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SAKI

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2章

王都の闇 【シークレットチェーンクエスト発令】

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 宿に帰ると、グロウとプランは既に寝ていた。
 幼い兄弟が二人で暮らすには、スラムの環境は苛酷過ぎたのだろう。

 「お風呂に入って、お腹一杯ご飯を食べたら寝ちゃいました」
 穏やかに微笑むエリーは、まるで本当の母親であるかのように母性的だった。

 明日には、王城から詳細な資料が届く、俺の予想が確かなら、この国では裏で薬物が蔓延している。
 食堂で捕縛した4人組を見た時に確信した。高レベル冒険者が、食い逃げをしなければ生きていけない?そんな馬鹿な事があるはずが無い。
 それに、あの血色の悪い顔と痩せた体、色んな所で食い逃げしているのに、あの栄養状態はどういう事だ?暴行事件まで起こすくらいに理性が壊れ始めている。
 
 王都で問題を起こして、いつまでも無事でいられるはずが無い事ぐらい分かっているだろうに。
 そして、色々理由があったにせよ、食い逃げ暴行犯程度を捕縛するのに、騎士団長(ソフィア)がプライベートを使ってまで捜査している。

 一つだけなら分からずとも、繋げて考えれば見えてくる物もある。

 「マスター、一先ず休まれては如何ですか?王城での会話は、私もマスターを通して聞いていました。明日から忙しくなるはずです」
 「そうだな。それじゃ、風呂でも入ってくるよ。」

 「ふ~....やっぱり日本人は風呂だな。これが無いと一日が終わった気がしないぜ。」
 個室で風呂が完備されている宿を見つけられて良かった。共同の浴場だって嫌いじゃないが、やっぱりリラックスするならこっちだろう。 ガチャっと扉が開く音がする 
 
 「マスター、お背中を流しに来ました」
 うおぉぉおおお!?なんという超展開!そうか、お風呂回だったんですね?

 淡雪のような透き通る真っ白な肌、タオルで隠されていても主張する身体のラインが眩しい。
 しかし、視線が釘付けになってしまうのは男の性である。
 「その...余りジロジロ見られると...恥ずかしいです」

 「すまない、美しさに見とれていた。背中を向けるよ」
 なにやら気まずくなったので、背中を向ける

 「それでは失礼します。力加減に問題があれば言って下さい。」
 ...くすぐったい、いや気持ち良いんだが、心がついて来ないというか。
 
 「痒い所はないですか?...そんな緊張なさらず、楽にしてください」
 フ~~ッっと耳に息をかけられる。ゾクゾクするではないか。

 「次は前ですね?こちらを向いてください」
 ままま、前?それは大変危険があぶな、怒張がジュニアで臨戦態勢で....

 「大丈夫です。分かっています」 何が!
 「ちゃんと綺麗にしないと、病気になってしまいますよ?」

 俺の心が蝕まれて逝きそうなんだが?
 
 「まかせてください。遅かれ早かれ、あっちでもこっちでも私の役割であり、私の希望することでもあります」
 そ...そうだった。ナニする為に、一生懸命時間をかけて、理想の嫁を創造したんだって事ですね?退路なんか最初から無かったのだ。

 「力を抜いて楽にしていてください」



 見せられないよ!!



 そんな、青い時代もあったのさ。




 翌朝、食堂で朝食をとっていると、セバスチャン自ら資料を持ってきた。
 「おそらく、ご想像通りかと」
 目を通すと、やはり想像通りだった。
 南スラムを中心に、薬物が蔓延している地域がある。
 薬物の名前はマリファス、原材料に使われている『マジックマッシュルーム・リーフチェインバイパーの毒腺、ファンガスの胞子、スカーレットニードルの毒嚢』の頭文字を取って付けられた名前らしい。
 
 ファンガスの胞子は幻覚を見せる、マジックマッシュルームとスカーレットニードルの毒嚢が反応して強烈な興奮作用と精神的な高揚を齎す。
リーフチェインバイパーの毒腺から取れる、出血毒とスカーレットニードルの毒嚢から取れる、興奮毒はマジックマッシュルームと反応して体内のマナを蝕む壊血毒になる。強い依存性を持つ毒素なので、一度摂取してしまうと常人の精神力では我慢できない。

 マナを破壊されて毒に蝕まれた血は、摂取した栄養を運ばない所か、新しく作られた血まで蝕む
ので、どれだけ栄養を摂取しても、身体からすべて出て行く為、徐々に体中のエネルギーを使い尽くして無気力になる。
 そして、薬を使った時の高揚感や興奮が強い依存性を後押しして精神まで蝕むのだ。

 「とんでもないな。計画を実行に移す必要が益々出てきた。」
 「ユート様、立ち上げる事業は農業、薬草の栽培から製薬までを一貫して行う。これで間違いありませんか?」
 「さすがですね、その通りです。南の農作業可能地域一帯を全て買い取り、大規模な薬草の生産を行います。」

 「結界石を使用して、関係者のみ立ち入り可能なエリアにする事で、スラムから流れてきた子供達でも、安心して働けるようになります。更に、世界樹の苗を植樹する事で、強力な浄化作用を持った薬草の育成を行います」

 「なるほど、そして効果の高い解毒ポーションを安価で販売するわけですな?」

 「ええ、ですがおそらく、そのレベルでは薬物の毒素や破壊された血液を補う事は出来ないでしょう。ポーションの強化に世界樹の枝と雫を使用します。」

 「予想通りのお方ですな、それだけの貴重品を、他人の為に躊躇無く使用するなど」
 「世界樹の枝は攪拌作業に使用する事で、浄化作用と治癒力の強化に魔力の増幅効果を高めてくれるでしょう。世界樹の雫は、薬剤自体の薬効を格段に上昇させてくれます。」

 「しかし、あれほど大規模な農地は子供達だけで管理できる物ではありませんぞ?」
 「そこは、農業ギルドから支援を受けるのと、【転生者】の生産職から人員を募ります」
 「勝算はあるのですか?同郷の者とはいえ、協力を得るのは難しくないのですか?」

 「ははは、流石のセバスチャンも【転生者】の事までは予測できませんか?大丈夫、効率の良い生産現場を見れば飛びついてきますよ。」
 「現段階で入手不可、目にする事も叶わない世界樹の苗、浄化作用に優れたランクの高い薬草、手に入らないはずの薬剤に関するレシピ、調合する事で手に入る経験、優れた指導者達がいる。これを前にして手を挙げない奴はいませんよ!全てを止めてでも参加する価値がある」

 「それに、生産職だけじゃありません。攻略組だって、レアな鉱石で作られたインゴットや、国王との顔繋ぎが出来るという、破格の報酬があれば飛びついてきますよ。彼らにはスラムから開放する人の護衛や、自力で移動が困難な人の運搬を手伝ってもらいます」

 「王国からの人手は、部署毎に適正者を振り分けてもらいますが、孤児院等の施設にも防衛手段が必要になってきますので、優秀な職員の斡旋を、特によろしくお願いします」 
 「その内、薬物依存から開放されたスラムの住人達も加わり、職業斡旋の良い機会になるでしょう」

 「ユート様、既に我々の計画以上の中身に安心しました。最後ですが、黒幕の始末は如何にして付ける予定ですかな?」
 「俺はもちろんですが、頼りになる人物を知っています。全員が一騎当千の実力者であり、隠密技能まで持っている凄腕です」

 「それでは、老骨の出番は回って来そうにありませんな」
 嬉しそうに微笑んだセバスチャンは踵を返すと歩き出す。

 「ええ、そうならない事を期待しますが、ここは素直に甘えておきます。若造に手抜かりがあれば、先達にご指導頂きたい」 「畏まりました、では」

 「よし、計画始動だ!」



 【シークレットチェーンクエストの開始条件がクリアされました。】
 【全プレイヤーに緊急クエストが発令されます】

 『クエスト名』【王都に潜む闇】【スラムの王】【蠱毒の主】【解放されし住民】を開始いたします。
 クエスト解放者【ユート】の達成条件はすべてのクエスト条件達成での完了
 参加プレイヤーは4つのクエストから【ユート】に割り振られたクエストを実行して、条件を達成する事でクエストクリアとなります。  
 クエストの早期解決を達成したプレイヤーは複数のクエスト実行が可能になります。
 
 報酬は条件達成クエストが多いほどランクが上がります
 達成報酬 【???】
 参加報酬  クロス金貨10枚 

 「これより、王国の威信をかけて【マリファス】との戦いを始める事を宣言する。諸君には様々な分野で協力を頼むことになるが、心して掛かるように申し付けておく」

 「この薬物は南スラムに製造者が潜伏した事から、端を発する事案である」
 「依存者の救助や回復、避難者の保護や薬剤の生産、賊の討伐まで一挙に執り行う予定である。今回の計画指揮を執る者を紹介する。諸君等と同郷の者【転生者ユート】である」

 「ユートです。今回の計画は絶対に失敗が許されません。沢山の命と王都の今後が掛かっているので、全力で挑んで貰いたい。計画は万全を期しているが、プレイヤー全てが協力してくれる事が肝となっている!全員の頑張りが結果として現れるからだ」

 「俺達全員が、命を背負っている。計画の遅れは、複数の死に直結していると覚悟してくれ。事が終われば苦情も質問も受け付けるから、今だけは私心を捨てて協力して欲しい」

 「俺は、この世界で本気の人生を歩んでいる。何一つ妥協する気は無いし、手から零れ落ちるものは可能な限り救い上げたい。.....護りたい!」

 「少年が言った。妹を食わせていけない!このままでは死んでしまうと。...俺達には救えるはずだ!足りない物なんか無いじゃないか!与えられる力だって持っている!」


 

 全てのプレイヤーが開いたメニュー画面には、国王とユートからの宣言がリアルタイムで流れている。
 しかし、それとは別の映像が、各プレイヤーの脳裏に直接投射されていた。
 ユグドラシルが記録した過去の記録である。

 「ならどうすればいいんだよ!頼れる奴なんかいなかったんだ!このままじゃ、プランが死んじまう!俺じゃ食わせてやれない!自分の分だって食べたフリして全部食わせたんだ...もう、パンの一切れも残ってないんだ!」

 グロウを抱きしめ、後は俺に任せろと言うユートの姿。

 「「グロウはプランを護ったじゃない(です)か」」
 グロウに微笑むユートとエリーの姿。

 王に土下座し、宣言するユートの姿。
 「感謝致します。期待を裏切らず、可能な限り最大限の結果を出すように、全力で挑みます」

  
 「クエストを開始する!お前達の誇りを俺にくれ!」「オーダー!【mission complete】」

 この時、全ての思いは一つになった。
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