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#29【[いつも]を忘れる】三人称
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「〈従僕・侍従系〉良いよねぇ~。貴方の為に死ねます的な?貴方に捧げます的な?」
「………」
恍惚とした表情で語る咲にアールは絶対零度の視線を向けている。
(以前言っていた[執拗な執着をされたい]という話か?)
アールは以前に咲が〈ヤンデレ〉のように執拗な執着をされたいと話していた事を思い出す。しかし、咲の意図は別にある為、話に乗って来ないアールの態度に焦り、続けて話し出す。
「絶対服従のMなのに、物言いはS的な?良いわ~SとMがコラボってるわ~ね、そう思わない?!」
「俺に同意を求めるな。」
(…御尤も…)
アールの発言に咲は尤もだと納得する。
咲は焦っていた。その焦りを悟られないよういつもの話題を必死にアールに振っている。しかし、その行為は完全に空回っていた。
「聖女って何な訳っ!?」
「藪から棒が過ぎるだろう!?」
アールの言葉を無視して咲はまたも話し続ける。
「聖の女って何?!」
「汚れなく清らかで神に生涯を捧げているという女の事だろう。」
「ふっ、」
咲は顔眉間に皺を寄せ、上から目線で鼻で息を短く吐く。アールが普段よく咲を小馬鹿にした際にする顔である。
「この上なく腹立たしい顔だな。」
「アールの顔真似ですっ!」
「俺の?」
アールの声のトーンが下がる。アールの端正な顔を視界に入れながら咲はゴクリと息を飲む。
「いや…すんませんっ!顔じゃなくて態度の間違い…そんな整った顔の真似なんて出来ないですっ!」
「さっきから何なんだ?情緒が不安定過ぎるだろう?」
「………」
咲が焦って空回っているのには訳がある。それは、先日雅が言った事をアールが実行している為だ。つまり、アールの大きさが人間の大きさになっているのだ。咲はアールを意識しないようにと、なるべく[いつも]通りに接しようと先程から試みているのだが、ことごとく空回っているという訳だ。
「お前、以前あいつが言っていた事を気にしているのか?」
「……ん?何の話?」
アールの突然の言葉に咲の思考は追いつかない。
「あいつ?」
「コピーだ」
(ナツが前に言ってた事?ナツ…何か言ってた??)
咲は怒りの沸点は高いが、持続性はない。アールは以前にナツが自分の魂の番を至高としているのに対して、咲の事を汚れているような言い方をした事を咲が気にして[聖女]の話を言って来たのだと考えていた。
しかし、〈聖女〉も〈従僕・侍従系〉話しも[いつも]していた異世界話しをする為に出した話題の一つに過ぎず、咲本人は既にナツの[汚れている]発言を何とも思ってはいなかった。その為、全く思い当たる事がないと首を捻る。
アールは少し言い難そうに口を開く。
「——お前が汚れているような事を言っただろう。」
「あー!」
そこで漸く咲は思い出す。
(あったねーそう言えば!)
咲はアールが考える以上に浅はかな人間であった——そんな咲の様子にアールは呆れたように眉間に皺を寄せ、鼻で息を短く吐きながら言う。
「何なんだ、お前は。」
アールは自分の心配した事柄を全く意に介していない様子の咲に呆れながらも安心する。その表情は先程、咲が真似た[以前のアールの態度]ではなく、呆れながらも慈愛に満ちた瞳で咲を見るアールの顔があった。
(っ!心臓が……)
アールの瞳の優しさに咲の心臓がギュッと鷲掴まれたように痛む。その時、不意に雅に言われた「アールに恋心を抱いている」という言葉と、今迄読んだ恋愛小説に出て来た登場人物達の感情を表す多くの言葉が溢れるように思い出された——
——それらの言葉達がスライドパズルのようにカチカチと咲の脳内で整理されていく——
そして、漸く咲はある結論に達する。暫く固まって動かない咲の様子を心配して、アールが問いかける。
「どうした?」
咲は茫然とした様子でポツリと答える。
「好き」
(私、アールの事好き……なのかも)
「………」
恍惚とした表情で語る咲にアールは絶対零度の視線を向けている。
(以前言っていた[執拗な執着をされたい]という話か?)
アールは以前に咲が〈ヤンデレ〉のように執拗な執着をされたいと話していた事を思い出す。しかし、咲の意図は別にある為、話に乗って来ないアールの態度に焦り、続けて話し出す。
「絶対服従のMなのに、物言いはS的な?良いわ~SとMがコラボってるわ~ね、そう思わない?!」
「俺に同意を求めるな。」
(…御尤も…)
アールの発言に咲は尤もだと納得する。
咲は焦っていた。その焦りを悟られないよういつもの話題を必死にアールに振っている。しかし、その行為は完全に空回っていた。
「聖女って何な訳っ!?」
「藪から棒が過ぎるだろう!?」
アールの言葉を無視して咲はまたも話し続ける。
「聖の女って何?!」
「汚れなく清らかで神に生涯を捧げているという女の事だろう。」
「ふっ、」
咲は顔眉間に皺を寄せ、上から目線で鼻で息を短く吐く。アールが普段よく咲を小馬鹿にした際にする顔である。
「この上なく腹立たしい顔だな。」
「アールの顔真似ですっ!」
「俺の?」
アールの声のトーンが下がる。アールの端正な顔を視界に入れながら咲はゴクリと息を飲む。
「いや…すんませんっ!顔じゃなくて態度の間違い…そんな整った顔の真似なんて出来ないですっ!」
「さっきから何なんだ?情緒が不安定過ぎるだろう?」
「………」
咲が焦って空回っているのには訳がある。それは、先日雅が言った事をアールが実行している為だ。つまり、アールの大きさが人間の大きさになっているのだ。咲はアールを意識しないようにと、なるべく[いつも]通りに接しようと先程から試みているのだが、ことごとく空回っているという訳だ。
「お前、以前あいつが言っていた事を気にしているのか?」
「……ん?何の話?」
アールの突然の言葉に咲の思考は追いつかない。
「あいつ?」
「コピーだ」
(ナツが前に言ってた事?ナツ…何か言ってた??)
咲は怒りの沸点は高いが、持続性はない。アールは以前にナツが自分の魂の番を至高としているのに対して、咲の事を汚れているような言い方をした事を咲が気にして[聖女]の話を言って来たのだと考えていた。
しかし、〈聖女〉も〈従僕・侍従系〉話しも[いつも]していた異世界話しをする為に出した話題の一つに過ぎず、咲本人は既にナツの[汚れている]発言を何とも思ってはいなかった。その為、全く思い当たる事がないと首を捻る。
アールは少し言い難そうに口を開く。
「——お前が汚れているような事を言っただろう。」
「あー!」
そこで漸く咲は思い出す。
(あったねーそう言えば!)
咲はアールが考える以上に浅はかな人間であった——そんな咲の様子にアールは呆れたように眉間に皺を寄せ、鼻で息を短く吐きながら言う。
「何なんだ、お前は。」
アールは自分の心配した事柄を全く意に介していない様子の咲に呆れながらも安心する。その表情は先程、咲が真似た[以前のアールの態度]ではなく、呆れながらも慈愛に満ちた瞳で咲を見るアールの顔があった。
(っ!心臓が……)
アールの瞳の優しさに咲の心臓がギュッと鷲掴まれたように痛む。その時、不意に雅に言われた「アールに恋心を抱いている」という言葉と、今迄読んだ恋愛小説に出て来た登場人物達の感情を表す多くの言葉が溢れるように思い出された——
——それらの言葉達がスライドパズルのようにカチカチと咲の脳内で整理されていく——
そして、漸く咲はある結論に達する。暫く固まって動かない咲の様子を心配して、アールが問いかける。
「どうした?」
咲は茫然とした様子でポツリと答える。
「好き」
(私、アールの事好き……なのかも)
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