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異界からの侵略者
チートをチートで圧倒する
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「まさか、主より賜りしコールブランドが破損するとは思いませんでした。偶然とはいえ、この世界にも伝説レベルを超える聖剣が存在し、しかも我が前にその使い手が現れるなどという偶然が起きるとは思いませんでした」
呆然と立ち尽くしたオメガだったが、再起動した直後にウンウンと頷く。
自分に言い聞かせるかのようにケイへと語りかける姿は、見ていて滑稽だった。
「いや、そこで拾った鉄の剣なんだけど?侵入したお前さんが気絶させた兵士Aさんに支給されていた剣な。量産型の鋳造品で、そこそこの品質な鉄鉱石を使用した程度のありふれた鉄の剣なんだが」
「ふふふ、私を騙そうとでもいうのですか?そこらの凡愚ならいざ知らず、そのような嘘で私を騙そうなどと片腹痛いですね」
ああ、面倒くさい奴だこれ。自分に酔いしれているっていうか、端からこちらの言い分を聞く気がねぇ。
自分以上に強い存在が居ないって思いこんでるわ。
「我が愛剣であるコールブランドが、ただの鉄の剣に斬り飛ばされるわけがありません。どんな手品を使ったかわかりませんが、仕方がありませんね。貴方が必至で隠している手品のタネを私が暴いて見せましょう!」
「いや、隠してないし!?面倒臭いやつだな!?ほれ、好きなだけ調べろや」
「あ、どうも御親切に」
地面に突き刺した鉄の剣を乱雑に引き抜いてつかつかと歩み寄った俺は、オメガに鉄の剣を手渡して距離を取る。
失態を挽回する為のネタを探るのに必死なのか、背中を見せても切りかかって来なかったのには驚いた。
「なんだこれは......なんなんだこれは......どこをどう調べてもただの鉄の剣じゃないか!?私を馬鹿にしているのか!」
「俺は鉄の剣だっていったよね!?逆切れハンパないな!?」
奇声を上げながら剣を地面に叩きつけたオメガが、ギロリとこちらを睨みつけて殺気を放つ。
俺にはそよ風の様な物だが、そこらの雑兵なら即座に失神しているだろう重圧だった。
だがそれも一瞬で、何か閃いたのかニコリと笑ってこちらへ語り掛けてくる。
「そうか、分かりましたよ?貴方は剣をすり替えた、もしくはスキルなりアイテムなりで剣を強化していた!......ふふふ、そうですね?でなければ、この私の実力とコールブランドの組み合わせが破られるはずがない」
「え......えぇー。どんだけナルシストで思い込みが激しいんだ」
「図星のようですね?私ほどにもなれば、敵の嘘や思惑を読み解くなど造作も無い事ですからね。しかし、貴方はこの私を惑わす事が出来た。そう、ほんの僅かに、微量ですがね。ええ、動揺なんてしていませんでしたよ?」
「俺の言葉聞いてないよな?てかもうどうでもいいから好きにしてくれ」
だんだん印象が変わってきたぞ。賢く冷静な女騎士って感じだったのが、愉快で残念なツンデレ女騎士って感じか?究極とは程遠いな。残念過ぎる。
「ふふ、認めるのですね。全てを看破してしまう灰色の脳細胞が憎い。我が主は何故に私のような完璧な存在を生み出してしまったのか。さて、時間稼ぎはここらで止めにしましょう。貴方の茶番にいつまでも付き合うほど暇ではありませんからね」
「お前の脳内に存在する俺に会って話をしたいんだが!?」
「それを私が許すとでも?」
「出来るの!?」
やばい、なんか楽しくなってきた。
しかし、俺も遊びはこの辺にしておくか、アリアやオペラを助けてアーネストの所に連れて行ってやらにゃならんしな。
「そろそろ本題に入ろうか。それで、お前は降伏するのか?それとも、そこの壁に突き刺さった剣のように切り捨てられるか?」
「降伏?剣を一振り失っただけで騎士が主の命に背くとでも?冗談ではない!」
ズブリと虚空に左腕を突っ込んだオメガは新たな剣を取り出すと、鞘に右手を掛けてスラリと抜き放つはずだったが......。
「コールブランドが失われようと、このティルヴィングが」
「ああ、もう破壊したが」
キンと僅かな金属音を残して根元から刃を切り落としたケイは、柄と鞘を見つめて視線を左右にウロウロさせるオメガを更に追い込む。
「次は何だ?グラムか?バルムンクか?ダーインスレイブか?」
「貴様!貴様貴様貴様貴様ぁ!......騎士を愚弄する事がどのような結末を招くのか、震えて後悔するがいい。剣雨の中で血に濡れて踊れ」
怒りを超えて冷静になったのか、急に無表情になったオメガは眼前へと手を伸ばして、振り下ろした。
天井が吹き飛び、何事かと遥か上空に無数の魔法陣がクルクルと回転しながら輝き、周囲を煌々と照らす。
それぞれの魔法陣から大量に剣先が生える。その光景を目にしたオペラは、これから己の身に降りかかる絶望に恐怖した。
「ケ......ケイ!あれ、あれぇ!」
「ああ、綺麗だよな。中々にイカす手品じゃないか」
「ちっ、違う!そうじゃな......」
「串刺しになって死ね」
まるで流星のように輝く剣達が降り注ぐ様は、美しさと残酷さが同居していた。
絶え間無く降り注ぐ剣の雨は千を超えるだろうか、辺境伯邸を破壊しつくすだろう莫大な魔力を纏った暴力の雨は......まるで壁に弾かれるように勢いを止められ、四散していく。
辺境伯邸の周囲に結界でもあるかのように感じたが、飛散する魔力光で見え隠れしているのは多種多様な盾の群れだった。
「ま、所詮は手品だって事だな」
「えぇ?どうしていっぱい盾が浮かんでるの?」
「そりゃ、自慢の手品を披露してくれたんだからな。お返しに俺も手品を披露しただけさ」
会話をしている間にも上空では剣と盾の攻防が展開されているが、圧倒しているのは鉄壁の防御で剣を寄せ付ける事の無い盾の群れだった。
静止していた盾が徐々に上昇を始め、降り注ぐ剣の雨を押し始めると、オメガが悲鳴を上げた。
「何なのだ!何なのよそれは!あり得ない!我が主がお与えになった至高の剣達が!どうして防がれるのよ?何で一方的に押されているの!こんなの認めない!有って良い訳が無い!」
美しい白髪を振り乱しながら絶叫するオメガだが、ケイが事も無げにとどめの言葉を発すると、大地に膝をついてペタンと座り込んだ。
「は?至高の剣だ?俺の所有する億じゃ足りんほどの失敗作にも劣る鉄屑が至高?馬鹿を言うなよ。本物を一振り見せてやろうか?」
ケイが言葉を発すると、淡く輝く掌から一本の剣が浮かび上がり、握られる。
その神々しくも優しい輝きと、圧倒的な存在感は、隔絶した格の違いを否応無く悟らせるほどの力を有していた。
「まだ名付けが済んで無いから一割も力を発揮できんがな。それでもあのくらいのランクの剣が相手なら十分だろうさ」
言うが早いか、上空に向かって無造作に一閃した直後にそれは起こった。
どこまで伸びているのか分からないほど長大な光の斬撃が生まれ、盾ごと剣の雨を消滅させながら魔法陣を切り飛ばして遥か彼方へと飛翔していった。
その光景を目にしたオメガはガクガクと全身を震わせて後ずさる。
「貴様は何者なのだ。以前相対した事のある神だって貴様ほど化け物では無かった。」
「あん?そりゃ相手が良かったんだろ。雑魚ほど聞きもしないのに自分は神だ神だと騒ぎやがるからな。本物は存在するだけで畏怖する。名を聞かされれば存在の深淵を理解させられる。貴様程度ならひれ伏さずにはいられんだろうさ。こんな風にな......【頭を垂れよ】」
突如増した存在感と、呪いにも等しい強制力を持った言葉に抗う事が出来ず、オメガはケイに臣下の礼を取りひれ伏す。
ビリビリと肌を焼く程の恐怖と敗北感に支配されたオメガの心は即座にポッキリと折れた。
勝てない、抗えない、歯向かうなど無理無茶無謀であると、視線と言葉だけで魂に刻まれた。
「分かったろう?お前が知っている世界の狭さが、理解しただろう?神の何たるかを」
