13 / 43
2章
新たなる力とその代償 世界樹の苗木から【森羅万象】を見る
しおりを挟む
「婿殿、婿殿....いや~呼ぶだけで気分が良くなるとは...やはり、この俺ですらも、君の存在に心奪われた男という事だ!!」
抱きつこうとする太い腕を回避して威嚇する。
「俺に...触れるな!」
「馬鹿な!避けられただと....なんという失態だ!万死に値する!!』
キャラ変わってるぞコイツ....厳ついヤローに、しつこく言い寄られるのは堪えるな。
「アンタも女王様っていう伴侶がいるんだろう。そんな事ばかり言っていると嫌われてしまうんじゃないか?大体、国王やりながら俺と旅に出るなんて出来ないんだ、あまりしつこいと....貴様も兎同様駆逐するが?」
「ようやく、ソフィアに相応しい婿殿と巡りあえたというのに。口惜しさは残るが、俺とて人の子だ、そこまで万能ではないよ。婿殿には因縁めいたものを感じてはいるがな?....だが私は我慢弱いのだ、王都に滞在するなら、ソフィアに会いに来るついででも良い...顔を見せに来い」
コツコツと足音を立てながら歩く俺たちは、会話をしながらじゃれ合っていたが、最後にはそんな空気も抜けてアルフォンスも真剣な顔を見せた。
なんだ、為政者である前に武人である!とか言いそうな雰囲気だったが、英雄と呼ばれるだけはあるじゃないか。
意識している物ではない、自然と滲み出るカリスマと覇気に触れれば、心酔する者が出るのも仕方の無い事だ。
結界を一枚通り抜け、中央塔の地下に向かって降りていくと、馬鹿みたいに頑丈そうな扉が現れた。....おい、宝物庫だと一発で分かるのはどうなんだ?大体この構造...センスを疑うぞ!
縦10メートル、横3メートルはあるだろう馬鹿でかい扉全部が...オリハルコンで出来ている。
「そう心配するな。頑丈さは折り紙つきよ!それに、許可していない者がこの部屋に入ると、その瞬間に転移術式が発動して王都の裏手にある、【グランガイア山脈】に飛ばされる、それにこの扉自体もゴーレムだ。婿殿とて容易に破壊出来る物ではあるまい?」
そうなのだ、先ほどセンスを疑うと言ったが、扉自体が門番でありトラップである。
オリハルコンにこの莫大な密度の術式を刻み込み、ガーディアンを作成するのにどれだけ莫大なコストがかかっているんだ!
「この国を丸ごと買い上げてもお釣りがたんまり帰って来るわ!!」
呆れて声を出してしまったが、つまりはこの扉を作らなければならないレベルの財宝が、大量に収められているという事に他ならない、ブルジョアめ!
「ぬわっはははは!洒落てるだろう?賢い者はここで逃げ帰る。転移を回避して、それに気づくだけのレベルにあるならば、俺の物にする...全てはこの掌の上よ!俺は強欲なのでなぁ!」
ハッハッハ!と笑う姿を横目に、これだからこの国があり発展するのだろうと思う。
他の大国と比較しても、国力が10倍という圧倒的優位に立っている事実、豊富な人材、国王の文武を兼ね備えた手腕...もはや豪腕と評するのが正しいだろうか?周辺国全てが連合して攻めてきても、歯牙にもかけず押し潰すだろう。
『珍しい事もあるのですね。女王様以外の方をここに連れてくるとは、正直な感想を述べるならば、後継者を定めたのですか?と質問したくなります。我が主、アルフォンス様』
オリハルコンの扉が開き、中から老執事が歩いてくる。
「これはこれは、初めてお会いします。私は、王家の執事長兼宝物庫の番人を任せられております。セバスチャンと申します。お見知りおきください」
「おお、セバスチャンではないか!そちらこそらしくないでは無いか!いつもなら首を跳ね飛ばそうとユートに糸が伸びている頃ではないか?」
「私とて相手を選びますよ?見れば、私の気配を察した時点で周囲のマナを掌握されたご様子、これでは得意のアレも、届く前に打ち落とされるでしょう」
.....この執事、かなり出来るな。「嗜みでございますユート様」
!!!?背後を取られただと?...なるほど、意識を移した気の人形か。
「嗜みでこれでは、世の達人は堪らないな。賞賛に値するよ。俺が陛下と逆の立場でも、必ず傍に置きたくなるだろう」
「恐悦至極にございます。私の辞書には、生涯誇れる喜びがまたひとつ、大きく記されました」
ペコリと頭を下げて一礼すると、宝物庫に足を向け歩き出す。
「ご案内いたしましょう。陛下、目的地はあそこですね?」
「流石はセバスチャンであるな。話が早くて助かるぞ」
圧巻だった。...扉の向こうは金銀財宝がこれでもかと積み上げられていた。
宝物庫内には空間拡張技術が使われているのだろう。山の様にと言うのは比喩ではなく、本当に山が出来るほど積み上げられている。
ルビー、サファイア・エメラルド・ガーネット・ダイヤモンド、様々な宝石が唸るほど積み上げられている。どれも、現実では考えられないような大粒であり、美しく磨き上げられている。
これに一流の職人が加工を施せば、そのどれもが名品、国宝だと言われても疑わないだろう。
金、銀、白銀、チタニウム、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、他にも見た事ないような金属のインゴットが積み上げられている。
一山あれば国が建国できる。それが数百...あるいは数千と積み上げられているのだ。
見渡す限り宝物の山、山、山である。 夢を見ているとしか思えない。
だが、本当に驚いたのは「ユート様、ここにあるのは、万が一の場合、時間稼ぎの為に、有象無象にくれてやる餌に過ぎません」と当たり前のようにセバスチャンが言い放った事だ。
は?確かに、まだまだ財貨・財宝と呼ばれるレベルしか見てないが、量を考えろ量を!
