異世界転生する事になったけど、必死に努力する自前の精神力しか頼れるものはありませんでした。

SAKI

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王都の闇編

インフィナイト・ガイウス・ザガート~解き放たれた約束~

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 2階の攻略を早々に済ませたダンケルクは先に1階を探索していた。1階の欠片は5個とかなり多い数が配置されていた。
 新たに1階で2個の欠片を獲得したダンケルクは欠片の手持ちが5個になった。残り3個の欠片はキッチンと応接室にそれぞれ1個づつあり、残りの1個は赤い光点と一緒に移動している。
 
 「まずはキッチンからだな」

 バラバラにされて丁寧に料理された嫌な光景がフラッシュバックしたダンケルクは嫌な表情を浮かべる。2階は2階で嫌な思いをしたが、1階はメイド服を着たグールやワイトの群れに復讐するように槍撃を浴びせて破壊していく。

 「ゴミはゴミらしくイクシードの糧となるが良いわ!貴様らの安い命でも足しにはなるだろう」

 ニヤリと下卑た笑みを浮かべながら次々とアンデット達を貫くダンケルクだったが、突如崩落した天井に飲まれて意識を失った。
 目を覚ますと手足を縛られて拘束されたダンケルクは、またしてもキッチンで恐怖体験をする事になる。

 「お目覚めのようですな公爵様、お腹は空いていませんか?極上の腸詰が完成しましてね!是非、ご賞味頂きたいと思っていた所でして」

 確かに、あの時とは違ってキッチンには良い香りが漂っている。更に盛って出された極太の腸詰はスープでじっくりと煮込まれたらしく、ハーブと調味料の芳しい香りを漂わせているではないか。
 しかし、ここはアンデットが徘徊する館の中、材料が何かも分からない得体の知れぬ料理を口にする勇気は無かった。

 「ささ、熱い内にどうぞ!......と言っても腕を縛っていては食べる事も出来ませんね。私が食べさせてあげましょう」
 「む、ぐ」

 口を閉じて食べるのを拒否するダンケルクの態度を見て、徐々に表情が険しくなっていくコックだったが、沸点は思った以上に低かったらしく、1分と立たぬ内にその怒りをぶちまける。

 「食べろって言ってるだろうが!このクソ野郎が!オラァ!」

 顔面を殴りつけ、蹴り飛ばし、ザクザクと体に包丁を突き立てると、満足したのかニコリと微笑んで料理を勧めてくる。
 
 「大丈夫ですよ。毒なんか入っていませんし、腐ったゾンビ共の肉なんか使っていませんから食え!早く!」
 
 だんだんイライラしてきたのか、口調が荒くなってきたコックが強引に口をあけて腸詰を口に放り込む。観念したダンケルクは腸詰を咀嚼すると、その素晴らしい味わいに感嘆する。
 しっかり下味を付けられた粗挽き肉に、香草とスパイスを練りこんで作り上げた腸詰は絶品だった。ブツリと齧り付く度に、ジュワっと溢れ出す肉汁の旨みに、思わず頬が緩む。

 「旨いだろう?俺のような素晴らしい腕を持ったコックを、貴様は料理の見た目が気に食わないと殺したんだよ!王都でも1.2を争う腕だと言われたこの俺をな!」

 口に入る限界を無視して次々と入れられる腸詰を必死に咀嚼して飲み込むダンケルクだったが、いい加減喉が渇いてきたと思った所で、コックがワインの注がれたグラスを2つ持ってくる。

 「至福の時間を味わった所で乾杯しましょう。私はもう満足しましたよ。これで過去の事は水に流します」

 ニコリと笑ったコックが乾杯と自分でグラスを打ち鳴らし、自分とダンケルクに向けてワイングラスを傾ける。

 「美味しかったでしょう?ご自分の腸で包んだ奥様の肉は!」

 !!?......思考が纏まらず、自分の腹部を見るがナプキンで見えないようにされている為、確認する事が出来ない。

 「ご安心ください。死なないように微弱な治癒魔法をかけながら丁寧に取り出しまして縫合しましたから、お腹は空っぽですが問題ないでしょう。痛みも麻痺させていますから、ご自分が腸詰になっているとは......ククク。思わねぇよなあ!ハハハハハ!」
 
 更に怒りを愉悦に変えたコックは、己の所業に酔いしれているのか、事実を暴露していく。

 「あの墓穴の最奥には奥様の遺体を安置していたでしょう?魔道具で保管された体は朽ちる事無く保存されておりましたよ?馬鹿の癖に、知りもしない蘇りの儀式なんかを行った挙句、アンデットだらけの魔窟を作り出して放置するなんてなぁ!お前は本当の馬鹿だよ!」

