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第一部 第三王子の花嫁探し
23-2 出来る男(二人の時間編)
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夕方に目覚めたラーシュはユーハンに睦事について「女性が不安に思わないよう余裕があるように振る舞え」や「気の利いた会話で緊張を解せ」など色々と教示されたのだが、実はアニエスのガウンの下の夜着姿が目に入った途端に全ての知識が飛んでしまっていた。
ラーシュはアニエスの言葉に「ありのままの自分が良い」と言ってもらえたようで喜びを感じる。
「私は見た目で誤解されやすいが無骨な人間でな、アニエスに苦労をかけることも有ると思う。こんな私と添い遂げてくれるか?」
アニエスは頬を紅潮させながらラーシュの指先を掴み、
「はい、勿論です。殿下の混じりのない実直なお人柄に惹かれたのは私の方ですから」
と、伝えた。その言葉にラーシュは長く冷え固まっていた胸の奥に熱が通い出すのを感じる。しかし、美麗な顔の眉を顰め、アニエスの両手を取ると不服そうに口を開く。
「アニエス…殿下は沢山いる。ラーシュと呼んでくれるか?」
ラーシュはアニエスの瞳を捉えながら訴えた。
「そ(れは)っ、えっ、は(ずかしいですが)……はい…」
アニエスは恥ずかしそうに俯きながら了承した。
「「……」」
再び二人の間に沈黙が流れる。
「——呼んでくれないのか?」
「えぇぇっ?!今ですか?」
ラーシュの言葉に驚いたようにアニエスが声を上げると、ラーシュは破顔しながら答える。
「ははっ、そうだろうな」
アニエスは外見に拘るタイプではないが、顔を綻ばせるラーシュの輝かしいまでの麗しさに思わず目を奪われた。そして、小さな声でポツリと呟く。
「……ラー…シュ様…」
「んー、声が小さいな」
ラーシュは意地悪く目を細めアニエスに伝える。その言葉にアニエスはきゅっと口を一文字にし、暫くの間をおいた後に口を開く。
「ラーシュ様」
「んー、様も要らないんだがな」
ラーシュの言葉に瞳を大きく潤ませると、フルフルと首と手を左右に振りながらアニエスは答える。
「そっ、それは難しいですっ!」
「何故?私達は婚約者なのに?」
「そ、そんな…敬称を外して王族の方をお呼びするなんて——」
「アニエス」
ラーシュの今迄にない声の重さにアニエスはビクリと肩を上げ、思わず俯く。
(私がクズクズとしていたから…怒らせてしまったわ)
どうやらラーシュを怒らせてしまったようだと、俯いていたアニエスが申し訳なさそうにおずおずと顔を上げると、其処には悲しそうな瞳をしたラーシュが居た。
「…ラーシュ様?」
「アニエス…君も王家の一員なるんだ…違うか?」
ラーシュは掴んでいるアニエスの手に力を込めて問いかける。アニエスが自分との間に壁を持っていると思うと、ラーシュの胸は締め付けられるように痛んだ。
アニエスは婚約者となり、数年後には婚姻も結ぶ。そして移住の件は直ぐには無理でも婚姻の時期は幾らでも早められると、寧ろラーシュの中では直ぐにでも婚姻したいと考えていたのだった。
「っ!はい、そうです…おっしゃる通りです…覚悟が出来たと言いながら……すみませんでした…その…もう少し…慣れたら…呼べると思います…」
「いや、私の方こそ気が急いすまない…そうだな、昨日の今日では仕方ない。それではっ」
「きゃっ」
ラーシュはアニエスの背中とひざ裏に腕を回し、引き寄せながら抱きかかえるとベッドに向かってスタスタと歩き出した。
「らっ、ラーシュ様?」
「いつまでも立ち話では慣れないからな」
そして、優しくアニエスをベッドの中央に下ろし、ラーシュもその傍に座る。
アニエスの髪を掬いあげ、香りを嗅ぎながら口付けを落とす。
「良い香りだな」
「あっ、はい。サラ王太子妃殿下から香油を頂きまして…甘い良い香りですよね!」
嬉しそうにそう言うとアニエスは自分の腕の香りを嗅ぎながら答える。
「体ににも塗っているのか?」
ラーシュもアニエスの腕を取り、香りを嗅ぐ。
「ははっ、アニエスの体も同じ香りだな。ふむ、良い香りだ…昨日も何かつけていたのか?」
クローゼットで香ったアニエスの香りを思い出しラーシュがふと問いかける。今日の香りも良い香りなのだろうが、ラーシュとしては昨日の香りの方が欲情が唆られた。
「いえ、普段は何も付けてなくて…令嬢らしくなくてすみません…」
「っ!…あー…そうか…いや、構わない…」
アニエスの言葉にラーシュは何となく嬉しくなり、緩む口許を手で覆って隠す。
ラーシュのおかしな様子に気付いたアニエスは、自分に気を遣って言ってくれたと思い口を開く。
「すみませんっ、今後は恥ずかしくないようきちんと手入れ致します。サラ王太子妃殿下にお勧めの香油を教えて頂きます!」
「あ、いや…その……私は…私は昨日の香りの方が好きなんだっ」
「っ!ら、ラーシュ様…」
ラーシュの言葉にアニエスは頬を染める。本音を伝えてしまったラーシュは手を顔で覆うがその耳は赤くなっていた。
「「……」」
お互い羞恥心で気不味い空気が流れた後、いち早く状態を立て直したラーシュが真剣な眼差しをアニエス向ける。
