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3章

緊急クエスト発令 討伐【串刺し公】3

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 変異体討伐を終えた各部隊は本体である【串刺し公】ツェペシュの討伐に向かう。
 だが、ここで非常事態が発生した。

 王国の南で【支配級】の悪魔王デビルロードが3体纏めて現れたという凶報だった。
 それを聞いたアルフォンスは討伐隊の半数を連れて、そちらの討伐に向かう判断をした。

 第2部隊 【炎帝】アルフォンス率いる近衛騎士団
 第3部隊 【王佐】セバスチャン率いる執事、メイド部隊
 第4部隊 【殲滅者】宮廷魔術師 ローゼンンシア率いる上級魔術師隊
 第5部隊 【剣神】王国剣術指南役 アルバート率いるソードマスター部隊
 第6部隊 【業炎】ジム率いる魔法剣士部隊

 討伐隊の半数が抜ける事は、かなりの痛手であるが、確実で安全な討伐を期しての編成である為、元々が過剰戦力ではあったのだ。
 残りの部隊で十分に【串刺し公】ツェペシュを討伐する事は可能だろう。
 むしろ、あちらの方が戦力的に増強すべきであるが、そこは最精鋭であり王国が誇る英雄達である。
 余裕を持って討伐してくれる事だろうと確信している。


 しかし、【串刺し公】ツェペシュ討伐の各部隊が苦労するのはここからである。高速再生能力が圧倒的な速度で傷を修復すると共に、新たな触手を生み出してくる【串刺し公】ツェペシュはやはり厄介なあいてである。
 槍の雨が降るかの如く降り注ぐ触手と、速度を落としながらも油断をすれば致命傷になりかねない地面から生える触手の突き刺しが継続的に行われる。

 しかも、その勢いや威力は変異体など比では無く、その暴威は圧倒的だ。
 見るも受けるも地獄のような光景だが、1時間2時間と時間が経つにつれてNPCやプレイヤーの体力と集中力にも陰りが見え始める。
 生死の境に立ち続けるのはそれだけで精神力を削る。

 戦闘に参加するメンバー以外からも、絶えず補助呪文やアイテムの援護が継続的に行われるが、まだまだ勢いが衰える事の無い攻撃に、次第にあせり始める者が出始める。
 消耗戦である事は最初から指示されていたが、全員で全力攻撃をしているにも関わらず、ここまで効果が見えないと心に来るものがある。

 それは経験の浅い者程顕著であり、熟練した経験者程心に余裕があった。
 その差が連携に支障をきたす原因になるのだが、命がけの戦いなのだから、それは仕方の無いことだろう。
 特にNPCはプレイヤーと違って、文字通りに命がけなのである。

 プレイヤー達はそれを理解している者と、それでも死が怖い者とで別れていた。
 だが、それも仕方の無い事である。誰だって触手で串刺しにされたい訳では無いし、仮想現実とは言え痛みもあるのだ。
 それを理解した上で、自分の命を犠牲にしてでも誰かを守りたいと言える者ばかりではないのだ。

 【串刺し公】ツェペシュ LV360 特殊変異体 ローパーキング
 HP 61648970/78000000 MP 11571322/16700000
 
 スキル 超高速再生 分体生成 毒無効 猛毒攻撃 強酸攻撃 腐敗毒 即死攻撃 触手生成
威嚇 咆哮

 馬鹿げた数字だが、レイド級モンスターでもかなりの上位存在だろう。
 変異体より強化された再生能力が作用して、悪魔の如き凶悪性能になっている。
 あのHPを全て削り切るのは骨が折れるだろう。
 3時間戦い続けてまだこの程度しか減っていない。
 こちらも切り札は温存しているし、まだ敵の力を削ぐ事に集中した方がいいだろう。

 「浄化属性の魔法と火属性の魔法を中心に攻めろ!継続ダメージを増やして回復させるな!」

 ガゼルの指示が飛び、討伐隊から魔法の一斉射撃が行われる。

 「GYOLOLOLOLOLO!!!!!」

 咆哮スキルによる叫び声の範囲攻撃に、全員のHPが馬鹿みたいに削られる。
 低レベル者は防壁魔法を貫通してHPが1/3まで削られる程の威力だった。

 「回復急げ!防壁展開始め!」

 咆哮範囲外にいる援護要員から次々に支援魔法が飛んでくる。
 一瞬で全快になり、新たな防壁を身に纏う戦闘部隊は更に気を引き締める。

 「ここで戦況を変えたい所だな。よし!ユート部隊は攻勢に出ます!」
 「露払いは俺達に任せろ!行って来い!」

 ガゼル率いる冒険者ギルドの精鋭部隊が援護に加わり、触手から身を守ってくれるのは有り難い事である。
 究極スキルを次々に発動する俺達は、その隙を守ってもらえる安心感で集中して発動する事が出来るのだった。

 【氷狼王の咆哮フェンリルのほうこう】 【巨人の一撃タイタンブロウ】 【竜の息吹ドラゴンブレス】 

 背後に白銀の巨狼が現れて、猛烈な冷気の咆哮を浴びせると同時に、山の様に巨大な大男が現れて鉄槌の如き巨腕の一撃を浴びせる。
 余りの衝撃にフラついた 【串刺し公】ツェペシュにドラゴンが猛烈なブレスを浴びせると、再生しかけていた体表が燃やし尽くされて黒焦げになる。

雷神の槌ミョルニル】 【戦神の槍グングニル】 【太陽神の閃光ラーのひかり

 それでも猛攻に耐える 【串刺し公】ツェペシュは凄まじい速度で再生を繰り返しては触手を生み出してプレイヤー達へと差し向ける。
 それをさせるかと、雷光を帯びた槌の一撃が、必中必殺の威力を秘めた戦神の槍が 【串刺し公】ツェペシュを打ち抜き、刺し貫く。
 
 「GYOROAAAAAAAAAA!!!!!!」

 胴体に巨大な風穴を開けられた 【串刺し公】ツェペシュはその余りの威力にそこら中に猛毒の強酸を撒き散らし、体液を振り撒く。
 その全てを燃やし尽くさんと太陽神の閃光が超々高温の閃光で 【串刺し公】ツェペシュを焼くと、周囲の大地が余りの高温にガラス状に変化した。

 【八岐大蛇ヤマタノオロチ】 【貪り食うものグレイプニル】 【鮮血の魔剣ダーインスレイヴ

 全身からプスプスと煙を上げながらも、体に開いた穴を再生させながら触手による攻撃を止めない 【串刺し公】ツェペシュの再生能力と闘争本能は異常としか言い様が無いだろう。
 王たる者として生まれた自分が、蹂躙するはずの相手に深手を負わされる現実に怒りが増したのか、その攻撃が激しくなる。

 四方八方に延びてプレイヤーを襲おうと伸びてくる触手を、八つ首のオロチが喰い千切り炎を吐き出しながら突撃していく。
 ズンと巨体同士が衝突する地響きが聞こえたかと思えば、虚空から、地面から突如伸びた鎖が 【串刺し公】ツェペシュを拘束しようと巻き付き、体に突き刺さり締め付け始める。

 全身を揺すり抵抗するが、ギシギシと軋むだけでグレイプニルが千切れる事は無く、寧ろ締め付ける力が強力になる程だった。
 複数の魔剣が宙に出現すると次々と 【串刺し公】ツェペシュに切り掛かり、ダメージを与えた部分から体液が噴出する。
 体表がブクブクと泡立ち、再生しようとしているが、傷が癒える事は無かった。

 【帝釈天の雷インドラのいかずち】 【光神の裁きバルドルのさばき】 【布都御魂ふつのみたま

 それでも尚、抵抗を諦めない 【串刺し公】ツェペシュは傷付いた体表を脱皮するかの如く脱ぎ捨てて再生を始めた。
 これだけ激しい攻撃を受けても、底知れぬ体力を発揮して傷を再生させていく姿を見て、プレイヤー達にも焦りが見え始めた。

 だが、究極スキルが鳴り止む事は無く、視界を埋め尽くすような閃光と共に雷が 【串刺し公】ツェペシュを打ち抜き、天から光の柱が幾筋も伸びて来て 【串刺し公】ツェペシュを貫いた。
 又も体中を穴だらけにされ、黒焦げになったが抵抗を諦めない 【串刺し公】ツェペシュは自身を上下に分断して2匹に増える。

 
  【串刺し公】ツェペシュ LV360 特殊変異体 ローパーキング
 HP 10689771/39000000 MP 1422739/8350000

 だが、それは悪手だったと言わざるを得ない。
 半分に落ちた力は、今までの様な異常な再生能力に狂いを生じさせた。
 グレイプニルの拘束も未だ続いており、分かれても自由に動ける訳では無いのだから。

 【九尾の狐ナインテイル】 【神鳥の炎ガルダのほのお】 【終わらせる者の悪戯ロキのいたずら】 

 九尾の妖狐が現れて、九つの尻尾に宿した紫の狐火を解き放つ、肉体と精神を同時に焼き尽くすアヤカシの炎は幻の様に現と夢を行き来しているのか、消えては現れ 【串刺し公】ツェペシュ と触手を焼き散らした。
 
 「GYOLOLOLOOOOOOO!!!!!」

 まだまだ死ねるかとでも言うのか、プレイヤー全体に咆哮を撒き散らすが、迫り来る音の衝撃をがフッっと消滅する。
 ニヤニヤと笑う道化師が恭しく礼をして、嘲る様にクツクツと笑っている。
 パチンと指を鳴らすと、剣が、斧が、槍が、矢が降り注ぎ 【串刺し公】ツェペシュ に降り注ぐ、どれも名工が作り上げた逸品なのだろう高品質の武器が、惜しみ無く滝の様に降り注ぐ様は圧巻だった。

 そこに天から飛来した巨大な鳥が全身に炎を纏い【串刺し公】ツェペシュ へ突撃する。
 二匹の胴体を貫いてもその勢いは止まらず、旋回しては突撃を繰り返す。

全てを凍らせる細氷ダイヤモンドダスト】 【死の女神の抱擁ヘルのほうよう】 【魔女達の宴ヴァルプルギスの夜

 弱まった力で必死に再生を繰り返す 【串刺し公】ツェペシュ を嘲笑うかの様に今度は絶対零度の吹雪が吹き荒れて体表を白く凍り付かせる。
 全身がひび割れ、噴出した体液も即座に凍る程の極々低温の空間に身を晒し、ようやく動きにも疲労が見えてきた。

 そこにどこから現れたのか、漆黒の闇が生まれて 【串刺し公】ツェペシュ を覆い尽くす。冥府の女神が生み出した腐食の闇は、一切を腐らせて肉をそぎ落としていく。
 再生する端からドロドロの粘液に変化して腐り落ちる体、生み出す触手も伸びる前に腐れ落ちてジュクジュクと粘液に変わって地に落ちる。

 フィールド全体に赤、青、黄、緑と不思議な色の明かりが灯り、プレイヤー全体のパラメーターが急激に上昇する。
 魔女達が空を飛び回り、見た事も無い魔法陣を描くと討伐隊全員に光が降り注ぐ。
 普通なら重ね掛け不可能な効果まで加わり、これまで支援組から受けていた魔法と同様の効果が上乗せされる事で、飛躍的に全体のパラメーターが急上昇していった。

  【串刺し公】ツェペシュ にも終わりの時が近づいている。 
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