26 / 31
第一部 第三王子の花嫁探し
22-1 出来る男(二人の時間編)
しおりを挟む
「悪いな、アニエス嬢。ラーシュが少し暴走気味になってしまって。君と婚約が出来たことが余程嬉しいと見える。」
ユーハンの言葉にアニエスは頬を染める。
「いえ、その、私も嬉しいので…ラーシュ殿下のお気持ちは有り難いばかりです。」
アニエスは頬を染め、羞恥の中に喜びの表情を浮かべながらユーハンに伝える。
破談になりかねないと思ったが、第二部隊の報告によれば非常識な訪問にも関わらずリンデロードは婚約証明書にサインをし、その後も二人は意気投合した様子であると聞いている。そして、アニエスもラーシュ自体を受け入れてくれているようだ。
ユーハンは安堵する。
「それで昨日の茶会の席の話に戻るが、良いかな?」
「はい」
「出席した御令嬢達のことも視たのだろう?」
「っ!」
ユーハンの言葉にアニエスはハッとしたように顔を向ける。そして、申し訳なさそうに口を結ぶと、徐に言葉を紡ぐ。
「…はい、不躾ながら拝見させて頂きました…」
茶会や夜会と言った社交の場では接する人間との会話が大変重要となってくる。発言によっては足元を掬われかねない事態に発展する事もある。その為、アニエスはリンデロード領にとって不利益にならないよう、茶会を共にする令嬢達の内面は覗いたであろうとユーハンは考えていた。
「で、何か気になる人物は居なかったか?例えば良くない色を持っているような人物が」
「っ!……はい、いらっしゃいました…」
(やはりか)
ユーハンは最初に視える力の話を聞いた時にアニエスが何か茶会の席で気がかりな事があるような顔をしたのを忘れていなかった。
「ジリアン様が…その、赤の中に…黒い物が視えまして…」
「ニーホルム伯爵令嬢か…して、それは何を意味する?」
「はい…ジリアン様の黒い物がイーダ様を取り囲むよう出ておりました…イーダ様に対して何かされているのではないかと思います」
「…そうか」
(ラルセン伯爵令嬢絡みとなると、市井で流行っている宝飾品か…これは調査してみるか)
ユーハンは顎に手を置き試案する。一人思案しているユーハンにアニエスはおずおずと口を開く。
「……あの…実は…サラ王太子妃殿下のことで気になることが御座いまして……」
アニエスの思わぬ言葉にユーハンは瞬きをし、アニエスに続きを促した。
※※※
——その夜——
オビュルタン王国では所謂[夜這い]は男性側がするものとされており、それを受け入れるかは女性側に委ねられている——
アニエスは夜伽用の夜着にガウンを羽織り緊張した面持ちでラーシュを待っていた。
落ち着かない様子で椅子に座ったかと思うと、立ち上がり、ソファに座り直し、再び立ち、ベッドに向かうも立ち止まり、振り返ってイネに問いかける。
「ベッドで待っていたら端ないと思われるのかしら?その…そういうことの前にはお茶を飲んで先ずは語らうものなのかしら?あっ、それともお酒?」
ソワソワと部屋を右往左往するアニエスの様子を微笑ましく眺めながらイネは伝える。
「お茶もお酒もご用意しておりますが、殿下が誘導してくださいますので殿下にお任せして下さい。」
「そうよね、えぇ。…私…きちんと出来るかしら…粗相をしたら…どうしましょう…」
アニエスは潮を吹いたクローゼットの失態を思い出し、顔を青くする。
「婚約したばかりなのに…愛想を尽かされてしまうわ…」
イネはゆっくりと首を左右に振りながら、落ち着いた口調でアニエスに伝える。
「大丈夫で御座います。初めての事ですから、仮に何かあっても殿下はそれを咎めるような狭量なお方では御座いませんでしょう?」
「えぇ…えぇ、ラーシュ殿下はとてもお優しい方だわ」
クローゼットでの情事を思い返し、アニエスは頬を染める。
コンコンコンコン
アニエスの部屋の扉からノック音が聞こえる。
「ひゃっ!っは、はい!」
アニエスは心構えはしていたものの、緊張で声が上擦る。
『ラーシュ殿下をお連れしました』
ガチャ
イネが扉を開くと其処にはラフな服装に身を包んだラーシュが立っていた。
「ほぁ~」
ラフな服装を纏ってはいるが容姿端麗なラーシュの佇まいからは気品が満ち溢れていた。イネは思わず感嘆の声を上げる。
(第三王子のラーシュ殿下がお嬢様の婚約者様になるなんてっ、本当に本当に本当~っに良かった!!昨日は卑猥な見習い騎士がお相手になるかと…正直絶望してたけど…お嬢様っ!良くやりました!本当に良かったー!!)
