異世界転生する事になったけど、必死に努力する自前の精神力しか頼れるものはありませんでした。

SAKI

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在ったかもしれない別の可能性

クォーツに降り立つ

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 食料や素材なんかを詰め込めるだけ詰め込んだ俺は、今までで一番忙しい3日間を終えた。

 『その家と庭に生えとる木も持っていくんじゃぞ?なに、常識に縛られるからいかんのじゃよ。収納と念じれば入らん物などほとんど無いわい』

 実は、厄介な事にあの爺さんの思念というか、別人格というかがナビゲーターとして■■■スキル内に存在するらしく。あれこれとやかましく進言してくるのだ。

 『ふふん、ワシほどありがたーい存在はおりゃせんわいのう。ほほほほほ......あ、スキル切らないでね?無効にしないでね?ワシ喋れんくなっちゃうからのう』
 
 ほう、それは良い事を聞いた。
 あまり煩いようなら切るからね?マジで切るからね?

 そうこうしている間に時間が来たらしく箱庭が崩壊していくのが分かる。

 『今じゃ!可能性を収納と念じるのじゃーーー!!!!!』
 
 は?今なんつった?可能性を収納だ?

 『ええからはよせい!直ぐせい!今すぐ念じるのじゃ!グズグズするな!』
 「はいはい、可能性を収納」

 すると、見えない何かがアイテムボックスに収納されていくのが分かった。

 【アイテムボックス】
 
 【無限の可能性】「レアリティ ■■■」
 ■■■■■■■■■■■■■■■。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
 ■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 なんじゃこりゃ、全部バグってんじゃねーか。

 『おおおおお!やったのう!これはワシが管理者をやり始めてから考えた究極のチートじゃて!上手くいくかは賭けじゃったが、まさか本当に出来るとはな......くくく、上位世界の神達も唖然としておるじゃろうよ』

 なんだかとんでもない事をしでかしたのかもしれん。上位世界の神とか言ってるんだが大丈夫だろうか?

 『それのう。装備でもスキルでも、モンスターでも人でも、何でも創造出来るぞい。』 
 「はぁ!?それこそ神の所業じゃねーか!ばっかじゃねーの!ばーか!マジでばーか!」
 『お前さん容赦ないのう。ワシの本体が命がけで託したチートじゃのに......あんまりじゃないかのう』

 何やら説明を聞くと、世界のバランスを著しく崩す可能性があるので、管理神ですら上位世界の神から許可を貰わなければ使用出来ない物質らしい。
 概念的なアイテムを収納するなんて考え付く物じゃないし、現物を知らなければ使う事も出来ないだろう。

 『あちらの世界の物質に混ぜる使い方もあるが、それをやるとお前さんと同じで異物扱いになる可能性が高いのう。まぁ、お前さんを実力で排除できる管理者のような存在はあちらの世界にも居るじゃろうが、存在を隠蔽するスキルも稼動しとるでな。お前さんが育ち切るまでに見つかる事も無かろうよ』

 会話している間にクォーツへ到着したらしく、魂だけの存在だった俺は新たに生まれ変わる事になった。


 【クォーツ】【騎士王国アゲート】【王都オニキス】【アルジェント家】

 「奥様が無事出産なさいました。大変残念ですが、世継ぎにはなれません。女の子です」
 「そうか。しかし、そんな事はどうでも良い!子供はまた作れるさ。それより愛しい我が子が生まれた事が重要なのだ!」
 
 2メートル近い巨体に100キロを超える頑強な鋼の筋肉を供えた歴戦の英雄。
 戦場の死神とまで言われる【アルジェント・バルクホーン】が厳つい顔に似合わぬ笑顔で部屋に入る姿は、誰もが想像し得ない姿だっただろう。
 もし、そんな者が居るとすれば、目の前に赤子を抱えて微笑む彼女だけだっただろう。

 「マリー!でかしたぞ!良くぞ我が娘を産んでくれた!」
 「旦那様......申し訳ございません。この戦乱の世、少しでも早く世継ぎを残さねばならぬ時に男児を生む事が出来ず......我が身を恥じるばかりでございます」
 「何を言う!子供など何人でも生めば良いのだ!私の愛は何があっても変わらぬ!」

 壊れ物を扱うかのように優しく丁寧に抱きしめるバルクホーンは、涙を流す我が妻と生まれたばかりの娘が生涯の宝であると確信していた。
 2人を守る為ならば、今この瞬間からでも悪鬼羅刹と成らん覚悟が心に宿るのを感じていた。

 「旦那様、感激なさっている所に水を指すようで申し訳ありませんが、マリーベル様は産後で酷く消耗されておいでです。ゆっくりとお休み頂く必要がありますので、この辺で一度」
 「クラウスか。うむ、忠言感謝するぞ!お前の言う通りだ。マリー、ゆっくりと休むのだ」

 アイテムボックスからスタミナ回復ポーションを取り出すとコトリと机に置き、バルクホーンは部屋から出て行くのだった。

 「旦那様、肝心な名前の方は決まっておいでなのですか?医師の判別では男児を授かる予定だったと記憶しておりますが......」
 「抜かりは無い。色々考えてはいたのだ。しかしながら、いざ生まれた娘を見てみれば、こうフワリと新たな名前が自然に思い浮かんだというか......まるで生まれる前から決まっていたかのような気すらする名が浮かんだのだ」
 
 腕を組んだバルクホーンが勿体ぶるのだが、クラウスはそれがバルクホーンが嬉しい秘密を打ち明ける時にする癖だと知っているので、落ち着いて主人の言葉を待つ。

 「ケイティアだ!娘の名はアルジェント・ケイティア!愛称はケイと決めた!」
 「ケイティア様ですか......素晴らしい名前です!きっと美しい女性に育つでしょうな」
 「そうであろう!無骨な俺に似ず、マリーに似た優しい目元をしておったからなぁ!ふははははは」

 アルジェント家に大音量で響き渡るバルクホーンの声は、屋敷の壁を突き抜けて隣のパトリック邸にまで木霊したという。
 こうして、無事転生を果たしたケイだったが、誤算が一つあった。
 男に生まれるはずが、何の因果か女として生まれてしまったことである。

 『本人はまだ覚醒しておらぬしのう。まぁ、家族の反応を見て気づくじゃろうて。ほっほっほ......ワシしーらんっと』

 転生する時に男とは言っていない。
 確かにそうであるが、本人が面白い反応をするであろう事は確定しており、それを楽しみに待っている自分が居る事に夜刀神は苦笑したのだった。

 
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