現実の世界経済を破壊出来る量でも餌かよ!
「魔剣や聖剣、魔道具なんかも沢山あるのですが、今回はちょっと目的が違いますので、お見せ出来ないのが悔やまれてなりません。ここからは歩いてはいけませんので、少々お待ちください。」
セバスチャンが、空中に魔力で魔方陣を書き上げると、分裂・拡大した魔方陣が積層魔方陣を構築して弾ける。...空間転移術式!しかも、対象が複数設定されているだと?
セバスチャン....底が見えない!「嗜みでございます」
いや、嗜みってレベルじゃないからね?
目の前に現れたのは、4頭のスレイプニルが引く、豪奢な馬車であった。
アダマンタイトで作られた骨格にオリハルコンをコーティングした車体を、ミスリルを繊維にして作り上げた天蓋で覆い、ダイヤモンドシルク、フェニックスフェザー等の、本来の使用用途ではない、間違ったが使い方をされている「飾り」が馬車を彩っている。
「乗車してください。これより、宝物庫の中央付近にある『空中庭園』へ向かいます」
パチン!とセバスチャンが指を鳴らすと、星空のように煌いていた空から、天の川のように輝く光の道が、こちらに向かって伸びてきた。
セバスチャンが手綱を鳴らすと、その光の道をスレイプニル達が駆け上っていく。
幻想的な風景だった。七色などと、安易に評すのが無粋な美しいくも優しい光が宙を彩っている。本当にここは宝物庫の中なのだろうか?
異世界に来て、更に別の異世界へと旅行しているのではないかと錯覚してしまう光景だった。
(マスター、不思議な光景ですね。どうしてもあの美しさに目を奪われてしまいます)
空を流れる雨のような数の流星...流れ終わったかと思えば、果てしない遥か彼方、一体どれ位の時を使って空を翔けたら辿り着くのだろうか?そんな距離を感じさせる遠くで、小規模な光の爆発が次々と起こる。
まるで、花火でも見ているようだ。不思議な光景に目を奪われていると、空に浮かぶ巨大な宮殿が見えてきた....白亜の城とでも言えば言いのだろうか?
宮殿の周りには、博物館でもなかなかお目に掛かれないような、彫像が沢山立ち並んでいる。
兵士、天馬、女神、竜と様々な形をしているが、そのどれもが、直ぐにでも動き出そうという躍動感あふれた作品群だった。
そして、宮殿の裏には世界樹の苗木だろうか?天を貫きどこまでも、とまではいかないが、それでも横幅だけで1kmは超えるだろう巨大な樹が俺達を優しく見下ろしていた。
「ユート、あの宮殿の中も見せてやりたい所だが、お前に与える物は、あの世界樹の苗木にある。」
「根元に馬車を着けますので、もう少々お待ちください」
馬車に揺られて、世界樹の苗木から空に向かって立ち昇る、あの時と同じ優しい光の玉を眺めていると、頭の中に声が響く。
『ユートさん、もうこんな所まで来てしまったのですか?まだゲームが始まって2日目ですよ?相変わらず、スケールが違う御方のようですね』
....この声はユグドラシル?前に見えるのは世界樹の苗木のはず、一体どういう事だ?
『私の娘を通して思念を送っています。直接会えないのが悔やまれますが、ここまで早いタイミングで再会出来た事への嬉しさの方が大きいです』
そうか、時間は掛かるかもしれないが、必ず辿り着くから待っていてくれよ?
それで、今回はどんな案件で俺はここに来ているんだ?
『おそらく、アルフォンスは貴方に世界樹の苗と繋がる適性を見出したのでしょう。そして、その判断は間違っていません。詳しくは、私の娘と話してください。それでは....また』
そう言い残すと、ユグドラシルとの繋がりが薄くなり、切れた感じが伝わってきた。
「うむ、着いたな。ユートよ、あの世界樹の苗木が放つ生命力は肌で感じているだろう?お前にはこの苗木と繋がってもらうつもりだ。根元から中に入るぞ」
苗木の根元に着くと、洞のような部分があり、奥に向かって通路が延びていた。
樹で出来た回廊は生命力に満ち溢れており、優しい緑の光が脈動するように波打って放たれている。
奥に進むと、30メートル位の空間があり、その中心には緑銀の光を放つ澄んだ泉があった。
「この泉が今回の目的地でございます。ユート様にはこの泉に溢れる、世界樹の雫を浴びていただきます。中の温度は、世界樹が常に適温を保っておりますので、沐浴するには不足ありません」
『そのまま浸かってくれれば良いわよ?ユート』
む、ユグドラシルに似ているが、少し高くて幼さを感じる声だな。
『ラシアよ、よろしくね。お母様からお話は聞いてる。初めてお母様と会話をした、あの時に、私達は生まれたの、7つの苗木に伝わってきた。貴方の優しい思念の波動は、その全ての【種】を芽吹かせたの、悔しいけど感謝してるわ』
意地っ張りだけど、優しい声を聴きながら泉へを進んだ俺は、身体を泉に浸した。
気で全身を最大活性状態に持っていった時に、その使用者は一種の万能感のような感情に満たされる。大岩を砕き、大河を二つに割り、雲を裂く程の力を得る
だが、そんな万能感ですら、大河の一滴だと思わせるような生命力が全身に流れ込んで来た。
細胞全てに染み渡るような心地良い感覚に、意識が溶け出していく。
まるで、俺が大地に、大地が俺になったみたいだ。
胡蝶の夢という言葉がある。
今の俺はそれを実体験しているのだろう。
大地に満ち溢れる雄大で優しい、全てを包み込む暖かな力、全ての生命に等しく与えられる恵みは地上に満ち溢れ、天に昇り....地へと還る。
人という器では、感じ取る事が出来ない【森羅万象】という感覚を小規模ながらも認識出来るようになった.....俺が感じている今の状態は、筆舌に尽くしがたい。
どんな言葉に置き換えても、無粋というほか無い、表現する事など出来ようも無い。
本当にこれは仮想空間なのか?いや、仮想空間だからこそ再現して認識出来るのだろうか?
人という存在を情報生命体へと転換した時、初めて認識する事が出来るのだとしたら、おそらくは、この感覚を得るのだろう。
『ユート、分かるでしょ?アンタは今、一部とはいえ、この世界と繋がっているわ』
ああ、わかる。確かに今感じているのはきっとそういう物なんだろう
『この仮想現実も現実世界と何も変わらない。喜びに満ち溢れ、悲しみが降り注ぎ、命が生まれて、大地に還っていくの。きっと、何万何億何兆...もっともっと数え切れない命が世界に生まれて繰り返された事だと思う、今...この瞬間に生きている、確かに意志を持って、私達は生きているのよ?忘れないで』
ああ、そうだ。俺はずっと思っていた。人だとか動物だとか昆虫だとかAIだとか関係ないんだ。生まれて、触れ合って、繋がって、何かを感じあって、交わる事が出来たらそれだけで幸せな事なんじゃないかってさ。
だから、それぞれ何か違って生まれてきて、何かを得て散っていくんだ。
それは、喜びなのかもしれない、悲しみなのかもしれない、怒り、絶望、歓喜、愛情様々な形の何かを得て大地に還っていくんだ。
勝手に解釈して、勝手に分かった気になっているんだ、人間は。
知恵を得たからこそ、人間は愚かに成ったのかもしれない。
本能で生きる事は罪ではない。愚かでは無いのだから。
大地に生まれ、大地に還る。それを本当に理解する事が出来るのは、命無きもの、意思無きものなんじゃないだろうか。
現象とか概念とか...そういった物よりも遥か高みにあるものをきっと俺達は【神】と呼ぶんじゃないだろうか?
俺達はみんな、誰一人として例外無く、自分では認識する事が出来ない、大きな流れの中を生きる一粒の雫なんだ。
『それを認識出来る環境こそが、この泉よ。もっとも、資格無き者が入れば、何も理解できず、何も感じることが無いまま大地に還る事になるけどね?』
俺は確かに得た。真剣に生きるという意味を本当に理解した。
もう、後悔しない。絶対に後悔しない。失敗する事もきっとある。
だけど、必ず立ち上がって命を全うする。
「今、確かに何物にも変え難い【覚悟】を俺は得る事が出来た。」
(マスター、マスターから感じる暖かい感情の波が、これまでよりももっと大きく確かなものになりました。私の中にも、新たな何かが生まれてくる....そんな気がします。まだ、形にはなっていませんが、それはきっと大切な何かになる。そんな気がします)
ユートが泉に溶けて消えてから1時間....俺は間違えていないはずだ、あの戦いを通して見出したあの輝きは、覚悟は、意思はこの世界に必要な物だ。
であれば、ユグドラシルは、この世界はユートを滅ぼす事など有りはしないだろう。
ユート、信じている。俺はここにお前を連れてくると決断した時、お前が帰ってくるまで、ここでいつまでも待ち続けると決めた。
だから、ユート!必ず帰って来い!
泉が蒼い光を放ち始めた...あれはあの時見た光。
....そうか!やったな、やりやがったな!早く戻ってきやがれ!心配させやがって!
泉から蒼い光が立ち昇り....空から優しく降り注いだ。
輪郭がぼんやりと浮かび上がり、泉の前には、両手を胸元で繋いぎ合うユートとエリーの姿があった。
ん?俺は確か...泉に入ったはずだが、目を開ければエリーが立っており、俺達は手を繋いで向き合うように立っていた。
誰かが走りよってきて声をかけてくる。
「得る物があったようだな?ユート」「お帰りなさいませ、ユート様、エリー様」
「なんか、待たせちまったみたいだな?悪い」
優しい微笑を浮かべて話しかけてくる二人の姿に、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で居心地が悪くなり、照れ隠しに頬をかく。
「それにしても、お前さん...ずいぶんと変わったな。真っ黒だった髪の毛が青っぽくなっちまってるぞ?」
んあ?まぁ、そんな事もあるのかもな。別に髪の色にこだわりがあったわけじゃないし別にいいだろう。そんな事が気にならないほど、大きな何かを俺は得たのだから。
【称号】獲得条件を満たした為、次の称号が贈られます。
【世界樹の守護者】条件 世界樹の雫を浴び、守護者の試練を乗り越える事
HP+500 MP+500 運以外の全ステータス+50 【??】の条件1達成の証
【称号】獲得条件を満たした為、次の称号が贈られます。
【森羅万象】条件 守護者の試練にて、ユグドラシルの意思を理解する事
1日に一回だけ、死亡した場合に全快で蘇生する 他者にも使用可能。蘇生を拒否した場合は対象が蘇生する事は無い。
一部装備が変化しました。「転移者の服」「転生者の靴」→【世界樹の衣】(全身装備)
【世界樹の衣】(全身装備)レア★1 専用装備(ユート)
防御力 +50 耐久値 100/100
【自己進化 】破損時に強制進化、必ず進化前以上の性能になる
【自己再生付与(世界樹)】装備者のHPを1秒毎に1回復する。他の回復効果と重複する
試練を超えた者に与えられる衣。レア★1~7→ユニーク★1~7→レジェンド★1~7→アルティメット★1~7の順に破損する度に進化する。
外見は、所持者が設定可能。思う形に姿を変える。着脱は可能であるが、トレード不可。
所持者が、世界樹の意思を体言する者である証明。1ヶ月に1枚、世界樹の葉を生み出す。
「こんなサービス滅多にしないんだからね!」『ラシア』
【世界樹の葉】HP全快 MP全快 状態異常解除 死亡時蘇生可能
効果発揮後、1日間【自己再生付与(世界樹)】を付与
素晴らしい贈り物を頂いた。俺の一張羅だな。本来の意味とは若干違うが、要するにこれっきり変えるつもりが無い位の装備だって事が言いたいわけだ。
序盤に手に入ったのも高ポイントだろう。頑張って育成しよう!
そうだ!お前の名前はラシアだ!
【世界樹の衣】『ラシア』(ユニーク全身装備)レア★1 専用装備(ユート)
防御力 +50 耐久値 100/100 【加護】世界樹(ラシア) 破損進化時に+修正が発生する
む?そんなつもりでは無かったのだが....ありがとう。ほっこりしてしまったではないか。
(今回限りなんだから、調子に乗らないでよね!べ...別に感謝なんかしてないんだからね!)
ツンデレの妹が出来てしまった気分だ。
(マスターのAIたらし!行く先々でAIをたらし込むんだから!)
それは俺が悪いのだろうか.....解せぬ
抱きつこうとする太い腕を回避して威嚇する。
「俺に...触れるな!」
「馬鹿な!避けられただと....なんという失態だ!万死に値する!!』
キャラ変わってるぞコイツ....厳ついヤローに、しつこく言い寄られるのは堪えるな。
「アンタも女王様っていう伴侶がいるんだろう。そんな事ばかり言っていると嫌われてしまうんじゃないか?大体、国王やりながら俺と旅に出るなんて出来ないんだ、あまりしつこいと....貴様も兎同様駆逐するが?」
「ようやく、ソフィアに相応しい婿殿と巡りあえたというのに。口惜しさは残るが、俺とて人の子だ、そこまで万能ではないよ。婿殿には因縁めいたものを感じてはいるがな?....だが私は我慢弱いのだ、王都に滞在するなら、ソフィアに会いに来るついででも良い...顔を見せに来い」
コツコツと足音を立てながら歩く俺たちは、会話をしながらじゃれ合っていたが、最後にはそんな空気も抜けてアルフォンスも真剣な顔を見せた。
なんだ、為政者である前に武人である!とか言いそうな雰囲気だったが、英雄と呼ばれるだけはあるじゃないか。
意識している物ではない、自然と滲み出るカリスマと覇気に触れれば、心酔する者が出るのも仕方の無い事だ。
結界を一枚通り抜け、中央塔の地下に向かって降りていくと、馬鹿みたいに頑丈そうな扉が現れた。....おい、宝物庫だと一発で分かるのはどうなんだ?大体この構造...センスを疑うぞ!
縦10メートル、横3メートルはあるだろう馬鹿でかい扉全部が...オリハルコンで出来ている。
「そう心配するな。頑丈さは折り紙つきよ!それに、許可していない者がこの部屋に入ると、その瞬間に転移術式が発動して王都の裏手にある、【グランガイア山脈】に飛ばされる、それにこの扉自体もゴーレムだ。婿殿とて容易に破壊出来る物ではあるまい?」
そうなのだ、先ほどセンスを疑うと言ったが、扉自体が門番でありトラップである。
オリハルコンにこの莫大な密度の術式を刻み込み、ガーディアンを作成するのにどれだけ莫大なコストがかかっているんだ!
「この国を丸ごと買い上げてもお釣りがたんまり帰って来るわ!!」
呆れて声を出してしまったが、つまりはこの扉を作らなければならないレベルの財宝が、大量に収められているという事に他ならない、ブルジョアめ!
「ぬわっはははは!洒落てるだろう?賢い者はここで逃げ帰る。転移を回避して、それに気づくだけのレベルにあるならば、俺の物にする...全てはこの掌の上よ!俺は強欲なのでなぁ!」
ハッハッハ!と笑う姿を横目に、これだからこの国があり発展するのだろうと思う。
他の大国と比較しても、国力が10倍という圧倒的優位に立っている事実、豊富な人材、国王の文武を兼ね備えた手腕...もはや豪腕と評するのが正しいだろうか?周辺国全てが連合して攻めてきても、歯牙にもかけず押し潰すだろう。
『珍しい事もあるのですね。女王様以外の方をここに連れてくるとは、正直な感想を述べるならば、後継者を定めたのですか?と質問したくなります。我が主、アルフォンス様』
オリハルコンの扉が開き、中から老執事が歩いてくる。
「これはこれは、初めてお会いします。私は、王家の執事長兼宝物庫の番人を任せられております。セバスチャンと申します。お見知りおきください」
「おお、セバスチャンではないか!そちらこそらしくないでは無いか!いつもなら首を跳ね飛ばそうとユートに糸が伸びている頃ではないか?」
「私とて相手を選びますよ?見れば、私の気配を察した時点で周囲のマナを掌握されたご様子、これでは得意のアレも、届く前に打ち落とされるでしょう」
.....この執事、かなり出来るな。「嗜みでございますユート様」
!!!?背後を取られただと?...なるほど、意識を移した気の人形か。
「嗜みでこれでは、世の達人は堪らないな。賞賛に値するよ。俺が陛下と逆の立場でも、必ず傍に置きたくなるだろう」
「恐悦至極にございます。私の辞書には、生涯誇れる喜びがまたひとつ、大きく記されました」
ペコリと頭を下げて一礼すると、宝物庫に足を向け歩き出す。
「ご案内いたしましょう。陛下、目的地はあそこですね?」
「流石はセバスチャンであるな。話が早くて助かるぞ」
圧巻だった。...扉の向こうは金銀財宝がこれでもかと積み上げられていた。
宝物庫内には空間拡張技術が使われているのだろう。山の様にと言うのは比喩ではなく、本当に山が出来るほど積み上げられている。
ルビー、サファイア・エメラルド・ガーネット・ダイヤモンド、様々な宝石が唸るほど積み上げられている。どれも、現実では考えられないような大粒であり、美しく磨き上げられている。
これに一流の職人が加工を施せば、そのどれもが名品、国宝だと言われても疑わないだろう。
金、銀、白銀、チタニウム、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、他にも見た事ないような金属のインゴットが積み上げられている。
一山あれば国が建国できる。それが数百...あるいは数千と積み上げられているのだ。
見渡す限り宝物の山、山、山である。 夢を見ているとしか思えない。
だが、本当に驚いたのは「ユート様、ここにあるのは、万が一の場合、時間稼ぎの為に、有象無象にくれてやる餌に過ぎません」と当たり前のようにセバスチャンが言い放った事だ。
は?確かに、まだまだ財貨・財宝と呼ばれるレベルしか見てないが、量を考えろ量を!
現実の世界経済を破壊出来る量でも餌かよ!
「魔剣や聖剣、魔道具なんかも沢山あるのですが、今回はちょっと目的が違いますので、お見せ出来ないのが悔やまれてなりません。ここからは歩いてはいけませんので、少々お待ちください。」
セバスチャンが、空中に魔力で魔方陣を書き上げると、分裂・拡大した魔方陣が積層魔方陣を構築して弾ける。...空間転移術式!しかも、対象が複数設定されているだと?
セバスチャン....底が見えない!「嗜みでございます」
いや、嗜みってレベルじゃないからね?
目の前に現れたのは、4頭のスレイプニルが引く、豪奢な馬車であった。
アダマンタイトで作られた骨格にオリハルコンをコーティングした車体を、ミスリルを繊維にして作り上げた天蓋で覆い、ダイヤモンドシルク、フェニックスフェザー等の、本来の使用用途ではない、間違ったが使い方をされている「飾り」が馬車を彩っている。
「乗車してください。これより、宝物庫の中央付近にある『空中庭園』へ向かいます」
パチン!とセバスチャンが指を鳴らすと、星空のように煌いていた空から、天の川のように輝く光の道が、こちらに向かって伸びてきた。
セバスチャンが手綱を鳴らすと、その光の道をスレイプニル達が駆け上っていく。
幻想的な風景だった。七色などと、安易に評すのが無粋な美しいくも優しい光が宙を彩っている。本当にここは宝物庫の中なのだろうか?
異世界に来て、更に別の異世界へと旅行しているのではないかと錯覚してしまう光景だった。
(マスター、不思議な光景ですね。どうしてもあの美しさに目を奪われてしまいます)
空を流れる雨のような数の流星...流れ終わったかと思えば、果てしない遥か彼方、一体どれ位の時を使って空を翔けたら辿り着くのだろうか?そんな距離を感じさせる遠くで、小規模な光の爆発が次々と起こる。
まるで、花火でも見ているようだ。不思議な光景に目を奪われていると、空に浮かぶ巨大な宮殿が見えてきた....白亜の城とでも言えば言いのだろうか?
宮殿の周りには、博物館でもなかなかお目に掛かれないような、彫像が沢山立ち並んでいる。
兵士、天馬、女神、竜と様々な形をしているが、そのどれもが、直ぐにでも動き出そうという躍動感あふれた作品群だった。
そして、宮殿の裏には世界樹の苗木だろうか?天を貫きどこまでも、とまではいかないが、それでも横幅だけで1kmは超えるだろう巨大な樹が俺達を優しく見下ろしていた。
「ユート、あの宮殿の中も見せてやりたい所だが、お前に与える物は、あの世界樹の苗木にある。」
「根元に馬車を着けますので、もう少々お待ちください」
馬車に揺られて、世界樹の苗木から空に向かって立ち昇る、あの時と同じ優しい光の玉を眺めていると、頭の中に声が響く。
『ユートさん、もうこんな所まで来てしまったのですか?まだゲームが始まって2日目ですよ?相変わらず、スケールが違う御方のようですね』
....この声はユグドラシル?前に見えるのは世界樹の苗木のはず、一体どういう事だ?
『私の娘を通して思念を送っています。直接会えないのが悔やまれますが、ここまで早いタイミングで再会出来た事への嬉しさの方が大きいです』
そうか、時間は掛かるかもしれないが、必ず辿り着くから待っていてくれよ?
それで、今回はどんな案件で俺はここに来ているんだ?