「では、失礼致します。」
イネは心の中で歓喜の声を上げながらもその心打ちを微塵も見せず、静々とお辞儀をしてラーシュと入れ違いで部屋を後にした。
「「……」」
部屋に残された二人は立ったまま静止したように暫し黙り込む。緊張感のある空気を壊すかのようにラーシュが口を開く。
「コホン、すまない、慣れなくて。何か気の利いた話題を振るよう言われていたのだが…」
「いっ、いえっ、あの私も不慣れで…すみません…」
「…いや?…慣れている方が嫌だな」
アニエスの言葉にラーシュが「ふむ」と考えてからそう言うと、その言葉にアニエスも笑いながら答える。
「ふふっ、確かにそうですね。私も殿下が慣れてらっしゃったら…嫌だと思い…絶対に嫌です」
アニエスは「思います」と言おうとしたが情事の場になれたラーシュを思い浮かべ、絶対に嫌だと思い、少し強い口調で言い直して答えた。
「ははっ、そうか。不慣れな私が良いのか?はははっ」
ラーシュは少し驚いたような顔をした後、ブルーに輝く瞳を細めて嬉しそうに笑った。
ユーハンの言葉にアニエスは頬を染める。
「いえ、その、私も嬉しいので…ラーシュ殿下のお気持ちは有り難いばかりです。」
アニエスは頬を染め、羞恥の中に喜びの表情を浮かべながらユーハンに伝える。
破談になりかねないと思ったが、第二部隊の報告によれば非常識な訪問にも関わらずリンデロードは婚約証明書にサインをし、その後も二人は意気投合した様子であると聞いている。そして、アニエスもラーシュ自体を受け入れてくれているようだ。
ユーハンは安堵する。
「それで昨日の茶会の席の話に戻るが、良いかな?」
「はい」
「出席した御令嬢達のことも視たのだろう?」
「っ!」
ユーハンの言葉にアニエスはハッとしたように顔を向ける。そして、申し訳なさそうに口を結ぶと、徐に言葉を紡ぐ。
「…はい、不躾ながら拝見させて頂きました…」
茶会や夜会と言った社交の場では接する人間との会話が大変重要となってくる。発言によっては足元を掬われかねない事態に発展する事もある。その為、アニエスはリンデロード領にとって不利益にならないよう、茶会を共にする令嬢達の内面は覗いたであろうとユーハンは考えていた。
「で、何か気になる人物は居なかったか?例えば良くない色を持っているような人物が」
「っ!……はい、いらっしゃいました…」
(やはりか)
ユーハンは最初に視える力の話を聞いた時にアニエスが何か茶会の席で気がかりな事があるような顔をしたのを忘れていなかった。
「ジリアン様が…その、赤の中に…黒い物が視えまして…」
「ニーホルム伯爵令嬢か…して、それは何を意味する?」
「はい…ジリアン様の黒い物がイーダ様を取り囲むよう出ておりました…イーダ様に対して何かされているのではないかと思います」
「…そうか」
(ラルセン伯爵令嬢絡みとなると、市井で流行っている宝飾品か…これは調査してみるか)
ユーハンは顎に手を置き試案する。一人思案しているユーハンにアニエスはおずおずと口を開く。
「……あの…実は…サラ王太子妃殿下のことで気になることが御座いまして……」
アニエスの思わぬ言葉にユーハンは瞬きをし、アニエスに続きを促した。
※※※
——その夜——
