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王都の闇編
復讐計画の開始
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取引当日の夜まで大人しくしていたダンケルクは、突如感情に火が付いたかの様に騒ぎ出すと、取引場所への移動を指示して馬車へ乗り込んだ。
時計の針が示す時間は0:00だが、公爵は夜間の移動に適した編成で前日より移動を開始している。
自領と騎士王国アゲート国境の中間点にある、ガーランド領最大の【商業都市クリソコラ】の屋敷で一泊したが、待ち合わせ場所までの距離を考えると、4時間程度は時間を取られるだろう。
取引時間の6:00には僅かに早いが、ゆっくり待ち時間を楽しむ心算なのか、豪華な大型の馬車にはダンケルクの他に高級娼婦を3人も乗せている。
御者は騎士団より選抜された中でも、特に守りに長けた技術を持ち、馬車の扱いに秀でた者が就いている。
周囲を囲む騎士達も精鋭中の精鋭で構成されており、その練度の高さは周辺国の騎士団でもトップクラスだろうと自信を持って言える実力者ばかりだ。
「ぐふふ、もう少しの辛抱よ!奴隷さえ手に入れれば我慢する必要も無くなる。隣国の奴隷商なぞに頼らずとも、時間さえあればどうとでもなるわ。スラムのゴミを掃除するついでに根こそぎ捕まえても良いのだしな」
両脇に侍らせた娼婦を抱き寄せて悦に浸るダンケルクは、先日とは打って変わり上機嫌だった。
口元に寄せられたワイングラスには一本で家が建つようなヴィンテージワインが注がれ、受け取ったダンケルクは迷う事無く一息に飲み干して深い息をついた。
「お前達も俺を満足させれば宝石だろうが、指輪やネックレスだろうが好きなだけくれてやる。全身全霊で尽くせよ?フハハハハハ」
歓喜の悲鳴を上げる女達に囲まれて悦楽に浸るが、内心ではメラメラと燃え始めた被虐欲と支配欲が体を侵食し始めていくのだった。
まるで自分の抑えきれぬ感情を握りつぶすかのように乳房を握り締め、女の上で腰を振る野獣を止める者はいなかった。
途中幾度か襲撃を受けた際も我関せずを決め込み、己の欲望を満たし続けるダンケルクは自分が率いる騎士団の強さに絶対の自信と信頼を置いており、彼らが負ける事など脳裏を過ぎる事も無かった。
「おいおい、あの装備と練度は反則だろ!?金で動かした盗賊共が鎧袖一触だぞ?。戦闘に使用するように渡してあった、そこそこ高価な魔道具での攻撃も無力化してやがったぞ?」
「これはウチの子達を遠距離支援に回しといて正解だったねぇ。ガチでやり合ったら痛い目を見るところだったよ」
襲撃部隊を指揮するアメリアとゼストだったが、試しに一当てした盗賊団の有様を見て唸る事になった。
寄せ集めの盗賊達でも怪我をさせるなり、粘って体力を消耗させられるかと思っていれば、剣の一振りで絶命して屍を晒すばかりであった。魔法具が生み出した炎や雷は、騎士達によって展開された魔法障壁や、魔法耐性の付与された大盾に払われており、ダメージを与える事が出来ているかも怪しいところである。
「だが、捨て駒を準備したおかげで分かった事もある。あの御者をやっている騎士が護衛兼索敵を担っている事と、索敵範囲はおよそ2キロ程度という事だ」
「スキルの【鷹の目】を発動しているみたいだから、目視出来る範囲はそれ以上だろうけど、気配察知が可能なのはそれ位だろうね。敵ながら良い腕してるよ」
冷静に分析する2人だが、その程度の条件は今まで腐るほど経験しているらしく、別段焦った様子は見受けられないのでケイは心配しなかった。
「傭兵さん達の腕前なら戦力を削るのも可能だろうけど、あの装備と実力から予想すると死人が出る可能性が多分にあるね。私的にはヒットアンドアウェイでチマチマと削った後に主力の奇襲がオススメだよ?」
ラプラスが俺の思考を先読みするように策を提案する。やはり彼女は厄介であると認識せざるを得ない。
「おやおや?にゃにをお考えで?敵対する気なんか未来永劫無いからそんなに警戒しないでおくんなまし!何なら制約と誓約で縛ってもOKよん?」
