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王都暴走編
奴隷達の治療
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まずは、現状の把握からだ。
現在の戦力は俺、バルドは確定だが、信頼出来る仲間が必要だ。
資金は幾らでもあるが、人という資源には限りがあるのだ。
「それで、信頼出来る味方はどれだけ居るんだ?俺がお前を欲しいと言ったのは、人材と組織力を確保する為だ。実際に戦力として使える奴が、どれだけ居るのか教えてくれないか?」
やはりそう来たかと、質問に対してはある程度予想していたようだ。
「奴隷のドラゴニアンは見たか?商品のフリをして、店を見張らせているが、アイツは俺の右腕だ。売り物じゃねぇ」
「成程な、立場と実力が釣り合ってないから、事情があるんだろうと思っていたが、身内を潜り込ませていたのか」
「ああ、後は地下で魔法陣を起動させている術者が2人だな。テレポーターを作ったのもその2人だ。実に良い腕をしている。」
確かに、魔道具としてのレベルは高く、個人の所有するレベルを逸脱するレベルだった。
この規模では話にならないが、応用が利くならば強力な武器になる。なんなら俺が直接技術指導をしてやっても良い。
「4階でお前に色仕掛けをして来ただろう女共も全員仲間だ。購入先を支配下におく為に教育を施した同志達だよ。資金を手に入れて、組織の規模を拡大する計画の一端だな」
「悪どい手口だが、嫌いじゃ無い。むしろ、屑を始末しつつ利益が出るなら好都合とも言える」
思った以上に出来る男だな。
しかも、仲間も大勢いるようだし、4階に居たメンバーは誰もがレベルやスキルに関しては申し分無いし、希少種族ばかりだから固有技能なんかにも期待出来るだろう。
「地下の魔法陣を起動させている2人以外のメンバーは?」
「ああ、そっちは本物の奴隷だ。幻術を掛けていたが、お前には見えていたんだろう?」
「まぁな、臭いまで魔法で偽装している徹底ぶりには驚いたが、欠損や心神喪失状態は本物だと鑑定したが?」
一瞬遠い目をしたが、今さら隠す必要も無いかと、バルドは全てを教えてくれた。
「他の店で廃棄する予定の奴隷は、全部俺が買い上げている。自己満足に過ぎないが、殺してくれと懇願する奴以外は助けるのが、俺が決めたルールだ」
「ほう、ならば自分では命しか救う事は出来ないが、どうしようも無いって事か?」
「ああ、資金だって無限じゃないし、廃棄レベルの欠損や精神異常を治療するような薬は、数が存在しないってのもある」
そりゃそうだろう。エリクシルで国宝レベルだ。
この国の規模で、LGクラスのアイテムが宝物庫に2つ存在した事だけでも驚嘆する所だろうからな。SRを巡って戦う事があるレベルらしいしな。
人が作成したSR等級と、ドロップアイテムや自然物から採取して確保したSRでもそれぞれ価値が違うのだ。
分かり易く表現するなら、人工物はSRで、天然物はSR+といった感じだろうか。
「なら、その中から俺が人材を引き抜いても問題は無いな?」
「ああ、使い物になるんならな。お前ならば理由があっての発言なんだろう?別にひどい扱いをするつもりもあるまい?」
「勿論だ。俺という存在の説明も兼ねて、一緒に行って俺が何をするのか見ると良いさ」
2人で地下へ行き、あの錆びた扉を開けて入室する。
またあの嫌な臭いと光景が展開されたが、バルドが入ってきた事に気付いたのか、こちらに視線を向けている者が2名いる。
この短時間で、もう一度ここを訪れた俺に警戒しているのが伝わってくる。
「駄目だな。おい、2人とも不合格だ。こっちへ来い」
「手厳しいな。しかし、仮にこれがお前以外だとしても、相応の手練れであるならば、変装を見破られてから、捕まえられる可能性もあったな」
え?と顔を見合わせた2人だったが、バルドの反応を聞いて判断したのだろう。
魔法陣の起動を中断してこちらに来る。
注がれていた魔力の供給が断たれた為、魔法陣が光を失うと世界が元通りに変化していく。
異臭は消えて、汚れ果てていた部屋は清潔な空間へ戻る。
ボロ切れを纏っているだけでも上等だろう、酷い扱いを演じていた奴隷達だったが、栄養状態はしっかりしているらしく、血色も良いし身形も整っている事から扱いも分かる、部位の欠損がある者や精神異常がある者、呪いを受けている等、それぞれが抱えている問題以外は他の奴隷と変わり無い扱いなのだろう。
意識がある者は全員が俺に視線を向けて、様子を伺っているのが分かる。
「さて、まずは俺がどういう存在かという所から教えようか、順番に治療していこう」
「「へ?治療?」ですか?」
「まぁ、そういう事らしいな。実力を拝見させて貰おうか」
精神崩壊を起こしているエルフの女性から行こうか。
精神解析の魔法を起動して原因を探る。
盗賊達に村が襲撃されて、占領された後に、唯一抵抗した彼女の家族が捕獲された。
抵抗を諦めず、盗賊頭に暴言を吐き続けた家族は、見せしめの様に目の前で暴行された。
彼女は娘として責任を取らされ、奴隷の首輪を着けられた。
首輪を着けられて、命令に逆らう事が出来ないようにされた彼女が命じられたのは......自分の家族を拷問の後に、錆びて切れ味の悪い鉈を使って、ジワジワと首を落とすという、あまりにも酷い命令だった。
『やめてくれ!エリス!』『嫌ーー!』『助けてくれ!嫌だ!』『あああ......ギャアーー!』
頭の中にこびり付いて、繰り返し再生されるイメージと声に耐えられなくなり、心が崩壊してしまった。
俺はエリスの肩を抱き、額同士を重ねると、精神に干渉する高位呪文を発動した。
【精神潜入】
容姿は整っており、村唯一のハイエルフだった為、完全に屈服させてから、奴隷として働かせることを考えていたらしいが、壊れてしまったから諦めて売られたらしい。
当然だが、エルフはそれだけで貴重なのだ。その他全員が奴隷として売られたらしい。
売れ残り、店に残されたのは壊れたエリスだけだった。
精神世界は、本人の意思を反映する場所だが、全てを否定したエリスの中は真っ暗闇だった。
そこに生まれたままの姿で浮かぶ俺が、ただ一人ポツンと浮かんでいる。
「エリス......聞こえるか」
「......入ってこないで」
「世界を拒絶して何になる。お前は生きているし、満足に体も動くだろう?」
「だから何?どうしろと言うの?」
(お父さん!私、大きくなったら立派になって村の皆を助けるの!)
(お母さん!どうしたら子供は生まれるの?私にも妹が欲しいの)
「止めて!もう終わったのよ!見せないで......取り戻す事は出来ないのよ」
「取り戻したくないのか?逃げたいから全てを投げ出しただけじゃないのか?」
「奴隷になった私には何も無い。自由も、仲間も、自分の力だって満足に使いこなせない」
「言い訳はそこまでにしておけ、それが全て揃えば立ち上がるのか?違うな!お前は逃げ出した事に理由を付けてるだけだ。出来ない出来ないとな」
何も無かった空間に、人型の輪郭が生まれる。
周囲から光が集まりエリスを作り上げた途端に、世界に光が戻る。
光に照らされた森が生まれ、俺達二人は急成長していく森に飲み込まれた。
「違う!戦える......戦う理由もあるの!一人じゃどうにもならなかっただけ!」
「ならどうして助けを求めない。奴隷になってからだって、こうして命を救われる奇跡が起きたじゃないか。努力していないのに事態は好転しているじゃないか!逃げた事を認めろ!諦めた事を認めろ!始めるのはそこからだろう?」
強気に反論していたエリスが俯き、手を握り締めて......力無くへたり込む。
「アンタなんかに何が分かるって言うの!苦労も努力もしてきたわよ!それでも......それでも」
「分かっているじゃないか、立ち上がるのが怖くなって逃げ出したんだろ?悲劇のヒロインは楽しかったか?」
「ふざけないで!やってやるわよ!認めるわ、私は逃げ出した......でも、もう逃げない!」
「口先だけじゃない所を俺に見せてみろ。戦い続ける限り全力で手助けしてやる」
精神世界が崩れ、閃光に包まれた2人は現実へ帰還する。
「「2人の意識が戻ってきたようです。バルド様」」
「本当か?マリエルとリリエルが言うなら間違いないだろうが......」
双子の魔術士が言った事が本当ならば、ケイは自力でエリスを連れ帰ってきた事になる。
ケイとエリスが同時に目を開けると、現状を確認したエリスが真っ赤になり、バチン!とケイに全力の平手打ちを食らわせる。
しかし、長い間体を動かしていなかったエリスは、立ち上がろうとしてふらつくのをケイに抱き止められる。
「絶対に許さない!あんたなんかに助けられた自分が情けないわ!」
「威勢は良いが、早速助けられているじゃないか?」
「う......うるさい!そんな事分かってる!だけど......体が動かないのよ」
「助けて欲しいか?体を動かせるようになりたいか?」
「ぐ......なりたい。自分だけじゃどうしようも無いわ」
精神状態を表すようにクタリと萎れて下を向く耳、フニャっと脱力したエリスは、能面のように感情が無かった今までと違って、ずいぶん魅力的になった。
「お願いしますは?」
「くぅーー......お願いします」
「よろしい。それじゃ、協力してやろうじゃないか」
【時間加速】【擬似筋肉】【魔力譲渡】
体内時間を加速させ、擬似的な筋力を付与する。
枯渇しそうになっていた潜在魔力を回復させて、肉体と精神を繋ぎ合わせる。
「だが、これだけじゃ駄目だな。精神と肉体が乖離していた時間が長すぎる。ちょっと強引だが我慢しろ」
アイテムボックスから【ソーマ酒】を取り出して口に含む
【ソーマ酒】「レアリティ LG」
神々の飲み物とされる飲料の一つ。
魂と肉体を癒す強力な力を秘めた酒。アストラル体とエーテル体を癒し、結び付きを高める効果がある。
肉体とオーラを同時活性させる為、強い興奮作用・滋養強壮作用を備えており、多幸感を数十倍に増幅させる効果がある。
心が弱い者が口にすると、興奮作用を押さえきれずに感情に飲まれて発情するので、取り扱いには注意。
力の入らないエリスに口移しでソーマ酒を飲ませる。
「んん!!!ん~!!!」
抵抗しようとするが、力が入らずコクンコクンとソーマ酒を嚥下するエリスは、ビクンビクンと体を跳ねさせている。
ソーマ酒の極上の味わいと、強力な効果に酔いしれたエリスは、ふにゃりと脱力する。
それを数回繰り返すと、少し力を取り戻したエリスが、もっとくれと自分から舌を差し込んでくるようになった。
自分で飲めるか?と思ったが、体には力が戻っていないらしく、結局は一瓶丸ごと飲ませる事になってしまった。
「ケイ......もう良いか?目の毒過ぎて、全員が唖然としちまってるんだが?」
「うわー、姉さん......びしょびしょだわ、大洪水になってるよね」「そりゃ、誰でもあんな事されたら......ねぇ、着替えが要るわね」
口を離すと、名残惜しそうに透明な糸が繋がるが、しがみ付くエリスの頭を撫でて安心させると、脱力して身を任せてきた。
一仕事終えた俺は、アイテムボックスからベットを取り出すと、溶けたバターのようにぐんにゃりとなっているエリスを寝かせる。
【神の寝具】「レアリティ LG」
何時如何なる時でも快適な安眠を提供する神の寝具。
沈静・興奮等の精神的な効果から、感覚強化・治癒力強化等の肉体的な効果まで、自由自在に調整可能。
様々な用途に使用できる神の寝具だが、一度でも使用すれば使用者は虜になり、その快楽から逃れる事は出来ない。
サイズ・弾力調整等のオプションによる機能も豊富で、何時でも調整が可能。
「「まさか!!ここで致すつもりですか!」」
「ちょっ!しないからね!?」
確かに役得ではあったが、治療の為だから仕方が無い。仕方が無いのだ。
決して、ピンクの唇を啄ばみたいとか、俺のテクニックを試してみたいとか、不順な動機があった訳では......あるのだが。
これで一人は仲間を確保できた。
次は、部位欠損の治療を行う事にする。
いや、治療だからね?変な事しないから後ずさらないでよ!?
