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在ったかもしれない別の可能性
過去の因縁
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「剣を収めろだぁ?馬鹿かぁ!?相変わらず反吐の出る野郎だな!」
静止の声を掛けたライオネルに向かって毒づくスパーダの顔は、憎しみと怒りに染まっていた。
大鉈の切っ先を向けて、今からお前を殺すと宣言するかの様に殺気を放つスパーダは、悪鬼という表現すら生ぬるいプレッシャーを撒き散らす。
「5年ぶりだったかな?ガイウス陛下に拾われる前だったな。あれだけ痛めつけてやったのに、まだ弱者を嬲り者にする生活を送っているとは......今度は戦場に再起出来ないようにしてやろうか?」
「ライオネル殿は奴と面識があるのですか?」
「ああ、傭兵として過ごした少年時代には色々と因縁があってな。あいつはその筆頭だよ」
部下の疑問に答えながら、ライオネルは鞘から剣を抜き放つ。
陽光に照らされてキラリと光る剣からは、薄らと赤い闘気があふれ出ている。
獅子王ガイウス直伝の闘剣を受け継ぐ者は、総じて赤い闘気をその身に纏うようになる。
「そこの格好良い騎士様。そいつの相手は任せても良いのかな?仲間の手当てがしたいんだけど」
「構わんよ。盗賊達も全て引き受ける。君達は負傷者の手当てを頼む。おい!賊を捕縛しろ」
「はっ!武器を捨てれば命は取らん、おとなしく投降しろ!」
ケイの言葉に返事を返したライオネルは馬から下りて剣を構える。
にこやかに返事をしたかと思えば、その笑顔は何処へ消えたのか、そこには1人の武人が立っていた。
ライオネルに指示を受けた聖騎士達は盗賊達を捕縛しようと周囲へ散っていく。
勿論、命は取らない等と言われた所で、彼らが従う筈も無い。
改めて戦闘を始める者、逃げる者と反応は様々だったが、素人に毛が生えた程度の腕で精鋭たる聖騎士に逆らう事など出来る訳が無いし、身体能力が違い過ぎる為に逃げ切る事も出来なかった。
「さて、スパーダよ。我々の因縁にも決着をつけようか。傭兵の誇りを捨てて暗殺者の真似事までしたお前だ、左手を失うだけでは反省する材料にもならんようだな」
「反省だと?この頬に残る傷、失われた左手の痛み......一時たりとも忘れた事は無い。八つ裂きにしても飽き足らぬ!バラバラに刻んでゴブリン共の餌にしてくれるわ!」
2人の姿が霞む様に掻き消え、キィンキィンと金属同士がぶつかる音だけが周囲へと響き渡る。
まるで暴風が渦を巻き、目の前を漂っているのではないか?と、錯覚しそうになる程に激しい剣撃の応酬は周囲に破壊を撒き散らす。
停車している馬車は吹き飛ばされ、地面には何十もの爪痕が刻み込まれたし、森の木々は断ち切られて宙を舞った。
「腕を上げたじゃないかスパーダ。あの頃のままなら首と胴が泣き別れしていただろう」
「ふん......殺す為に肉体を鍛え、雑魚共を蹂躙する度に効率の良い殺し方を考えた。今の俺ならば、昔の俺など鎧袖一触に出来るだけの力がある」
「ならば見せてもらおうか。ついでに、この5年で成長したのはお前だけじゃない事を教えてやる」
断ち切る為の剣に対して、叩き切る為の大鉈で互角に戦うスパーダの腕はかなりの物だ。
重量差など有って無いかの様に軽々と扱う技術と膂力にはケイも舌を巻いた。
それに、ライオネルの鋭い剣撃を打ち払い、巻き落として反撃するには熟練の技術だけではなく、かなりの戦闘センスも必要だろう。
「ふん!はぁあああ!」
「ちぃ、らぁあああああ!しゃぁ!」
しかし、踏み込みの速さも、相手の攻撃を読む力もライオネルが上回っており、徐々にスパーダは劣勢に立たされていく。
