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4章

クエスト崩壊!?そのNPC遠慮を知らず

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 【殲滅者】の渾名は伊達ではない。
 俺がそれを知ったのは廃城の半分が吹き飛んだ跡だった。

 

 「廃城にたどり着いたは良いんだけど、アンデッドはウジャウジャ居るし、エリーは寝たままで起きないし、俺ってばどうすれば良いんだろうか?」
 「露払いは私に任せて!ユートはドーンと構えてれば良いのよ」

 そうは言うが、女の子に戦わせて報酬総取りってヒモじゃねーかと心が囁いておりますぞ。
 胸の前でムンっと手を握るソフィアは勇ましいと言うよりも、可愛らしいと表現するのが妥当だろう。

 「ふふふ、2人の仲も良好なようですね。安心しました」
 「うむ、仲良き事は素晴らしき事かな、敢えて言おう!婿であると!!」
 「アルフォ......マスター。モンスターが寄って来るのであまり叫ばないようにお願いします」

 俺達の様子を見て微笑むロゼリンとキシドーだが、怪しいマスクは取っても良いんじゃないかな?もう中身は分かってるし、ここまで来る奴居ないからさ?
 セイバーさんは非常に生真面目なので、おっさんの叫び声がモンスターを呼び寄せる事を危惧しているのか、懸命に止めようとしている。

 「ここには噂の吸血鬼が住んでいるのだろう?ならばとっとと炙り出すが良いわ!ロゼリン!」
 「あの......設定だと一回しか魔法使えないんですよね?陛下じゃなかった......Mrキシドー。ここで魔法を撃つと戦闘で魔法が撃てませんが?」
 「構わん!やれい!!」

 その言葉を切っ掛けにしてロゼリンの周囲に膨大な量のマナが集中し始める。
 ビリビリと大地が振動し、ロゼリンの周囲にバチバチと魔力が渦巻く。

 「はぁ!?ローゼンシア!それはマズイってば!撃っちゃらめぇええええええ!!」
 「【カタストロフ】」
 「だぁああああああ!!」

 セイバーさんの説明によると、全属性の魔力を混ぜると全てを飲み込む虚無が生まれるのだが、この【カタストロフ】は全属性の特級魔法を混合して小規模なブラックホールを生み出す魔法らしいのだ。

 ......撃っちまった物は仕方が無いが、今後このクエストを受理した人はどーすんだよ?。

 廃城の門を吹き飛ばしたまま前進する虚無の大球だったが、突如城の壁を突き破って放たれた黒い光線によって進路を逸らされた。
 若干左へと逸れた虚無の大球だったが、見事に廃城の左塔へ直撃するし大爆発を起こした。
 30メートル......50メートル......100メートルと徐々に拡大していく圧倒的な暴威が廃城を喰い千切るように消滅させていく姿は見ているだけでゾッとする光景だ。

 「ふむ、流石は我が国が誇る【殲滅者】であるな。敢えて言おう!見事であると」
 「そんな......Mrキシドー様程ではありません。特級魔法詰め合わせ程度で再現できる虚無系統の爆裂魔法なんて誰でも撃てますよ!」

 撃てませんからね?全属性で特級魔法撃てるだけでもスキルポイントいくつ食いつぶすと思ってんだ!
 そもそも【属性混合】とか【並列詠唱】とか【魔法遅延】だの補助スキルがわんさか必要だわい。
 そう考えている間にも、廃城は魔法に呑まれて削れていく。

 「うぉい!?お前ら何してくれてんだこるぁああああ!!」

 廃城から飛び出してきたのは貴族の様にビシッっとした服装のイケメンだった。
 噂の吸血鬼って奴だろうが、血色の悪い肌ではあるものの真紅の瞳と煌く銀髪が美しく、モデル体型と合わさって絶妙なバランスの美しさである。
 ちょっと興奮して言葉遣いが荒々しくなっているが、紳士な振る舞いをすればどこぞの完璧黒執事にだって引けは取らないだろう。

