異世界転生する事になったけど、必死に努力する自前の精神力しか頼れるものはありませんでした。

SAKI

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王都の闇編

予想外の強敵!?若旦那は読み解くのが得意です

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 今日も良い天気だ。室内仕事の俺が気にする事でも無いが、客足が途絶えるのは頂けないねぇ。
 目的があって来店する人ばかりの職業だが、商売人ってヤツは縁起を担いで仕事するもんだ。

 カランカラン

 来店者を告げるベルが鳴る。
 はてさて、今回はどんなお客様のご来店で?......珍しいなぁ、君かね。 

 「リトアの旦那!大変だぜ!!今度の取引相手がキナ臭いって話があったよな?」
 「む?サディストな公爵閣下の話かね?金払いは良いから上客だって噂だが、今回はちょっと怖いのも確かだ」

 ハァハァ荒げていた息を落ち着けた情報屋のエリックが言葉を続ける。
 
 「今度の取引が狙われてるらしいんだ」
 「ほう、それはそれは......無謀な輩も居たもんだ。公爵相手に襲撃でもする気かね?」
 「それがだな。今回は公爵側も相当焦ってるって話だろ?そこに隙がある」
 
 得意げに話すエリックだが、この情報を自分から俺の所に持ってくるという事は、鮮度に問題があるか、情報の入手に投資し過ぎて売れなきゃ不味いって所だろう。
 だが、彼の情報はこういう場合に限ってならば、信憑性も内容の確実性も高い事は間違い無いのである。
 国が飼っている犬よりも鼻が利く手足と、独自の情報網を持っているらしく、彼に探れない事は無いだろうと冒険者ギルドのマスターが太鼓判を押す程だ。

 「話が早くて助かるぜ。ちょっとドジったせいで大損害が出てね。俺も金欠なのよ。だが、今回の情報は確実だぜ?なんせ実行犯の一味がソースだ......金貨200」
 「高い、売れなきゃ困るんじゃないかね?100」
 
 情報の内容次第だが、今回の儲けが金貨2900枚だ。護衛に金貨400と馬車の手配や細かい雑事に300程掛かっているのだ。金払いの良い客らしいから、交渉して更に金貨を引き出すつもりだが、俺も何かと物入りだから、くだらん情報に出す金は無いのだ。

 「さすがにそれは困る。命がけだったんだぜ......180」
 「駄目だよ。今回は腕利きも雇っているのだ。情報など無くても良いのだが?120」

 いつもならここで150位まで値下げする癖に、今回は中々粘るじゃないか、だが簡単に折れたら甘く見られる。

 「まぁ待てって、おまけも付けるさ......170」
 「これで最後だ。嫌なら帰ってもかまわんよ......140」
 「おいおい、後悔するなよ?死んでも知らんぜ?......160」

 そこまで言われると気にはなるが、俺の言葉に内心同様しているのだろう。右手がソワソワと動いているのが証拠だ。経験上、これが出る時はもう少し値切れるだろう。

 「ならお前の今後の付き合いも考えてサービスとしようか......150」
 「負けたよ。了解だ、150で我慢しよう」

 渋々といった表情で懐からゴソゴソと取り出した地図には、襲撃ポイントと規模が記載され、配置や連携の手順までが記されていたので、予想を超える正確性に関心した。
 これが本物なら300出しても惜しくは無かっただろう。焦って安売りしたから値引きに余裕が無かったか。

 「んで、こいつがおまけの痺れ煙幕の魔道具だぜ。使い捨てだが効果範囲と威力は保障するぜ?俺も良く使うからな。鎧熊アーマードベアー黒狼ブラックウルフの集団に囲まれても容易に脱出する出来るさ」
 「まだ売りたい物があるんじゃないかね?」

 察しの良い俺の言葉にニヤリと微笑んだエリックが、重量軽減の付与が掛けられたマジックポーチからアイテムを取り出す。
 テーブルに置かれたのは【短距離転移のスクロール】と【指定ポイント帰還のスクロール】だった。
 2枚のスクロールはどちらも品薄で、入荷しても売り手が決まっていたり、入荷自体が無かったりする稀少なスクロールは素材や高い技術が必要とされるので、自作される事は余り無い。手に入るのは7割りが迷宮産の品である。

 「命は自分で守るのが一番だ。どんなに強い護衛や信頼の厚い仲間よりも、一本のスクロールだぜ?虎の子一本持ってるだけで心にもゆとりが生まれるってもんだ。どちらも金貨300枚」
 「両方貰おうか。必要なのは今回だけじゃないだろう。俺に取引を持ってきた事も含めて、情報料は最初の200枚で支払おうじゃないか」

 そういったリトアは備え付けの金庫に向かうと呪文を唱えてロックを外す。金貨のボタンを押し込むと、キーボードのようなボタンを操作して800と打ち込んだ。
 金庫の下部がガチャリと開く、そこには金貨を10枚組みで固定した金貨の棒が80本立っていた。

 「最新式の金庫は便利だねぇ、持ち運びしやすいように金貨の束まで作ってくれるたぁ恐れ入ったよ」
 「中々良い情報と取引だったよ。これからもエリック君との取引を優先しようじゃないか」
 「そいつはありがてぇ、やはりリトアの旦那に話を持ってきて正解だったぜ」

 力強い握手を交わした2人だったが、エリックが情報の捕捉を付け加える。

 「こいつはただの襲撃じゃねぇぜ?下手したらガ-ランド公爵暗殺の計画が動いているんじゃねぇかって俺は予想してる。襲撃はこいつ等だけじゃねぇと思った方が良いぜ?」
 「俺もそう睨んでいるのだが......む?この配置はまさか......なるほど!敵さんも中々の凄腕が出てきそうだね」

 地図と配置から狙いを読み解いたリトアが感心するように唸る。

 「何が分かったんで?」
 「ここの不自然な空白と、視界を遮らない様に考えられた配置から考えるとだね?遠距離からの魔法か、超長距離狙撃が可能性として浮かび上がる。それと、こことそこ......ここにも伏兵を配置しているだろう」

 次々地図に書き込まれていく内容を見てエリックが驚愕の表情を浮かべる。
 さっきまで僅かな違和感のあった地図が、緻密に組み上げられたパズルのように完璧な襲撃作戦へと変貌していくのだ。

 「これを考えたのが相手だと考えると厳しいか、王国の軍師でもここまでの絵が描けるだろうか?戦力を削ってチェックメイトは分かるのだが、本当の狙いは命なのか?俺には違うように感じるが」

 何かピンときたのか、リトアの表情に笑顔が浮かぶ。

 「なるほど、頭は切れるようだが実戦経験が浅いのか、それとも自分の力に絶対の自信があるのだろう。俺という存在と、俺が連れている護衛に関しては封殺するか、考慮に入れない考え方だな?警告でもして手を引かせるつもりだろうか......手出しの出来ないように何らかの邪魔をするつもりでいるかだな」

 ブツブツと独り言を呟くリトアだったが、決意を固めたのか地図に何かを書き込み始める。

 「奴隷商と侮った事を後悔させてやろうじゃないかね。俺の目を欺くには少々甘いと教えてやろう。エリック、今からリストに書く物を用意してくれたまえ!無論だが、協力してくれればお礼はするよ」
 「なんだなんだ、面白い事を始めそうだな。俺も一枚噛ませてくれよ」

 子供が悪戯を考えている様なワクワクした表情で準備を始める男が2人。
 お前らちょっと気持ち悪いぞ?と誰かが呟いた気がした。
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