オビュルタン王国では所謂[夜這い]は男性側がするものとされており、それを受け入れるかは女性側に委ねられている——
アニエスは夜伽用の夜着にガウンを羽織り緊張した面持ちでラーシュを待っていた。
落ち着かない様子で椅子に座ったかと思うと、立ち上がり、ソファに座り直し、再び立ち、ベッドに向かうも立ち止まり、振り返ってイネに問いかける。
「ベッドで待っていたら端ないと思われるのかしら?その…そういうことの前にはお茶を飲んで先ずは語らうものなのかしら?あっ、それともお酒?」
ソワソワと部屋を右往左往するアニエスの様子を微笑ましく眺めながらイネは伝える。
「お茶もお酒もご用意しておりますが、殿下が誘導してくださいますので殿下にお任せして下さい。」
「そうよね、えぇ。…私…きちんと出来るかしら…粗相をしたら…どうしましょう…」
アニエスは潮を吹いたクローゼットの失態を思い出し、顔を青くする。
「婚約したばかりなのに…愛想を尽かされてしまうわ…」
イネはゆっくりと首を左右に振りながら、落ち着いた口調でアニエスに伝える。
「大丈夫で御座います。初めての事ですから、仮に何かあっても殿下はそれを咎めるような狭量なお方では御座いませんでしょう?」
「えぇ…えぇ、ラーシュ殿下はとてもお優しい方だわ」
クローゼットでの情事を思い返し、アニエスは頬を染める。
コンコンコンコン
アニエスの部屋の扉からノック音が聞こえる。
「ひゃっ!っは、はい!」
アニエスは心構えはしていたものの、緊張で声が上擦る。
『ラーシュ殿下をお連れしました』
ガチャ
イネが扉を開くと其処にはラフな服装に身を包んだラーシュが立っていた。
「ほぁ~」
ラフな服装を纏ってはいるが容姿端麗なラーシュの佇まいからは気品が満ち溢れていた。イネは思わず感嘆の声を上げる。
(第三王子のラーシュ殿下がお嬢様の婚約者様になるなんてっ、本当に本当に本当~っに良かった!!昨日は卑猥な見習い騎士がお相手になるかと…正直絶望してたけど…お嬢様っ!良くやりました!本当に良かったー!!)
「では、失礼致します。」
イネは心の中で歓喜の声を上げながらもその心打ちを微塵も見せず、静々とお辞儀をしてラーシュと入れ違いで部屋を後にした。
「「……」」
部屋に残された二人は立ったまま静止したように暫し黙り込む。緊張感のある空気を壊すかのようにラーシュが口を開く。
「コホン、すまない、慣れなくて。何か気の利いた話題を振るよう言われていたのだが…」
「いっ、いえっ、あの私も不慣れで…すみません…」
「…いや?…慣れている方が嫌だな」
アニエスの言葉にラーシュが「ふむ」と考えてからそう言うと、その言葉にアニエスも笑いながら答える。
「ふふっ、確かにそうですね。私も殿下が慣れてらっしゃったら…嫌だと思い…絶対に嫌です」
アニエスは「思います」と言おうとしたが情事の場になれたラーシュを思い浮かべ、絶対に嫌だと思い、少し強い口調で言い直して答えた。
「ははっ、そうか。不慣れな私が良いのか?はははっ」
ラーシュは少し驚いたような顔をした後、ブルーに輝く瞳を細めて嬉しそうに笑った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる