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王都の闇編
ライオット・ガードルートの忠義とクライン・イーリスの怒り
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騎士として、男として強さを求め続ける事にどれだけ拘っただろうか。
その為に私は妻子を、時間を、誇りまでも差し出してきたのだ。
騎士団長の座をアルベルトの奴に奪われてからは今まで以上に力を渇望した。
なぜあのような若造にこの私が騎士団長の座を譲らなければならないのだろうか?誰よりも結果に拘り、誰よりも王国に尽くしたはずだった。
力を振るい、相手を圧倒するだけの器を示す事こそが、周辺国家へと我が国の威を知らしめる事へ繋がる。それこそが無駄な争いを無くし、立場の上下を明確にする事へと繋がるのだという事が何故分からんのだ。
「あの王は何も分かってはいない。対話などで未来が切り開けるものか!周辺国家を叩き潰して併合する事で領土を増やす事こそが至上の選択であるのだ!そんな簡単な事が何故分からない!」
ドン!と苛立ちを隠す事もせず机に拳を振り下ろすと深い溜息を突いた。実力で劣るから騎士団長の地位を奪われた等と言われているが、それは生まれ持った魔力の大きさだけだ。剣の腕や駆け引きの経験、軍団の指揮能力まで含めても有能なのは私だと結果が示している。
「くそぉ!この様な屈辱を味わう事になるとは......あのもやしのような国王が周辺国との調和を考える腰抜けでさえなければこの様な無様は晒さなかった物を」
「荒れているなガードルート団長、真の騎士たる貴公が不当な扱いを受けている事......私も甚だ遺憾に思っている」
話しかけてきたのはここ数年で頭角を現したダンケルク侯爵だった。国家予算を超える利益を稼ぎ出した天才と呼ばれる彼だが、プライベートな趣味が理由で周辺には良い目で見られていない。
だが周囲の凡愚共と私の評価は違う。その卓越した手腕も素晴らしいが、彼は軍拡に対する高い意識も持ち合わせている素晴らしい人物だ。
「団長職は奪われてしまいましたよ。装備さえ劣らなければ私にも勝ち目があったのですがね」
この世界は不平等だ。現場から叩き上げで上り詰めた私は平民の出だから、他の上級騎士と比べても装備の面で遥かに劣っているのだ。王国から貸与される装備はそれなりに高品質の物ではあるが、戦闘となれば結局は実力と強力な装備が物をいうのだ。
私には一戦一戦に全てを尽くす事が出来るほど豊かな財力が無いのだ。手段さえ選ばなければあの若造に劣る事などありえないのだが、それを許してくれる環境が無い。
「分かっている!他の誰が何と言おうとも私だけはその事実を理解しているとも!この様な不当な扱いを断じて許すわけにはいかんと心の底から思っている」
「ならば何故あの場で意見をしてくれなかったのですか?」
「愚問だな。私が君を欲しかったからに決まっている。その実力を出し切れる環境が欲しくないか?金なら掃いて捨てる程の金額を用意しよう!最高級の設備と最高級の装備、部下も全員が我が思想に共感している腕利きばかりだ。我が騎士団の団長を務めてはくれないか?私は貴公以外には考えられないのだよ」
金を積み上げても手に入らない名剣や装備の数々を人脈で確保し、馬鹿げた数の魔道具を使い捨てにする事を許された環境はダンケルク侯爵の私設騎士団だけだろう。話を聞いただけで心が躍った。
「ここだけの話だ。私は侯爵で満足などしておらん。すぐに公爵の立場を手に入れるし、いずれはこの国すら手中に収める。そうなれば当然騎士団長は君だし、周辺国家も君の力を認めるだろう」
「国を盗るつもりですか!?そんな事が許さ」
「静かにしたまえ。実力こそが全てだろう?この国だってもっともっと高みを目指していけるはずだ。いずれはこの大陸に覇を唱えるだけの素養は持っているのだからな。私が生きているうちに大陸の半分は手に入るだろうさ」
この男が語る圧倒的なスケールの話に魅了された。ガードルートはその巨大な野心の塊を前にして心を奮わされたのだ。若き日に見た理想を目にした気分だった。
現実を知り、妥協を覚えた事で萎えてしまった心の剣が輝きを放つのを感じたのだ。
