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王都暴走編
過去の惨劇
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いきなり加護を得てしまった2人は呆然としていたが、フリーズされたままでも困るので先を続ける。
「さて、まずは自己紹介といこうか、我は至高神ケイ。この世界の神達の頂点に位置する者」
固まっていた2人が瞬時に再起動して跪く。
柔らかな波動の神気を放出しながらも、簡易的に作り出した異世界を侵食するほどの神気だった。
まぁ、俺自身が敵意を向けない限りは別段問題無いだろう。
「「お会い出来て光栄です」」
「よい、顔を上げよ」
優しげな微笑を湛えた俺は、話を続ける。
2人はどうしても、さっきまで戦っていた俺とイメージが被って気になるようだ。
「面白い余興ではあったが、アレはこの世界で素性を隠す為の仮の姿よ。圧倒的強者と戦う経験は良い物であろう?中々に楽しめたぞ」
「ありがとうございました。まさか、一国の武術大会に出ただけで、このような貴重な経験をさせて頂いた事を一生感謝致します」
「遥かなる高みを見せて頂いた事に誇りを持ち、獣人達に神の偉大さを伝えられるような男になると誓います」
うわ~、ここまでヘコヘコされると、むずがゆくて堪らん。
唯の一般人な俺には、この手の演技は無理だ!ボロが出る前に何とかしよう。
姿を10歳の自分に戻して、改めて話をする事にした。
「ここからはただの村人ケイとして話をするよ。2人とも敬語は止めてくれ。この10年間は人間として暮らしてきたんだ。今まで通りに接してくれ」
「そんな無礼な事は」 「分かったぜ!でも、何で俺達をここに呼んだんだ?」
いきなり敬語を止めてしゃべり出したガイゼルを嗜めようとしたレオルだったが、俺の上着を羽織っただけだった事を失念していたようで、胸元が全開になった事に気が付いてしゃがみ込んでしまった。
「神さんが言う通りにするのが僕だろう。それに、人間として生きてきたっていってるじゃねぇか」
「うう~、それでも君は気安すぎます!」
ガイゼルの切り替えの速さは好感が持てるな、レオルの硬い所は良くも悪くも貴重だろう、秘書なんかが最適なんじゃないだろうか?
「レオル、いや......フィオリナだよな。ここからは人間の俺として相手してくれれば良いよ」
「やはり、神には全てお見通しという事ですか......そうです。死んだレオルの替え玉として生きております。私はフィオリナ、剣聖ライオネル・アルベリオンの娘です」
「なるほど、それじゃあ5年前に起きたあの事故で本物のレオルは」
「はい、首を飛ばされて生きている人間など存在しません」
5年前?田舎育ちの俺には見当が付かん......教えて!【百科事典】
『解』王都西部で発生した、盗賊団連合の大反乱であると判断します。
【骸】 【紅蠍】 【死神の鎌】の3大盗賊団が徒党を組んで、王都西部にある貿易都市ラピスラズリを襲撃した事件が条件に該当。
【死神の鎌】の頭領【首狩りのスパーダ】により、レオル・アルベリオンは首を刎ねられて戦死しています。
相対していたライオネル・アルベリオンとレオル・アルベリオン、護衛騎士隊以外には、目撃者が居ない為、事実を伏せたと考えるのが妥当でしょう。
インフィナイト王国は家督の相続に関して、『王国法』伯爵位より上の身分にある家の当主は、直系の男性である事を義務付ける、と定めています。
「でもよ?剣聖なら女なんか10人でも100人でも用意できるだろう?男児が生まれるまで子供は作れば良いじゃねぇか?どうして女を男として生かす必要がある」
「レオルは正室の子、フィオリナは側室の子でした。しかし、政略結婚だった。マーサ・アルベリオンとの関係は冷え切っており、平民上がりのライオネルを毛嫌いしていました。」
貴族主義って奴か、血がそんなに大事かねぇ?俺には理解出来ないな。
「それでも誠実なライオネルはマーサを大切にしていました。しかし、側室のフィリス・アルベリオンとは相思相愛の関係にあり、剣聖として王国に仕える前からの関係でした。」