『おそらく、アルフォンスは貴方に世界樹の苗と繋がる適性を見出したのでしょう。そして、その判断は間違っていません。詳しくは、私の娘と話してください。それでは....また』
そう言い残すと、ユグドラシルとの繋がりが薄くなり、切れた感じが伝わってきた。
「うむ、着いたな。ユートよ、あの世界樹の苗木が放つ生命力は肌で感じているだろう?お前にはこの苗木と繋がってもらうつもりだ。根元から中に入るぞ」
苗木の根元に着くと、洞のような部分があり、奥に向かって通路が延びていた。
樹で出来た回廊は生命力に満ち溢れており、優しい緑の光が脈動するように波打って放たれている。
奥に進むと、30メートル位の空間があり、その中心には緑銀の光を放つ澄んだ泉があった。
「この泉が今回の目的地でございます。ユート様にはこの泉に溢れる、世界樹の雫を浴びていただきます。中の温度は、世界樹が常に適温を保っておりますので、沐浴するには不足ありません」
『そのまま浸かってくれれば良いわよ?ユート』
む、ユグドラシルに似ているが、少し高くて幼さを感じる声だな。
『ラシアよ、よろしくね。お母様からお話は聞いてる。初めてお母様と会話をした、あの時に、私達は生まれたの、7つの苗木に伝わってきた。貴方の優しい思念の波動は、その全ての【種】を芽吹かせたの、悔しいけど感謝してるわ』
意地っ張りだけど、優しい声を聴きながら泉へを進んだ俺は、身体を泉に浸した。
気で全身を最大活性状態に持っていった時に、その使用者は一種の万能感のような感情に満たされる。大岩を砕き、大河を二つに割り、雲を裂く程の力を得る
だが、そんな万能感ですら、大河の一滴だと思わせるような生命力が全身に流れ込んで来た。
細胞全てに染み渡るような心地良い感覚に、意識が溶け出していく。
まるで、俺が大地に、大地が俺になったみたいだ。
胡蝶の夢という言葉がある。
今の俺はそれを実体験しているのだろう。
大地に満ち溢れる雄大で優しい、全てを包み込む暖かな力、全ての生命に等しく与えられる恵みは地上に満ち溢れ、天に昇り....地へと還る。
人という器では、感じ取る事が出来ない【森羅万象】という感覚を小規模ながらも認識出来るようになった.....俺が感じている今の状態は、筆舌に尽くしがたい。
どんな言葉に置き換えても、無粋というほか無い、表現する事など出来ようも無い。
本当にこれは仮想空間なのか?いや、仮想空間だからこそ再現して認識出来るのだろうか?
人という存在を情報生命体へと転換した時、初めて認識する事が出来るのだとしたら、おそらくは、この感覚を得るのだろう。
『ユート、分かるでしょ?アンタは今、一部とはいえ、この世界と繋がっているわ』
ああ、わかる。確かに今感じているのはきっとそういう物なんだろう
『この仮想現実も現実世界と何も変わらない。喜びに満ち溢れ、悲しみが降り注ぎ、命が生まれて、大地に還っていくの。きっと、何万何億何兆...もっともっと数え切れない命が世界に生まれて繰り返された事だと思う、今...この瞬間に生きている、確かに意志を持って、私達は生きているのよ?忘れないで』
ああ、そうだ。俺はずっと思っていた。人だとか動物だとか昆虫だとかAIだとか関係ないんだ。生まれて、触れ合って、繋がって、何かを感じあって、交わる事が出来たらそれだけで幸せな事なんじゃないかってさ。
だから、それぞれ何か違って生まれてきて、何かを得て散っていくんだ。
それは、喜びなのかもしれない、悲しみなのかもしれない、怒り、絶望、歓喜、愛情様々な形の何かを得て大地に還っていくんだ。
勝手に解釈して、勝手に分かった気になっているんだ、人間は。
知恵を得たからこそ、人間は愚かに成ったのかもしれない。
本能で生きる事は罪ではない。愚かでは無いのだから。
大地に生まれ、大地に還る。それを本当に理解する事が出来るのは、命無きもの、意思無きものなんじゃないだろうか。
現象とか概念とか...そういった物よりも遥か高みにあるものをきっと俺達は【神】と呼ぶんじゃないだろうか?
俺達はみんな、誰一人として例外無く、自分では認識する事が出来ない、大きな流れの中を生きる一粒の雫なんだ。
『それを認識出来る環境こそが、この泉よ。もっとも、資格無き者が入れば、何も理解できず、何も感じることが無いまま大地に還る事になるけどね?』
俺は確かに得た。真剣に生きるという意味を本当に理解した。
もう、後悔しない。絶対に後悔しない。失敗する事もきっとある。
だけど、必ず立ち上がって命を全うする。
「今、確かに何物にも変え難い【覚悟】を俺は得る事が出来た。」
(マスター、マスターから感じる暖かい感情の波が、これまでよりももっと大きく確かなものになりました。私の中にも、新たな何かが生まれてくる....そんな気がします。まだ、形にはなっていませんが、それはきっと大切な何かになる。そんな気がします)
ユートが泉に溶けて消えてから1時間....俺は間違えていないはずだ、あの戦いを通して見出したあの輝きは、覚悟は、意思はこの世界に必要な物だ。
であれば、ユグドラシルは、この世界はユートを滅ぼす事など有りはしないだろう。
ユート、信じている。俺はここにお前を連れてくると決断した時、お前が帰ってくるまで、ここでいつまでも待ち続けると決めた。
だから、ユート!必ず帰って来い!
