上 下
4 / 117
転生準備編

絶望の過去と、可能性を掴んだこれからの夢

しおりを挟む
 強くなるのに近道なんて無い。
 前の人生でもそうだった。才能が無い俺はひたすら反復して、覚えたら新たな動きを練習しながら、コレまでの反復を繰り返した。努力は実らなかった。

 部活の剣道には文字通り全力を注いだ、素振りを繰り返し、すり足の練習、間合い取りの練習をする。
 連撃のコンビネーションを観察しては盗み、鏡を見ながら真似る。
 打ち込みを繰り返し、打ち込みを頼んで防御の練習を繰り返す。

 筋トレを限界まで行い、超回復を待つ間にイメージトレーニングを行う。
 戦いの駆け引きは、開始の合図以前に始まっているのだ。
 視線の置き方、足の置き場所、呼吸の読み合い。
 剣術道場まで探し出して教えを請い、戦いの基礎を学んだ。


 そこまでしても、結局は敗北の山、山、山、山!山!!山だった!!
 スペックにおいて、完全に劣る俺が出来た事といえば、ほんの一瞬、たった一太刀に全てを込めてヒヤっとさせる程度の事。
 「身の程を知れよ!お前なんかが努力した所でその程度なんだよ!」
 「才能無い奴が努力して強くなった気になってんじゃねぇぞ!うらぁ!これが現実だ!」

 努力すれば願いは叶うなんて嘘だ、可能性は有るなんて言えるのは、ほんの僅かでも才能を持った人間だけだ、願いを掴んだ時に零した......戯言だ!

 待たざる者は、いつまで経っても、どれだけ努力しても!無理無茶無謀無価値なのだ。
 分からないだろう?分かるわけないさ?分かろうと思うなよ!持っているお前にはいつまで経っても、どれだけ考えても分からないさ!分かるわけが無い!分からないんだよ!

 有限な時間を湯水の如く使い込み、心が磨り減るほど努力を積み上げて、僅かな可能性という幻影に縋って、足掻いて、もがいて、全て差し出した先にあったのは......敗北という名の絶望だった。

 スポーツも、勉強も、私生活も、全部全部全部駄目だった。見る価値も無い。振り返っても何も残ってない。思い出って何?楽しいって何が?どこにそんな時代があったんだよって話だ。
 全部諦めたらスッキリした。俺は道化......そう持ってる奴らが描く夢の前に、細々と笑いを取るだけの脇役なんだ。メインなんか張れるはずも無い。

 やっと分かったのか?やっと分かったのさ!やっと分かったよ!やっと分かって何が悪いって言うんだよ!......疲れたんだ。
 適当に生きてればいいか、毎日好きなようにやって、それなりの結果に満足して、同じような境遇の仲間で集まってさ。

 アレが良かっただの、次はこっちがいいんじゃ?だの、アイツ凄いよな、あの子可愛いくね?俺達にもあんな彼女が居たら、あんな才能があったらなんて愚痴りながら、時間を浪費していくのが似合ってる。そうやって諦めるしか無かった。



 だけど、これからは違うのかもしれない。

 きっと、きっと違う。変えてみせるさ!

 新しい人生は、きっと掴んでみせる。夢、希望、愛、欲望......全部握り締めて笑ってやる。
 持たざる者も、持っている者も、全部全部踏み台にして俺が笑う......その光景が見える。

 知ってるか?優しさとか愛情とかさ、美談がゴロゴロしてる世の中だけど、本当にそれを持てる様な人間は極々僅かでさ。
 経済的な余裕とか、心の余裕を作れるだけの環境があってこそ、それは成立するんだぜ?

 聖人君子なんて居ない!ネジがぶっ飛んで感情の箍でも外れなきゃさ!我が身可愛さに人間は楽を!欲を選ぶんだ!

 俺が犠牲になるから!お前は逃げろ!!な~んて甘っちょろい英雄はさ......居ないんだぜ?
 時代が、世界が作り上げた幻想や空想が、語り手の、読み手の、聞き手の願望が降り積もってさ、積み重なってさ、誰か......誰か一人でいいから、嘘でもいいから叶えてくれないかな?ってさ、そうやって出来たのが物語なんだ。

 明るい話ばかりが表に出るけどさ、暗い話も、残酷な話も世界には溢れてるんだぜ?
 目を向けないからさ、掘り起こさないからさ、埋めてしまうからさ、目の前にないからさ、それは確かに存在するのに......無かった事にする、されるのさ


 でもさ、そんな立場にあった者が、今度こそ掴めるなら、今度こそ願いに正直に生きる事が出来るようになるなら......希望も絶望もさ、好きな色に塗り替えてよ!過去も現在も未来も全部全部全部...自分の欲望のままに変えられるならよ!


 新しい物語が生まれるかも知れない、いや生んで見せるね!
 ありふれた、溢れている、見渡せばそこら中にある絶望や希望を思うがままに捻じ曲げて、新しい道を作れるんじゃないか?

 ゲームみたいな現実が俺を待っている。
 準備に使える時間は......∞......∞なんだ。
 チートはなかったけど、努力さえすれば何とかなるはず。
 理不尽を跳ねのけるだけの積み重ねをしてやる。
 あそこでもっとやっておけば、あと少しだけ頑張っておけばなんて言わなくて済むようにしてやる。

 努力する事だけなら誰にも負けない。
 努力する事が出来るのが才能だという言葉があるが、そんなのは出来て当たり前なのだ。
 才能だなんて言わせない、積み重ねを必死に続ける事は、多大なエネルギーを使う行為だ。
 文字通り、魂を削るような気持ちで努力しよう。
 思った事を全部実現できるだけの備えをしよう。

 今度は間違えない、羨ましいとか、俺にもあんな力があれば......何て言わないで済む様に、徹底的に準備して、蹂躙して、暴虐して、圧倒して、制覇して、征服してやる。
 質でも量でも及ばない、戦術も戦略も、スキルも魔法も邪魔できない積み重ねをして、どんな困難も、強大な敵も退けて、運命だろうとなんだろうと、俺が全てを無理やり抉じ開ける......捻じ伏せる。

 山のように積み上げて、海のように広げて、空のように果てしなく、有象無象には理解出来ないスケールで!俺の為に、俺が行う、俺の為の異世界生活が始まる。

 いかん、感情の暗黒面に落ちてしまっていた。
 俺の人生はここから始まるのだ。過去は過去だ!
 
 まずは手始めに......林檎を食べたいな!!!
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...