茶化すように言うが、彼女の目は真剣そのもので笑っていない。
「不安がらせちゃったみたいだね。コイツはお詫びさぁ、私みたいな美少女にキスされるなんてプレミア物だぜ?」
フッっとかき消すように姿を消した後に一瞬で俺の真横に現れた彼女は、チュっと頬に口付けをすると後ろ手に手を振りながら奇襲部隊側へ飛んで行く。
「まるで道化師だな。今回は何が目的か分からないが、今後も敵にだけは回したく無いな」
冷や汗が出る程に隙の無い動きだった。
本気の殺し合いなら負ける気はしないが、俺以外をターゲットに暴れられたら守りきれる気がしない。
結局、彼女が提案した案と同様の考えを持っていた俺は、全部隊に前述の作戦を伝えると行動を開始した。
最終的には公爵が乗る馬車と、馬車を中心に展開する騎士団長を含む7名が残り、13名の騎士を捕縛する事に成功した。
ゼスト達が上手く演技してくれたおかげで、激戦の末撤退という構図を作ることが出来た。
錬金術で作ったゴーレムを幻術で偽装した死体は、感触も質感も人間そのものだから専門家でもない限りバレる事もないだろう。
奇襲部隊は乱戦で多少怪我をしたが、命に関わるような重症は負っていない。ダンケルク側も死体の回収等の雑事など捨て置けという指示に従い、取引の場所へと移動を急ぐようだ。
目立たないように防壁魔法や魔法解除の魔法で援護したが、金に飽かせた高位魔道具の連発や魔法薬の使用による回復は厄介だった。
まるでゾンビのように立ち上がる騎士はその実力も相まって、退治する側からすればかなりのプレッシャーだっただろう。
それに、弾幕のように絶える事の無い高位魔法具の発動は、周囲の地形を変えるほどの凄まじさだった。恐らくだが、彼ら一人一人のアイテムボックスには膨大な量のアイテムが備蓄されているのだろう。
「現実でも空想でも、やはり物量チートは恐ろしいのだった......俺が言う事でも無いか」
一人呟く俺だったが、ダンケルクのやっている事はある意味正しいと言えよう。少数精鋭でも軍団規模に匹敵する戦力だったのは疑う余地も無い。
午前5時を跨いだ辺りに取引場所に到着したリトアは、既に到着している取引相手一向を確認すると驚きの声を上げた。
「いやー、相手さんが取引を急いでいるのは把握していたんだが、予想通りの展開になっているようです。馬車の傷や護衛騎士達の疲労の度合いを見るに、既に何戦かやりあった後みたいだね」
あの地図で予想した戦略と戦術が用いられている事は予想の範疇だったが、予測したよりも公爵側の戦力が残っているのは侮り過ぎたかと反省した。
「スタークさん!どうやら予想通りの展開になりそうです。全員に戦闘の可能性ありと、周囲の警戒に数名を出すように指示をお願いします」
スタークと言われた男は静かに頷くと、側に控えた部下に指示を伝える。彼らは騎士王国アゲートでは異端とも言える騎士出自の傭兵団である。
主を失った騎士や、領地を失い路頭に迷った下級騎士を受け入れた団長のスタークが作り上げた傭兵団であり、その規模と実力はアゲート国内でも屈指の傭兵団だと噂されている。
何よりも有名なのは、傭兵団でありながらも騎士出身者が多く身を寄せている為、礼儀正しく・清潔であり・雇い主の要望に良く応えると評判の良い所だろう。
「リトア殿とエリック殿の指示通りに準備してありますが、我々も極力戦闘はしたくないのが本音です。襲撃者はともかくとして、特に注意して頂きたいのは、あの強欲な公爵との交渉で怒りを買わない事です」
「ええ、それはこちらも心得ておりますよ?あれは性質の悪い相手ですが、貴族としての立場を捨てるほど愚かでも無いでしょう。たかが奴隷商と言えども、私は他の店とは一味違う所をお見せしますよ」
奴隷輸送用の馬車が連なって後方を進んでくるが、今回の護衛は50人規模の熟練した元騎士達である。
少々値は張ったが、彼等が忠実に役目を果たしてくれるだろう事は疑っていないし、その実力も中々である事は動きを見れば分かる。
