クリスタル・ファンタジア・オンライン

SAKI

文字の大きさ
上 下
42 / 43
4章

運営主催の初イベント開催が告知されたが......

しおりを挟む
 「諸君!待たせたね!?だが、安心して欲しい......私が来た!」

 クエストを終えた俺達が王都にたどり着いた瞬間の事だった。
 聞き覚えのある声が響き、大空に巨大なウィンドウが開いている。

 「これから一週間後にやるよ!何がって?嫌だなぁ、君達が陳情したしたんじゃないか。イベントだよ!イ・ベ・ン・ト!鯖の最強を決める闘技大会さ!天下一なんとかだよ!」

 バッバッ!と空手の型を見せて演舞しながら語る様は中々に迫力があった。
 流石は社長だ。壁を越えた実力を持っていると語るだけはあるな。

 「予選はこの王都全体を使っての勝ち残りサバイバルだ!大会当日は王都全体の建物に【破壊不可】のエンチャントがされるから安心してスキルをぶっ放してくれたまえよ!大会不参加者やNPC達にも【無敵】状態をエンチャントするから巻き込まれても大丈夫だ」

 ほう、中々面白そうじゃないか。
 王都全体を使っての生き残り戦争なんて、すげー燃えるシチュエーションですな。

 「予選期間は1週間、この期間は内部時間が超加速するから、リアルでは1時間程度しか経過しないので安心して貰いたい。セーフティエリアは王都中央の噴水広場だが、一人につき使用時間は1時間とする。ここでは食事や休憩も可能だし、食料の調達や限定装備の購入なんかも可能だ......参加したくなってきただろう?」

 限定という言葉に弱い人間はイチコロだろうよ。
 まぁ、装備の性能はさておき、記念にゲットしておくのも悪くないか。

 「エリア外では何でもありだ。寝ている所を奇襲しようが、プレイヤー同士で結託しようが......わたしは一向に構わん!!」

 どこの中国拳法使いだよアンタ。
 しかし、群れて襲われるのは厄介だな。

 「だか、予選には戦闘評価という裏ポイントがある事も覚えておいて欲しい。結果に応じて付与されるポイントはイベント後に景品と交換可能だ。一定以上のポイント評価をゲットしたプレイヤーには称号付与もあるよ!」

 ざわざわざわ...ざわざわ......ざわざわざわ

 なんか聞いた事があるというか、見たことあるろいうか......無視しよう。

 「本線出場者は20名まで絞られるが、期間内に決着が付くように、最終日は各自の居場所がマップに表示されるように設定してある。獲得ポイント順にランキングも表示されるから、ランキング上位者を倒せばポイントもうなぎ上りかもね。時間切れの場合はランキング上位者10名の本線出場とするので覚えておいて欲しい」

 ふむふむ、なるほどな!
 実力者は修羅場を潜る事になるだろうし、隠れているだけでは勝ち残れない。
 そして、ポイント付与の条件は公開されないか......面白いじゃないか。

 「本戦は1対1の真剣勝負だ。予選では使用不能に設定する予定だが、ここからは究極スキルの使用を解禁する」 
 俺の相棒はまだ寝たままなんだが本戦に間に合うだろうか?
 いや、究極スキルに頼っているようじゃ駄目だな。
 俺1人でも優勝してやろうという気持ちが大事だろう。

 「ああ、これは余談だが。私や部下も運営という立場を離れてプレイヤーとして参加するよ。もちろんだが、チートの類は一切使用しないから安心してくれたまえ。純粋な実力という暴力を提供しようじゃないか?ハンデとして私はプレイヤーステータスも公開しておこうじゃないか」

 余裕綽綽だな。
 ニヤリと笑う顔とは裏腹に目が笑っていないじゃないか。
 クイッと中指で眼鏡を持ち上げた社長は真剣な表情に切り替えた後で、ブワリを肌が粟立つほどの殺気を開放した。

 「予選会場は弱肉強食の生存競争が行われる広大なコロシアムと化すだろう。君は敵を殴殺しても良いし、轢殺してもいい。圧殺、あるいは焼殺かもしれない。力こそ全てだ!強者は弱者を教育してやりたまえ。経験という教師の授業料が如何に高額か。身を持って実感させてやりたまえ」

 社長の言葉に呼応してブワリと闘気が漏れてしまった俺だが、王都のそこかしこで同様に反応した実力者の気配が感じられる。
 初ダイブ前に感じた気配も王都には幾つか存在しているようだな。

 「では諸君らと合間見えるのを楽しみにしているよ?骨を砕く感触はクセにならないか?私は鍛え上げた己の肉体が破壊の為に力を振るう刹那に喜びを感じてしまうようだ。本物の登場に期待している」

 プツリと消えたウィンドウだったが、殺気に反応して滾った血潮がギュンギュンと全身を駆け巡っているのを感じてしまった俺は、以前の感覚が甦りそうになった。
 【九頭竜 麗華】を圧倒して屈服させた頃の俺。
 力に飢えた獣が心の檻を激しく揺さ振り、強引に破砕して飛び出そうとしている。