パワーとスピードの乗った渾身の振り下ろしから、突如変形した必殺の突きがスパーダの心臓目掛けて放たれる。
しかし、読んでいたとばかりに受け止めた剣を強引に跳ね上げたスパーダは、ライオネルのこめかみを狙って鋭い蹴りを打ち込んだ。
「ぬぅうう......これほどまでに練り上げたか!目がチカチカする。俺じゃなければ首の骨が折れているな」
「頑丈な奴め。直径1メートルある木だって薙ぎ倒すケリを受けてその程度だと?本当に人間か?」
「闘気が無ければ即死だったな。とは言え、俺も出し惜しみが過ぎたようだ」
「負け惜しみとは情けない奴め。諦めてこのドレイクチョッパーの餌食になれ」
蹴りを受けた衝撃で途切れそうになる意識を繋ぎ止める為だろう。
頭を左右に振るライオネルを嘲笑うスパーダは、己の得物を見せ付ける様に突き出してライオネルを挑発する。
だが、ここからのライオネルはガラリと雰囲気が変わった。
体全体から滲み出る様に薄く纏っていた赤い闘気が色濃く存在を示し始め、白銀の鎧が赤熱するかのように強く輝きを生み出す。
「まだ完璧に己が血肉に変えた訳では無いが、闘気と魔力を融合させた魔闘気とでも言おうか......消耗が激しい技だ。次で決めるぞ?」
「ならばこちらも本気を出す。火竜を屠る大鉈よ!捧げた魂を代償に真の力を解放せよ!」
赤い輝きは強さを増し、真紅の光へ変わったオーラを纏うライオネルに対して、スパーダのドレイクチョッパーはズラリと並ぶ竜の牙を連想させる禍々しい形へと変貌していく、大鉈からあふれ出した毒々しい紫の光が竜の形を作り出して、スパーダの背に張り付く。
【ドレイクチョッパー】「レアリティ SR」
火竜の背骨から削り出した剣身にアダマンタイトをコーティングした大鉈。
わざと苦しめて殺した火竜の怨念が宿っており、殺害した生き物の魂を喰らう魂喰らいの一種となった。
溜め込んだ魂を消費して、増幅された呪いを吐き出す力を備えており、一度刃に触れれば傷は腐り落ちる。
又、呪いは肉体と同時に魂を蝕む為、腐り落ちて無くなった筈の部位が激しく痛む。
その激痛は大人でも絶叫したくなる位に強烈だという。
『この大鉈を掠らせるだけでも良い。鎧だろうが闘気だろうが関係ねぇ......触れれば腐り落ちてグズグズになっちまうんだからな。』
ライオネルが叫び声を上げて倒れ伏す姿を想像して背筋がブルりと震えた。
スパーダの喜悦は満面の笑みとなって表情に表れており、醜く歪んだ笑みを浮かべた口元を隠そうともしていない。
脳裏は殺意と狂喜に塗りつぶされて、もはや正常とは言い難い精神状態となったスパーダの脳は、普段セーブしている体のリミッターを解除していた。
「殺す殺す殺す殺す......ふひひひひぃひゃははははぁああああう!」
奇声を発しながら、地面を砕く程の強烈な踏み込みで飛び上がったスパーダは、回転ノコギリの様な凄まじい前方回転をしながらライオネルを目掛けてドレイクチョッパーを振り下ろした。
先程までとは次元の違う速度に驚愕したライオネルだったが、自身も人の域を超えた力を発揮している。
瞬時に回避行動へと移り、かろうじて致命の一撃を避ける事が出来た。
ジュウジュウと紫色の煙が立ち上り、地面がボコボコと煮えたぎるように泡立っている。
強力な腐敗の呪いは、大地のマナを喰らい尽くして泥沼を生み出すように徐々に広がっていく。
その惨状を目にしたライオネルは、防御など意味を成さないと一瞬で悟った。
「なんつー厄介な武器を持ってやがる。こりゃ、どっちが先に一撃入れるかの勝負だな」
言うが早いか、身に纏っていた白銀に輝く鎧を脱ぎ捨てたライオネルは、己の感覚を極限まで研ぎ澄ます為に集中状態へ没入する。