「それより…まだ慣れないようだな。様がとれていない。」
「あっ…すみません」
「いや、謝ることではない。慣れるよう此方が努力するまでだ」
そう告げるとアニエスの唇に自身の唇をそっと重ねた——
ラーシュはアニエスの言葉に「ありのままの自分が良い」と言ってもらえたようで喜びを感じる。
「私は見た目で誤解されやすいが無骨な人間でな、アニエスに苦労をかけることも有ると思う。こんな私と添い遂げてくれるか?」
アニエスは頬を紅潮させながらラーシュの指先を掴み、
「はい、勿論です。殿下の混じりのない実直なお人柄に惹かれたのは私の方ですから」
と、伝えた。その言葉にラーシュは長く冷え固まっていた胸の奥に熱が通い出すのを感じる。しかし、美麗な顔の眉を顰め、アニエスの両手を取ると不服そうに口を開く。
「アニエス…殿下は沢山いる。ラーシュと呼んでくれるか?」
ラーシュはアニエスの瞳を捉えながら訴えた。
「そ(れは)っ、えっ、は(ずかしいですが)……はい…」
アニエスは恥ずかしそうに俯きながら了承した。
「「……」」
再び二人の間に沈黙が流れる。
「——呼んでくれないのか?」
「えぇぇっ?!今ですか?」
ラーシュの言葉に驚いたようにアニエスが声を上げると、ラーシュは破顔しながら答える。
「ははっ、そうだろうな」
アニエスは外見に拘るタイプではないが、顔を綻ばせるラーシュの輝かしいまでの麗しさに思わず目を奪われた。そして、小さな声でポツリと呟く。
「……ラー…シュ様…」
「んー、声が小さいな」
ラーシュは意地悪く目を細めアニエスに伝える。その言葉にアニエスはきゅっと口を一文字にし、暫くの間をおいた後に口を開く。
「ラーシュ様」
「んー、様も要らないんだがな」
ラーシュの言葉に瞳を大きく潤ませると、フルフルと首と手を左右に振りながらアニエスは答える。
「そっ、それは難しいですっ!」
「何故?私達は婚約者なのに?」
「そ、そんな…敬称を外して王族の方をお呼びするなんて——」
「アニエス」
ラーシュの今迄にない声の重さにアニエスはビクリと肩を上げ、思わず俯く。
(私がクズクズとしていたから…怒らせてしまったわ)
どうやらラーシュを怒らせてしまったようだと、俯いていたアニエスが申し訳なさそうにおずおずと顔を上げると、其処には悲しそうな瞳をしたラーシュが居た。
「…ラーシュ様?」
「アニエス…君も王家の一員なるんだ…違うか?」
ラーシュは掴んでいるアニエスの手に力を込めて問いかける。アニエスが自分との間に壁を持っていると思うと、ラーシュの胸は締め付けられるように痛んだ。
アニエスは婚約者となり、数年後には婚姻も結ぶ。そして移住の件は直ぐには無理でも婚姻の時期は幾らでも早められると、寧ろラーシュの中では直ぐにでも婚姻したいと考えていたのだった。
「っ!はい、そうです…おっしゃる通りです…覚悟が出来たと言いながら……すみませんでした…その…もう少し…慣れたら…呼べると思います…」
「いや、私の方こそ気が急いすまない…そうだな、昨日の今日では仕方ない。それではっ」
「きゃっ」
ラーシュはアニエスの背中とひざ裏に腕を回し、引き寄せながら抱きかかえるとベッドに向かってスタスタと歩き出した。
「らっ、ラーシュ様?」
「いつまでも立ち話では慣れないからな」
そして、優しくアニエスをベッドの中央に下ろし、ラーシュもその傍に座る。
アニエスの髪を掬いあげ、香りを嗅ぎながら口付けを落とす。
「良い香りだな」
「あっ、はい。サラ王太子妃殿下から香油を頂きまして…甘い良い香りですよね!」
嬉しそうにそう言うとアニエスは自分の腕の香りを嗅ぎながら答える。
「体ににも塗っているのか?」
ラーシュもアニエスの腕を取り、香りを嗅ぐ。
「ははっ、アニエスの体も同じ香りだな。ふむ、良い香りだ…昨日も何かつけていたのか?」
クローゼットで香ったアニエスの香りを思い出しラーシュがふと問いかける。今日の香りも良い香りなのだろうが、ラーシュとしては昨日の香りの方が欲情が唆られた。
「いえ、普段は何も付けてなくて…令嬢らしくなくてすみません…」
「っ!…あー…そうか…いや、構わない…」
アニエスの言葉にラーシュは何となく嬉しくなり、緩む口許を手で覆って隠す。
ラーシュのおかしな様子に気付いたアニエスは、自分に気を遣って言ってくれたと思い口を開く。
「すみませんっ、今後は恥ずかしくないようきちんと手入れ致します。サラ王太子妃殿下にお勧めの香油を教えて頂きます!」
「あ、いや…その……私は…私は昨日の香りの方が好きなんだっ」
「っ!ら、ラーシュ様…」
ラーシュの言葉にアニエスは頬を染める。本音を伝えてしまったラーシュは手を顔で覆うがその耳は赤くなっていた。
「「……」」
お互い羞恥心で気不味い空気が流れた後、いち早く状態を立て直したラーシュが真剣な眼差しをアニエス向ける。
「それより…まだ慣れないようだな。様がとれていない。」
「あっ…すみません」
「いや、謝ることではない。慣れるよう此方が努力するまでだ」
そう告げるとアニエスの唇に自身の唇をそっと重ねた——
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