 「ふぅー。落ち着け俺......相手が居ないのに高ぶっても意味が無い。それに、意味も無く力を振りかざすのは知能の低い獣と同じだ。俺は卒業したんだからな」

 深呼吸して心を落ち着ける。
 トクントクンと早鐘を打っていた心音静まっていく。

 「ほほう。ユート君も男だねぇ。オジサンもつい剣を握ってしまったよ。戦場の空気は男を高ぶらせるようだ」
 「不覚ですね。私も心が躍ってしまいました。魔法一発ではストレス発散にもなりませんでしたしね」
 「そうだな。我々は参加出来ないが、ユートが勝ち残るのを見届けるとしよう。¥か、一週間後が楽しみだ。我が夫の活躍を堪能しようじゃないか」

 三者三様に好き勝手言っているが、ここはスルーしておこう。

 「んじゃ、PT解散だな。協力に感謝する」
 「陛下の暴走でクエストを失敗したのだから、罰則金は王家で負担しよう」
 「楽しませて貰ったしね。息抜きが出来たと思って感謝しておくわ」
 「私も騎士団の訓練に戻るとしよう。今回の経験でまた一つ壁を越えた気がするのだ」

 それぞれが己の居場所へと戻っていく姿は、冒険者らしいというかなんというか。
 王国に名を轟かせる英雄達と肩を並べていたんだな、と思うと中々に良い体験だったとも言える。

 「んじゃイベントに向けて俺も自分を研ぎ澄ませなけりゃならんな。だが、まずはクエストの報告と受注に向かおうかな」

 ふぁあ~っと背伸びをしながら冒険者ギルドへ向かうユートの足取りはのんびりしていた。
 冒険から帰還したばかりだが、先ほどの心躍る情報など無かったかのようにリラックスした状態の彼は次の冒険を想像して胸を躍らせ始めていた。
 キィイと木製で両開きの扉を開けてギルドに入ったユートは、迷う事無くカウンターへ向かった。

 「クエストの報告に来たんだけど」
 「お疲れ様ですにゃ。今回のクエストの結果は既に報告が入っていますので、報酬を支払いますのにゃ」
 「へ?」
 「にゃん?」

 失敗したクエストの報酬が発生しているんですが?
 驚愕の新事実に一瞬思考がフリーズしたが、まずは話を聞こうじゃないか。

 「今回のクエストは失敗したはずなんだが」
 「ああ、それでしたら大丈夫です。今回の任務を依頼したのは......陛下ですから(ボソリ)」
 「はぁ、それで陛下は何と?」
 「大変有意義な冒険であったと。我が国に存在した不安の目をまた一つ摘み取る事が出来た。優秀な冒険者のおかげで助かったと」

 暴走して自分で解決しておきながらどういうつもりだ。
 俺は外で眺めていただけの気がするんだが?
 廃城を吹き飛ばしたのも、吸血鬼とタイマンかましたのもアンタじゃなかったか。

 「これが今回の報酬ですにゃ」

 ジャラリと金貨の詰まった袋がカウンターに置かれる。
 白金貨がギッシリと詰まっているが、それだけでは無くステータスの上昇アイテムまである。

 「こりゃおいしいな。しかし、本当にこれで良いのだろうか」

 報酬の受領書にサインしたユートは、隣の買取カウンターへ向かう。
 いつもなら他の冒険者達が何組か居てもおかしくないのだが、今日は待ちが内容でラッキーだった。

 「買取りをお願いしたいんだけど」
 「おう!了解だ。物を出してくれ」
 「分かった。ちょっと多いんだが、こんな小さなテーブルで大丈夫か?」
 「レベル1が何を生意気いってやがんだ。大丈夫だ、問題無い」

 ドサドサドサドサドサドサドサドサっと山の様に置かれた素材の山が積み重なり、カウンターの置くやテーブルの下へと零れ落ちていく。
 そりゃそうだ。出会う敵全てをサーチ&デストロイして言ったのだから、この程度の量などほんの一部だ。
 味方のNPCは報酬は要らないと受け取り拒否状態だったので、山の様に積み重なったこの素材だけでもほんの一部なのである。

 「ははははは......適正レベル200オーバーのアイテムを売りに来ただと!?今のプレイヤー平均レベルは三桁まで到達してないぞ!最前線プレイヤーでも70を超えた所だ」
 「そうか、うむ......大丈夫だ。問題無い」
 「一番良いのを頼む」

 買取り査定だけで2時間近い時間を浪費した俺は、クエストボードに張られた依頼書を見てニヤリと笑った。
 次回のクエストはこれにしよう。

 その依頼書にはこう書かれていた。
 
 【鉱石の採掘及び新鉱脈の調査】を行って欲しいと。
 
しおりを挟む
新作の投稿始めました。良ければそちらのほうも読んでください。
感想 46

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...