現在の戦力は俺、バルドは確定だが、信頼出来る仲間が必要だ。
資金は幾らでもあるが、人という資源には限りがあるのだ。
「それで、信頼出来る味方はどれだけ居るんだ?俺がお前を欲しいと言ったのは、人材と組織力を確保する為だ。実際に戦力として使える奴が、どれだけ居るのか教えてくれないか?」
やはりそう来たかと、質問に対してはある程度予想していたようだ。
「奴隷のドラゴニアンは見たか?商品のフリをして、店を見張らせているが、アイツは俺の右腕だ。売り物じゃねぇ」
「成程な、立場と実力が釣り合ってないから、事情があるんだろうと思っていたが、身内を潜り込ませていたのか」
「ああ、後は地下で魔法陣を起動させている術者が2人だな。テレポーターを作ったのもその2人だ。実に良い腕をしている。」
確かに、魔道具としてのレベルは高く、個人の所有するレベルを逸脱するレベルだった。
この規模では話にならないが、応用が利くならば強力な武器になる。なんなら俺が直接技術指導をしてやっても良い。
「4階でお前に色仕掛けをして来ただろう女共も全員仲間だ。購入先を支配下におく為に教育を施した同志達だよ。資金を手に入れて、組織の規模を拡大する計画の一端だな」
「悪どい手口だが、嫌いじゃ無い。むしろ、屑を始末しつつ利益が出るなら好都合とも言える」
思った以上に出来る男だな。
しかも、仲間も大勢いるようだし、4階に居たメンバーは誰もがレベルやスキルに関しては申し分無いし、希少種族ばかりだから固有技能なんかにも期待出来るだろう。
「地下の魔法陣を起動させている2人以外のメンバーは?」
「ああ、そっちは本物の奴隷だ。幻術を掛けていたが、お前には見えていたんだろう?」
「まぁな、臭いまで魔法で偽装している徹底ぶりには驚いたが、欠損や心神喪失状態は本物だと鑑定したが?」
一瞬遠い目をしたが、今さら隠す必要も無いかと、バルドは全てを教えてくれた。
「他の店で廃棄する予定の奴隷は、全部俺が買い上げている。自己満足に過ぎないが、殺してくれと懇願する奴以外は助けるのが、俺が決めたルールだ」
「ほう、ならば自分では命しか救う事は出来ないが、どうしようも無いって事か?」
「ああ、資金だって無限じゃないし、廃棄レベルの欠損や精神異常を治療するような薬は、数が存在しないってのもある」
そりゃそうだろう。エリクシルで国宝レベルだ。
この国の規模で、LGクラスのアイテムが宝物庫に2つ存在した事だけでも驚嘆する所だろうからな。SRを巡って戦う事があるレベルらしいしな。
人が作成したSR等級と、ドロップアイテムや自然物から採取して確保したSRでもそれぞれ価値が違うのだ。
分かり易く表現するなら、人工物はSRで、天然物はSR+といった感じだろうか。
「なら、その中から俺が人材を引き抜いても問題は無いな?」
「ああ、使い物になるんならな。お前ならば理由があっての発言なんだろう?別にひどい扱いをするつもりもあるまい?」
「勿論だ。俺という存在の説明も兼ねて、一緒に行って俺が何をするのか見ると良いさ」
2人で地下へ行き、あの錆びた扉を開けて入室する。
またあの嫌な臭いと光景が展開されたが、バルドが入ってきた事に気付いたのか、こちらに視線を向けている者が2名いる。
この短時間で、もう一度ここを訪れた俺に警戒しているのが伝わってくる。
「駄目だな。おい、2人とも不合格だ。こっちへ来い」
「手厳しいな。しかし、仮にこれがお前以外だとしても、相応の手練れであるならば、変装を見破られてから、捕まえられる可能性もあったな」
え?と顔を見合わせた2人だったが、バルドの反応を聞いて判断したのだろう。
魔法陣の起動を中断してこちらに来る。
注がれていた魔力の供給が断たれた為、魔法陣が光を失うと世界が元通りに変化していく。
異臭は消えて、汚れ果てていた部屋は清潔な空間へ戻る。
ボロ切れを纏っているだけでも上等だろう、酷い扱いを演じていた奴隷達だったが、栄養状態はしっかりしているらしく、血色も良いし身形も整っている事から扱いも分かる、部位の欠損がある者や精神異常がある者、呪いを受けている等、それぞれが抱えている問題以外は他の奴隷と変わり無い扱いなのだろう。
意識がある者は全員が俺に視線を向けて、様子を伺っているのが分かる。
「さて、まずは俺がどういう存在かという所から教えようか、順番に治療していこう」
「「へ?治療?」ですか?」
「まぁ、そういう事らしいな。実力を拝見させて貰おうか」
精神崩壊を起こしているエルフの女性から行こうか。
精神解析の魔法を起動して原因を探る。
盗賊達に村が襲撃されて、占領された後に、唯一抵抗した彼女の家族が捕獲された。
抵抗を諦めず、盗賊頭に暴言を吐き続けた家族は、見せしめの様に目の前で暴行された。
彼女は娘として責任を取らされ、奴隷の首輪を着けられた。
首輪を着けられて、命令に逆らう事が出来ないようにされた彼女が命じられたのは......自分の家族を拷問の後に、錆びて切れ味の悪い鉈を使って、ジワジワと首を落とすという、あまりにも酷い命令だった。
『やめてくれ!エリス!』『嫌ーー!』『助けてくれ!嫌だ!』『あああ......ギャアーー!』
頭の中にこびり付いて、繰り返し再生されるイメージと声に耐えられなくなり、心が崩壊してしまった。
俺はエリスの肩を抱き、額同士を重ねると、精神に干渉する高位呪文を発動した。
【精神潜入】
容姿は整っており、村唯一のハイエルフだった為、完全に屈服させてから、奴隷として働かせることを考えていたらしいが、壊れてしまったから諦めて売られたらしい。
当然だが、エルフはそれだけで貴重なのだ。その他全員が奴隷として売られたらしい。
売れ残り、店に残されたのは壊れたエリスだけだった。
精神世界は、本人の意思を反映する場所だが、全てを否定したエリスの中は真っ暗闇だった。
そこに生まれたままの姿で浮かぶ俺が、ただ一人ポツンと浮かんでいる。
「エリス......聞こえるか」
「......入ってこないで」
「世界を拒絶して何になる。お前は生きているし、満足に体も動くだろう?」
「だから何?どうしろと言うの?」
(お父さん!私、大きくなったら立派になって村の皆を助けるの!)
(お母さん!どうしたら子供は生まれるの?私にも妹が欲しいの)
「止めて!もう終わったのよ!見せないで......取り戻す事は出来ないのよ」
「取り戻したくないのか?逃げたいから全てを投げ出しただけじゃないのか?」
「奴隷になった私には何も無い。自由も、仲間も、自分の力だって満足に使いこなせない」
「言い訳はそこまでにしておけ、それが全て揃えば立ち上がるのか?違うな!お前は逃げ出した事に理由を付けてるだけだ。出来ない出来ないとな」
何も無かった空間に、人型の輪郭が生まれる。
周囲から光が集まりエリスを作り上げた途端に、世界に光が戻る。
光に照らされた森が生まれ、俺達二人は急成長していく森に飲み込まれた。
「違う!戦える......戦う理由もあるの!一人じゃどうにもならなかっただけ!」
「ならどうして助けを求めない。奴隷になってからだって、こうして命を救われる奇跡が起きたじゃないか。努力していないのに事態は好転しているじゃないか!逃げた事を認めろ!諦めた事を認めろ!始めるのはそこからだろう?」
強気に反論していたエリスが俯き、手を握り締めて......力無くへたり込む。
「アンタなんかに何が分かるって言うの!苦労も努力もしてきたわよ!それでも......それでも」
「分かっているじゃないか、立ち上がるのが怖くなって逃げ出したんだろ?悲劇のヒロインは楽しかったか?」
「ふざけないで!やってやるわよ!認めるわ、私は逃げ出した......でも、もう逃げない!」
「口先だけじゃない所を俺に見せてみろ。戦い続ける限り全力で手助けしてやる」
精神世界が崩れ、閃光に包まれた2人は現実へ帰還する。
「「2人の意識が戻ってきたようです。バルド様」」
「本当か?マリエルとリリエルが言うなら間違いないだろうが......」
双子の魔術士が言った事が本当ならば、ケイは自力でエリスを連れ帰ってきた事になる。
ケイとエリスが同時に目を開けると、現状を確認したエリスが真っ赤になり、バチン!とケイに全力の平手打ちを食らわせる。
しかし、長い間体を動かしていなかったエリスは、立ち上がろうとしてふらつくのをケイに抱き止められる。
「絶対に許さない!あんたなんかに助けられた自分が情けないわ!」
「威勢は良いが、早速助けられているじゃないか?」
「う......うるさい!そんな事分かってる!だけど......体が動かないのよ」
「助けて欲しいか?体を動かせるようになりたいか?」
「ぐ......なりたい。自分だけじゃどうしようも無いわ」
精神状態を表すようにクタリと萎れて下を向く耳、フニャっと脱力したエリスは、能面のように感情が無かった今までと違って、ずいぶん魅力的になった。
「お願いしますは?」
「くぅーー......お願いします」
「よろしい。それじゃ、協力してやろうじゃないか」
【時間加速】【擬似筋肉】【魔力譲渡】
体内時間を加速させ、擬似的な筋力を付与する。
枯渇しそうになっていた潜在魔力を回復させて、肉体と精神を繋ぎ合わせる。
「だが、これだけじゃ駄目だな。精神と肉体が乖離していた時間が長すぎる。ちょっと強引だが我慢しろ」
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肉体とオーラを同時活性させる為、強い興奮作用・滋養強壮作用を備えており、多幸感を数十倍に増幅させる効果がある。
心が弱い者が口にすると、興奮作用を押さえきれずに感情に飲まれて発情するので、取り扱いには注意。
力の入らないエリスに口移しでソーマ酒を飲ませる。
「んん!!!ん~!!!」
抵抗しようとするが、力が入らずコクンコクンとソーマ酒を嚥下するエリスは、ビクンビクンと体を跳ねさせている。
ソーマ酒の極上の味わいと、強力な効果に酔いしれたエリスは、ふにゃりと脱力する。
それを数回繰り返すと、少し力を取り戻したエリスが、もっとくれと自分から舌を差し込んでくるようになった。
自分で飲めるか?と思ったが、体には力が戻っていないらしく、結局は一瓶丸ごと飲ませる事になってしまった。
「ケイ......もう良いか?目の毒過ぎて、全員が唖然としちまってるんだが?」
「うわー、姉さん......びしょびしょだわ、大洪水になってるよね」「そりゃ、誰でもあんな事されたら......ねぇ、着替えが要るわね」
口を離すと、名残惜しそうに透明な糸が繋がるが、しがみ付くエリスの頭を撫でて安心させると、脱力して身を任せてきた。
一仕事終えた俺は、アイテムボックスからベットを取り出すと、溶けたバターのようにぐんにゃりとなっているエリスを寝かせる。
【神の寝具】「レアリティ LG」
何時如何なる時でも快適な安眠を提供する神の寝具。
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サイズ・弾力調整等のオプションによる機能も豊富で、何時でも調整が可能。
「「まさか!!ここで致すつもりですか!」」
「ちょっ!しないからね!?」
確かに役得ではあったが、治療の為だから仕方が無い。仕方が無いのだ。
決して、ピンクの唇を啄ばみたいとか、俺のテクニックを試してみたいとか、不順な動機があった訳では......あるのだが。
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暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
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