「あ、あ......あああ」
「声も出ないか?まだ力なんか欠片程度しか見せてないのにな。ああ、俺も元は人間だぜ?出会いに恵まれて可笑しな事になったけどな」
ポリポリと頬を掻くケイだったが、なんの冗談だとオメガはビクビクする以外無かった。
空気が幾分か弛緩し、油断した瞬間だった。
疾風の如く現れた別のオメガが、目の前でひれ伏したオメガを攫って逃亡する。
「手酷くやられたようだが、この程度で諦めはせんよ。勝負は預けるぞ」
「気付かれていないと思ったのか?逃がさんよ」
転移門を展開して逃げようとした二人のオメガは、半身を入れて消えようとした瞬間、突如発生した反発力によって転移門から弾き出された。
「くっ、ここまでか」
「ここまでも何もないだろ。俺がここに来た時点でお前らは詰んでる。進む事無く停滞していただろうに、何かを達成できたつもりでいたのか?」
「おいおい、俺の女に随分好き勝手してくれるじゃないか」
地面に投げ出された態勢で相方を抱きしめる別のオメガを見下ろして、やれやれとため息を突くケイだったが、背後に生じた僅かな殺気に反応して剣を振り抜いた。
「強いのは分かったが、俺達もそれくらいで、はい諦めましたなんて言えるほど余裕はないんでな」
「貴様がこの件の首謀者か」
「如何にも、君の言う通りさ」
ケイの剣を己の持つ剣で受け止めた男は、鍔迫り合いの状態で飄々と答えて見せる。
顔の上半分を隠すような白磁の仮面を付けており、口元を見てにやけているのが分かるが、その表情は読み取りずらい。
「なんだ、部下には粗悪品を持たせておいて、自分は中々の剣を持っているじゃないか」
「馬鹿を言うな。これは苦労して手に入れた一品物で、彼女に持たせた剣だって自分で作った中では傑作ばかりをチョイスして持たせたんだぜ?お前さんの様に、そんなチートの塊みたいな剣を量産できる方がどうかしてる」
後方へ飛びのいた仮面の男は、懐から拳ほどの水晶球を取り出すと地面に叩きつけた。
砕けた水晶球を中心に発生した魔法陣から、禍々しい魔力を帯びたアンデットの軍勢が出現し始める。
「首無し騎士に混沌騎士に不死魔導士に......豪華メンバーだなおい」
「悪いが俺も忙しくてな。君の相手は彼らに頼もうかと思う。オメガは返してもらおうか」
短距離転移を繰り返して、ケイの剣撃を回避した仮面の男は二人のオメガを回収すると、転移門を新たに開く。
「自己紹介がまだだったな。俺の名はカイ。カイ・セブンスターだ。お前さんと同じ転生者だよケイ」
そう言い残して消えていくカイを見送ったケイは、アンデットに囲まれながら嘆息した。
結局、調子に乗って手掛かりを逃してしまったのだから当然だが、己の甘さが招いたのだから甘んじて受け入れようと諦めた。
一応、万が一が無いように防御結界を二重に張り、外部への逃亡と、自分達への攻撃を防ぐように配置する。
「ケイ!ゾンビがいっぱいだよ!」
「ああ、難儀なこった。まだぞろぞろと湧き続けてやがる」
部屋を埋め尽くしていく不死者の群れにゲッソリするケイだったが、後ろで目を覚ました聖女様を見てニヤリとする。
こういう事は専門家に任せるのが楽だろう。
「う、うぅん。ここは......ケイ様?な、なんですか!この不死者の群れは!?」
「詳しい話は後で話すわ。とりあえず一発よろしく」
「あえ?ああもう!分かりました。彷徨える魂に安息を、狂える亡者に静寂を、果ての無き憎しみに平穏を【不死者浄化】」
部屋全体に広がった浄化の光を浴びて、次々と浄化されていくアンデットの軍勢。
聖女であるアリアの浄化能力は、この世界でも屈指の威力を秘めており、この魔法の効果は使用者の願いが純粋であればあるほど、慈しみの心が強いほどに効果を増す。
彼女の生い立ちや性格が、瞬時にこの場を聖域へと変貌させるほどの効果を生んでいるのだった。
「オペラもやる!【不死者浄化】」
「「へ!?」」
アリアとケイが同時に仰天する。