「フィリスがフィオリナを身篭りると、マーサとの確執が強まり始めました。生まれる子供に対して憎悪を燃やしたマーサは、暗殺者を仕立ててフィリスの命を狙いました。幸い、現場に駆けつけたライオネルが一閃で切り倒し事無きを得ましたが、ライオネルはフィリスの命を守る為、貿易都市ラピスラズリへフィリスを逃がしました」
「暗殺者が始末された事も知らず、無事任務を遂行した暗殺者がフィリスを始末したのだろうと、マーサは信じ込んでいました。姿を消したフィリスに満足したマーサは、結婚から5年目にしてようやく気づきます。自分がどのような態度を取ろうと、貴族である自分を立てて大切にするライオネルという男の愛に」
「自分の行いに後悔したマーサでしたが、真実をライオネルに打ち明ける事は出来ませんでした。それから7年後に悲劇は起きました。」
この後に起きた事件の経緯はこうだ。
ライオネル・レオル・マーサの3人は貿易都市ラピスラズリで毎年行われるオークションへ参加しに来たのだ。 周辺国との合同で行われるラピスラズリ大オークションは、国宝レベルの出物が数多く出品される事で有名であり、各国の財務卿や貿易商が莫大な財を持ち寄って参加した。
こっそりとオークション前夜にフィリスを訪ねたライオネルは、驚愕の事実を知る事となるのだった。
フィリスが住んでいるはずの家には、血痕と散乱した調度品が残されているだけで、無人だったのである。
だが、ライオネルの悲劇はまだまだ続く。
オークション参加客と出品する出物を手に入れる為に、盗賊団が連合を組んでラピスラズリを襲撃したのだ。
鳴らされる無数の警鐘を聞いて飛び出すと、衛兵が叫びながら報告してくる。都市の北と南の外壁を破壊した盗賊団が大挙して襲い掛かって来たというのだ。
失意のライオネルだったが、無抵抗の民が殺戮されていると聞いて、黙っている事など出来なかった。
悪鬼羅刹を遥かに超え、怒れる闘神となったライオネルは、赤い暴風となって目に付く盗賊を全て血祭りに上げた。
折れた愛剣を投げ捨て、盗賊から奪った粗悪な剣を振るい続けるライオネル、血と脂で切れ味が鈍った剣を盗賊の腹に突き立てると、更に剣を奪って敵を切り捨てる。
百戦錬磨の闘神は、身も竦む咆哮を上げながら100人、200人と敵を切り続けた。
敵の気配を探り、追い詰め殺し、敵の気配を......フィリス!?
間違えるはずなど無い!今にも消えそうになっているが、愛する人を間違える男など居て堪るか!と、家の屋根を飛び越えて渡る。
饐えた臭いのする路地裏で、血溜まりに倒れ伏したフィリスを見つけた。
ライオネルはすぐに駆け寄ると、治癒魔法を唱え始めた......無駄だと知りつつも。
「来てくれたのね、ライル......ごめんなさい。フィオリナを攫われてしまったわ」
「何があった!どうしてこんな事に!」
口から血を流しながら苦しそうに話すフィリスは、既に血の気が失せており、生きているのが不思議なくらいだった。
その苦しみを長引かせる事になったが、治癒魔法はフィリスが最後の言葉を伝える時間を作り出した。
「【首狩りのスパーダ】が現れたの、襲撃の為に潜伏していたアイツが動き出したの、私達は必死で逃げたわ。家に逃げ込んだけど駄目だった。短距離転移の呪文を唱えたけども、追尾されてこの様よ」
「傭兵時代の復讐か、大規模な襲撃に合わせて復讐まで実行する......ヤツらしい手口だ」
2人が傭兵をやっていた頃に、左手を奪う所まで追い詰めたが、仕留める事が出来なかった暗殺者がスパーダだった。
去り際に言った言葉は「何十年掛かっても、この腕の落とし前は必ず付けるぜ?幸福な未来が来ると思うなよ?」だったが、盗賊に身を窶していたとは思わなかった。
「目の前であの子に奴隷紋を刻まれたわ。助け出すのなら注意して......ライル、こんな別れで......ごめん......なさい......愛してる......わ」
「フィリーース!!うぉおおおおおおおーー!!」
フィリスの亡骸を抱えてライオネルは走った。
暴虐の限りを尽くす盗賊達を切り捨て、塵も残さぬと、対象指定の爆炎魔法で次々を盗賊達を燃やし尽くす。
やがて、マーサとレオルが寝ているはずの宿へと到着した。
護衛兵達が奮闘してくれたのだろう。兵士と盗賊が激しい戦いを繰り広げた痕跡が残っている。
両者の屍が散乱している中、剣撃の音が聞こえてくる。
......まだ2人とも生きている!