「我が剣の主はこれより貴方だけであると、我が名に誓います。ライオット・ガードルートが生涯の剣を捧げるのはガーランド・ダンケルク以外にはあり得ない。お望みならば全てを切り捨てて見せましょう」
(くくく、茶番だな。団長の座から引き摺り下ろす決断を王に迫ったのも俺なら、アルベルトに装備を提供したのも俺だというのに......ここまで愚かだとは思わなかった)
「それすらも見事な手腕だったと思っていますよ。少なくとも私は救われたのです」
「お目出度い奴だ。だが、私の掌で踊るのは気持ちが良かっただろう?優れた武具に数々の魔道具やアイテムを湯水の如く使用する権利など、得ようと思って得られる物ではない」
「その通りです。私は確かに満ち足りていたし、王国最強を名乗るに相応しい騎士団を手に入れた事に満足する気持ちは何物にも変えがたい事でした」
ガードルートだけは真の忠誠を捧げた本物の騎士だった事を今になって悟ったダンケルクだった。そこに鈴の音の様に美しい声が響く。
「無様ですね。優れた才覚も、恵まれた境遇も生まれ持っていた人間が行き着いたのは地獄ですか。お金には代えがたい忠臣まで手に入れてこの体たらくですものね」
「クライン・イーリスか......私はどこで間違えたのだろうな?確かにこの国の行く末を憂いて立つ覚悟は持ち合わせていたのだが......」
「愚かな男ですね。奴隷であろうと戯れに摘み取って良い命などこの世界には存在しないのです。そこを踏み外した時点でただの畜生以下だと何故分からないのですか?」
コツコツと足音を響かせて暗闇から姿を現したイーリスの視線は、ダンケルクに対しての侮蔑を多分に含んでいた。
「それは貴様の価値観だろうが!貴様は今まで食べた家畜の数を把握しているとでもいうのか?金で取引される人間は自分と同等の人間足りうるとでも言うのか?馬鹿を言うな!」
「貴族として生まれたとは思えんな。閣下の言う通りではないか。売り買いされる物が自分と同じ姿をしているから同情しているに過ぎん。貴様は奴隷に身を落とした故に己の不幸を嘆いて価値観が変化したに過ぎぬ」
向けられた言葉の刃は鋭くイーリスの胸を貫くが、その程度で揺らぐような覚悟と思いならば彼女はここに立ってはいない。そのような事に思い悩むようなレベルは通り過ぎている。
「平民の出である貴方までそのような愚かな事をいうのですか?ガードルート殿。確かに私は貴族として生まれ育ち、何不自由無い生活を送りました。しかし、我が父と母はそのような愚かな考えは私に教えませんでしたよ?命を軽んずるような貴族は貴族足りえません。弱きを導き、豊かさを享受する慈悲を持たずして何が貴族か!我々の生活は彼らの努力や苦しみ無くして成り立たないのです」
「至極当たり前の事を偉そうに語るな小娘が!そんな事は理解しておるわ!選ばれし我々は雑草一本にまで気を使う必要など無いのだよ。大局を見て話をしたまえ。国を奪い、その豊かさを手にすれば、後の世に生まれてくる我が国の民は皆が幸せになれるではないか!私が戯れに千人の命を浪費した所で、万人を幸せに導けばそれは立派な偉業ではないか!」
イーリスの意見を跳ね除けて語るダンケルクの思想は間違いでは無かった。価値観の相違ではあるが、そういう考え方を持つ者は彼以外にも存在するだろう。しかし、それはイーリスにとって許しがたい事だった。
「人の命は玩具では無い!失われても良い命など一つだって有りはしない事が何故分からないのです!」
「はっ!戯言をベラベラと抜かすな!それが公爵家の娘が語る理想だと言うのならば、ドブにでも捨ててしまえ!我々は小を切り捨てても大を取る果断の決意を持たねばならんのだよ」
「その末路が私の復讐であるというのにそれを語るのですか?実現できない理想に価値などありませんわ!貴方は憎しみと絶望をばら撒いて死んでいく愚か者でしょうに!」
ギリッっと歯をかみ締めて憎悪の炎を燃やしたイーリスに、ダンケルク所かガードルートまでが気圧される。痛みを悲しみを知り、絶望をその背に背負った彼女は安穏と貴族としての生を教授したクライン・イーリスでは無くなったのだ。
「強さや富を求める己の欲望に溺れた愚か者でしか無い貴方達には千の死を持って償ってもらうしか無いようですね。生温い死など訪れる事は無いと知りなさい!あの薄暗い穴の底に降り積もった嘆きを!奪われた命が歩むはずだった未来を戯れに刈り取った罪は許されるものではありませんわ!」
