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#27【雅様】
しおりを挟むそれから雅にナツが富裕層であった事、マンションを買い戻して鍵を渡された事、ついでに萌子ちゃんの事を伝えた。
雅は怒り狂ったり、呆れたりしながら聞いていたが最後は冷静に言って来た。
「貰っちゃえば良いじゃん。」
雅の言葉が私の予想と違っていた為、私は驚く。「あんな奴から何か貰うなんてダメだ」等と言われると思っていた。そして私自身、マンションなんて高価な物をポンと受け取る事に正直躊躇いがある。
「えっ?そう思う?別れて半年以上経つし…今更な気も…というか、籍とかの以前だったし。」
ナツには戸籍がなく、離婚どころか結婚もしては居なかった。つまり、赤の他人だ。
「10年分の慰謝料だと思えば?[籍]云々と言うより、ナツさんに苦労は掛けられて来たのは事実なわけだし。別に良いんじゃない?」
と、雅がなんて事のないように言って来た。そう言われると(確かに、そうだなー)とも思う。
「それにお金持ってるみたいだし、あの人なら気にしないでしょ?」
(確かに、ナツもいつもの飄々とした様子で挨拶のように鍵渡して来たなー)
「何か…意外。雅は受け取るの反対すると思ってた…」
「そう?貰える物は貰うし、使える物は使う派だけどな?」
(確かに…そうでしたね…)
私は細い目で雅を見る。そして、もう一つの懸念事項を口にする。
「でも、これでナツとの関係が切りにくくなっちゃうよね…」
私は[充電]の事を考えながら伝える。つまり、ナツがわざわざマンションを用意したのは間違いなく充電行為の為だろう。すると雅は呆れた顔をしながら言って来る。
「は?あんたは相変わらずね…そんなの引っ越す前に鍵変えるに決まってるでしょ?」
(っ!?)
「貰っちゃえばこっちの物なんだから、何したって勝手でしょ?」
(流石は雅様っ!私には他所様から貰った高額な物に手を加えるなんて発想が無かったです!)
私が目を見開いていると雅が付け足すように言って来る。
「権利書もちゃんと貰っときなさいよ。」
(はい、ボス)
私は頷きながら脳内で返事をする。
※※※ここから三人称になります※※※
(それにしても…この2人、全く進展してなくない?)
赤飯を美味しそうに口に運ぶ咲と、静かにお茶を飲むアールの姿を見ながら雅は首を傾げる。
理性の弱い咲であればアールを意識すれば自然とボロが出て、何かしらの進展があると期待していた。…のだが、2人は全く以前と変わらない様子だ。
ナツだけではなく、咲の歴代の彼氏達の所謂[恋愛報告]は、気になる人が出来たや、良い感じの人が居るなどと言う事前報告ではなく、体の関係を持ち付き合う事になったという、ある意味本当の意味での事後報告のみだった。
その為、雅は咲が初めて恋心を持って恋愛する事をとても楽しみにしていた。勿論、自身の嗜好を楽しむ目的が大半を占めているのだが…雅は2人の様子を考察する。
咲はソファに座るアールに視線を移しては直ぐに視線を戻し、お茶を飲んだり、他愛のない話題を雅に振って来る。
(こんなに意識してるのに何で進展してないの?)
雅は改めて疑問を感じる。アールが足を組み替えれば咲の肩が反応して上がるし、アールがお茶を飲もうと前屈みにコップを取ろうとしても咲はビクリと跳ねる。どう見ても咲はアールの一挙手一投足に敏感に反応している。そして不意に気付く。
(ここまで慣れてないのもおかしいな……あっ!)
雅の脳内で点と点が繋がる。
「アールさんて普段は小さいんでしたっけ?」
「そうそう、いつもはこんな感じ。」
アールではなく、咲が答える。以前聞いた時の様に親指と人差し指で6センチ程の大きさを示す。
(それだっ!!)
雅は確信し、言葉を返す。
「いつもこの大きさで居たらいいのにー」
「っ!何でっ?!そんなのダメだよっ!」
「何で咲が嫌がるの?」
「だってそんなの!心臓持たないっ!!」
そう言って耳を赤らめ顔を手で覆う咲の姿に、雅の瞳の輝きが増す。
(キターー!!)
心の中で叫びながら、雅は平然とした様子で言う。
「何で、アールさんの大きさとあんたの心臓が関係する訳?」
「や、私もよく分からないけど、心臓の収縮率が高まるから…」
雅の問い掛けに答えながら、2人きりの時に今の大きさの状態のアールを想像する咲。すると、咲の心臓はギュッと収縮したように痛み、早鐘を打つ。胸元を掴みながら咲は雅に懇願する。
「ほらっ!今も考えただけでこんなに心臓が痛くなってるのっ!」
そう訴える咲にニッコリと微笑み、咲の両肩に手を置き己の顔を近付けてアールに聞こえないように伝える。
「そうね、貴方アールさんに恋心抱いちゃってるかね。」
「っ!?」
目を見開き驚く咲の肩から手を離し、雅はは立ち上がりながら続けて伝える。
「ふふふ、じゃ、そう事で、私は帰るわー。アールさん、なるべくその大きさで居てね。」
「っ!?雅っ!」
(そんな言い逃げの仕方あるっ!?)
咲は心の中で雅を叱責する。帰り支度を早速さとする雅にアールは不思議そうに尋ねる。
「大きは俺は何でも構わないが、咲の心臓の話は良いのか?」
「あぁ、咲の心臓は全然全く大丈夫ですよー。寧ろアールさんが普段からなるべく大きくいてくれた方が心臓も落ち着くので。」
「み、雅…」
弱々しく自分の名を呼ぶ咲の肩をポンと手を置き雅は告げる。
「ねー、大丈夫だよねー?」
緩やかに弧を描く雅の瞳は咲に有無を言わせない迫力があった。雅は更にアールに聞こえないよう小さな声で続ける。
「アールさんを意識して高鳴ってるだけだもんねー」
「っ!」
「初めての恋心に戸惑ってだけだもんね~」
「み、雅っ!」
身支度を済ませ、玄関で靴を履き終えた雅は振り返り和かな笑顔で言ってくる。
「じゃ、今度こそ次に会うの楽しみにしてるね~」
「み、雅~っ」
颯爽と去る雅の背中に咲は縋るように手を伸ばし雅の名を呼ぶが、雅が振り返ることはなかった。返事のない声の代わりとばかりに玄関ドアがパタンと鳴った。
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