強引に壁を破壊したライオネルは部屋に向かって突き進む。
「ヒャハハハハ!ガキが一丁前に粘るじゃねぇか?いいぜ、いいぜ、いいぜぇえええええ!そそるじゃねぇか!?」
「くぅ、強すぎる......なんて腕だ!父さんさえ居てくれれば」
「ライオネルか?くふふふふ、息子のてめぇも、ライオネルも生かしちゃおかねえ!」
大きな鍵爪の付いた義手とソードブレイカーを装備した黒衣の男が武器を振るう度に、レオルの傷が増えていく。倒れた兵士の屍と共に、無数の破壊された剣が落ちている。
レオルと剣が交差する度に、折れ飛ぶ剣を拾っては交換して使い続けるが、もう代えの剣は無い。
「そこに転がしてあるクソ娘もライオネルの子供らしいな?アイツが来たら、お前らも全員グシャグシャの八つ裂きにしてやるぜぇ!!」
「母さんに手出しはさせない!」
「止めて!い、幾ら欲しいの?お金が目当てなんでしょ?ほ、ほら金貨ならここに幾らでもあるわ!」
ジャラリと中身をぶちまけた袋から金貨が零れ出すが、火に油を注ぐだけだった。
「あああ!?話聞いてんのか!このクソババアが!お前ら全部ぶっ殺せばその金貨も俺の物だろうが!金なんざ幾ら積み上げられても許すわきゃねぇだろうがぁああああああ!!」
「ギャアアアアア!!」
怒りの余り、手にしたソードブレイカーを投げつけたスパーダが叫ぶのと同時に、太ももに深々と突き刺さったソードブレイカーの痛みにマーサが絶叫する。
「止めろぉおおお!」
「うぜえんだよ、この糞ガキがぁ!」
鳩尾を蹴り上げてレオル吹き飛ばしたスパーダが、胃の中身を吐き出しながら倒れ伏すレオルを踏みつける。
「オラ!この、クソ、ガキ!がぁあああ!!死ね、死ね!死ね死ね死ねぇええ!!」
「う!がはぁ、あ、ああ、......ああ」
興奮して何度も執拗にレオルを踏みつけると、スパーダがレオルの首をつかみ上げて宙吊りにする。
ニヤァと下品な笑みを浮かべたスパーダが、レオルに向かって話しかける。
「おい、クソガキ、助けて欲しいか?死にたくないよな?ママも助けて欲しいよなぁ?ああ?」
「......はい、助けて......欲しいです。助けて、助けて、ううう、ひぃ」
「もっとだ!もっと必死に命乞いしろよ!死にたくないんだろ?そうなんだろうがよぉ!」
「助けて、助けてください!死にたくない!嫌だ嫌だ!嫌だああああ!!......ああ」 「はい、残念でした」
ズブリと腹部を貫く5本の鍵爪、突き刺したスパーダが喜悦の表情を浮かべて最後を告げる。
グリグリと傷口を抉り、「もっと痛みを!もっと苦しみを感じろ!」と叫ぶ。
「がふ、あ、あ......か、かあ......さん」
「ヒハハハハハ!これだ!これがやりたかったんだぁ!どうだ!どうなんだよ!ライオネルぅう!!」
その言葉と同時に壁を突き破ってライオネルが突入してくる。
「マーサ!レオル!......スパーダ!貴様ぁああ!!」
「流石は剣聖様だなぁ?悪事を働く盗賊をたくさんたくさ~ん殺しまくったから、血で真っ赤じゃねぇか!?だけど、英雄も大切な物はな~んにも守れなかったなぁ?」
掴み上げたレオルを見せ付けるようにライオネルの前に掲げる。
「と......さん」
「その抱えてる死体も、このクソガキも!手遅れなんだよ!このクソが!クソ英雄が!はっはぁ!ざまぁみやがれ!」
ひょいと空中にレオルを放り投げると、鍵爪を一閃するスパーダ。
ライオネルに向かってゴロゴロと転がってきたのは......レオルの首だった。
「あ......ああ、レオル!レオルぅううう!!ああああああ!私を庇って、レオル......」
「あれから俺がどうやって生きてきたかわかんねぇだろう?わからねぇよな!?分かるわけがねぇええええ!!」
絶叫したスパーダが、ブスリと薬剤が入った管のような物を腕に突き刺すと、体中の血管が浮かび上がり、ボゴンボゴンと体が二回りほど肥大するスパーダ。
ボゴンボゴンと更に肥大する肉体は、2メートル程の長身だったスパーダを3メートル近い化け物に変えた。
天井に体を擦りながら、うっとうしそうに近づいてくるスパーダだったモノ
「カハァアアアアア!コロスコロスコロス!ミナゴロシダ!ララライオネルウウウウウ!!ブルァアア!」
全身が青く染まり、もはや人間とは言い難い異形と化したスパーダが鍵爪を振るうと、壁が、天井が根こそぎ吹き飛び、夜空が見えるようになった。
「ライオネル!殺せ!レオルの仇を討ちなさい!あんたはそれしか出来ないでしょ!?殺せ!殺しなさいよぉおお!早くしろおおおお!!!」