「皆さんの実力は信用していますが、アベンチュリンの泉にはアレが居ますからね?敵の敵は味方という考え方もありますが、何分戦闘という物は水物ですのでね。企みが上手くいったとしても油断だけはしないでくださいよ?」
秘策を授けた本人が警戒しているのだから、策を用要る者も警戒しなければならない。スタークは生真面目な自分の気性を良く理解しており、融通が利かない自分の補佐にアイシャという女性を置いている。彼女の観察眼と危険予測は非常に優れており、状況判断を任せるに値すると彼自身はかなり高く評価している。
「アイシャ君、私が間違った判断を下しそうになったら直ぐに申し出てくれ。今回の作戦は不測の事態が発生する可能性が高いし、何よりも相対する勢力が複数存在するパターンが高確率で当て嵌まる状況となるだろう。......頼りにしている」
穏やかに微笑みながら語りかけるスタークは、客観的に見ればかなりの色男だが、生真面目な性格の彼は女性を非常に大切にする紳士である。それを知っている女性は触れ合った時間が長いほど、自然に彼に引かれて行くのだが......彼女は例外だった。
「お任せください。私が団長の期待を裏切る事など有り得ません」
スターク以上に堅物の彼女は、男女の関係というものが理解出来ず。その手の話が出ても理解出来ぬといった感じで、恋愛感情皆無の女性であり、表情も仮面のように動かない......という設定である。
『やばいぃー、スタークさんってばもう!もう!もう!もう!!こんなの我慢出来ない!(●´艸`)』
やり取りの裏で煩悶する彼女だが、鈍感なスタークが彼女の内面に気が付くはずが無い。
「なぁ、誰か教えてやれよ!もう見てて恥ずかしくなるわ」
「だってよぉ、バレバレなのに当の本人同士がアレじゃなぁ......尻尾でもあればブンブン振られて分かりやすいんだろうが」
「団長ってば鈍感だからなぁ、普通は飲んだ後に女から部屋に誘われればアレなんだが「む?打ち合わせならば明日の朝に」だぜ?」
「いや、アイシャちゃんも真面目ぶってるけど。団長が来た瞬間、ぶっ飛んで行く辺りどうよ?」
どうやら知らぬは本人ばかりなり、というやつらしい......復讐計画の裏ではこのような日常会話が繰り広げられているが、ケイもそこまでは把握していないのであった。
時計の針が示す時間は0:00だが、公爵は夜間の移動に適した編成で前日より移動を開始している。
自領と騎士王国アゲート国境の中間点にある、ガーランド領最大の【商業都市クリソコラ】の屋敷で一泊したが、待ち合わせ場所までの距離を考えると、4時間程度は時間を取られるだろう。
取引時間の6:00には僅かに早いが、ゆっくり待ち時間を楽しむ心算なのか、豪華な大型の馬車にはダンケルクの他に高級娼婦を3人も乗せている。
御者は騎士団より選抜された中でも、特に守りに長けた技術を持ち、馬車の扱いに秀でた者が就いている。
周囲を囲む騎士達も精鋭中の精鋭で構成されており、その練度の高さは周辺国の騎士団でもトップクラスだろうと自信を持って言える実力者ばかりだ。
「ぐふふ、もう少しの辛抱よ!奴隷さえ手に入れれば我慢する必要も無くなる。隣国の奴隷商なぞに頼らずとも、時間さえあればどうとでもなるわ。スラムのゴミを掃除するついでに根こそぎ捕まえても良いのだしな」
両脇に侍らせた娼婦を抱き寄せて悦に浸るダンケルクは、先日とは打って変わり上機嫌だった。
口元に寄せられたワイングラスには一本で家が建つようなヴィンテージワインが注がれ、受け取ったダンケルクは迷う事無く一息に飲み干して深い息をついた。
「お前達も俺を満足させれば宝石だろうが、指輪やネックレスだろうが好きなだけくれてやる。全身全霊で尽くせよ?フハハハハハ」
歓喜の悲鳴を上げる女達に囲まれて悦楽に浸るが、内心ではメラメラと燃え始めた被虐欲と支配欲が体を侵食し始めていくのだった。
まるで自分の抑えきれぬ感情を握りつぶすかのように乳房を握り締め、女の上で腰を振る野獣を止める者はいなかった。
途中幾度か襲撃を受けた際も我関せずを決め込み、己の欲望を満たし続けるダンケルクは自分が率いる騎士団の強さに絶対の自信と信頼を置いており、彼らが負ける事など脳裏を過ぎる事も無かった。
「おいおい、あの装備と練度は反則だろ!?金で動かした盗賊共が鎧袖一触だぞ?。戦闘に使用するように渡してあった、そこそこ高価な魔道具での攻撃も無力化してやがったぞ?」
「これはウチの子達を遠距離支援に回しといて正解だったねぇ。ガチでやり合ったら痛い目を見るところだったよ」
襲撃部隊を指揮するアメリアとゼストだったが、試しに一当てした盗賊団の有様を見て唸る事になった。
寄せ集めの盗賊達でも怪我をさせるなり、粘って体力を消耗させられるかと思っていれば、剣の一振りで絶命して屍を晒すばかりであった。魔法具が生み出した炎や雷は、騎士達によって展開された魔法障壁や、魔法耐性の付与された大盾に払われており、ダメージを与える事が出来ているかも怪しいところである。
「だが、捨て駒を準備したおかげで分かった事もある。あの御者をやっている騎士が護衛兼索敵を担っている事と、索敵範囲はおよそ2キロ程度という事だ」
「スキルの【鷹の目】を発動しているみたいだから、目視出来る範囲はそれ以上だろうけど、気配察知が可能なのはそれ位だろうね。敵ながら良い腕してるよ」
冷静に分析する2人だが、その程度の条件は今まで腐るほど経験しているらしく、別段焦った様子は見受けられないのでケイは心配しなかった。
「傭兵さん達の腕前なら戦力を削るのも可能だろうけど、あの装備と実力から予想すると死人が出る可能性が多分にあるね。私的にはヒットアンドアウェイでチマチマと削った後に主力の奇襲がオススメだよ?」
ラプラスが俺の思考を先読みするように策を提案する。やはり彼女は厄介であると認識せざるを得ない。
「おやおや?にゃにをお考えで?敵対する気なんか未来永劫無いからそんなに警戒しないでおくんなまし!何なら制約と誓約で縛ってもOKよん?」
茶化すように言うが、彼女の目は真剣そのもので笑っていない。
「不安がらせちゃったみたいだね。コイツはお詫びさぁ、私みたいな美少女にキスされるなんてプレミア物だぜ?」
フッっとかき消すように姿を消した後に一瞬で俺の真横に現れた彼女は、チュっと頬に口付けをすると後ろ手に手を振りながら奇襲部隊側へ飛んで行く。
「まるで道化師だな。今回は何が目的か分からないが、今後も敵にだけは回したく無いな」
冷や汗が出る程に隙の無い動きだった。
本気の殺し合いなら負ける気はしないが、俺以外をターゲットに暴れられたら守りきれる気がしない。
結局、彼女が提案した案と同様の考えを持っていた俺は、全部隊に前述の作戦を伝えると行動を開始した。
最終的には公爵が乗る馬車と、馬車を中心に展開する騎士団長を含む7名が残り、13名の騎士を捕縛する事に成功した。
ゼスト達が上手く演技してくれたおかげで、激戦の末撤退という構図を作ることが出来た。
錬金術で作ったゴーレムを幻術で偽装した死体は、感触も質感も人間そのものだから専門家でもない限りバレる事もないだろう。
奇襲部隊は乱戦で多少怪我をしたが、命に関わるような重症は負っていない。ダンケルク側も死体の回収等の雑事など捨て置けという指示に従い、取引の場所へと移動を急ぐようだ。
目立たないように防壁魔法や魔法解除の魔法で援護したが、金に飽かせた高位魔道具の連発や魔法薬の使用による回復は厄介だった。
まるでゾンビのように立ち上がる騎士はその実力も相まって、退治する側からすればかなりのプレッシャーだっただろう。
それに、弾幕のように絶える事の無い高位魔法具の発動は、周囲の地形を変えるほどの凄まじさだった。恐らくだが、彼ら一人一人のアイテムボックスには膨大な量のアイテムが備蓄されているのだろう。
「現実でも空想でも、やはり物量チートは恐ろしいのだった......俺が言う事でも無いか」
一人呟く俺だったが、ダンケルクのやっている事はある意味正しいと言えよう。少数精鋭でも軍団規模に匹敵する戦力だったのは疑う余地も無い。
午前5時を跨いだ辺りに取引場所に到着したリトアは、既に到着している取引相手一向を確認すると驚きの声を上げた。