スパーダから発せられる歪な形の殺気が、チリチリと肌を焦がすように纏わりついてくる。
「次だ次だ、殺すぞぉ?ライオネルゥ!ライオネルーーー!」
「驚異的なスピードと鋭さだ。それに加えて人の限界を超えた膂力で振り下ろされる大鉈を受ければ、剣ごと両断されるだろうな。だが、俺は冷静だったお前の方が何倍も怖かったよ」
限界を超えた力で体を動かしているスパーダの全身が悲鳴を上げている。
ライオネルにはスパーダの体からブチブチと筋肉が切れる音が聞こえていた。
「ひやぁあああああ!ふぉう!」
「そこだ!はぁあ!」
「ひ、ぎぃやああああああああ!」
時間が経つ程に肥大していくドレイクチョッパーを、人を超えた異常な膂力に任せて叩き付ける様に振り下ろしたスパーダだったが、軌道を完全に見切ったライオネルによって義手の左手を切り飛ばされた。
その反動で、握られていた大鉈が左腕を深く切り裂いてクルクルと飛んでいく。
ボトリと肘から下が腐り落ち、グジュグジュと地面で解けた。
「む?はあ!」
「ぐひ!?あああああ!」
スパーダび左肘から上に向かって呪いが進行を始め、ボコリボコリと腕が水ぶくれの様に泡立ち始めたのを見たライオネルは、即座にスパーダの左腕を切り飛ばした。
大量に出血するが、腰のポーチから取り出したポーションを振り掛けると傷が塞がって出血が止まった。
「何のつもりだぁ!?殺せ!俺を殺せぇ!」
「殺したいのは山々だが、お前には罪を償って貰わねばならんのでな」
喚き散らすスパーダを縛ったライオネルは、当身を食らわせてスパーダの意識を奪った。
一息ついたライオネルは、部下達が捕縛した盗賊達を一箇所に集めるように指示を出す。
「ハイレベルな戦いだったわね。良い勉強になったわ。それで、馬車も無いのにどうやって盗賊を王都まで輸送するつもりなの?」
「それは大丈夫だ。本当なら馬車で連れ帰る所なんだが、今回は緊急出動だったから馬車の用意はしていないんだ。勿体無いが転移のスクロールを使用する事としよう」
「それならば私の所持しているスクロールをお使いください騎士様」
馬車から降りたグリム氏が取り出したのは個人用の安いスクロールでは無く、軍団用の多人数を纏めて転移させる高級品だった。
息子の命ばかりでなく、己の命まで救われた礼にスクロールを差し出すと、ライオネルはグリム氏へ礼の言葉を告げて受け取る。
その背後で意識を取り戻したスパーダに気が付かず話を進める。
「かなり多くの犠牲が出てしまったが、今回の一件で盗賊も捕縛出来たから良しとするしかないな」
「ダラスとマチスはスパーダぶ殺されていたそうよ。残念だけど、ケイは自分のせいだとか言って自らを追い込まないでね」
シェニーとレイジーに回復魔法を使用しながら、やりきれない表情のラプラスがケイに釘を刺す。
「何台か壊れた馬車があるので、修理してからの出発になります。申し訳ありませんが、ケイ殿とラプラス殿」
「僕も馬車の修理なら手伝えます。戦闘では役に立てませんでしたが、雑用はこちらで終わらせますので皆さんは休憩していてください」
安心して休憩を取ろうとしたその時だった。
「何十年掛かっても、この腕の落とし前は必ず付けるぜ?幸福な未来が来ると思うなよ?」
体を縛り付けたはずの縄を引きちぎったスパーダが転移魔法を唱えて姿を消していく所だった。
忌々しげにライオネルを見るスパーダの顔には冷静さが戻っており、ズキズキと痛む存在しない筈の左腕を幻視して呻いている。
「復讐だ......覚えておけよ!ライオネル!」
そう言い残してスパーダは消えていった。
ライオネル達聖騎士も転移のスクロールを使用して帰っていった。
交換する部品も殆ど持っていなかった為、部品も魔法での結合や、魔法で素材を加工してから作る現地調達だった。
あっという間に時間は過ぎ、ケイ達が出発したのは翌日の昼前だった。
静止の声を掛けたライオネルに向かって毒づくスパーダの顔は、憎しみと怒りに染まっていた。
大鉈の切っ先を向けて、今からお前を殺すと宣言するかの様に殺気を放つスパーダは、悪鬼という表現すら生ぬるいプレッシャーを撒き散らす。
「5年ぶりだったかな?ガイウス陛下に拾われる前だったな。あれだけ痛めつけてやったのに、まだ弱者を嬲り者にする生活を送っているとは......今度は戦場に再起出来ないようにしてやろうか?」
「ライオネル殿は奴と面識があるのですか?」
「ああ、傭兵として過ごした少年時代には色々と因縁があってな。あいつはその筆頭だよ」
部下の疑問に答えながら、ライオネルは鞘から剣を抜き放つ。
陽光に照らされてキラリと光る剣からは、薄らと赤い闘気があふれ出ている。
獅子王ガイウス直伝の闘剣を受け継ぐ者は、総じて赤い闘気をその身に纏うようになる。
「そこの格好良い騎士様。そいつの相手は任せても良いのかな?仲間の手当てがしたいんだけど」
「構わんよ。盗賊達も全て引き受ける。君達は負傷者の手当てを頼む。おい!賊を捕縛しろ」
「はっ!武器を捨てれば命は取らん、おとなしく投降しろ!」
ケイの言葉に返事を返したライオネルは馬から下りて剣を構える。
にこやかに返事をしたかと思えば、その笑顔は何処へ消えたのか、そこには1人の武人が立っていた。
ライオネルに指示を受けた聖騎士達は盗賊達を捕縛しようと周囲へ散っていく。
勿論、命は取らない等と言われた所で、彼らが従う筈も無い。
改めて戦闘を始める者、逃げる者と反応は様々だったが、素人に毛が生えた程度の腕で精鋭たる聖騎士に逆らう事など出来る訳が無いし、身体能力が違い過ぎる為に逃げ切る事も出来なかった。
「さて、スパーダよ。我々の因縁にも決着をつけようか。傭兵の誇りを捨てて暗殺者の真似事までしたお前だ、左手を失うだけでは反省する材料にもならんようだな」
「反省だと?この頬に残る傷、失われた左手の痛み......一時たりとも忘れた事は無い。八つ裂きにしても飽き足らぬ!バラバラに刻んでゴブリン共の餌にしてくれるわ!」
2人の姿が霞む様に掻き消え、キィンキィンと金属同士がぶつかる音だけが周囲へと響き渡る。
まるで暴風が渦を巻き、目の前を漂っているのではないか?と、錯覚しそうになる程に激しい剣撃の応酬は周囲に破壊を撒き散らす。
停車している馬車は吹き飛ばされ、地面には何十もの爪痕が刻み込まれたし、森の木々は断ち切られて宙を舞った。
「腕を上げたじゃないかスパーダ。あの頃のままなら首と胴が泣き別れしていただろう」
「ふん......殺す為に肉体を鍛え、雑魚共を蹂躙する度に効率の良い殺し方を考えた。今の俺ならば、昔の俺など鎧袖一触に出来るだけの力がある」
「ならば見せてもらおうか。ついでに、この5年で成長したのはお前だけじゃない事を教えてやる」
断ち切る為の剣に対して、叩き切る為の大鉈で互角に戦うスパーダの腕はかなりの物だ。
重量差など有って無いかの様に軽々と扱う技術と膂力にはケイも舌を巻いた。
それに、ライオネルの鋭い剣撃を打ち払い、巻き落として反撃するには熟練の技術だけではなく、かなりの戦闘センスも必要だろう。
「ふん!はぁあああ!」
「ちぃ、らぁあああああ!しゃぁ!」
しかし、踏み込みの速さも、相手の攻撃を読む力もライオネルが上回っており、徐々にスパーダは劣勢に立たされていく。
パワーとスピードの乗った渾身の振り下ろしから、突如変形した必殺の突きがスパーダの心臓目掛けて放たれる。
しかし、読んでいたとばかりに受け止めた剣を強引に跳ね上げたスパーダは、ライオネルのこめかみを狙って鋭い蹴りを打ち込んだ。
「ぬぅうう......これほどまでに練り上げたか!目がチカチカする。俺じゃなければ首の骨が折れているな」
「頑丈な奴め。直径1メートルある木だって薙ぎ倒すケリを受けてその程度だと?本当に人間か?」
「闘気が無ければ即死だったな。とは言え、俺も出し惜しみが過ぎたようだ」
「負け惜しみとは情けない奴め。諦めてこのドレイクチョッパーの餌食になれ」
蹴りを受けた衝撃で途切れそうになる意識を繋ぎ止める為だろう。
頭を左右に振るライオネルを嘲笑うスパーダは、己の得物を見せ付ける様に突き出してライオネルを挑発する。
だが、ここからのライオネルはガラリと雰囲気が変わった。
体全体から滲み出る様に薄く纏っていた赤い闘気が色濃く存在を示し始め、白銀の鎧が赤熱するかのように強く輝きを生み出す。
「まだ完璧に己が血肉に変えた訳では無いが、闘気と魔力を融合させた魔闘気とでも言おうか......消耗が激しい技だ。次で決めるぞ?」
「ならばこちらも本気を出す。火竜を屠る大鉈よ!捧げた魂を代償に真の力を解放せよ!」
赤い輝きは強さを増し、真紅の光へ変わったオーラを纏うライオネルに対して、スパーダのドレイクチョッパーはズラリと並ぶ竜の牙を連想させる禍々しい形へと変貌していく、大鉈からあふれ出した毒々しい紫の光が竜の形を作り出して、スパーダの背に張り付く。
【ドレイクチョッパー】「レアリティ SR」
火竜の背骨から削り出した剣身にアダマンタイトをコーティングした大鉈。
わざと苦しめて殺した火竜の怨念が宿っており、殺害した生き物の魂を喰らう魂喰らいの一種となった。
溜め込んだ魂を消費して、増幅された呪いを吐き出す力を備えており、一度刃に触れれば傷は腐り落ちる。
又、呪いは肉体と同時に魂を蝕む為、腐り落ちて無くなった筈の部位が激しく痛む。
その激痛は大人でも絶叫したくなる位に強烈だという。
『この大鉈を掠らせるだけでも良い。鎧だろうが闘気だろうが関係ねぇ......触れれば腐り落ちてグズグズになっちまうんだからな。』
ライオネルが叫び声を上げて倒れ伏す姿を想像して背筋がブルりと震えた。
スパーダの喜悦は満面の笑みとなって表情に表れており、醜く歪んだ笑みを浮かべた口元を隠そうともしていない。
脳裏は殺意と狂喜に塗りつぶされて、もはや正常とは言い難い精神状態となったスパーダの脳は、普段セーブしている体のリミッターを解除していた。
「殺す殺す殺す殺す......ふひひひひぃひゃははははぁああああう!」
奇声を発しながら、地面を砕く程の強烈な踏み込みで飛び上がったスパーダは、回転ノコギリの様な凄まじい前方回転をしながらライオネルを目掛けてドレイクチョッパーを振り下ろした。
先程までとは次元の違う速度に驚愕したライオネルだったが、自身も人の域を超えた力を発揮している。
瞬時に回避行動へと移り、かろうじて致命の一撃を避ける事が出来た。
ジュウジュウと紫色の煙が立ち上り、地面がボコボコと煮えたぎるように泡立っている。
強力な腐敗の呪いは、大地のマナを喰らい尽くして泥沼を生み出すように徐々に広がっていく。
その惨状を目にしたライオネルは、防御など意味を成さないと一瞬で悟った。
「なんつー厄介な武器を持ってやがる。こりゃ、どっちが先に一撃入れるかの勝負だな」
言うが早いか、身に纏っていた白銀に輝く鎧を脱ぎ捨てたライオネルは、己の感覚を極限まで研ぎ澄ます為に集中状態へ没入する。
スパーダから発せられる歪な形の殺気が、チリチリと肌を焦がすように纏わりついてくる。
「次だ次だ、殺すぞぉ?ライオネルゥ!ライオネルーーー!」
「驚異的なスピードと鋭さだ。それに加えて人の限界を超えた膂力で振り下ろされる大鉈を受ければ、剣ごと両断されるだろうな。だが、俺は冷静だったお前の方が何倍も怖かったよ」