レオルの死に狂乱するマーサだったが、足に重症を負い、立ち上がる事が出来ずにいる。
力いっぱい床を握り締めた手は血に染まり、伸ばしていた爪は剥がれて、ブラブラと揺れていた。
「グギギギ、フィオリナ。アノババアオコロセコロセ!」
倒れていた少女の奴隷紋が光ると、表情を失った人形が立ち上がる。
目の前で何度も母親を剣で突き刺される光景は、少女を心をひどく痛めつけた。
その朦朧とした意識の中で立ち上がった少女は、マーサに向かって歩き出す。
「止めろ!それだけは駄目だ!フィオリナ!」
「ジャマオスルナライオネルゥウウ!」
「ぐああああああ!!」
残像すら見えない速度で振るわれた鍵爪は、防御する事すら許さず、ライオネルを吹き飛ばした。
ゴロゴロと転がり、何度も床に打ちつけられたが、兵士の屍がクッション代わりとなり、何とかとまる事が出来た。
正気を失っていたマーサだったが、フィオリナを見て冷静さが帰ってきた。
あの時殺したはずのフィリスが生きており、その子供であるフィオリナが生きていた。
レオルは死んでしまったが、フィオリナは生きている。
あの時後悔した記憶が浮かび上がる。自分が行った愚かな行動。
ライオネルに打ち明ける事が出来ず、ずっと心を痛めていた。
愚かな自分、貴族だ平民だなど関係無く、ただ純粋に愛し合うライオネルとフィリアが羨ましかった。
プライドが邪魔をして素直になれないで居た自分を見捨てなかったライオネル。
彼女の中で全てのピースが嵌った。過去の清算は出来ないが、命を捨てるのはここだと。
「フィオリナと言いましたね?私はマーサ、貴方のもう一人のお母さんよ」
「おかあ......さん?ころす。おかあさん、しんだ」
「ごめんなさい、フィリアはもう居ないの。私も......もう長く無いわ」
奴隷紋が光り、フィオリナは強制的に体を動かされる。
マーサの太ももに刺さったソードブレイカーを引き抜くフィオリナ。
「うあああ!っく......フィオリナ。私の命を貴方にあげるわ、だから生きて、絶対に諦めては駄目よ?」
「ころす、ころす、いや、ころし、たくない、ころす、いや、ころし」
「すぐに苦しみから解放してあげるわ。ごめんなさい、そして、ありがとうフィオリナ。もう一人の私の家族」
マーサの首飾りが輝きを増し、中央に嵌められた大粒のルビーが砕け散ると、膨大な生命力とマナを秘めた光球が浮かび上がる。
【換魂の首飾り】「レアリティ SR」
装備者の魂と引き換えに、対象者に莫大な生命力と魔力を与える。
どのような負傷も瞬時に癒し、永続的に全能力を底上げし続ける。
効果を発揮する際、付近を漂う魂をも触媒として使用する為、使用時は環境を整えて発動する事。
光球は輝きを増し、周囲の魂や魔力を根こそぎ集めて肥大化する。
「ライオネル!ごめんなさい!こんな愚かな私だけど、本気で貴方を愛していたわ!」
マーサが手を掲げると、光球がライオネルに向かって飛んでいき、ライオネルはルビーの輝きに包まれた。
「ライル」 「父さん」 「ライオネル」
「ライオネル様」 「剣聖様」 「旦那様」
光の中で響くのは、フィリス・レオル・マーサ・護衛騎士・衛兵・メイド達の声だった。
声がライオネルの体に吸い込まれていくのと同時に、全身に力が漲った。
真紅の輝きはライオネルに吸収されると、そこには赤髪に変わった一人の獅子が立っていた。
「お前達の想いは確かに受け取った。王国の騎士としてでは無く、この一時だけは1人の男として戦う事を許してくれ!」
「ライオネルゥウウウウウウウ!」
一瞬の交錯だった。
無数の斬撃が煌き、スパーダだったモノを切り裂く。
青く変色した皮膚から、青黒い血がドバドバと流れ出す。
「イダイイイイイイィィイイ!ライオ、ライオネルウウウウ!」
ブン!ブン!と見えない爪撃が振るわれるが、ライオネル自身が真紅の閃光となって、縦横無尽に移動する今となっては、攻撃が当たる事など無い。
「これは愛する妻の分だ!マーサの痛みを!」
「フィリスの悲しみを!その身で味わえぇえい!」
「ギャアアア!ヤメロヤメロォオオオオ!!!」
赤い流星が2つ降り注ぐと、右手と左手の義手が切り飛ばされる。
「ウデ!オレノウデガアアアアアア!」
「これはレオルとフィオリナの分だ!母を守れない無念を!母を傷つける悲しみを!」
「アアアア!アシガ、オレノアシガアアアア」
更に赤い流星が2つ降り注ぐと、両足がきり飛ばされた。
「我が騎士達の!誇りある兵士達の!従者達の怒りをその身に焼き付けろ!!」
数え切れない流星が降り注ぎ、3メートルもあった巨体が、見るも無残に切り裂かれ、1メートル半ば程しか残っていない。
「ライオネルライオネルライオネルウウウ!」
「これで終わりだ!俺の怒りを受けろ!」
【極十字斬】
真紅の輝きを乗せた十字の斬撃は、スパーダを切り裂いただけに留まらず、宿の背後に生えていた大木まで切り裂き、天高く吹き飛ばした。
「ア”アアアアア......アア......ア」
4つに切り裂かれたスパーダの墓標になるかのように、切り飛ばされた大木が振ってきて、スパーダごと地面に突き刺さった。
「すまない。俺とフィオリナは、みんなの分も生きて幸せになって見せる。フィリス、マーサ、レオル......天から見守っていてくれ」
糸が切れたように倒れていたフィオリナを抱きしめたライオネルは、天を仰ぎながら一筋の涙を流すのだった。
「さて、まずは自己紹介といこうか、我は至高神ケイ。この世界の神達の頂点に位置する者」
固まっていた2人が瞬時に再起動して跪く。
柔らかな波動の神気を放出しながらも、簡易的に作り出した異世界を侵食するほどの神気だった。
まぁ、俺自身が敵意を向けない限りは別段問題無いだろう。
「「お会い出来て光栄です」」
「よい、顔を上げよ」
優しげな微笑を湛えた俺は、話を続ける。
2人はどうしても、さっきまで戦っていた俺とイメージが被って気になるようだ。
「面白い余興ではあったが、アレはこの世界で素性を隠す為の仮の姿よ。圧倒的強者と戦う経験は良い物であろう?中々に楽しめたぞ」
「ありがとうございました。まさか、一国の武術大会に出ただけで、このような貴重な経験をさせて頂いた事を一生感謝致します」
「遥かなる高みを見せて頂いた事に誇りを持ち、獣人達に神の偉大さを伝えられるような男になると誓います」
うわ~、ここまでヘコヘコされると、むずがゆくて堪らん。
唯の一般人な俺には、この手の演技は無理だ!ボロが出る前に何とかしよう。
姿を10歳の自分に戻して、改めて話をする事にした。
「ここからはただの村人ケイとして話をするよ。2人とも敬語は止めてくれ。この10年間は人間として暮らしてきたんだ。今まで通りに接してくれ」
「そんな無礼な事は」 「分かったぜ!でも、何で俺達をここに呼んだんだ?」
いきなり敬語を止めてしゃべり出したガイゼルを嗜めようとしたレオルだったが、俺の上着を羽織っただけだった事を失念していたようで、胸元が全開になった事に気が付いてしゃがみ込んでしまった。
「神さんが言う通りにするのが僕だろう。それに、人間として生きてきたっていってるじゃねぇか」
「うう~、それでも君は気安すぎます!」
ガイゼルの切り替えの速さは好感が持てるな、レオルの硬い所は良くも悪くも貴重だろう、秘書なんかが最適なんじゃないだろうか?
「レオル、いや......フィオリナだよな。ここからは人間の俺として相手してくれれば良いよ」
「やはり、神には全てお見通しという事ですか......そうです。死んだレオルの替え玉として生きております。私はフィオリナ、剣聖ライオネル・アルベリオンの娘です」
「なるほど、それじゃあ5年前に起きたあの事故で本物のレオルは」
「はい、首を飛ばされて生きている人間など存在しません」
5年前?田舎育ちの俺には見当が付かん......教えて!【百科事典】
『解』王都西部で発生した、盗賊団連合の大反乱であると判断します。
【骸】 【紅蠍】 【死神の鎌】の3大盗賊団が徒党を組んで、王都西部にある貿易都市ラピスラズリを襲撃した事件が条件に該当。
【死神の鎌】の頭領【首狩りのスパーダ】により、レオル・アルベリオンは首を刎ねられて戦死しています。
相対していたライオネル・アルベリオンとレオル・アルベリオン、護衛騎士隊以外には、目撃者が居ない為、事実を伏せたと考えるのが妥当でしょう。
インフィナイト王国は家督の相続に関して、『王国法』伯爵位より上の身分にある家の当主は、直系の男性である事を義務付ける、と定めています。
「でもよ?剣聖なら女なんか10人でも100人でも用意できるだろう?男児が生まれるまで子供は作れば良いじゃねぇか?どうして女を男として生かす必要がある」
「レオルは正室の子、フィオリナは側室の子でした。しかし、政略結婚だった。マーサ・アルベリオンとの関係は冷え切っており、平民上がりのライオネルを毛嫌いしていました。」
貴族主義って奴か、血がそんなに大事かねぇ?俺には理解出来ないな。
