異世界転生する事になったけど、必死に努力する自前の精神力しか頼れるものはありませんでした。

SAKI

文字の大きさ
上 下
49 / 117
王都の闇編

盗賊ギルドと暗殺者ギルドに楔を打ち込む1

しおりを挟む
 さて、俺はこちらの方から攻めていこうか。
 この王都には公式の盗賊ギルドとは別に、非公式の盗賊ギルドが存在する......所謂、暗殺者ギルドってやつだな。
 職業として認められた盗賊が登録する正規の盗賊ギルドには、当然だがそれ相応の戒律があるから犯罪紛いの事は出来ないのだ。
 対して、暗殺者ギルドはスリ、窃盗、強盗、暗殺、密売と何でもやるのが仕事である。
 
 俺はアーネストに仲介を頼んでいる盗賊ギルドへ向かっている。
 貴族用の豪華で華美な装飾が施された馬車は、内装もしっかりしており、座席に乗って揺られているとウトウトしそうになってくる。
 メェメェという羊のモンスターから取れる毛皮は、ふんわりモコモコでクッションに最適だ。座席にはこれがふんだんに使われているので、座ると体が沈み込む程柔らかい。
 この馬車には俺が教えたサスペンションが使用されているので、振動が軽減されて快適だ。

 「ケイが教えてくれた技術を形にするのは、職人達の技術と経験が肝になるからなぁ......もう少し時間が掛かるだろうが、これが実用段階まで進めば、我が国には莫大な利益が齎されるだろう」

 そりゃそうだ。軍事技術に転用すればこれまでに無い兵器を作り出す事も可能だろうし、金が有り余っている貴族達から金銭を毟り取るチャンスだ。
 莫大な値段を吹っかけて、各国の貴族達へ売りつければ飛ぶように売れるだろうさ。ともかく貴族という生き物は体面を気にするのである。
 他国の貴族が最新の技術が使われた革新的な馬車だと自慢すれば、技術目的は勿論だが、見栄を張る為に借金をしてでも購入しようとする絵がありありと浮かんでくる。

 「俺がアーネスト専用に作ったカスタム馬車なんだからな、奪われたりしないでくれよ?」

 ニヤリと笑った俺だが、アーネストも国王すら所持していない、最新の馬車を所有している優越感にニヤニヤした顔が戻らない。

 「これからの王国について考えると想像するだけで素晴らしい結末が見えるのだが、この馬車に乗った時のアリアの笑顔がな!いやぁ、ケイにも見せてやりたかったよ!俺の妻より美しい女なんかこの世界には居ない!ヌッハハハハハ!!」
 
 流石はアーネストだな。国内に留まらず国外まで轟く武名と愛妻家としての一面は、ここでも主張する事を遠慮しない......実際、アリアは美人という言葉では括れない美貌の持ち主だ。
 それにしても、ハイヒューマンだから見た目が20代後半に見えるが、アーネストは53歳のおっさんである。対してアリアは18歳......犯罪臭がプンプンするぜ!

 この男は、アリアの話題を振ると話が止まらないのだ。貴族という立場すら忘れて、一晩でも二晩でも延々とアリアに対しての自慢やら賛美やら信仰紛いの発言まで延々と垂れ流すのだ。
 まぁ、超絶レアな聖女なのだから、アリアたんマジ聖女!は間違いではないのだが......実際、イーリスと並ぶと名画が紙切れに見えるぐらい映えるんだよなぁ。
 自慢話を聞かされるのはうんざりなので、本来の話題へと話を移そうかな。

 すると空気を読んだのか、突然真面目な顔になったアーネストが話を切り出す。

 「国には必ず闇が存在する。これは人が人である限り無くす事は出来ない物だ。王国としても、盗賊ギルドは必要なものだし、表だって発言する事は出来ないが、暗殺者ギルドの存在を容認するというのが結論だ」

 スラムの住人や、犯罪者達を統括する暗殺者ギルドは治安維持の面でも陰ながら王国に貢献しているのだ。
 国を運営するには、清濁併せ呑む必要がある。
 世間的な悪を根絶する事は不可能なのだから、それを操作する仕組みが必要になってくる。それがインフィナイト王国における暗殺者ギルドの立ち位置なのだ。

 俺が実現しようとしている奴隷解放という目標は、この世界を回している人族が作り上げたシステムである、地位についての根幹に触れる物だ。
 これに関しては、異世界で生きてきた俺の中にはビジョンが浮かんでいる。実現する事は容易ではないだろうが、俺の力と知識と積み上げた努力で無理を通すつもりだ。

 「俺もそれについては否定しない。しかし、敵対するならば話は別だからな。今の内に立場をはっきりさせておく必要がある。俺が、俺の組織が何より優先されるという事実を突き付けておく必要がある」
 「はぁ、見た目は10歳のガキが、世界規模で語る世界改革論か......中身が200歳を超える爺さんだって知らなければ、俺だって笑い飛ばすんだがよぉ」

 「こいつを見せられちゃなぁ」と呟くアーネストの表情は希望に満ち溢れていた。
 異世界の知識で作られた物はこの世界には無い魅力に満ち溢れている。
 現代に生きる人間が魔法を見せられるのと同じだろう。科学という魔法を見せられた彼等にも我々が感じるような感動だったり、驚愕だったりという気持ちを与える事が出来るのだろう。

 話をしていたら目的に到着したようだ。
 酒場が併設されている冒険者ギルドのようなスタイルだ、ラノベにありがちな酒場のマスターがギルドマスターという線はなさそうだ。
 建物の奥から強者の気配がする。

 「ギルドマスターは奥だ、頭が切れるタイプだから喧嘩を売って来るような事は無いだろうが、多少の失言は許してやってくれ」
 「ははは、俺を何だと思っているんだよ。どこぞの公爵様じゃないんだから、流石に歯向かう奴は皆殺しとかしないってば......きっと、恐らく、maybe」

 会話をしながら奥へ向かう俺達だが、アーネストの顔が知れ渡っているのと、事前に訪れる事を伝えてあるので、案内役が先導している以外は席を外しているのか姿が見えない。

 先導役がドアをノックして入室許可を取ると、扉を開けて中へ迎え入れてくれる。

 「さっさと入んなよ。こっちはアンタ達が来るのを首を長くして待ってたんだ」

 中で待っていたのは30代位だろうか、妖艶な色香を放つ女性が足を組んで座っていた。
 ハーフパンツにTシャツというラフなスタイルだが、胸元を大きく開いてこちらを挑発するかの様にこちらを見ている。
 俺を試すつもりだろうか、ならば舐められたものだな。ならばこちらはその驕りを逆手に取らせてもらおうか。
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...