 「ユート様!あれが今回のクエストボスです。油断なさらないように」
 「ああ、なんか興奮してるが強いのは確かだろうな」
 「ならばここは一当てして実力を計ろうではないか。セイバーよ!令呪をもって敢えて命じる!その一刀を持って敵を殲滅せよ!」
 「承知!......って言われても令呪なんて偽者だからなぁ」

 Mrキシドーが叫ぶと手の甲に浮かび上がっている紋章が一画消える......ってちょw待てやぁ!?
 同人本のパクリかと思いきや、ORZとかふざけた令呪が刻まれているではないか、ああ......Zが消えていく。
 偽ブーストを再現する為に全身に魔力を纏ったアルバー......じゃないセイバーさんの威圧感が増す。

 「待て!私の話を聞け!この城を誰が修理すると思って」
 「重ねて敢えて命じよう!その一刀アルバートスペシャルであると!」
 「なんじゃそりゃ!?ってああもう分かりましたよ。はぁあああああ!」

 ああ、Rが消えていく......なんでこんなに盛り上がっているんだろうか?誰だよあれ刻んだのは。
 吸血鬼の言葉を遮って盛り上がるMrキシドーは興奮して聞く耳持たずである。
 飽きれながらも付き合うセイバーさんは、更に闘気を全開にして魔力と混合させ始める。
 爆発的な力の増大にビリビリと大地が鳴り響き、セイバーさんの足元にミシミシとヒビが入り広がっていく。

 「話を聞け!貴様らは私達の苦労を何だと思ってい」
 「更に敢えて命ずる!宝具を開放し、全ての力を出し切れと!」
 「ええ?まだやるんですか......どうなっても知りませんよ?」

 なんか吸血鬼さんが泣きそうになってるんですが?ってか、Oが消えてくんだけど意にそぐわない令呪の使用を連続したらサーヴァントが反旗を翻す設定とかがあったりなかったりしなかったかな?

 「婿殿の心配は無用である!何故ならば私の方が強い!」
 「へいへい、んじゃまあ【精霊剣 クロス】全力開放!精霊王よ我に加護を!」

 セイバーさんの背後に巨大な光の柱が立ち昇り、膨大な力の奔流と共に未知の何かが降臨した。
 精霊王なんだろうけど、こんな序盤に姿を見ても良いのだろうか?俺の平穏な日常は何処へ消えたのだろうか?
 降り注ぐ虹色の光に包まれたセイバーさんは魔力の青、闘気の赤を混ぜて金色に輝いていたが、虹色の光を浴びて輝きが倍に膨れ上がった。

 「待てやぁ!こんなの避けたら城が爆砕するだろ!?どないせいっちゅうねん!死ぬわ!」
 「ふん、敢えて言おう!どれほどの性能差であろうと!今日の貴様は阿修羅すら凌駕する存在だと!!」
 「勝手に決めるな!てかてめぇが原因だろうが!」
 「んじゃ......いくぜ?エクス」
 「うぉい!待て!そんな」
 「カリバーーーーーーー!!」

 訳の分からない理論が展開されて言葉が通じないどころか、構える間も無く必殺の一撃をぶち込まれる哀れな吸血鬼には、同情を禁じえない。
 セイバーさんから極太のビームが放たれ、地面を削りながら吸血鬼へと伸びていく。
 こんな馬鹿みたいな威力の攻撃が城に直撃すれば、間違い無く粉々に吹き飛んで跡形も無く消え去るだろう。
 しかし、果敢にも吸血鬼はこのビームを避ける事無く立ちふさがったのだ。
 いけ!頑張れ!お前ならばきっと止められるさ!と無責任な応援を心の中でした俺だったが、現実は無情であった。

 「こんなもの!こ、こんなもの…っ!こ、こんな…こんな…!うわぁぁぁーーー!」

 極太ビームを両手で受け止めた吸血鬼だったが、その圧倒的な威力に押されて徐々に後退を始める。
 両足の踵が地面にめり込むが、そのままジワジワと押されていく。
 とうとう支えきる事が出来なくなった吸血鬼は、そのままビームに押されて廃城へ叩き付けられて大爆発に巻き込まれてしまった。
 某惑星で戦闘民族な主人公が撃った必殺の一撃を受け止めた悪の帝王様みたいである。