「それでも誠実なライオネルはマーサを大切にしていました。しかし、側室のフィリス・アルベリオンとは相思相愛の関係にあり、剣聖として王国に仕える前からの関係でした。」
「フィリスがフィオリナを身篭りると、マーサとの確執が強まり始めました。生まれる子供に対して憎悪を燃やしたマーサは、暗殺者を仕立ててフィリスの命を狙いました。幸い、現場に駆けつけたライオネルが一閃で切り倒し事無きを得ましたが、ライオネルはフィリスの命を守る為、貿易都市ラピスラズリへフィリスを逃がしました」
「暗殺者が始末された事も知らず、無事任務を遂行した暗殺者がフィリスを始末したのだろうと、マーサは信じ込んでいました。姿を消したフィリスに満足したマーサは、結婚から5年目にしてようやく気づきます。自分がどのような態度を取ろうと、貴族である自分を立てて大切にするライオネルという男の愛に」
「自分の行いに後悔したマーサでしたが、真実をライオネルに打ち明ける事は出来ませんでした。それから7年後に悲劇は起きました。」
この後に起きた事件の経緯はこうだ。
ライオネル・レオル・マーサの3人は貿易都市ラピスラズリで毎年行われるオークションへ参加しに来たのだ。 周辺国との合同で行われるラピスラズリ大オークションは、国宝レベルの出物が数多く出品される事で有名であり、各国の財務卿や貿易商が莫大な財を持ち寄って参加した。
こっそりとオークション前夜にフィリスを訪ねたライオネルは、驚愕の事実を知る事となるのだった。
フィリスが住んでいるはずの家には、血痕と散乱した調度品が残されているだけで、無人だったのである。
だが、ライオネルの悲劇はまだまだ続く。
オークション参加客と出品する出物を手に入れる為に、盗賊団が連合を組んでラピスラズリを襲撃したのだ。
鳴らされる無数の警鐘を聞いて飛び出すと、衛兵が叫びながら報告してくる。都市の北と南の外壁を破壊した盗賊団が大挙して襲い掛かって来たというのだ。
失意のライオネルだったが、無抵抗の民が殺戮されていると聞いて、黙っている事など出来なかった。
悪鬼羅刹を遥かに超え、怒れる闘神となったライオネルは、赤い暴風となって目に付く盗賊を全て血祭りに上げた。
折れた愛剣を投げ捨て、盗賊から奪った粗悪な剣を振るい続けるライオネル、血と脂で切れ味が鈍った剣を盗賊の腹に突き立てると、更に剣を奪って敵を切り捨てる。
百戦錬磨の闘神は、身も竦む咆哮を上げながら100人、200人と敵を切り続けた。
敵の気配を探り、追い詰め殺し、敵の気配を......フィリス!?
間違えるはずなど無い!今にも消えそうになっているが、愛する人を間違える男など居て堪るか!と、家の屋根を飛び越えて渡る。
饐えた臭いのする路地裏で、血溜まりに倒れ伏したフィリスを見つけた。
ライオネルはすぐに駆け寄ると、治癒魔法を唱え始めた......無駄だと知りつつも。
「来てくれたのね、ライル......ごめんなさい。フィオリナを攫われてしまったわ」
「何があった!どうしてこんな事に!」
口から血を流しながら苦しそうに話すフィリスは、既に血の気が失せており、生きているのが不思議なくらいだった。
その苦しみを長引かせる事になったが、治癒魔法はフィリスが最後の言葉を伝える時間を作り出した。
「【首狩りのスパーダ】が現れたの、襲撃の為に潜伏していたアイツが動き出したの、私達は必死で逃げたわ。家に逃げ込んだけど駄目だった。短距離転移の呪文を唱えたけども、追尾されてこの様よ」
「傭兵時代の復讐か、大規模な襲撃に合わせて復讐まで実行する......ヤツらしい手口だ」
2人が傭兵をやっていた頃に、左手を奪う所まで追い詰めたが、仕留める事が出来なかった暗殺者がスパーダだった。
去り際に言った言葉は「何十年掛かっても、この腕の落とし前は必ず付けるぜ?幸福な未来が来ると思うなよ?」だったが、盗賊に身を窶していたとは思わなかった。
「目の前であの子に奴隷紋を刻まれたわ。助け出すのなら注意して......ライル、こんな別れで......ごめん......なさい......愛してる......わ」
「フィリーース!!うぉおおおおおおおーー!!」
フィリスの亡骸を抱えてライオネルは走った。
暴虐の限りを尽くす盗賊達を切り捨て、塵も残さぬと、対象指定の爆炎魔法で次々を盗賊達を燃やし尽くす。
やがて、マーサとレオルが寝ているはずの宿へと到着した。
護衛兵達が奮闘してくれたのだろう。兵士と盗賊が激しい戦いを繰り広げた痕跡が残っている。
両者の屍が散乱している中、剣撃の音が聞こえてくる。
......まだ2人とも生きている!
強引に壁を破壊したライオネルは部屋に向かって突き進む。
「ヒャハハハハ!ガキが一丁前に粘るじゃねぇか?いいぜ、いいぜ、いいぜぇえええええ!そそるじゃねぇか!?」
「くぅ、強すぎる......なんて腕だ!父さんさえ居てくれれば」
「ライオネルか?くふふふふ、息子のてめぇも、ライオネルも生かしちゃおかねえ!」
大きな鍵爪の付いた義手とソードブレイカーを装備した黒衣の男が武器を振るう度に、レオルの傷が増えていく。倒れた兵士の屍と共に、無数の破壊された剣が落ちている。
レオルと剣が交差する度に、折れ飛ぶ剣を拾っては交換して使い続けるが、もう代えの剣は無い。
「そこに転がしてあるクソ娘もライオネルの子供らしいな?アイツが来たら、お前らも全員グシャグシャの八つ裂きにしてやるぜぇ!!」
「母さんに手出しはさせない!」
「止めて!い、幾ら欲しいの?お金が目当てなんでしょ?ほ、ほら金貨ならここに幾らでもあるわ!」
ジャラリと中身をぶちまけた袋から金貨が零れ出すが、火に油を注ぐだけだった。
「あああ!?話聞いてんのか!このクソババアが!お前ら全部ぶっ殺せばその金貨も俺の物だろうが!金なんざ幾ら積み上げられても許すわきゃねぇだろうがぁああああああ!!」
「ギャアアアアア!!」
怒りの余り、手にしたソードブレイカーを投げつけたスパーダが叫ぶのと同時に、太ももに深々と突き刺さったソードブレイカーの痛みにマーサが絶叫する。
「止めろぉおおお!」
「うぜえんだよ、この糞ガキがぁ!」
鳩尾を蹴り上げてレオル吹き飛ばしたスパーダが、胃の中身を吐き出しながら倒れ伏すレオルを踏みつける。
「オラ!この、クソ、ガキ!がぁあああ!!死ね、死ね!死ね死ね死ねぇええ!!」
「う!がはぁ、あ、ああ、......ああ」
興奮して何度も執拗にレオルを踏みつけると、スパーダがレオルの首をつかみ上げて宙吊りにする。
ニヤァと下品な笑みを浮かべたスパーダが、レオルに向かって話しかける。
「おい、クソガキ、助けて欲しいか?死にたくないよな?ママも助けて欲しいよなぁ?ああ?」
「......はい、助けて......欲しいです。助けて、助けて、ううう、ひぃ」
「もっとだ!もっと必死に命乞いしろよ!死にたくないんだろ?そうなんだろうがよぉ!」
「助けて、助けてください!死にたくない!嫌だ嫌だ!嫌だああああ!!......ああ」 「はい、残念でした」
ズブリと腹部を貫く5本の鍵爪、突き刺したスパーダが喜悦の表情を浮かべて最後を告げる。
グリグリと傷口を抉り、「もっと痛みを!もっと苦しみを感じろ!」と叫ぶ。
「がふ、あ、あ......か、かあ......さん」
「ヒハハハハハ!これだ!これがやりたかったんだぁ!どうだ!どうなんだよ!ライオネルぅう!!」
その言葉と同時に壁を突き破ってライオネルが突入してくる。
「マーサ!レオル!......スパーダ!貴様ぁああ!!」
「流石は剣聖様だなぁ?悪事を働く盗賊をたくさんたくさ~ん殺しまくったから、血で真っ赤じゃねぇか!?だけど、英雄も大切な物はな~んにも守れなかったなぁ?」
掴み上げたレオルを見せ付けるようにライオネルの前に掲げる。
「と......さん」
「その抱えてる死体も、このクソガキも!手遅れなんだよ!このクソが!クソ英雄が!はっはぁ!ざまぁみやがれ!」
ひょいと空中にレオルを放り投げると、鍵爪を一閃するスパーダ。
ライオネルに向かってゴロゴロと転がってきたのは......レオルの首だった。
「あ......ああ、レオル!レオルぅううう!!ああああああ!私を庇って、レオル......」
「あれから俺がどうやって生きてきたかわかんねぇだろう?わからねぇよな!?分かるわけがねぇええええ!!」
絶叫したスパーダが、ブスリと薬剤が入った管のような物を腕に突き刺すと、体中の血管が浮かび上がり、ボゴンボゴンと体が二回りほど肥大するスパーダ。
ボゴンボゴンと更に肥大する肉体は、2メートル程の長身だったスパーダを3メートル近い化け物に変えた。
天井に体を擦りながら、うっとうしそうに近づいてくるスパーダだったモノ
「カハァアアアアア!コロスコロスコロス!ミナゴロシダ!ララライオネルウウウウウ!!ブルァアア!」
全身が青く染まり、もはや人間とは言い難い異形と化したスパーダが鍵爪を振るうと、壁が、天井が根こそぎ吹き飛び、夜空が見えるようになった。
「ライオネル!殺せ!レオルの仇を討ちなさい!あんたはそれしか出来ないでしょ!?殺せ!殺しなさいよぉおお!早くしろおおおお!!!」
レオルの死に狂乱するマーサだったが、足に重症を負い、立ち上がる事が出来ずにいる。
力いっぱい床を握り締めた手は血に染まり、伸ばしていた爪は剥がれて、ブラブラと揺れていた。
「グギギギ、フィオリナ。アノババアオコロセコロセ!」
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目の前で何度も母親を剣で突き刺される光景は、少女を心をひどく痛めつけた。
その朦朧とした意識の中で立ち上がった少女は、マーサに向かって歩き出す。
「止めろ!それだけは駄目だ!フィオリナ!」
「ジャマオスルナライオネルゥウウ!」
「ぐああああああ!!」
残像すら見えない速度で振るわれた鍵爪は、防御する事すら許さず、ライオネルを吹き飛ばした。
ゴロゴロと転がり、何度も床に打ちつけられたが、兵士の屍がクッション代わりとなり、何とかとまる事が出来た。
正気を失っていたマーサだったが、フィオリナを見て冷静さが帰ってきた。
あの時殺したはずのフィリスが生きており、その子供であるフィオリナが生きていた。
レオルは死んでしまったが、フィオリナは生きている。
あの時後悔した記憶が浮かび上がる。自分が行った愚かな行動。
ライオネルに打ち明ける事が出来ず、ずっと心を痛めていた。
愚かな自分、貴族だ平民だなど関係無く、ただ純粋に愛し合うライオネルとフィリアが羨ましかった。
プライドが邪魔をして素直になれないで居た自分を見捨てなかったライオネル。
彼女の中で全てのピースが嵌った。過去の清算は出来ないが、命を捨てるのはここだと。
「フィオリナと言いましたね?私はマーサ、貴方のもう一人のお母さんよ」
「おかあ......さん?ころす。おかあさん、しんだ」
「ごめんなさい、フィリアはもう居ないの。私も......もう長く無いわ」
奴隷紋が光り、フィオリナは強制的に体を動かされる。
マーサの太ももに刺さったソードブレイカーを引き抜くフィオリナ。
「うあああ!っく......フィオリナ。私の命を貴方にあげるわ、だから生きて、絶対に諦めては駄目よ?」
「ころす、ころす、いや、ころし、たくない、ころす、いや、ころし」
「すぐに苦しみから解放してあげるわ。ごめんなさい、そして、ありがとうフィオリナ。もう一人の私の家族」
マーサの首飾りが輝きを増し、中央に嵌められた大粒のルビーが砕け散ると、膨大な生命力とマナを秘めた光球が浮かび上がる。
【換魂の首飾り】「レアリティ SR」
装備者の魂と引き換えに、対象者に莫大な生命力と魔力を与える。
どのような負傷も瞬時に癒し、永続的に全能力を底上げし続ける。
効果を発揮する際、付近を漂う魂をも触媒として使用する為、使用時は環境を整えて発動する事。
光球は輝きを増し、周囲の魂や魔力を根こそぎ集めて肥大化する。
「ライオネル!ごめんなさい!こんな愚かな私だけど、本気で貴方を愛していたわ!」
マーサが手を掲げると、光球がライオネルに向かって飛んでいき、ライオネルはルビーの輝きに包まれた。
「ライル」 「父さん」 「ライオネル」
「ライオネル様」 「剣聖様」 「旦那様」
光の中で響くのは、フィリス・レオル・マーサ・護衛騎士・衛兵・メイド達の声だった。
声がライオネルの体に吸い込まれていくのと同時に、全身に力が漲った。
真紅の輝きはライオネルに吸収されると、そこには赤髪に変わった一人の獅子が立っていた。
「お前達の想いは確かに受け取った。王国の騎士としてでは無く、この一時だけは1人の男として戦う事を許してくれ!」
「ライオネルゥウウウウウウウ!」
一瞬の交錯だった。
無数の斬撃が煌き、スパーダだったモノを切り裂く。
青く変色した皮膚から、青黒い血がドバドバと流れ出す。
「イダイイイイイイィィイイ!ライオ、ライオネルウウウウ!」
ブン!ブン!と見えない爪撃が振るわれるが、ライオネル自身が真紅の閃光となって、縦横無尽に移動する今となっては、攻撃が当たる事など無い。
「これは愛する妻の分だ!マーサの痛みを!」
「フィリスの悲しみを!その身で味わえぇえい!」
「ギャアアア!ヤメロヤメロォオオオオ!!!」
赤い流星が2つ降り注ぐと、右手と左手の義手が切り飛ばされる。
「ウデ!オレノウデガアアアアアア!」
「これはレオルとフィオリナの分だ!母を守れない無念を!母を傷つける悲しみを!」
「アアアア!アシガ、オレノアシガアアアア」
更に赤い流星が2つ降り注ぐと、両足がきり飛ばされた。
「我が騎士達の!誇りある兵士達の!従者達の怒りをその身に焼き付けろ!!」
数え切れない流星が降り注ぎ、3メートルもあった巨体が、見るも無残に切り裂かれ、1メートル半ば程しか残っていない。
「ライオネルライオネルライオネルウウウ!」
「これで終わりだ!俺の怒りを受けろ!」
【極十字斬】
真紅の輝きを乗せた十字の斬撃は、スパーダを切り裂いただけに留まらず、宿の背後に生えていた大木まで切り裂き、天高く吹き飛ばした。
「ア”アアアアア......アア......ア」
4つに切り裂かれたスパーダの墓標になるかのように、切り飛ばされた大木が振ってきて、スパーダごと地面に突き刺さった。
「すまない。俺とフィオリナは、みんなの分も生きて幸せになって見せる。フィリス、マーサ、レオル......天から見守っていてくれ」
糸が切れたように倒れていたフィオリナを抱きしめたライオネルは、天を仰ぎながら一筋の涙を流すのだった。
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