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王都の闇編
盗賊ギルドと暗殺者ギルドに楔を打ち込む3
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裏通りを抜けてスラムへ足を踏み入れる。暗殺者ギルドはスラムの元締めが組織した集団である。
最初は食うに困ったスラムの新入りや、新参者に声を掛けて仕事を斡旋していたのが始まりだった。
ゲイルという男は特別貧しい生まれでは無かったが、若い頃に出来た友人がスラム出身だったり、経済的な理由からスラムに身を落とさなければならなくなった友人を巻き込んで始めた活動が実を結んだ。
ゲイルはスラムで生活するようになり、仲間を増やし......悪事に手を染めた。
彼らと生活するようになってから、人の悪意という物に絶望する毎日を過ごす事になる。誰かが浮上する為には誰かを蹴落とさなければならないというのは、人間社会の仕組みの一部である。
多くは現状で満足するが、欲深い者は人を蹴落としてのし上がる事に躊躇う事が無い。
「バルド、スラムはお得意様だけあって詳しいようだな」
「ああ、うちは奴隷商だがスラムで暮らすよりも良い暮らしをする事が出来るし、ケイと出会うまでは売り先だって厳然して選ぶ位に慎重にやっていたんだ。マッシュみたいな店員を置いていたのだって相手の人格を確かめる要素が強かったくらいだぜ?」
確かに、そんなバルドだからこその人脈だろうか。スラムの人達の見ても嫌悪の視線を向けられていない。
何度か顔を合わせた事があるのか、声を掛けて来る者だって居る。
彼の顔の広さはとても頼りになる。アリアを助ける為に、文字通り死力を尽くし続けたのが彼の今を作っているのだろう。
「このスラムの住人も豊かに生活する事が出来る世界にして見せるさ」
「お前さんならやり遂げると本気で信じているよ。力だけじゃなくて意思の強さや行動力に加えて、人を惹きつける運命力も持っている」
「偶然さ。もしそんな力があるのなら、皆との出会いを大切にしていかなきゃな」
ニヤリとしながら俺の胸をノックするバルドにくすぐったさを覚えながらも、胸が温かくなる思いがした。
彼が生きる中で感じた絶望は計り知れないが、アーネストが救ったこの兄弟は、一歩踏み外せば黒に染まるだけの際どい人生だった。
俺はこれほど人の縁や善意という物が作用した人生というのも珍しいと思う。
「ここのスラムは他国と比べて格段にマシだ。ゲイルのおかげで治安もそこまで悪くないし飢えていない。何よりも衛生環境が良いからな。公衆トイレの設置や簡易的な浴場まで用意されているスラムなんて聞いた事が無いぜ?」
「そうだな。トイレなんかそこらで垂れ流してあったり、しっかりと便やゴミの処理が行われている事すら珍しいからな。何よりトイレの設置や浴場の設置なんていうのは優れた発想だよ」
中世レベルの衛生環境とは酷い物だからだ。目安としてヨーロッパにおける中世はルネサンス以前。
おまるのようなもので用を足し、それが溜まると外に捨てていた。豚等の家畜は町中でも放し飼いにされていたりするので、人間の糞尿なんかは臭いが気にならない程だったという。
一応、町の中では家畜の放し飼いは禁止となっていたみたいだが、守られていないのが現実だった。
中世のヨーロッパでは水で体を洗うことはしていたが、それも時々だったというから当然体臭もあっただろう。衛生環境が酷かった関係でペスト等の病気が蔓延しており、原因の一つに水の汚れがあるのでは無いかと考えていた。その原因は、町中の糞尿が雨が降ると汚水となって川に流れ込み、水質を悪くしていた事もあるだろう。
大量のし尿を荷車で運んで町のはずれに捨てる仕事もあったし、死体が放置されたり、町の表通りで肉屋が家畜をさばくなんて当たり前、腐った血や臓物が転がっているのだから堪らない悪臭だっただろう。
そんな物が流れ込む川の水が、生活用水として使われていたのだ。水は「不衛生」だから体を洗わないという、なんとも本末転倒な考えですが、香水などで体臭を誤魔化す事が出来た時代なので、その考えがまかり通るのも仕方が無いか。
現代人は糞尿や汗の匂いですら嫌うが、これらは必ずしも不快な匂いではない。好きな人の汗なら好ましく思う人も多いだろうし、昔の人は糞尿を快いホッとする香りと感じていたようである。
時代が違えば価値観も変わるという事だ。
トウモロコシの軸やスイカの皮、カキの殻、魚の頭といった腐った食べ物や、犬や猫、ネズミやブタの死骸が」一緒に捨てられ、さらに大量の肥やしが山積みになっていたなんていう光景は当たり前だった。
この世界は魔法が発展しているので、あっちの世界のような不衛生には悩まされる事がないのは救いですらあるだろう。その一点だけを取ってもこの世界は恵まれている。
「ああ、あそこだ。酒場の様な外見をしているが、中は改造されている」
寂れた町並みだが、この建物だけは手入れされた形跡があり、一軒だけ少しマシな外見をしている。
キィと音を立てて開かれた扉の奥には、人が多数待機できるスペースとカウンターがあり、その奥には地下へと続く階段があった。
「バルドさん、マスターは既にお待ちですよ。お客様と一緒に地下までご案内します」
受付役の女性だけ見ても盗賊ギルドの4割り増しは強いだろうか。その性質上、ギルドメンバー全体が熟練しており、装備も実践しようにカスタマイズされた物が多いようだ。
カウンターの後ろに並べられているアイテム類も、強力な毒物や殺傷力の高い装備が多い。
牢屋の様な鉄格子の扉を開けて、俺達は地下へと降りていった。
最初は食うに困ったスラムの新入りや、新参者に声を掛けて仕事を斡旋していたのが始まりだった。
ゲイルという男は特別貧しい生まれでは無かったが、若い頃に出来た友人がスラム出身だったり、経済的な理由からスラムに身を落とさなければならなくなった友人を巻き込んで始めた活動が実を結んだ。
ゲイルはスラムで生活するようになり、仲間を増やし......悪事に手を染めた。
彼らと生活するようになってから、人の悪意という物に絶望する毎日を過ごす事になる。誰かが浮上する為には誰かを蹴落とさなければならないというのは、人間社会の仕組みの一部である。
多くは現状で満足するが、欲深い者は人を蹴落としてのし上がる事に躊躇う事が無い。
「バルド、スラムはお得意様だけあって詳しいようだな」
「ああ、うちは奴隷商だがスラムで暮らすよりも良い暮らしをする事が出来るし、ケイと出会うまでは売り先だって厳然して選ぶ位に慎重にやっていたんだ。マッシュみたいな店員を置いていたのだって相手の人格を確かめる要素が強かったくらいだぜ?」
確かに、そんなバルドだからこその人脈だろうか。スラムの人達の見ても嫌悪の視線を向けられていない。
何度か顔を合わせた事があるのか、声を掛けて来る者だって居る。
彼の顔の広さはとても頼りになる。アリアを助ける為に、文字通り死力を尽くし続けたのが彼の今を作っているのだろう。
「このスラムの住人も豊かに生活する事が出来る世界にして見せるさ」
「お前さんならやり遂げると本気で信じているよ。力だけじゃなくて意思の強さや行動力に加えて、人を惹きつける運命力も持っている」
「偶然さ。もしそんな力があるのなら、皆との出会いを大切にしていかなきゃな」
ニヤリとしながら俺の胸をノックするバルドにくすぐったさを覚えながらも、胸が温かくなる思いがした。
彼が生きる中で感じた絶望は計り知れないが、アーネストが救ったこの兄弟は、一歩踏み外せば黒に染まるだけの際どい人生だった。
俺はこれほど人の縁や善意という物が作用した人生というのも珍しいと思う。
「ここのスラムは他国と比べて格段にマシだ。ゲイルのおかげで治安もそこまで悪くないし飢えていない。何よりも衛生環境が良いからな。公衆トイレの設置や簡易的な浴場まで用意されているスラムなんて聞いた事が無いぜ?」
「そうだな。トイレなんかそこらで垂れ流してあったり、しっかりと便やゴミの処理が行われている事すら珍しいからな。何よりトイレの設置や浴場の設置なんていうのは優れた発想だよ」
中世レベルの衛生環境とは酷い物だからだ。目安としてヨーロッパにおける中世はルネサンス以前。
おまるのようなもので用を足し、それが溜まると外に捨てていた。豚等の家畜は町中でも放し飼いにされていたりするので、人間の糞尿なんかは臭いが気にならない程だったという。
一応、町の中では家畜の放し飼いは禁止となっていたみたいだが、守られていないのが現実だった。
中世のヨーロッパでは水で体を洗うことはしていたが、それも時々だったというから当然体臭もあっただろう。衛生環境が酷かった関係でペスト等の病気が蔓延しており、原因の一つに水の汚れがあるのでは無いかと考えていた。その原因は、町中の糞尿が雨が降ると汚水となって川に流れ込み、水質を悪くしていた事もあるだろう。
大量のし尿を荷車で運んで町のはずれに捨てる仕事もあったし、死体が放置されたり、町の表通りで肉屋が家畜をさばくなんて当たり前、腐った血や臓物が転がっているのだから堪らない悪臭だっただろう。
そんな物が流れ込む川の水が、生活用水として使われていたのだ。水は「不衛生」だから体を洗わないという、なんとも本末転倒な考えですが、香水などで体臭を誤魔化す事が出来た時代なので、その考えがまかり通るのも仕方が無いか。
現代人は糞尿や汗の匂いですら嫌うが、これらは必ずしも不快な匂いではない。好きな人の汗なら好ましく思う人も多いだろうし、昔の人は糞尿を快いホッとする香りと感じていたようである。
時代が違えば価値観も変わるという事だ。
トウモロコシの軸やスイカの皮、カキの殻、魚の頭といった腐った食べ物や、犬や猫、ネズミやブタの死骸が」一緒に捨てられ、さらに大量の肥やしが山積みになっていたなんていう光景は当たり前だった。
この世界は魔法が発展しているので、あっちの世界のような不衛生には悩まされる事がないのは救いですらあるだろう。その一点だけを取ってもこの世界は恵まれている。
「ああ、あそこだ。酒場の様な外見をしているが、中は改造されている」
寂れた町並みだが、この建物だけは手入れされた形跡があり、一軒だけ少しマシな外見をしている。
キィと音を立てて開かれた扉の奥には、人が多数待機できるスペースとカウンターがあり、その奥には地下へと続く階段があった。
「バルドさん、マスターは既にお待ちですよ。お客様と一緒に地下までご案内します」
受付役の女性だけ見ても盗賊ギルドの4割り増しは強いだろうか。その性質上、ギルドメンバー全体が熟練しており、装備も実践しようにカスタマイズされた物が多いようだ。
カウンターの後ろに並べられているアイテム類も、強力な毒物や殺傷力の高い装備が多い。
牢屋の様な鉄格子の扉を開けて、俺達は地下へと降りていった。
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