 「なんつー威力だよ......俺が何にもしないままクエスト完了しちゃったんだが?」
 「お父様の一当てって基本必殺の一撃なんですよねぇ」
 「あれしきの必殺の一撃に耐えられないとは......なんとなさけない!」
 「その死んだ勇者に鞭打つ国王みたいなセリフは止めれ!ってこいつ国王か!?」
 「もう良いよなローゼンシア、俺疲れたわ」
 「ええ、もう私も帰りたいわアルバート」
 「ここで敢えてフラグを立てておこうではないか!......やったか?と」

 もうなんだか分からんが、それぞれが好き勝手な事を言っている内に爆発は収まり、降り注ぐ瓦礫の雨も止まった頃だった。
 ムクリと起き上がったのはボロボロになった吸血鬼であり、影も形も無くなった廃城の主だった。

 「私の城が......初クエストだったのに。凶悪な罠を準備して、配下達がスタンバッっていたのに......おのれぇ!貴様らぁああああ!」

 流石と言えば良いのか、一応複数PTで戦うクエストボスだけあって生きていたらしい。
 というか、HPバーの半分も削れていないんだが?おかしくねぇ!?

 「ぜったいに許さんぞ、虫けらども!!!!!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!」

 服を引き千切り、オーラを全開にした吸血鬼がMrキシドーへ向かって突撃する。
 体の2倍はあろうかという漆黒の羽を広げで飛翔する速度はとんでもなく速く、瞬きする間も無くMrキシドーの眼前に迫り、剛拳を腹部へ叩き込んだ。

 「ぬうぁああああああああ!死ねぇええええ!」
 「むう!?なんという速度!なんという拳圧!素晴らしい!素晴らしいぞ!」
 
 ガィイイイン!と派手に金属音をたてて上空に打ち上げられたMrキシドーだが、この戦闘狂がその程度でくたばるはずが無いのだ。
 変装用の金属鎧が弾け飛び、平服姿のアルフォンスが空から叫び声を上げて落下してくる。

 「この我、アルフォンス・レオンハート・クロスロードは、貴公との果し合いを所望する!!てぇやあああああ!!」
 
 【紅炎剣プロミネンス】を抜き放ったアルフォンスが【タイラントブレイク】を発動して豪快に剣を振り下ろす。
 当然、瞬時に回避した吸血鬼は間合いを取って次の攻撃に備える。
 他にスキルを発動させた訳でもない一撃だが、10メートル程の巨大なクレーターを作り上げたのには恐怖を感じるユートだった。

 「ぶっちゃけ、このクエストって本当は吸血鬼討伐は無理だったんじゃないか?」
 「はぁ、もうシナリオ崩壊してしまったので言いますが、顔合わせ的に戦闘してから圧倒的な実力差を見せ付けられて負ける予定のクエストなんですよねぇ」
 「んで、次のクエストに連鎖するチェーンクエストに変化する予定だったんだが......シナリオぶち壊し所か、クエスト発生地点を完全破壊しちまったからなぁ......運営にこっちのサーバーのクエストを修正してもらわにゃならん事態に発展したなぁ!俺は知らんぞ?」
 「他のサーバーでは管理AIもNPCのAIも違うのでこんな事態には発展しないと思うのですが......お父様はお父様ですので」

 なるほど......分かりません。
 とりあえず、俺がこの戦闘狂を連れてきたせいでサーバー全体に迷惑をかけたのは分かった。

 「ふはははは!受けて見よ!人呼んで、アルフォンスペシャル!!」
 「絶対に貴様をぶっとばして城を修理させてやるからな!これで死ぬなよ?」
 「「うぉおおおおおおおお!!」」

 ふう......俺の出番が来ない。もう全部任せちゃっても良いんじゃないかな?
 こうして今回のクエストは訳の分からん展開で幕を閉じたのだった。

 「ええ!?私も戦えていないのですが?」
 「いいんじゃないかな?もう王都戻ってデートしてようぜ?」
 「それでは帰りましょうソフィア様」
 「だな、行こうぜユート殿」

 4人は廃城跡で戦闘を続ける2人を残し、帰路に着いたのだった。 【Mission Failed】 
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