小さな少女の祈りが浄化の力を発揮した事に、その効果がアリアの浄化魔法を超えている事に。
オペラ (6) LV12 種族 ハイヒューマン ジョブ 聖女
HP 121/121 MP 1/19874
スキル 『戦闘技能』 献身 Master 全力全開 LV1
ステータスを見てケイは愕然とする。
聖女の娘は......聖女だった事に。
呆然と立ち尽くしたオメガだったが、再起動した直後にウンウンと頷く。
自分に言い聞かせるかのようにケイへと語りかける姿は、見ていて滑稽だった。
「いや、そこで拾った鉄の剣なんだけど?侵入したお前さんが気絶させた兵士Aさんに支給されていた剣な。量産型の鋳造品で、そこそこの品質な鉄鉱石を使用した程度のありふれた鉄の剣なんだが」
「ふふふ、私を騙そうとでもいうのですか?そこらの凡愚ならいざ知らず、そのような嘘で私を騙そうなどと片腹痛いですね」
ああ、面倒くさい奴だこれ。自分に酔いしれているっていうか、端からこちらの言い分を聞く気がねぇ。
自分以上に強い存在が居ないって思いこんでるわ。
「我が愛剣であるコールブランドが、ただの鉄の剣に斬り飛ばされるわけがありません。どんな手品を使ったかわかりませんが、仕方がありませんね。貴方が必至で隠している手品のタネを私が暴いて見せましょう!」
「いや、隠してないし!?面倒臭いやつだな!?ほれ、好きなだけ調べろや」
「あ、どうも御親切に」
地面に突き刺した鉄の剣を乱雑に引き抜いてつかつかと歩み寄った俺は、オメガに鉄の剣を手渡して距離を取る。
失態を挽回する為のネタを探るのに必死なのか、背中を見せても切りかかって来なかったのには驚いた。
「なんだこれは......なんなんだこれは......どこをどう調べてもただの鉄の剣じゃないか!?私を馬鹿にしているのか!」
「俺は鉄の剣だっていったよね!?逆切れハンパないな!?」
奇声を上げながら剣を地面に叩きつけたオメガが、ギロリとこちらを睨みつけて殺気を放つ。
俺にはそよ風の様な物だが、そこらの雑兵なら即座に失神しているだろう重圧だった。
だがそれも一瞬で、何か閃いたのかニコリと笑ってこちらへ語り掛けてくる。
「そうか、分かりましたよ?貴方は剣をすり替えた、もしくはスキルなりアイテムなりで剣を強化していた!......ふふふ、そうですね?でなければ、この私の実力とコールブランドの組み合わせが破られるはずがない」
「え......えぇー。どんだけナルシストで思い込みが激しいんだ」
「図星のようですね?私ほどにもなれば、敵の嘘や思惑を読み解くなど造作も無い事ですからね。しかし、貴方はこの私を惑わす事が出来た。そう、ほんの僅かに、微量ですがね。ええ、動揺なんてしていませんでしたよ?」
「俺の言葉聞いてないよな?てかもうどうでもいいから好きにしてくれ」
だんだん印象が変わってきたぞ。賢く冷静な女騎士って感じだったのが、愉快で残念なツンデレ女騎士って感じか?究極とは程遠いな。残念過ぎる。
「ふふ、認めるのですね。全てを看破してしまう灰色の脳細胞が憎い。我が主は何故に私のような完璧な存在を生み出してしまったのか。さて、時間稼ぎはここらで止めにしましょう。貴方の茶番にいつまでも付き合うほど暇ではありませんからね」
「お前の脳内に存在する俺に会って話をしたいんだが!?」
「それを私が許すとでも?」
「出来るの!?」
やばい、なんか楽しくなってきた。
しかし、俺も遊びはこの辺にしておくか、アリアやオペラを助けてアーネストの所に連れて行ってやらにゃならんしな。
「そろそろ本題に入ろうか。それで、お前は降伏するのか?それとも、そこの壁に突き刺さった剣のように切り捨てられるか?」
「降伏?剣を一振り失っただけで騎士が主の命に背くとでも?冗談ではない!」
ズブリと虚空に左腕を突っ込んだオメガは新たな剣を取り出すと、鞘に右手を掛けてスラリと抜き放つはずだったが......。
