先がくすぐったく、思わず片目をつむると、リチャードは愛おしげに目を細めた。
「君の無実の罪が晴れたら、今度は外に四つ葉のクローバーを探しに行こう」
そんな未来が来ると信じて疑わない笑みを浮かべて、リチャードは真っすぐイアンを見つめて言った。
イアンは堪らなくなり、気づけばぼろぼろと涙を零していた。
こんなにも手の込んだ励ましと優しさをくれるリチャードに、胸いっぱいの感謝を伝えたいのに、嗚咽が邪魔をしてうまく言葉が出てこない。
「ははっ、そんなに泣いたら隈はとれても、目が腫れてしまうよ?」
柔らかな苦笑混じりに言いながら、リチャードはイアンの目元を親指で拭った。
その指先は、浴槽の湯よりも温かく感じた。
ディアナという希望を失ったイアンだったが、この時、新たに希望が心に芽生えた。
いつか無実が証明されここを出られたら、この先一生かけてでもリチャードにこれまでの恩を返そう。
晴れた青空の下、四つ葉のクローバーを二人で探す未来を夢見ながら、イアンはそう心に誓った。
****
人は何日、飲まず食わずで生きられるだろうか……?
ベッドの上でそんなことをぼんやり考える。
しかし、そんな考えても仕方がない問いは何の気晴らしにもならず、すぐに痛いほどの空腹に現実へと引き戻された。
「……リチャード」
この世で一番信頼している親友の名を呟くが、もちろん返事はない。
リチャードの来訪が途絶えて、何日が経っただろうか。
最初こそ日数を数えていたが、途中でやめた。
彼が来ない日数が積み重なるにつれて、もしかするともう二度と訪れないのではないかという絶望が強くなって、耐えられなくなったのだ。
しかし、イアンが数えようと数えまいと時は刻々と過ぎていき、備蓄していた水や食料も尽きていった。
リチャードと最後に会った日は、記憶に刻まれるほど変わった出来事もなく、何の変哲もない一日だった。
リチャードから「しばらくここに来られない」という話もなかったし、もし来られないのであれば、心配性の彼ならこちらが言うまでもなく備蓄の食料を持ってきていたことだろう。
すると、
「――あっ! あった」
ついに四つ葉のクローバーを見つけ、思わず声が弾んだ。
子どものようにはしゃぐ声が出てしまい、イアンはハッとなって口元に手を当てた。
しかし、リチャードはからかうことなく、心底微笑ましげに目を細めるだけだった。
「すごい、本当にあったね」
そう言って、イアンが持つ四つ葉のクローバーに手を伸ばした。
「知ってる? 四つ葉のクローバーって、一万本に一本の確率らしいよ。たまたま行きがけに摘んできたクローバーの中にあるなんて、イアンは強運の持ち主なのかもね」
指先でくすぐるように葉っぱに触れながら、リチャードが言う。
最初から準備していた台詞のように淀みなく言うので、イアンはすぐに勘づいた。
きっとこの四つ葉はリチャードがあらかじめ見つけていたもので、摘んできた三つ葉の中に混ぜたのだろうということに。
リチャードは四つ葉に目を向けたまま言葉を続ける。
「いろいろと不安もあると思うけど、きっと大丈夫だよ。なんて言ったって、イアンは一万本の一本を見つけた強運の持ち主なんだから」
そう言って、四つ葉をイアンの手からすっと抜くと、リチャードはそのまま濡れた髪と一緒に耳へかけた。
耳の縁をなぞる指先がくすぐったく、思わず片目をつむると、リチャードは愛おしげに目を細めた。
「君の無実の罪が晴れたら、今度は外に四つ葉のクローバーを探しに行こう」
そんな未来が来ると信じて疑わない笑みを浮かべて、リチャードは真っすぐイアンを見つめて言った。
イアンは堪らなくなり、気づけばぼろぼろと涙を零していた。
こんなにも手の込んだ励ましと優しさをくれるリチャードに、胸いっぱいの感謝を伝えたいのに、嗚咽が邪魔をしてうまく言葉が出てこない。
「ははっ、そんなに泣いたら隈はとれても、目が腫れてしまうよ?」
柔らかな苦笑混じりに言いながら、リチャードはイアンの目元を親指で拭った。
その指先は、浴槽の湯よりも温かく感じた。
ディアナという希望を失ったイアンだったが、この時、新たに希望が心に芽生えた。
いつか無実が証明されここを出られたら、この先一生かけてでもリチャードにこれまでの恩を返そう。
晴れた青空の下、四つ葉のクローバーを二人で探す未来を夢見ながら、イアンはそう心に誓った。
****
人は何日、飲まず食わずで生きられるだろうか……?
ベッドの上でそんなことをぼんやり考える。
しかし、そんな考えても仕方がない問いは何の気晴らしにもならず、すぐに痛いほどの空腹に現実へと引き戻された。
「……リチャード」
この世で一番信頼している親友の名を呟くが、もちろん返事はない。
リチャードの来訪が途絶えて、何日が経っただろうか。
最初こそ日数を数えていたが、途中でやめた。
彼が来ない日数が積み重なるにつれて、もしかするともう二度と訪れないのではないかという絶望が強くなって、耐えられなくなったのだ。
しかし、イアンが数えようと数えまいと時は刻々と過ぎていき、備蓄していた水や食料も尽きていった。
リチャードと最後に会った日は、記憶に刻まれるほど変わった出来事もなく、何の変哲もない一日だった。
リチャードから「しばらくここに来られない」という話もなかったし、もし来られないのであれば、心配性の彼ならこちらが言うまでもなく備蓄の食料を持ってきていたことだろう。
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