その言葉と共に濃密な死の気配がグッと強まり、空間そのものが地獄と化すように変化していくのを2人は感じ取るのだった。
その為に私は妻子を、時間を、誇りまでも差し出してきたのだ。
騎士団長の座をアルベルトの奴に奪われてからは今まで以上に力を渇望した。
なぜあのような若造にこの私が騎士団長の座を譲らなければならないのだろうか?誰よりも結果に拘り、誰よりも王国に尽くしたはずだった。
力を振るい、相手を圧倒するだけの器を示す事こそが、周辺国家へと我が国の威を知らしめる事へ繋がる。それこそが無駄な争いを無くし、立場の上下を明確にする事へと繋がるのだという事が何故分からんのだ。
「あの王は何も分かってはいない。対話などで未来が切り開けるものか!周辺国家を叩き潰して併合する事で領土を増やす事こそが至上の選択であるのだ!そんな簡単な事が何故分からない!」
ドン!と苛立ちを隠す事もせず机に拳を振り下ろすと深い溜息を突いた。実力で劣るから騎士団長の地位を奪われた等と言われているが、それは生まれ持った魔力の大きさだけだ。剣の腕や駆け引きの経験、軍団の指揮能力まで含めても有能なのは私だと結果が示している。
「くそぉ!この様な屈辱を味わう事になるとは......あのもやしのような国王が周辺国との調和を考える腰抜けでさえなければこの様な無様は晒さなかった物を」
「荒れているなガードルート団長、真の騎士たる貴公が不当な扱いを受けている事......私も甚だ遺憾に思っている」
話しかけてきたのはここ数年で頭角を現したダンケルク侯爵だった。国家予算を超える利益を稼ぎ出した天才と呼ばれる彼だが、プライベートな趣味が理由で周辺には良い目で見られていない。
だが周囲の凡愚共と私の評価は違う。その卓越した手腕も素晴らしいが、彼は軍拡に対する高い意識も持ち合わせている素晴らしい人物だ。
「団長職は奪われてしまいましたよ。装備さえ劣らなければ私にも勝ち目があったのですがね」
この世界は不平等だ。現場から叩き上げで上り詰めた私は平民の出だから、他の上級騎士と比べても装備の面で遥かに劣っているのだ。王国から貸与される装備はそれなりに高品質の物ではあるが、戦闘となれば結局は実力と強力な装備が物をいうのだ。
私には一戦一戦に全てを尽くす事が出来るほど豊かな財力が無いのだ。手段さえ選ばなければあの若造に劣る事などありえないのだが、それを許してくれる環境が無い。
「分かっている!他の誰が何と言おうとも私だけはその事実を理解しているとも!この様な不当な扱いを断じて許すわけにはいかんと心の底から思っている」
「ならば何故あの場で意見をしてくれなかったのですか?」
「愚問だな。私が君を欲しかったからに決まっている。その実力を出し切れる環境が欲しくないか?金なら掃いて捨てる程の金額を用意しよう!最高級の設備と最高級の装備、部下も全員が我が思想に共感している腕利きばかりだ。我が騎士団の団長を務めてはくれないか?私は貴公以外には考えられないのだよ」
金を積み上げても手に入らない名剣や装備の数々を人脈で確保し、馬鹿げた数の魔道具を使い捨てにする事を許された環境はダンケルク侯爵の私設騎士団だけだろう。話を聞いただけで心が躍った。
「ここだけの話だ。私は侯爵で満足などしておらん。すぐに公爵の立場を手に入れるし、いずれはこの国すら手中に収める。そうなれば当然騎士団長は君だし、周辺国家も君の力を認めるだろう」
「国を盗るつもりですか!?そんな事が許さ」
「静かにしたまえ。実力こそが全てだろう?この国だってもっともっと高みを目指していけるはずだ。いずれはこの大陸に覇を唱えるだけの素養は持っているのだからな。私が生きているうちに大陸の半分は手に入るだろうさ」
この男が語る圧倒的なスケールの話に魅了された。ガードルートはその巨大な野心の塊を前にして心を奮わされたのだ。若き日に見た理想を目にした気分だった。
現実を知り、妥協を覚えた事で萎えてしまった心の剣が輝きを放つのを感じたのだ。
「我が剣の主はこれより貴方だけであると、我が名に誓います。ライオット・ガードルートが生涯の剣を捧げるのはガーランド・ダンケルク以外にはあり得ない。お望みならば全てを切り捨てて見せましょう」
(くくく、茶番だな。団長の座から引き摺り下ろす決断を王に迫ったのも俺なら、アルベルトに装備を提供したのも俺だというのに......ここまで愚かだとは思わなかった)
「それすらも見事な手腕だったと思っていますよ。少なくとも私は救われたのです」
「お目出度い奴だ。だが、私の掌で踊るのは気持ちが良かっただろう?優れた武具に数々の魔道具やアイテムを湯水の如く使用する権利など、得ようと思って得られる物ではない」
「その通りです。私は確かに満ち足りていたし、王国最強を名乗るに相応しい騎士団を手に入れた事に満足する気持ちは何物にも変えがたい事でした」
ガードルートだけは真の忠誠を捧げた本物の騎士だった事を今になって悟ったダンケルクだった。そこに鈴の音の様に美しい声が響く。
「無様ですね。優れた才覚も、恵まれた境遇も生まれ持っていた人間が行き着いたのは地獄ですか。お金には代えがたい忠臣まで手に入れてこの体たらくですものね」
「クライン・イーリスか......私はどこで間違えたのだろうな?確かにこの国の行く末を憂いて立つ覚悟は持ち合わせていたのだが......」
「愚かな男ですね。奴隷であろうと戯れに摘み取って良い命などこの世界には存在しないのです。そこを踏み外した時点でただの畜生以下だと何故分からないのですか?」
コツコツと足音を響かせて暗闇から姿を現したイーリスの視線は、ダンケルクに対しての侮蔑を多分に含んでいた。
「それは貴様の価値観だろうが!貴様は今まで食べた家畜の数を把握しているとでもいうのか?金で取引される人間は自分と同等の人間足りうるとでも言うのか?馬鹿を言うな!」
「貴族として生まれたとは思えんな。閣下の言う通りではないか。売り買いされる物が自分と同じ姿をしているから同情しているに過ぎん。貴様は奴隷に身を落とした故に己の不幸を嘆いて価値観が変化したに過ぎぬ」
向けられた言葉の刃は鋭くイーリスの胸を貫くが、その程度で揺らぐような覚悟と思いならば彼女はここに立ってはいない。そのような事に思い悩むようなレベルは通り過ぎている。
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「至極当たり前の事を偉そうに語るな小娘が!そんな事は理解しておるわ!選ばれし我々は雑草一本にまで気を使う必要など無いのだよ。大局を見て話をしたまえ。国を奪い、その豊かさを手にすれば、後の世に生まれてくる我が国の民は皆が幸せになれるではないか!私が戯れに千人の命を浪費した所で、万人を幸せに導けばそれは立派な偉業ではないか!」
イーリスの意見を跳ね除けて語るダンケルクの思想は間違いでは無かった。価値観の相違ではあるが、そういう考え方を持つ者は彼以外にも存在するだろう。しかし、それはイーリスにとって許しがたい事だった。
「人の命は玩具では無い!失われても良い命など一つだって有りはしない事が何故分からないのです!」
「はっ!戯言をベラベラと抜かすな!それが公爵家の娘が語る理想だと言うのならば、ドブにでも捨ててしまえ!我々は小を切り捨てても大を取る果断の決意を持たねばならんのだよ」
「その末路が私の復讐であるというのにそれを語るのですか?実現できない理想に価値などありませんわ!貴方は憎しみと絶望をばら撒いて死んでいく愚か者でしょうに!」
ギリッっと歯をかみ締めて憎悪の炎を燃やしたイーリスに、ダンケルク所かガードルートまでが気圧される。痛みを悲しみを知り、絶望をその背に背負った彼女は安穏と貴族としての生を教授したクライン・イーリスでは無くなったのだ。
「強さや富を求める己の欲望に溺れた愚か者でしか無い貴方達には千の死を持って償ってもらうしか無いようですね。生温い死など訪れる事は無いと知りなさい!あの薄暗い穴の底に降り積もった嘆きを!奪われた命が歩むはずだった未来を戯れに刈り取った罪は許されるものではありませんわ!」
その言葉と共に濃密な死の気配がグッと強まり、空間そのものが地獄と化すように変化していくのを2人は感じ取るのだった。
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