 吐き出すことも許さないと口を塞ぎ、ゲラゲラと笑うコックだったが、仕上げだと指を鳴らす。

 「それじゃあ、特製のガーランド・ダンケルク公爵の腸詰をじっくりと堪能していただこうか!」

 扉の向こうか3匹のヘルハウンドが次々と部屋に侵入してくる。過去に番犬として飼われていたが、獣臭いから止めろと、下らない理由で処分された犬達の成れの果てだった。
 世話をしていた調教師は泣きながら犬達に語り聞かせ、共に一夜を過ごした後に己の命と共に果てたのだった。

 「ぐあああああ。やめろ!やめろぉおおお!!」

 体中を食いちぎられて絶叫を上げるダンケルクだったが、それを止める者など居はしない。骨も残さず食い散らかされて無くなった。

 「お前達も旨かったか?この世での最後の晩餐は彼の仇だ。あっちで彼に聞かせてやると良い」
 「「「ウォン!」」」

 コックとヘルハウンドは満足したのか、徐々に輪郭が薄れてキッチンから消えていった。
 気配を感じて駆けつけたガードルートだったが、既に復讐が行われた後であり。キッチンにあるはずの魂の欠片は見当たらなかった。
 マップを確認すると、LOSTの文字が表示されていた。

 「10回目の死が発生した代償に持っていかれたか」
 「ガードルートか、俺の失態だ。すまぬ」

 気落ちして力無く座り込むダンケルクの様子を見てガードルートは......歓喜を覚えた。これまでの自分ならば己の無力を恥じて自責の念に駆られただろうが、今となってはそんな感情が湧くはずも無かった。

 「残りの2つを回収しましょう。合わせて7個の欠片が揃っているのですから、残り5個を欠損無く集めれば希望はあるはずです」
 「そうだな、まだ欠片は残されているのに、ここで時間を浪費するわけにはいかぬ」

 時計を確認するが、経過して時間は7時間と少しで、約束の時間までは16時間以上ある。このペースならば十分に間に合うだろう。
 合流を果たした2人は勢いに乗り応接室の欠片を回収して、赤い光点を補足した。

 「ふむ、どうやら私の欠片を狙ってきたようだな。だが、貴様らにくれてやる分けにはいかん」
 「おまえ、いや......貴方様は先王!」
 「いかにも、余がインフィナイト・ガイウス・ザガートである」

 生涯で幾度も戦場にたった歴戦の王は、老いた肉体から解放されて若々しい全盛期の肉体を手に入れていた。
 王だけが身に付ける事を許された、深い緑の全身鎧の兜を外し、顔を見せたガイウスは、己の素性を明らかにすると2人に目を向けた。

 「ガードルートよ。余は国の為に間違いを犯した。様々な利益と引き換えにこのダンケルクを生かしたのは許される事ではない。全ては我が不徳、全ては我が無力さが招いた過ちであったわ!」

 スラリと抜き放った長剣の切っ先をダンケルクに向けたガイウスは、真紅の双眸を向けてそう言い放つ。

 「ふん!死人が戯言を抜かしおるわ!国1つと引き換える価値があるポーションまでくれてやった私にそこまでの言葉を向けるか!恥を知れ愚か者が!」
 「先王と言えども看過出来ませんな。閣下はこれまで国に対して、多大な貢献をされてきた。戦争を避ける事が出来たのも公爵軍の力に恐怖を覚えるからではないですか」
 「確かに、それは真実だろう。しかし、他にやりようはあっただろう。例えば、平民という身分から騎士団長にまで上り詰める才媛を無駄にしなければな。貴族と言う生き物は厄介でな。血筋だ誇りだと、力も持たない家格だけで己を誇る戯け者共の巣窟よ!我が英断を下していれば違う道もあっただろうよ」

 無念の言葉を口にするガイウスの顔には苦渋が満ちていた。

 「長い時間をかけてダンケルクがお前を洗脳していた事には気が付いていたのだ。我は国の行く末とお前を天秤に掛けて蹴ったのだ。ここまでの道程でどれだけの真実を掴んだのかは知らんが、もう気付いておるのだろう?ライオット・ガードルートの夢の果ては何処を向いていた?叙任の式典で我に捧げた言葉は本心であったはずだ」

 ガードルートは心に掛かった記憶を封じる鎖が弾け飛ぶのを感じた。

 「そうか......俺は......ブレンダ、アンナマリー......俺が目指したのは、俺達が語った夢は......」

 若者が剣に誓い、3人で交わした約束の未来。それが今再び解き放たれる。
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