「コールブランドが失われようと、このティルヴィングが」
「ああ、もう破壊したが」
キンと僅かな金属音を残して根元から刃を切り落としたケイは、柄と鞘を見つめて視線を左右にウロウロさせるオメガを更に追い込む。
「次は何だ?グラムか?バルムンクか?ダーインスレイブか?」
「貴様!貴様貴様貴様貴様ぁ!......騎士を愚弄する事がどのような結末を招くのか、震えて後悔するがいい。剣雨の中で血に濡れて踊れ」
怒りを超えて冷静になったのか、急に無表情になったオメガは眼前へと手を伸ばして、振り下ろした。
天井が吹き飛び、何事かと遥か上空に無数の魔法陣がクルクルと回転しながら輝き、周囲を煌々と照らす。
それぞれの魔法陣から大量に剣先が生える。その光景を目にしたオペラは、これから己の身に降りかかる絶望に恐怖した。
「ケ......ケイ!あれ、あれぇ!」
「ああ、綺麗だよな。中々にイカす手品じゃないか」
「ちっ、違う!そうじゃな......」
「串刺しになって死ね」
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絶え間無く降り注ぐ剣の雨は千を超えるだろうか、辺境伯邸を破壊しつくすだろう莫大な魔力を纏った暴力の雨は......まるで壁に弾かれるように勢いを止められ、四散していく。
辺境伯邸の周囲に結界でもあるかのように感じたが、飛散する魔力光で見え隠れしているのは多種多様な盾の群れだった。
「ま、所詮は手品だって事だな」
「えぇ?どうしていっぱい盾が浮かんでるの?」
「そりゃ、自慢の手品を披露してくれたんだからな。お返しに俺も手品を披露しただけさ」
会話をしている間にも上空では剣と盾の攻防が展開されているが、圧倒しているのは鉄壁の防御で剣を寄せ付ける事の無い盾の群れだった。
静止していた盾が徐々に上昇を始め、降り注ぐ剣の雨を押し始めると、オメガが悲鳴を上げた。
「何なのだ!何なのよそれは!あり得ない!我が主がお与えになった至高の剣達が!どうして防がれるのよ?何で一方的に押されているの!こんなの認めない!有って良い訳が無い!」
美しい白髪を振り乱しながら絶叫するオメガだが、ケイが事も無げにとどめの言葉を発すると、大地に膝をついてペタンと座り込んだ。
「は?至高の剣だ?俺の所有する億じゃ足りんほどの失敗作にも劣る鉄屑が至高?馬鹿を言うなよ。本物を一振り見せてやろうか?」
ケイが言葉を発すると、淡く輝く掌から一本の剣が浮かび上がり、握られる。
その神々しくも優しい輝きと、圧倒的な存在感は、隔絶した格の違いを否応無く悟らせるほどの力を有していた。
「まだ名付けが済んで無いから一割も力を発揮できんがな。それでもあのくらいのランクの剣が相手なら十分だろうさ」
言うが早いか、上空に向かって無造作に一閃した直後にそれは起こった。
どこまで伸びているのか分からないほど長大な光の斬撃が生まれ、盾ごと剣の雨を消滅させながら魔法陣を切り飛ばして遥か彼方へと飛翔していった。
その光景を目にしたオメガはガクガクと全身を震わせて後ずさる。
「貴様は何者なのだ。以前相対した事のある神だって貴様ほど化け物では無かった。」
「あん?そりゃ相手が良かったんだろ。雑魚ほど聞きもしないのに自分は神だ神だと騒ぎやがるからな。本物は存在するだけで畏怖する。名を聞かされれば存在の深淵を理解させられる。貴様程度ならひれ伏さずにはいられんだろうさ。こんな風にな......【頭を垂れよ】」
突如増した存在感と、呪いにも等しい強制力を持った言葉に抗う事が出来ず、オメガはケイに臣下の礼を取りひれ伏す。
ビリビリと肌を焼く程の恐怖と敗北感に支配されたオメガの心は即座にポッキリと折れた。
勝てない、抗えない、歯向かうなど無理無茶無謀であると、視線と言葉だけで魂に刻まれた。
「分かったろう?お前が知っている世界の狭さが、理解しただろう?神の何たるかを」
「あ、あ......あああ」
「声も出ないか?まだ力なんか欠片程度しか見せてないのにな。ああ、俺も元は人間だぜ?出会いに恵まれて可笑しな事になったけどな」
ポリポリと頬を掻くケイだったが、なんの冗談だとオメガはビクビクする以外無かった。
空気が幾分か弛緩し、油断した瞬間だった。
疾風の如く現れた別のオメガが、目の前でひれ伏したオメガを攫って逃亡する。
「手酷くやられたようだが、この程度で諦めはせんよ。勝負は預けるぞ」
「気付かれていないと思ったのか?逃がさんよ」
転移門を展開して逃げようとした二人のオメガは、半身を入れて消えようとした瞬間、突如発生した反発力によって転移門から弾き出された。
「くっ、ここまでか」
「ここまでも何もないだろ。俺がここに来た時点でお前らは詰んでる。進む事無く停滞していただろうに、何かを達成できたつもりでいたのか?」
「おいおい、俺の女に随分好き勝手してくれるじゃないか」
地面に投げ出された態勢で相方を抱きしめる別のオメガを見下ろして、やれやれとため息を突くケイだったが、背後に生じた僅かな殺気に反応して剣を振り抜いた。
「強いのは分かったが、俺達もそれくらいで、はい諦めましたなんて言えるほど余裕はないんでな」
「貴様がこの件の首謀者か」
「如何にも、君の言う通りさ」
ケイの剣を己の持つ剣で受け止めた男は、鍔迫り合いの状態で飄々と答えて見せる。
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短距離転移を繰り返して、ケイの剣撃を回避した仮面の男は二人のオメガを回収すると、転移門を新たに開く。
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そう言い残して消えていくカイを見送ったケイは、アンデットに囲まれながら嘆息した。
結局、調子に乗って手掛かりを逃してしまったのだから当然だが、己の甘さが招いたのだから甘んじて受け入れようと諦めた。
一応、万が一が無いように防御結界を二重に張り、外部への逃亡と、自分達への攻撃を防ぐように配置する。
「ケイ!ゾンビがいっぱいだよ!」
「ああ、難儀なこった。まだぞろぞろと湧き続けてやがる」
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こういう事は専門家に任せるのが楽だろう。
「う、うぅん。ここは......ケイ様?な、なんですか!この不死者の群れは!?」
「詳しい話は後で話すわ。とりあえず一発よろしく」
「あえ?ああもう!分かりました。彷徨える魂に安息を、狂える亡者に静寂を、果ての無き憎しみに平穏を【不死者浄化】」
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聖女であるアリアの浄化能力は、この世界でも屈指の威力を秘めており、この魔法の効果は使用者の願いが純粋であればあるほど、慈しみの心が強いほどに効果を増す。
彼女の生い立ちや性格が、瞬時にこの場を聖域へと変貌させるほどの効果を生んでいるのだった。
「オペラもやる!【不死者浄化】」
「「へ!?」」
アリアとケイが同時に仰天する。
小さな少女の祈りが浄化の力を発揮した事に、その効果がアリアの浄化魔法を超えている事に。
オペラ (6) LV12 種族 ハイヒューマン ジョブ 聖女
HP 121/121 MP 1/19874
スキル 『戦闘技能』 献身 Master 全力全開 LV1
ステータスを見てケイは愕然とする。
聖女の娘は......聖女だった事に。
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貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
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