上 下
40 / 43
4章

乙女座の男再び

しおりを挟む
 ギルドの扉を潜った2人だったが、ここで会ったが百年目とばかりに大絶叫する仮面の変態が現れた。

 「待っていたぞ!よもやここで婿殿に出会えようとは。乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
 「待っていたって言ったよな?出会ったんじゃないよな?待ち伏せだよな?」
 「細かい事を気にする婿殿であるな!その身持ちの硬さ......正に眠り姫と言わざるを得ん!」
 「意味分からん!眠っている人間に身持ちが硬いとか無いだろうが!」

 白銀のブレストプレートに真紅のマントをはためかせた男は、その目立つ燃える様な炎髪と灼眼を隠そうともぜず、顔の半分を隠す仮面を付けて立っている。

 「おとうさ」
 「ちっがーう!私はMr.キシドーである!決してアルフォンス等と言う漢では無い!敢えて言おう!やはり私とユートは、運命の赤い糸で結ばれていた......共に戦う運命にあったと!!」

 ソフィアの言葉を遮って偽名を叫ぶアルフォ......Mr.キシドーだったが、絶叫していいては、自分で正体をばらしている様な物である。

 「大体だな。政務はどうした?こんな事をしていて良い程暇じゃ無かろうに」
 「ふっ愚問だな。政務など興が乗らん!」
 「それで良いのか国王!?」
 「書類の判子などセバスの奴に任せておけば良いのだ!グハハハハ!敢えて言おう。王など飾りであると!」

 とんでも国王だったが、確かにあの万能執事が居れば国は回ると言われれば納得せざるを得ない。

 「こういう人なんです」
 「ああ、だんだん慣れてきたよ」

 呆れを通り越して一周して戻ってきた思考に、現状を放棄しろと言われたユートは言葉を紡ぐ。

 「んで、一体なんの用だ?Mrキシドーとやら」
 「話は聞かせて貰った!我も共にクエストへ参ろうぞ!」
 「情報と行動が早いのも凄いが、俺が誘う可能性は考えなかったのか?」
 「どうせ遠慮して誘わぬのであろう?何よりも、私は我慢弱い!」

 どないせいっちゅうんじゃこの国王は......まぁ、貴重な戦力が加わってくれたのだから、素直に感謝するべきか。

 「そして彼女が相棒のMs」
 「ロゼリンです」
 「は?......ローゼンシ」
 「ロゼリンです」
 「あの」
 「ロゼリンです」
 「分かりました。謎の魔法使い様ですね。はい」

 頑なに本名を言われる事を拒む、宮廷魔術師筆頭様も顔を半分隠す仮面を付けている。
 体は羞恥に震えており、既に爆発寸前である。
 しかも、同様の仮面を付けた男性が隣に居る。
 またしても、見覚えのある人が立っている事に恐怖を感じたが、敢えて待とう。

 「そして彼は私が使役する」
 「セイバーです」
 「何やってるんですか?アルバー」
 「セイバーです」
 「あの」
 「セイバーです」
 「分かりました。謎のサーヴァント様ですね。はい」

 同じく、頑なに本名を言われる事を拒む、王国が誇る剣術指南役様はガックリと項垂れている。
 こっそり聞けば、何やらアルフォンスがプレイヤーメイドのラノベを読むのに嵌っており、魔術師が過去の英霊を召還して聖杯を奪い合う某月型なアレごっこにつき合わされているとか......涙無しには語れない。

 「どうしてこうなった......何でフレンドは中々出来ないのに、こっちの世界での友人ばかりが増えていくんだ」
 「ユートは私の婿になる存在だからな!人徳だろう?妻として嬉しい事だ」
 「いや、これ絶対に嫁が関係してるよね!?」

 既に過剰戦力になりつつあるパーティーだ。
 何せ、LVカンストの最強NPCが3人である。
 ソフィアですらLV300超えでチート装備を身につける姫騎士様である。
 あれ?......俺ってば要らなくね?マジで。

 こうして俺は状況に流されたまま廃墟へ旅立つ事となった。
 適正レベル200超えの魔境、その脅威を感じる暇も無く殲滅されていく魔物達。
 俺はレベルアップ禁止している俺は開拓者のメダリオンによって膨大な経験値を金貨にしていく、更にメダリオンの効果が発動してレアドロップやドロップアイテムがゴロゴロと落下する。

【レアドロップ率上昇10%、ドロップ率上昇20% 適正レベル+5毎に上昇値が10%上乗せされていく】は伊達では無い。
 +210%&220%という事は単純計算3倍の収穫量である。
 加えて、押し掛け助っ人NPCな彼等は報酬なんか不要だと言うので、全部総取りでウハウハだ。

 「おお!?これは良い物だ」
 
 【強欲の宝箱】
 金を無限に食らう不思議な箱。
 食わせた金額に応じて所持者へ経験値を還元する。
 一定以上の金を食わせると上位のアイテムへ進化する可能性を秘めている。

 「これで何時でもレベルアップ可能になったわけだ」
 


 こいつは自分で倒せと言われた俺は、何やら強敵であろう巨人のアンデッドである【ポイズンジャイアント】とタイマンして見事打ち破った。
 幾ら破壊して再生を続ける強敵だったが、麗覇の覇拳【童子切 安綱】を模倣したユートは自らの拳に消滅属性を付与して一撃を加えた。
 
 「【天城流 破拳三式 破天衝】+【偽童子切 安綱】だぁ!」

 心臓部分からかち上げる様に頭部を吹き飛ばしたアッパーカットの一撃で沈んだ【ポイズンジャイアント】は魂レベルで破壊された為に光となって消えていったのだった。
 

 【ユニークMOB】を討伐しました。の表示が出て一安心だったが、無敵NPC達からすれば、我々四天王の中でも最弱という奴であろう。
 慢心せずに次へ行こう。

 森を抜けて廃墟へ到着した俺達はクエスト開始地点へようやく辿り着いたのだった。

 「このクエスト、どのようにしてクリアするのか括目させてもらおう、婿殿」

 えー?どうせあんたらがボスをボッコボコにするんですよねぇ?と思ったユートだったが、敢えて口にすまいと思い黙るのだった。
しおりを挟む

処理中です...