「いやー、相手さんが取引を急いでいるのは把握していたんだが、予想通りの展開になっているようです。馬車の傷や護衛騎士達の疲労の度合いを見るに、既に何戦かやりあった後みたいだね」
あの地図で予想した戦略と戦術が用いられている事は予想の範疇だったが、予測したよりも公爵側の戦力が残っているのは侮り過ぎたかと反省した。
「スタークさん!どうやら予想通りの展開になりそうです。全員に戦闘の可能性ありと、周囲の警戒に数名を出すように指示をお願いします」
スタークと言われた男は静かに頷くと、側に控えた部下に指示を伝える。彼らは騎士王国アゲートでは異端とも言える騎士出自の傭兵団である。
主を失った騎士や、領地を失い路頭に迷った下級騎士を受け入れた団長のスタークが作り上げた傭兵団であり、その規模と実力はアゲート国内でも屈指の傭兵団だと噂されている。
何よりも有名なのは、傭兵団でありながらも騎士出身者が多く身を寄せている為、礼儀正しく・清潔であり・雇い主の要望に良く応えると評判の良い所だろう。
「リトア殿とエリック殿の指示通りに準備してありますが、我々も極力戦闘はしたくないのが本音です。襲撃者はともかくとして、特に注意して頂きたいのは、あの強欲な公爵との交渉で怒りを買わない事です」
「ええ、それはこちらも心得ておりますよ?あれは性質の悪い相手ですが、貴族としての立場を捨てるほど愚かでも無いでしょう。たかが奴隷商と言えども、私は他の店とは一味違う所をお見せしますよ」
奴隷輸送用の馬車が連なって後方を進んでくるが、今回の護衛は50人規模の熟練した元騎士達である。
少々値は張ったが、彼等が忠実に役目を果たしてくれるだろう事は疑っていないし、その実力も中々である事は動きを見れば分かる。
「皆さんの実力は信用していますが、アベンチュリンの泉にはアレが居ますからね?敵の敵は味方という考え方もありますが、何分戦闘という物は水物ですのでね。企みが上手くいったとしても油断だけはしないでくださいよ?」
秘策を授けた本人が警戒しているのだから、策を用要る者も警戒しなければならない。スタークは生真面目な自分の気性を良く理解しており、融通が利かない自分の補佐にアイシャという女性を置いている。彼女の観察眼と危険予測は非常に優れており、状況判断を任せるに値すると彼自身はかなり高く評価している。
「アイシャ君、私が間違った判断を下しそうになったら直ぐに申し出てくれ。今回の作戦は不測の事態が発生する可能性が高いし、何よりも相対する勢力が複数存在するパターンが高確率で当て嵌まる状況となるだろう。......頼りにしている」
穏やかに微笑みながら語りかけるスタークは、客観的に見ればかなりの色男だが、生真面目な性格の彼は女性を非常に大切にする紳士である。それを知っている女性は触れ合った時間が長いほど、自然に彼に引かれて行くのだが......彼女は例外だった。
「お任せください。私が団長の期待を裏切る事など有り得ません」
スターク以上に堅物の彼女は、男女の関係というものが理解出来ず。その手の話が出ても理解出来ぬといった感じで、恋愛感情皆無の女性であり、表情も仮面のように動かない......という設定である。
『やばいぃー、スタークさんってばもう!もう!もう!もう!!こんなの我慢出来ない!(●´艸`)』
やり取りの裏で煩悶する彼女だが、鈍感なスタークが彼女の内面に気が付くはずが無い。
「なぁ、誰か教えてやれよ!もう見てて恥ずかしくなるわ」
「だってよぉ、バレバレなのに当の本人同士がアレじゃなぁ......尻尾でもあればブンブン振られて分かりやすいんだろうが」
「団長ってば鈍感だからなぁ、普通は飲んだ後に女から部屋に誘われればアレなんだが「む?打ち合わせならば明日の朝に」だぜ?」
「いや、アイシャちゃんも真面目ぶってるけど。団長が来た瞬間、ぶっ飛んで行く辺りどうよ?」
どうやら知らぬは本人ばかりなり、というやつらしい......復讐計画の裏ではこのような日常会話が繰り広げられているが、ケイもそこまでは把握していないのであった。
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