限界を超えた力で体を動かしているスパーダの全身が悲鳴を上げている。
ライオネルにはスパーダの体からブチブチと筋肉が切れる音が聞こえていた。
「ひやぁあああああ!ふぉう!」
「そこだ!はぁあ!」
「ひ、ぎぃやああああああああ!」
時間が経つ程に肥大していくドレイクチョッパーを、人を超えた異常な膂力に任せて叩き付ける様に振り下ろしたスパーダだったが、軌道を完全に見切ったライオネルによって義手の左手を切り飛ばされた。
その反動で、握られていた大鉈が左腕を深く切り裂いてクルクルと飛んでいく。
ボトリと肘から下が腐り落ち、グジュグジュと地面で解けた。
「む?はあ!」
「ぐひ!?あああああ!」
スパーダび左肘から上に向かって呪いが進行を始め、ボコリボコリと腕が水ぶくれの様に泡立ち始めたのを見たライオネルは、即座にスパーダの左腕を切り飛ばした。
大量に出血するが、腰のポーチから取り出したポーションを振り掛けると傷が塞がって出血が止まった。
「何のつもりだぁ!?殺せ!俺を殺せぇ!」
「殺したいのは山々だが、お前には罪を償って貰わねばならんのでな」
喚き散らすスパーダを縛ったライオネルは、当身を食らわせてスパーダの意識を奪った。
一息ついたライオネルは、部下達が捕縛した盗賊達を一箇所に集めるように指示を出す。
「ハイレベルな戦いだったわね。良い勉強になったわ。それで、馬車も無いのにどうやって盗賊を王都まで輸送するつもりなの?」
「それは大丈夫だ。本当なら馬車で連れ帰る所なんだが、今回は緊急出動だったから馬車の用意はしていないんだ。勿体無いが転移のスクロールを使用する事としよう」
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その背後で意識を取り戻したスパーダに気が付かず話を進める。
「かなり多くの犠牲が出てしまったが、今回の一件で盗賊も捕縛出来たから良しとするしかないな」
「ダラスとマチスはスパーダぶ殺されていたそうよ。残念だけど、ケイは自分のせいだとか言って自らを追い込まないでね」
シェニーとレイジーに回復魔法を使用しながら、やりきれない表情のラプラスがケイに釘を刺す。
「何台か壊れた馬車があるので、修理してからの出発になります。申し訳ありませんが、ケイ殿とラプラス殿」
「僕も馬車の修理なら手伝えます。戦闘では役に立てませんでしたが、雑用はこちらで終わらせますので皆さんは休憩していてください」
安心して休憩を取ろうとしたその時だった。
「何十年掛かっても、この腕の落とし前は必ず付けるぜ?幸福な未来が来ると思うなよ?」
体を縛り付けたはずの縄を引きちぎったスパーダが転移魔法を唱えて姿を消していく所だった。
忌々しげにライオネルを見るスパーダの顔には冷静さが戻っており、ズキズキと痛む存在しない筈の左腕を幻視して呻いている。
「復讐だ......覚えておけよ!ライオネル!」
そう言い残してスパーダは消えていった。
ライオネル達聖騎士も転移のスクロールを使用して帰っていった。
交換する部品も殆ど持っていなかった為、部品も魔法での結合や、魔法で素材を加工してから作る現地調達だった。
あっという間に時間は過ぎ、ケイ達が出発したのは翌日の昼前だった。
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そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
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