泉が蒼い光を放ち始めた...あれはあの時見た光。
....そうか!やったな、やりやがったな!早く戻ってきやがれ!心配させやがって!
泉から蒼い光が立ち昇り....空から優しく降り注いだ。
輪郭がぼんやりと浮かび上がり、泉の前には、両手を胸元で繋いぎ合うユートとエリーの姿があった。
ん?俺は確か...泉に入ったはずだが、目を開ければエリーが立っており、俺達は手を繋いで向き合うように立っていた。
誰かが走りよってきて声をかけてくる。
「得る物があったようだな?ユート」「お帰りなさいませ、ユート様、エリー様」
「なんか、待たせちまったみたいだな?悪い」
優しい微笑を浮かべて話しかけてくる二人の姿に、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で居心地が悪くなり、照れ隠しに頬をかく。
「それにしても、お前さん...ずいぶんと変わったな。真っ黒だった髪の毛が青っぽくなっちまってるぞ?」
んあ?まぁ、そんな事もあるのかもな。別に髪の色にこだわりがあったわけじゃないし別にいいだろう。そんな事が気にならないほど、大きな何かを俺は得たのだから。
【称号】獲得条件を満たした為、次の称号が贈られます。
【世界樹の守護者】条件 世界樹の雫を浴び、守護者の試練を乗り越える事
HP+500 MP+500 運以外の全ステータス+50 【??】の条件1達成の証
【称号】獲得条件を満たした為、次の称号が贈られます。
【森羅万象】条件 守護者の試練にて、ユグドラシルの意思を理解する事
1日に一回だけ、死亡した場合に全快で蘇生する 他者にも使用可能。蘇生を拒否した場合は対象が蘇生する事は無い。
一部装備が変化しました。「転移者の服」「転生者の靴」→【世界樹の衣】(全身装備)
【世界樹の衣】(全身装備)レア★1 専用装備(ユート)
防御力 +50 耐久値 100/100
【自己進化 】破損時に強制進化、必ず進化前以上の性能になる
【自己再生付与(世界樹)】装備者のHPを1秒毎に1回復する。他の回復効果と重複する
試練を超えた者に与えられる衣。レア★1~7→ユニーク★1~7→レジェンド★1~7→アルティメット★1~7の順に破損する度に進化する。
外見は、所持者が設定可能。思う形に姿を変える。着脱は可能であるが、トレード不可。
所持者が、世界樹の意思を体言する者である証明。1ヶ月に1枚、世界樹の葉を生み出す。
「こんなサービス滅多にしないんだからね!」『ラシア』
【世界樹の葉】HP全快 MP全快 状態異常解除 死亡時蘇生可能
効果発揮後、1日間【自己再生付与(世界樹)】を付与
素晴らしい贈り物を頂いた。俺の一張羅だな。本来の意味とは若干違うが、要するにこれっきり変えるつもりが無い位の装備だって事が言いたいわけだ。
序盤に手に入ったのも高ポイントだろう。頑張って育成しよう!
そうだ!お前の名前はラシアだ!
【世界樹の衣】『ラシア』(ユニーク全身装備)レア★1 専用装備(ユート)
防御力 +50 耐久値 100/100 【加護】世界樹(ラシア) 破損進化時に+修正が発生する
む?そんなつもりでは無かったのだが....ありがとう。ほっこりしてしまったではないか。
(今回限りなんだから、調子に乗らないでよね!べ...別に感謝なんかしてないんだからね!)
ツンデレの妹が出来てしまった気分だ。
(マスターのAIたらし!行く先々でAIをたらし込むんだから!)
それは俺が悪いのだろうか.....解せぬ
0
新作の投稿始めました。良ければそちらのほうも読んでください。
お気に入りに追加
1,291
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

わたしは不要だと、仰いましたね
ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。
試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう?
国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も──
生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。
「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」
もちろん悔しい。
だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。
「きみに足りないものを教えてあげようか」
男は笑った。
☆
国を変えたい、という気持ちは変わらない。
王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。
*以前掲載していたもののリメイク
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる