異世界転生する事になったけど、必死に努力する自前の精神力しか頼れるものはありませんでした。

SAKI

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在ったかもしれない別の可能性

エルフのお姉さんはいかが?

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 紹介状を持って冒険者ギルドへ向かったケイだったが、道行く人がチラチラとこちらを見てくるのが気になる。

 「何で皆がチラチラ見てくるのかな?そんな目立つ格好はしてないと思うんだけど」
 
 自分の服装を見直しても特に変な所は無い。
 旅人が好んで着る丈夫な生地の服に、鋼鉄製の剣と魔獣の毛皮で編んだローブ。
 長旅に耐える丈夫なブーツも目立たないように、地味なデザインを選んだ。

 『お前さんは全然自覚が足らんのう。旅装束の可愛い娘が、剣をぶら下げて貴族街から歩いてきたら何事かと思うわい。この国の貴族は騎士ばかり重用して、冒険者は緊急時や戦争くらいにしか使わんじゃろ?』

 「確かにそうだね。騎士王国って言うだけあって、貴族の男児が騎士団に入るのは義務みたいな物だし、冒険者の自由な生き方は騎士とは真逆だもの。価値観が違えば道は簡単に交わらないわ」

 この国の貴族は傭兵や冒険者を軽く見ている所がある。
 騎士団が精強である事は認めるけど、私は彼らの国に対する貢献は大した物だと思う。

 『つまり、お前さんはそんな冒険者の一人になったわけじゃ。荒くれ者も多い家業となれば、お前さんみたいな垢抜けない娘はレアキャラっちゅう奴じゃの』

 爺さんの言いたい事は分かったが、本当にそれだけかだろうか?
 もっとイヤラシイ目線も感じる気がするんだが......自意識過剰なのかもしれない。

 『おお!これだけはお前さんに伝えにゃならんのう。坂が急じゃから......下からだとスカートからパンツ丸見えじゃっだわい』
 「それはもっと早く言ってよぉおお!!わーん!」

 開放感から油断し過ぎていた。
 屋敷にいる時は丈の長いスカートが多かったし、訓練する時はズボンだったのだ。
 ミニスカートなんか穿くんじゃ無かったぁああ!

 『相変わらず、男なのか女なのかハッキリせんのう。見せ付けてやればええじゃろうが、別に減るもんじゃあるまい』
 「減るんだよ。心の中で何かがね?お父様が悲しむ気がするしさ」
 『彼奴が生きておったら、男の歩行者は皆殺しにされておったじゃろうな』
 
 考えるだけでも恐ろしい。我が父ながら、娘愛に狂う様がありありと目に浮かぶ。
 なんて考えながら歩いている内に、無事冒険者ギルドへ到着したわけだが。
 騎士王国アゲートにある、冒険者ギルドオニキス支部は、王都だけあって規模が大きい。
 5階立てで500坪位はあるだろうか?酒場だけでなく、武器、防具、道具、魔法書なんかも扱っている店が併設されており、大型のショッピングモールのようだ。

 「ここが冒険者ギルドか、ワクワクするね!異世界に来たらここには来たいと思ってたんだ」

 胸を躍らせながらキョロキョロと見渡す姿は、田舎から出てきたばかりのおのぼりさんそのものだったが、興奮している私はそれ所では無かった。
 受付カウンターはあそこかな?可愛い受付嬢か、美人の受付嬢が定番だよね!って......私は女だったよ。

 「あら?お嬢ちゃんはどうしたのかな?もしかして、冒険者登録?」

 受付は上品な雰囲気のお姉さんで、耳から察するにエルフだろうと思う。
 美しい黄金の髪に、宝石の様な碧眼が優しげな眼差しを向けている。
 スレンダーなイメージだったのに、バインバインだ!私も年の割には大きいと思っていたけど、桁が違った。
 メロンか!それはメロンなのか!という感じだ。

 「私はシルフィ・シルフィエットよ。ようこそ冒険者ギルドへ!貴女を歓迎するわ」
 「ありがとうございます。こ、これ紹介状です。お父様......いえ、父がギルドマスターに渡すようにと」
 「魔法で封印が掛かっているのね。ここで開ける事は出来ないわ。OK、こっちに来てくれるかしら」

 立ち上がると揺れる二つの果実が目に入る。
 うう、私はどうすれば。見た目は女、頭脳は男......目が離せない。

 「もう、エッチな目ね。貴女も何年かすればこれぐらいになれるわよ。あまりジロジロと見られると、私も恥ずかしいわ」
 「ひゃい!?ご、ごめんなさい」

 バレバレだったぁあああ!そりゃそうだ。
 私も女に生まれたからか、その手の視線には敏感になった。
 流石に同性とはいえガン見し過ぎだったよ。

 「ここがギルドマスターの部屋よ。少し散らかっているけれど気にしないで」
 「はぁ、ここにギルドマスターが......」
 「シルフィエット入ります」

 扉をノックしたシルフィエットがガチャリと扉を開けて中に入ると、室内はシーンと静まり返っていた。
 正面にある木製の大きな机が執務用の机だろう。
 ツヤツヤと美しく輝いており、熟練した職人が作ったのであろう事が容易に想像できる。
 きめ細かい模様が掘り込まれているが、凄いのは眺める角度によって違う顔を見せる不思議な所だ。
 量産品ではなく、一品物であるが故のこだわりを感じさせる。

 「所でギルドマスターはどこに居るのですか?」

 部屋を見渡す限り、それらしき人物は居ない。
 もしかして、タイミング悪く留守の時に来てしまったのだろうか?と考えていると、シルフィエットさんが執務机の椅子に腰掛ける。
 背もたれに倒れこみ、ふーと息を吐き出してリラックスすると、姿勢を正して私に視線を向ける。

 「厳ついオッサンが居ると思った?それとも、渋い爺さんが座ってると思った?ざーんねん!なんと!シルフィエットさんがギルドマスターでしたぁ!驚いた?驚いた?」
 「うぉい!?ノックした意味ねーだろ!」
 「あらん、乱暴な娘ね。猫被ってたのかしら?」

 ぐぅ......しまった。つい、怒りで本性を見せてしまった。
 受付にギルドマスターが居るとかテンプレじゃねーか。俺とした......私とした事が、取り乱すなんて情けない。
 やり手ばば......恐ろしい殺気を感じた。この美しいお姉さまはかなりのやり手らしい。

 「この魔力はバルクホーンね。魔法は苦手だけど、これは必要だから私が教えたのよね。なになに......」

 ピンと空中に向かって手紙を弾くと、空中で中身が展開されていく。
 文章を目で追うシルフィエットは、先ほどとは打って変わり真剣な顔つきで読んでいる。

 「貴女はケイティアっていうのね。アルジェントでは目立つからクランブルの姓でギルドに登録するのね。別にいいけれど、貴女の実力なら遅かれ早かれ身元がばれるわよ?」
 「近い内に国を出るので大丈夫です。それに、目立たないように上手くやる自身はあるので」
 「あの子もこんな可愛い娘を残して死ぬなんて......そんな生き方してたら長生き出来ないわよ?って忠告は無駄になったようね。」
 
 親しい仲だったらしく、酷く悲しげな雰囲気で手紙を見るシルフィエットは、何かを思い出しているのか天井を見上げて独り言を呟いた。

 「皆が私より先に逝ってしまうわ......長命種であるこの身が憎い」

 ハッと我に返ったシルフィエットは会話の続きをしようと、ケイに向き直った。

 「登録を許可します。細かい決まりとかはこの冊子に書いてあるから、読んで覚えて頂戴な。普通ならEランクから始めて貰うんだけど、貴女はDランクからで良いわ。俺より強くなってるだろう!なんて書かれたら試験をする気にもならないわよ。化け物クラスって事だもんね」

 お父様とどんな関係だったのかは分からないけれど、それはそれで嬉しいのだろうか、私に笑顔を向ける彼女はとても魅力的だった。
 引き出しから銀色のカードを取り出したシルフィエットは、空中に魔方陣を展開すると呪文を唱え始める。
 クルクルと回る魔法陣に魔力が流れ込み、一瞬発光した後で吸い込まれるようにカードヘと流れ込んだ。

 「これで良し!後はケイティアの血を1滴垂らすだけよ。ほら、机の上に針が立ってるでしょ?それを使ってくれるかしら」
 「個人認識情報って奴ですか?実に興味深いですね」
 「そこまで難しい物でもないんだけれど、偽者や犯罪を防止する為に個人の識別は必須なの。今ではこれも当たり前になたけれど、昔は偽造証明書が作られたりしてトラブルが起きた事もあったそうよ」

 プスリと針に親指を突き刺すと、ジワリと豆粒のように血が染み出してきた。
 カードに血を付けると、前世で言う運転免許所のようなデザインが浮かび上がってきた。

 「これで登録完了ね。このカードは銀行口座代わりにもなっているから、何処の支部へ行っても預けたお金が引き出せるわ。依頼達成の報酬も口座に振り込まれるから、無くさないように注意してね?」
 「この冊子を読んで勉強しておきます」
 「うむ、それでよろしい!食事の支払いとか買い物なんかにも使えるから活用すると良いわ」
 
 発行されたカードを受け取った後、私達2人は来た道を引き返した。

 「ああん?俺の言う事が聞けねぇってのか!?」
 「この買取価格は適正値です。品質に問題が無ければもっと高値で捌けますが、これでは買い手を捜すのにも一手間掛かります。嫌ならお引取り下さっても良いのですよ?」

 ガラの悪い冒険者と、如何にもインテリな感じの眼鏡を掛けた受付の男が言い争いをしている。

 「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって!このBランク冒険者のガルダン様が、わざわざ獲物を持って来てやったのに」
 「たかがBランク程度で偉そうに言う物だ。実力に見合わない獲物を仕留めようとするからこうなる。そのランクだって、実力ではなく手柄を横取りして得た物じゃないのか?」
 「てんめぇえええ!ぶっ殺す!表に出やがれ!!」
 「何故私が君の指示に従わなければならないんだい?寝言は寝てから言う物だ」

 癇に障る物言いをする眼鏡の男は、話にならないと挑発し、とうとうガルダンという冒険者もキレたようだ。
 腰に吊るした2本の手斧を外し、受付のテーブルに飛び乗ると、構えを取る間も無く斧を投擲した。

 「馬鹿な真似をするな!!この愚か者め!」
 「うぉあ!?あうん!」

 瞬時に移動したケイが手斧を切り飛ばし、ガルダンの足を剣の平で強かに打ち付け、空中を舞うガルダンの顔を殴り飛ばした。
 疾風の様に現れたケイが一瞬でガルダンを叩きのめした場面を見て、その場に居た皆が言葉を失う。

 「ありゃー。目立たないんじゃなかったのかしら」

 やれやれとため息を付いたシルフィエットだったが、トラブルを起こした2人をどうしてくれようかと頭を悩ませるのだった。
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